神の怒り
騎士たちが俺を囲うように散開していく、中央に密集隊形の四人の騎士が陣取り、歩兵が左右二人ずつ、騎士の後方に二人の弓兵が立っていた。
「村の守備などつまらないと思っていたが、余興が用意されていたか」
三人の騎士に守られるように立っている一番豪華な鎧に身をまとった騎士が、バイザーの隙間から俺を見て嗤って言った。
三人の騎士は手にファイアーボールを出現させて、いつでも打てるようにしている。
後ろの弓兵も弩を引き絞り俺の眉間に狙いを定めている。
左右の兵士たちは攻撃のタイミングを今か今かと待っていた。
「少人数で捕虜を救出に来るのはなかなか勇気があることだが、いささか蛮勇じゃな。カリヨン様は村の人間を殺すなと言ったが、攻撃を受けては仕方がない見せしめに皆殺しにしてやろう」
ゆっくりと小手に包まれた右腕が持ち上がる。
「放て!」
右手が俺に向って振り下ろされた。
次の瞬間三発のファイアーボールが俺に向って飛来する。
素早く盾を構え、一発は空にもう一発は斜め後方に弾く、しかしもう一発が右肩に直撃し爆発する。
弩も瞬間的に俺に直撃し、眉間と首に吸い込まれた。
一瞬の間を開けて教会の結界と上空でも爆発が起こり火の粉が落ちてきた。
兵士たちは俺が即死したと思って教会の方に顔を向ける、騎士たちなどは抜剣すらしていなかった。
(ナメられたものだな)
眼の前の視界に赤いフィルターが掛かった。
身体にまとった絶対防御の光の膜に象形文字の魔法陣が浮かび上がった。
ファイアーボールの火の粉の中、弩を絶対防御が弾き返し無傷のままに絶叫した。
「そんな攻撃じゃ俺を殺せねぇぞ!!」
怒りの絶叫とともに、こちらに攻撃を仕掛けようとした右にいる兵士二人に向かってミスリルの剣を水平に叩きつける、ピュッという音と共に二人同時に金属製の鎧に包まれた胴体が上下に別れて崩れ落ちた。
五メートルほど間合いがあったにもかかわらず、攻撃が届いたのはどういうカラクリか、ミスリルの剣身は淡く青白い光を放っていて、かすかに振動音が聞こえていた。
ソニックブーム、音速を超える神速剣で発生した衝撃波が本来の間合いの外にいた兵士を真っ二つにしたのだ。
間髪入れずにワームホールを展開する、弩兵二人の間に出現した俺は一人を剣のガードで殴りつけ、もうひとりにシールドバッシュをかました。
二人共錐揉み状態で左右に飛んでいき、教会の石壁に突っ込んで絶命する。
「あやつは魔法使いじゃ、結界を張れ!」
半分近くの味方を殺されてようやく状況が理解できた指揮官は、騎士たちを壁にして魔法結界を張り巡らした。
左にいた兵士二人も指揮官を守るように展開する。
俺は結界ごと騎士を切ろうとダッシュで駆け寄り上段から垂直に剣を振り下ろした。
ガキッと思いの外大きな音がして、硬い結界に剣を弾かれてしまい距離を取り直す。
冷静さを欠いた攻撃を反省して、相手の弱点を探った。
決定打を見いだせぬまま時間が過ぎていく、両者のにらみ合いが続いた。 教会の広場での派手な戦闘音を聞きつけて、南北の門の兵士たちが教会の敷地になだれ込んできた。
その数兵士四人、弓兵二人。
「ハハハ、馬鹿めこちらの戦力が倍増したぞ、攻撃して来ないならこちらからいくぞ! 合唱魔法を唱えよ!」
三人の騎士たちはおのおの違う魔法を唱え始める。
呪文は混ざり合い一つの呪文に昇華されていく。
その間にも弩を射掛けたり兵士たちの捨て身の防御で、なかなか懐に飛び込めなかった。
詠唱が完成して、騎士たちの前に高密度の光の玉が出現する。
「これで貴様も終わりじゃ! 放て!」
バスケットボール位の光の玉が、ピンポン玉ぐらいにまで圧縮され、次の瞬間俺に向って高速で発射された。
構えた盾の中心に着弾した光の玉は、盾を弾き飛ばし右胸に当たって大爆発を起こした。
後ろに飛ばされる感覚が少しあり、足元を見ると二メートルほど後退していた。
絶対防御の結界が一段と輝きを増し、象形文字が目まぐるしく踊り狂う。
騎士たちが放った魔法の爆発のエネルギーが俺の周りにとどまり、光の渦になって俺を中心に回り始めた。
身体から魔力の抜けていく感じがして軽くめまいを覚える、光の渦が青白く色づき周りの重力バランスが崩れだした。
足元の石畳がめくれ上がり、宙に浮かんで砲弾のように弾き飛ばされていく、騎士を守っていた一人の兵士が石の砲弾をまともに受け、一瞬で爆散した。
「あれはちとやばい、撤退じゃ広場から離れるのじゃ」
尋常じゃないエネルギー反応に、さすがの騎士も分が悪いと思ったのか一目散に撤退を開始した。
村のメインストリートをガルドの方向に駆けて行く騎士たち。
その後ろを必死の形相で兵士たちが追いすがっていく。
広場には誰もいなくなった、しかし高密度の光の渦はなおも練り上がり青白い輝きを一層増していく。
カラン カラン カラン カラン
天空の彼方から澄んだ鐘の音が聞こえてくる。
教会の村人たちが鐘の音に引き寄せられてドアから顔を出した。
騎士たちが門を抜けて少し行った所で立ち止まりこちらを振り向く。
「待っていろ下賤な輩め、大群を連れて戻ってきてやる、貴様ら全員八つ裂きにしてやるぞ」
一塊になってこちらに威嚇する騎士たち、豪華な鎧を着た騎士が剣を抜いて天を指し示した。
俺の周りの青白い光の渦が、音もなく一瞬のうちに天空へと駆け上った。
次の瞬間、上空の雲をかき消しながら光の束が騎士の剣先に直撃した。
「バリア!」
とっさにマール村全体をバリアで包む。
次の瞬間。
凄まじい爆発音とともに閃光があたりを包み、衝撃波が周囲の者すべてを飲み込んだ。
土埃が舞って視界が悪く何も見えない、身体の光が薄れていき、同時にだるさが襲ってきた。
我慢してその場に立ち続けて騎士たちのいた場所を、根気強く警戒し続ける。
土埃が収まりあたりの様子がわかってくると、大変なことになっていた。
騎士がいた街道は、直径十メートル位のクレーターが出来ていて、騎士たちの姿は跡形も無くなくなっていた。
周りの林の木々はクレータを中心に放射状にたおれており、爆心地に近い木は炭化して煙を上げている。
幸いにしてとっさに掛けたバリアが、爆風から村を守り被害が抑えられた。
教会からロトキンさんたちや村人が、恐る恐る出てきて周囲を見渡している。
「トーヤ大丈夫か、すごい爆発だったよな」
ロトキンさんが恐る恐る俺に聞いてくる。
「今の戦闘はすごすぎて半分も理解出来なかったよ」
ダイは青ざめた顔をしていて心底疲れたようだった。
「トーヤは光の勇者だったんだな、今までの非礼を詫びるぜ」
意味のわからないことをキベリさんが言っている。
「勇者様、改めて村を代表して熱く御礼を申し上げますのじゃ」
村長が地べたに頭をこすりつけてお礼を言ってきた。
「頭を上げてください、村人全員を救けられませんでした。勇敢な男の人達が盗賊共に殺されたと聞いてますよ」
「死んだのは村の自警団の団員三人ですじゃ、職務を全うして残りの村人が生き残ったのじゃから彼らも本望でしょう」
やはり犠牲者はいたのか、こんな悲劇を繰り返さないように奴らを根絶やしにしなければならないな。
「これから盗賊の本体を壊滅させます、こんな悲劇はもう起こさせません」
盗賊達を追うべくガルド方面の門に向かう、すると一台の馬車が後ろから追ってきた。
御者台にはロトキンさんが乗っている、俺が止まったのを見て横に馬車を停車させた。
「本当は三人でトーヤのお供する予定だったんだが、家族とせっかく再会できたのに死んでしまうのは可哀想だ、俺だけで勘弁してくれ」
自嘲気味に言うロトキンさんの手はかすかに震えていた。
「ありがとう、馬車で送ってもらうけど二人共生きて村に返って来れますよ、俺がロトキンさんを死なせませんから」
「それは嬉しいね、そうと決まれはさっそく盗賊共を追いかけるか」
御者台に乗り込み出発しようとした。
「すまねぇこの恩は忘れねぇぜ」
「無事を祈っているよ、必ず返ってきてください!」
キベリとダイが駆け寄ってきて、涙を流しながら俺を見る。
「まかせてください! 必ず帰ってきます!」
元気に返事をして、二人の手を取った。
馬車が軽快に動き出し、いつまでも村人が手を振っていた。
「奴らが出発しておおよそ四時間、まだまだ追いつける距離だな」
馬車を操りながらロトキンさんが盗賊の位置を計算する。
あれだけ遅い行進なんだから、そう遠くへは行ってないはずだ。
「盗賊団に一キロまで近づいたら、俺を置いてマール村まで逃げて下さい。奴らをマール村方面には一人も逃しませんから安心していいですよ。全滅させたらゆっくり歩いてマール村へ行きますから、美味しい料理でも作って気長に待っていてくださいよ」
極力暗くならないように冗談を混ぜながら今後のことを打ち合わせる。
「もちろん盛大な祭りの準備をしてトーヤの帰りを待ってるよ」
その後は二人共無言になって、馬車の移動する音だけを聞いていた。
俺は装備を一旦リックに全て入れて、再び取り出して装備し直した。
装備は一瞬で新品同様になり、ロトキンさんが心底驚いていた。
移動する間にステータスのチェックをする、戦闘をそれなりにしたので、レベルがかなり上っているのではないだろうか。
[天堂 智也…… 平民 冒険者 レベル10(人間・男・18歳)・スキル…… 中級火魔法 下級水魔法 下級風魔法 下級土魔法 下級白魔法 下級黒魔法 中級無魔法 神級絶対防御 特級鑑定眼 特級異世界言語 神の怒り]
レベルが2上がったな、騎士や兵士約三十人、マール村周辺の魔物多数、
成長のスピードがゆっくりになってきた。
神の怒りってなんだ?
[神の怒り…… 神の加護を持つ者に敵対するものが受ける罰]
なんか穏やかじゃない説明だな、俺は加護持ちだったのか。
ちょっと洒落にならないので、ステータス画面をそっと閉じた。
「ロトキンさんここら辺で降ろしてもらえますか?」
「もう追いついたのか、思ったよりも進んでないようだな」
馬車を道の端に寄せて馬車を停車させる。
「開けた平野の道だから殲滅にはちょうどいいですよ」
リュックを背負い盾を構えて、ミスリルの剣を抜剣する。
「では行ってきます、ここまで送ってくれてありがとうございました」
深々と頭を下げる。
「ご武運を」
一言言って馬車を反転させる、何度か後ろを振り返りながら、ロトキンさんはマール村へ帰っていった。
「さて、いっちょ暴れてやるか」
くるっと反転して『魔の森の騎士団』がいる荒野を目指して、勢いよく走り始める。
サラリーマン時代には考えられないほどの軽い走りで、上り坂の道を駆け上がっていった。




