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ミスリル✕ダンカン

 ギルドのエントランスホールは、夕方の混雑が一段落していて静かになっていた。

 討伐報酬を受け取るためにタルトちゃんの受付に向った。


「タルトちゃん討伐報酬貰いに来たよ」


「あ、トーヤさん待ってましたよぉ」


 ニコニコ顔でカウンターに手を付き身を乗り出してくる。


「それじゃ、精算お願いできるかな?」


「お任せ下さい、今回の報酬になります」


 予め用意していたお金を、トレーに乗せてカウンターに置いた。


「内訳は、スライム十匹で銀貨十枚、ボールラット八匹で銀貨八枚、ゾンビ三体で銀貨六枚、蜘蛛一匹で銀貨八枚、ドッペルゲンガー一体で銀貨十五枚です。合計で銀貨四十七枚になります」


 タルトちゃんは、一気に言い切って得意そうに尻尾を左右に揺らした。


「ありがとうね、またよろしく」


 かわいいから、もっと話をしていたいが、そろそろ外が暗くなってきている。

『豚の耳亭』に帰って、無事な姿をアンナさん達に見せたい。

 後ろ髪を引かれる思いでギルドを後にした。




 三日ぶりに帰ってきた宿屋は、なぜか懐かしい感じがして暖かな気持ちになった。


「ただいまもどりました」


 カウンターに居るアンナさんに声をかけた。


「トーヤさん! 無事だったんですね! おかえりなさい!」


 満面の笑みを浮かべ、アンナさんがカウンターから出てくる。

 アンナさんに手を握られてうれしい。


「ソフィア! トーヤさん帰ってきたよ!」


 後ろを振り返って大きな声でソフィアちゃんを呼ぶ。


「本当なの! ああ、トーヤさんだっ」


 厨房につながっているドアが勢いよく開いて、ソフィアちゃんが走って抱きついてきた。


「二人共落ち着きなさい、トーヤ様が困っていますよ」


 ベアトリーチェさんも出てきて、俺を見て微笑んでいる。


「みんなただいま、心配掛けたね」


 歓迎された俺は嬉しい気持ちになった。

 俺の周りにはいつもの常連組が集まってきて、みんな嬉しそうに見守っている。


「トーヤ、鉱山の魔物の方はどうだったんだ?」


 常連の一人が声を掛けて来る。


「一応討伐完了してきたよ。正式には二、三日で成功が確定するはずさ」


「そりゃすげーや、今日はお祝いだな!」


 常連が一斉に騒ぎ始め、酒場は喧騒けんそうに包まれた。

 そのあとは鉱山での魔物の討伐の話や、探索の話で盛り上がった。

 一番盛り上がったのは、ミスリルの塊を見せたときで、めったに見れないお宝に、いつの間にか常連以外の客も酒場にあふれ、酒場が大盛況になった。



 久しぶりに宿屋で食べる夕食はとても美味しくて、お腹いっぱい堪能たんのうした。

 食後のワインを飲んでいるときに、トリスタンさんが厨房から出てきて、ねぎらいの言葉と特製のスモークソーセージをおつまみにくれたことがすごく嬉しかった。


 いつもより遅い時間まで酒場で騒いでいたせいで、二階の部屋に戻るのがおそくなってしまった。

 部屋に入り鍵をかけベットに寝転ぶ、鉱山の穴の底から生還した実感がジワリと出てきた。

 心地いい疲労感が身体を支配して、いつの間にか意識は夢の中に旅立った。




 次の日の朝、いつもと同じ薄暗い時間に起きた俺は、裏庭の井戸で冷水を身体にかけて酒を抜いた。

 装備は着けず服だけを着て、腰には護身用に大型ナイフを差す。

 討伐クエストの成否が確定するまで休業しようと決めていた。


「おはようアンナさん」


「トーヤさん、おはようございます。朝食持ってきますから、座って待っていて下さい」


「宿の宿泊延長したいんですが今いいですか?」


「はい! もちろんいいですよ、それではカウンターへきてください」


 カウンターに戻ったアンナさんは、嬉しそうに帳簿とペンを取り出す。


「また十日でおねがい」


 銀貨三枚をカウンターに置く。


「わかりました、残りの日にちと合わせておきますね。今お食事を持ってきますね」


 銀貨をしまって帳簿に書き留めると、嬉しそうに厨房に消えていった。

 酒場のテーブルで待っていると、アンナさんが朝食を持ってきてくれた。


「おまちどう様です、ごゆっくりどうぞ」


 ニッコリ笑ってお辞儀をして離れていった。

 やっぱりアンナさんの笑顔はいいなぁ、しみじみ思った。



 朝食を食べて宿屋を出た、目指すは『武装商店ダンカン』だ。

 ミスリルを手に入れたので、武器でも作ってもらおうと思う。

 ちょうど店先にダンカンさんが居て、店の前を掃き掃除していた。


「おはようございます」


「おう、おはよう今日はやけに早いな」


 ダンカンさんがこちらを見て少しだけ笑った。


「聞いたぞ、鉱山で一働きしてきたそうじゃないか」


「情報が早いですね、まだ正式ではないですけど、鉱山の魔物は倒してきましたよ」


「この商売は情報が命じゃ、もたもたしてると商機を逃してしまうからのう」


「そうなんですか、実はダンカンさんに相談があって来たんです」


「何じゃ改まって、まあ立ち話も何だから中に入れ」


 少しいぶかしげな目を向けてきたが、それも一瞬で中に入っていった。

 

「そこに座ってちょっと待っとれ」


 そう言うと裏に引っ込んでしまう。

 言われた通りに店の中の椅子に腰掛けてダンカンさんが戻ってくるのを待った。


「ほれ、これでも飲め」


 しばらくすると大きめのカップを持って、ダンカンさんが戻ってきた。

 一瞬酒かと思ったが、中身はお茶だった。


「ありがとうございます」


 お礼を言って受け取り少しずつ飲む。


「それでワシに相談ていうのは何じゃ」


 ダンカンさんも椅子に座り、カップのお茶を飲みながら尋ねてきた。

 俺はリュックからミスリルの塊を出し、テーブルに置いた。


「実はこれを鉱山で見つけたので、ダンカンさんになにか作って欲しいと思ってきたんです」


「おお! こりゃぁミスリルじゃないか、お前さんこんな量よく持ってきたな」


 興奮気味のダンカンさんを見ながら説明をする。


「鉱山の深い所に蜘蛛がいたんですよ、そいつを倒したら宝箱があって、中を開けたら入っていたんです」


「宝箱から出た品物なのか! それなら純度も高いな!」


 ますます興奮する髭もじゃマッチョ。


「これだけの量ならいいものが作れるぞ、わしにまかせろ」


 やる気満々だ。


「今は武器がほしいんですよ、今使っているショートソードより少し長めで、もっと切れるやつがほしいんです」


「よし、すごい武器を作ってやるぞ、楽しみにしてろ」


「それで制作料金の方はいくらぐらいですか?」


 いい武器が出来るとなると、お金の方も高くなるから先に聞いとこう。


「そうじゃな、ミスリルは持ち込みじゃから混ぜる鉄の分と……」


 ダンカンさんは武器の事を考え始めてしまった。


 しばらくお茶を飲んで待っていると、考えがまとまったようでこちらに顔を向けて来た。


「ミスリルを扱うのはなかなか難しい技術なんじゃ、けして誰でも扱える技術じゃないんじゃ、じゃから安請け合いはせんのじゃ」


 なかなか歯切れのない言い方だな、ダンカンさんらしくない。


「言って下さい、言わないと分かりません」


「金貨十枚じゃ、ミスリル以外の材料も下手なものは使えんのじゃ」


 驚きの価格が出てしまった、到底払える金額ではない。


「そんなお金、持っていません」


 残念ながら今回は見送りかな。


「大金なのはわかっておるよ、じゃから今度はワシからの相談なんじゃが、剣に使ったミスリルの余った分をワシに譲ってくれんかね」


 なるほど、そうゆう手があったか、余り物のミスリルを持っていても、俺には宝の持ち腐れだからな。

 ダンカンさんに有効利用してもらえるなら、それは喜ばしいことじゃないか。


「それでお願いします、全部使って下さい。もちろん余ったらダンカンさんがもらってくれて結構ですよ」


「そうか譲ってくれるか、武器に関しては期待しといてくれ、最高のものを作ってみせるぞ」


 自信有りげにカップを持ち上げた。


「しかしミスリルってずいぶん高いものなんですね」


 ミスリルの相場なんてわからない。


「このミスリルの塊は特別じゃよ、迷宮などの宝箱から出るミスリルは、純度が異常に高くて相場の十倍以上するんじゃ」


 そうだったのか、色々勉強になるな。


「どのくらいで出来上がりますかね?」


 出来上がる時間が知りたくて思わず聞いてしまった。


「そうじゃのう、今日を入れて三日後、明後日の夕方には作ってみせるぞ」


 良かった、その頃には鉱山のクエストも完了しているはずだし、次の仕事を探しておけそうだ。


「それじゃよろしくおねがいします」


 ミスリル塊をダンカンさんに預けて店を後にした。




 二日後


 今日は武器が出来上がる日だ、夕方頃に来いってダンカンさんが言ってたな。 

 この数日間はほとんど外出をせず宿屋でゴロゴロとしたり、領主の城を見に行ったりしながら過ごした。

 記憶に鮮明に残った観光スポットは、パリのノートルダム大聖堂やスペイン・バルセロナのサグラダファミリアのような教会で、シスター達が美しかった。


 夕方前の三時過ぎに宿屋を出発する、広場の手前の『武装商店ダンカン』にやってくると(また裏にいるんだろうな)と思いながら扉を静かに開いた。

 予想に反してダンカンさんが奥のテーブルに居て、こちらに話しかけてきた。


「そろそろ来る頃じゃと思ったよ、お前さんの剣はもう出来ておるぞこっちに来るんじゃ」


 どこか嬉しそうに手招きをして奥の工房へ進んでいった。


「こんにちは、少し早いかなと思ったんですけど、待ちきれなくなって来てしまいましたよ。迷惑かけてすいません」


 剣ができていることを聞いて、思わず笑顔になりながらついて行く。


「迷惑なんてこれっぽっちも思っとらんよ、わしも久々にいい仕事をさせてもらって大満足じゃよ」


 革鎧セットを買ったときとはちがう、中庭らしき場所にに連れてこられた俺は、一振りの剣を渡された。


「これがお前さんの新しい剣じゃ、わしの技術を出し惜しみ無しで作った最高傑作じゃ、どこへ出しても恥ずかしくない業物わざものじゃ」


 自画自賛のダンカンさんを見て、改めて手の中の剣を見る。

 まず最初に思ったよりも数段軽い剣の重さに驚かされた、そして柄を握った時の手に吸い付くような感触が衝撃的で我を忘れかけた。


「どうじゃ、思ったよりも軽いじゃろ? それがミスリルの剣の特徴じゃよ、折れず曲がらずはもちろん刃こぼれすらしない、振り回しても疲れが出ずどんなものでもスパッと切れるんじゃ」


 ダンカンさんがミスリルの剣の特徴を教えてくれる。

 黒塗りのさやには複雑な文様が彫られており、金の象嵌ぞうがんほどこされていた。


「柄の部分には黒竜の逆鱗げきりんの革を使ったんじゃ、強く柔らかい革で手にも馴染みやすいのじゃ、鞘はエルダートレントのこずえの芯の部分を削り出し、ルーン処理を施して自動修復機能をもたせた」


(サラッとすごいことを言うダンカンさん、何者なんだっ)


 右手に柄を握り左手で鞘を握った俺は、ゆっくりと抜剣していった。

 抜き心地は軽くはないが重くもない絶妙な感じで、剣が勝手に鞘から出てくるようだった。


 午後の遅い時間の陽の光を受けた刀身が徐々に姿を表し、一切のくもりがない鏡面に仕上がっていて、俺の顔がはっきりと写り込んでいた。

 全て抜刀してしばしの沈黙、刀身を眺めてうっとりとしてしまった。

 刃渡りはショートソードより少し長い七十センチほどだろうか、両刃の刃が恐ろしいほど研ぎ澄まされている、刀身には薄っすらと文様が浮かんでいた。


「どうじゃ綺麗なもんじゃろ? その刀身はミスリル九割にオリハルコン一割の合金じゃ、詳しく言うと十種類以上の材料でできておるのじゃがここからは企業秘密じゃ、ワッハッハッハッ……」


 自分で言っておいて大爆笑している。

 横で騒がれても気にならない、それほど刀身に魅了された俺は、鞘を後ろの台に丁寧に置き両手で柄を握り込んだ。

 ミスリル剣は純粋な片手剣ではなく、両手でも握れるように柄の部分が若干長くなっていた。

 次の瞬間柄頭に埋め込まれた魔石が淡い光を放ち刀身が青白く淡い光に包まれた。


「ほう、説明もなしに剣の魔力を引き出すとは、お前さん剣によほど気に入られたようじゃの。柄頭に埋め込んである魔石は火竜の幼体の魔石じゃ、なかなか手に入らない一品で魔力の伝導率じゃピカイチじゃよ」


 火竜の幼体と聞いてももう驚かない、ダンカンさんは本当に妥協をせずに剣を鍛えたようだ。


「刀身が光っているのはなんでですか?」


「お前さんの魔力が火竜の魔石を通して刀身に伝わっているのじゃ、その光が出ていると切れ味が何倍も上がるんじゃ、もちろん光って無くても切れ味は格別じゃがな、ワッハッハッハッ……」


 もうどこに笑いのポイントが有るのかすらわからない、ダンカンさんは一人で笑いまくっている。


「試し切りさせてもらってもいいですか?」


 恐る恐る聞いてみる、芸術品のような刀を傷つけてしまうのがすごく怖かった。


「もちろんじゃよ、存分に試してみてくれ」


 そう言ってその場から動かないダンカンさん。


「あの、何を斬ればいいんですか? それらしい藁束わらたばとかないんですけど、あるのは古い鋼鉄の甲冑かっちゅうに漬物石みたいなやつぐらいですよ?」


「なんじゃ、それを斬れば良いじゃないか。思いっきり行っていいぞ」


(まじかよ、あれが斬れてしまうのか? やばいな!)


「じゃあ斬りますね」 


 確認をとった俺は剣を上段に構えた。

 覚悟を決めた俺は上段から甲冑にまっすぐ渾身こんしんの力で剣を振り下ろした。


「え?」


 思わず声を出してしまったが、間違いなく切ったはずなのに甲冑はそのままの状態で変化はなかった。


「剣先で押して見るんじゃ」


 言われた通りに剣先で甲冑を突くと、大音響とともに真っ二つに分かれて地面に転がった。


 凄え……。


「今度は石をやってみるんじゃ」


 小さな台の上にある一抱えほどの石の正面に立って剣を脇に構える、一拍おいて小さな掛け声とともに水平に刀身を走らせた。

 そして間髪入れずに上段に構えるとまっすぐ石を切り裂く、ここまでを一瞬でやってのけた。


 台の上の石がきれいに切り分けられて四つになり、真っ二つの台とともに地面に転がった。


「見事じゃ、腕を上げたようじゃのう」


 もう一度刀身を覗き込む、あれほどの硬いものを切ったにもかかわらず、一切の傷もない刀身は夕日を浴びて神々しく輝いていた。

 無言で後ろにおいてある鞘を手に取り刀身を収める。


[ミスリルの宝剣(ダンカン作)…… 名匠が技術のすいくして鍛え上げた業物、鋭利な刃は鋼鉄製の鎧も防ぐことは出来ないだろう。刃渡り七十センチメートル]


「ありがとうございました」


 深々と頭を下げる、言葉は多くいらないと思った。


「こちらこそ、また武装商店ダンカンをご贔屓ひいきにしてくだされ」


 いつもと口調を変えて丁寧に答えてくれた。




 ダンカンさんは剣帯までこだわっていた。

 ワイバーンの雌のしっぽの革を使った特注品で、剣を腰に挿しても全く違和感がなかった。

 剣の手入れに関しては鞘がやってくれるとの事で、ノーメンテナンスらしい、金貨十枚の価値以上あるのではないだろうか。


「ダンカンさんこんなすごい剣、金貨十枚分のミスリルかいじゃ割に合わないじゃないんですか?」


 恐る恐る聞いてみる。


「そうでもないんじゃよ、お前さんが預けていったミスリルを調べてみたら、魔力伝導率が他のミスリル鉱より五倍も高かったんじゃ。じゃから当初の予定よりも五倍いいもんを作ったんじゃよ」


 え! あの鉱石そんなにいいもんだったのか、どおりでイリーナさんが喜んでいたわけだな。

 ん? この剣金貨五十枚分の価値があるのか! 日本円に換算して五千万円、もう考えるのやめよう胃に穴が開くよ。



「それじゃまた来ます、ありがとうございました」


 戦力の大幅アップを果たし、意気揚々と宿屋に帰還した。



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