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マール村奪還作戦

 今日はギルドに行こう、クエストの成否も今頃出ているはずだ。

 遅めに朝食を食べて宿屋を出発する。

 別に急いでいないのでブラブラしながら広場に向った。

 ギルドは朝の混雑が一段落していて閑散としていた。

 

「こんにちは、フローラさん」


「はい、こんにちは。今日はどんなごようかしら?」


 相変わらず美しい笑顔で対応してくれる。


「先日の鉱山討伐クエストの結果が知りたくて来ました」


「はい、ちょとまっててね」


 フローラさんは書類の束を調べ始めた。


「ああ、ありました。結果は成功ですね、報酬のほうが金貨二枚となってますよ」


 おお、グスタフさん報酬を上げてくれたのか。


「トーヤさんすごいわ~、今回のクエストで、何とランクアップしました」


 フローラさんが拍手してくれる。

 身分証明書をフローラさんに渡して、書き換えてもらった。


[辺境都市ガルド冒険者組合所属 トーヤ ランクC]


「そして、これが今回の報酬です」


 トレーに金貨二枚を乗せてカウンターの上に置いた。

 ありがたく頂いて遠方のクエストのことをフローラさんに聞いてみた。


「ちょっと聞きたいのですが、護衛クエストありませんか?」


「護衛クエストですか? そうですね~」


 書類を調べながら、いくつか抜き出してくれた。


「護衛のクエストなら二軒ありますね、一つはアンベールへの荷物の護衛、もう一つは王都アトラルトへの荷物の護衛です」


[護衛依頼 行き先…… アンベール、 内容…… 護衛、 報酬…… 銀貨十枚、 期間…… 人数が集まり次第終了、 ランク…… D以上、 依頼者…… 商人ギルド]


[護衛依頼 行き先…… 王都アトラルト、 内容…… 護衛、 報酬…… 銀貨六十枚、  期間…… 人数が集まり次第終了、 ランク…… C以上、 備考びこう…… 山越えあり、 依頼者…… 商人ギルド]


「どのくらいの距離なのかわかりますか?」


 地理にうといから、どのくらい離れているのか全然わからない。


「アンベールは西に馬車で二日の距離ですね、王都アトラルトは北へ馬車で六日の距離です。どちらもキャラバン隊を組んで途中の町や村を経由して最終目的地へ到着して解散という感じです」


 なるほど、アンベール辺りが丁度よい距離だな、しかし王都も捨てがたい、いろいろ考えながら次のクエストを慎重に決めるのであった。


 ああでもないこうでもないと、フローラさんとクエストについて話していると、ギルドの外が急に騒がしくなった。

 気になった俺はフローラさんと一緒にギルドの扉に歩いていった。


 扉に手をかけて開こうとした時、いきなり扉が開かれ、冒険者たちがなだれ込んできた。

 皆真顔でどこかあせった感じがして、ただならぬ事が起こったことは間違いなかった。


「たいへんだ、ギルド長を呼んできてくれ」


 リーダーだと思われる冒険者がフローラさんに詰め寄る。


「皆さん、落ち着いて下さい。何があったか説明をしてくれませんか?」


 冒険者を落ち着かせようと話しかけるフローラさん。


「落ち着いている場合じゃねえんだよ! 隣のマール村が盗賊団に乗っ取られちまったんだ!」


 たまたまクエストでマール村を訪れていた冒険者達が、異変に気づき命からがらガルドに逃げてきたようだ。

 自体が急を要していることを理解したフローラさんは、ギルド長を呼んで来るために奥へ消えていった。


「なあ、その盗賊団て魔の森の騎士団じゃないだろうな?」


 俺の隣に居たごついマッチョ戦士が不安そうにリーダー冒険者に聞いた。


「あれは魔の森の騎士団でまちがいねぇよ、奴ら黒塗りの鎧兜にロングソードを背中に背負っていた。それに黒塗りの旗を掲げていたのを俺達は見たんだ」

 リーダー冒険者が盗賊団の正体を明かした途端ギルド内が騒然となった。


「最悪だここもやばいかもしれねぇ」


「勝てるわけない、俺はかかわらないぞ」


「今のうちにこの街から離れたほうがいいかも知れないな」


 何人かの冒険者が足早にギルドを後にしていく、ここに留まった冒険者達の様子もどこか不安気で、みんな浮足立っていた。

 ギルド奥のドアが開きその場が静かになる。


「冒険者のリーダーさん、ギルド長が奥でお話を聞くそうなのでこちらに来て下さい」


 フローラさんは手を上に上げてリーダー冒険者を呼ぶ、二人がドアの奥に消えてあたりがまたざわめき出した。


「あの、魔の森の騎士団て何者なんですか?」


 隣りにいた魔法使いの青年に聞いてみる。


「君は魔の森の騎士団を知らないのかい? 奴らは魔の森を根城に辺境を荒らし回っている大盗賊団さ。隣国のフロンシア帝国に滅ぼされた小国の騎士団の生き残りが野に下って、少人数の盗賊共を吸収し、お家を再興するために暗躍しているという噂だよ」


 魔法青年は珍しいものを見た様な表情を浮かべつつも、俺の質問に丁寧に答えてくれた。


「奴らは盗賊団なんて生易しいものじゃないんじゃ、元軍隊を中心に組織されておるから、生半可な戦力ではまったく刃が立たんよ。狙われた町や村は例外なく滅ぼされてしまうのじゃ、なにせ完全武装の軍隊が三百人ちかくの戦力で攻めてくるそうじゃからな」


 俺と青年の話を横で聞いていたドワーフの戦士が、『魔の森の騎士団』の恐ろしさを補足してくれる。


「そんなに大人数で、盗賊なんてやっていけるんですかね、食料とかいっぱい掛かるんじゃないんですか?」


「じゃから最近は手口が荒っぽくなって、町一つまるごと略奪して行くことも増えているんじゃ」


 町ひとつ分の食料やお宝ならそれなりに暮らせるのか。

 かなりやばい盗賊団ということが分かった。



 しばらくするとカウンター裏のドアが開き、ランドルフさんを先頭にベルターさん、フローラさん、タルトちゃんが深刻な顔をして出てきた。

 ベルターさんが足早にギルドから出ていく、顔は深刻そのものでどこか思いつめた様子だった。


「皆静粛に、こちらに注目してほしい。先程隣のマール村が盗賊団に襲われたという報告を受けた、賊の特徴から魔の森の騎士団で間違いないようだ」


 ギルド長の『魔の森の騎士団』という言葉でギルド内に悲鳴や怒号が飛び交い、混乱のきわみに達した。


「静まれ! まだ話は終わってないぞ!」


 ギルド長の一喝がその場に冷静さを取り戻させる。


「今ベルターに領主様のもとへ報告に行ってもらっている。これからの詳しいことは、領主様の判断に任せることとなるが、この街を守るために皆にも働いてもらうことになるだろう」


「それは強制徴兵クエストを発生させるってことですかい?」


 古参の片目戦士がギルド長に静かに聞いた。


「そうとらえてもらって構わない、奴らの狙いがわからない以上この町の防衛を優先するのが定石じょうせきだからな」


 強制徴兵とはきな臭い言葉が飛び出してきたもんだな。


「マールの村はどうするんですか? 助けに行かないと村の人達が危ないんじゃないですか?」


 俺は思わずギルド長に聞いてしまった。

 周りの冒険者たちは、俺を見て呆れ返っている。


「新人、話を聞いていなかったのか? 魔の森の騎士団が相手じゃここにいるみんなで束になってかかっても、まったく歯がたたないんじゃよ」


 先程色々教えてくれたドワーフ戦士が、呆れ顔で俺をいさめた。


「しかしこのままじゃ村人が全員殺されてしまうのではないですか? そんなことが許されていいわけない!」


 ドワーフ戦士の言うことはわからないではないが、村人を捨てるのは我慢できなかった。


「トーヤ、君の言いたいことはここにいる全員がわかっていることだ。しかし今回ばかりは相手が悪すぎる。魔の森の騎士団は王国の精鋭兵士百人でも殲滅できなかった程の戦力なんだよ。みんな辛いんだそのへんにしてくれないか」


「どうにか村人だけでも救出しませんか? なにか方法があるはずです!」


 それでも納得できない俺は、周りの冒険者を見渡しながら一生懸命に言葉を吐き出す。


「そんな事言うならお前がどうにかずればいいじゃねぇか! みんな辛いんだ! 少し黙れ!」


 一人の男の言葉をきっかけに、俺はその場の冒険者たちから、うっぷんを晴らすように罵倒ばとうされる。


「トーヤ、今君がこの場にいるとまとまる話がまとまらなくなってしまう、悪いがこの場から出ていってくれないか?」


 ギルド長が苦悶の表情を浮かべながら俺に退場を宣告した。

 それに続くように周りから押されてギルドの扉へと連れて行かれる。


「俺は諦めませんよ! 一人で村人を助けに行きます!」


 引きずられながらギルド長をにらみつける。


「止はしない、助けたいのはここにいる全員も同じだからな、しかし我々には力が足りないのだよ、すまない」


 ギルド長が悔しそうに声を振り絞る。

 隣でフローラさんとタルトちゃんが泣いていた。

 ギルドの外に連れ出されて、俺の後ろで無情にもドアが閉められた。




「すまない、青年さっきの話は本心か?」


 悔しさで地面に拳をぶつけていると、拳の先にブーツが複数見えた。

 顔をあげると三人の冒険者がその場にいて、俺を起こそうと手を差し伸べてきた。


「あなた達は誰ですか? 争っている時間はないんです、俺今からマール村に行かなくてはならない、どいてくれませんか?」


「俺はロトキン、マール村出身の冒険者だよ、あんたの言葉は俺達の心に深く響いた。もしその話が本当なら、ぜひ俺たちもあんたと一緒に同行させてくれ」


「俺はキベリだ家族がマール村で暮らしているんだ、アイツラのためならこの生命無くなったていい、頼む手を貸してくれ!」


「今年の秋に彼女と結婚をする予定なんです、心配で気が狂いそうだよ!」


 男たちは口々に思いのたけを絞り出す、俺はゆっくりと立ち上がるとまっすぐ彼らを見て宣言した。


「俺はトーヤといいます、あなた達の事情ははわかりました、マール村を一緒に救い出しましょう!」


 手を差し伸べて一人ずつ握手をしていった。


「俺はダイ、俺たちは馬車でマール村へ向かおうと思っているんだが、トーヤも乗っていくかい?」


 若い冒険者が気を利かせて聞いてくる。


「はい、お願いしますマール村の位置もわからなかったのですごく助かりますよ」


「トーヤ、そんなんでよくマール村を助けに行こうとしたな」


 冒険者たちは呆れ返っている。


「村人を見捨てることなんて出来るはずないじゃないですか、手段は後で考えればいいんです。こうやってあなた達が現れたわけですしね」


「まあ、ちげぇねいや。トーヤには感謝してるんだ、俺らはギルド長の判断に身をゆだねるところだったんだよ。でもあんたのおかげで目が覚めた、あんたは勇気のある人だぜ」


 キベリさんがしきりに感心している。


「ではさっそく出発しましょう」


 俺の掛け声にロトキンさんはじめその場にいた全員が唖然とする。


「まてまて、まだ何の準備もしていないじゃないか。食料は最低二日分は持っていかなくては駄目だし、武器だってもっと強力なものを装備したい。今日は宿屋で泊まって明日から行動しよう」


 ロトキンさんが提案する。


「いやだめです、事態は一刻を争います。食料に関しては俺がどうにか出来ますので大丈夫です。武器に関してもいま身につけているもので十分ですよ」


「何を根拠にそんな事を言ってんだ、こりゃあピクニックじゃねぇんだぞ! 入念な計画がなくてどうやって村のみんなを助け出すつもりだ!」


 キベリさんがとうとう怒り出した。

 ここではっきりさせておこう、絶対にこの手の文句をいうやつが出ることは解っていた。


「嫌ならオレ一人で行きますよ、もとから一人で行くつもりだったんです。マール村の場所だけ最後に教えて下さい」


 俺の冷静さと、自信を感じて皆一様に黙り込んでしまった。


「たしかにこちらから声を掛けといて怒鳴っちまって悪かったよ。俺たちだけじゃ絶対村を救えないのは解ってるんだ、不思議なことにあんたを見てるともしかしたらって思えてくるんだよ、あんたを信じていいんだな?」


 すがるような目でキベリが聞いてくる。


「まかせてくれ、俺が必ず村人を助ける信じてくれ」


「よし! そうと決まれば行動あるのみだ! お前たち馬車を用意しろ」


 ロトキンさんが冒険者たちに指示を出し始めた。



 馬車が到着する間に、広場にある屋台から食べ物をありったけ買い付ける。 それを片っ端からリュックに詰め込み広場の屋台の食べ物は、俺のリュックに収まってしまった。

 ほどなくして一台の幌馬車がギルド前広場に到着した。

 皆が一斉に馬車に乗り込む、御者席にダイ青年とキベリさん、荷台にはロトキンさんと俺が乗り込んだ。


「いきますよ、しっかり捕まっていてくださいね」


 掛け声とともに幌馬車が走り出した、石畳の道を軽快に南門に向って走り去る幌馬車、ギルドの二階の窓からランドルフが見ていることなど一切知らなかった。



 総勢四人のマール村奪還作戦が今開始されたのだった。

  

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