生還
戦闘を終えて落ち着きを取り戻した俺は、部屋をくまなく調べてみた。
ドッペルゲンガーの討伐部位と魔石、そしてメイガスの身分証明書をリュックに放り込む。
最後にロングソードを回収してその場を後にした。
[ドッペルゲンガーの核…… 討伐部位 魔導具の材料になる]
[ドッペルゲンガーの魔石…… 魔力の結晶、魔導具の材料及び燃料]
[辺境都市ガルド冒険者組合所属 メイガス ランクB]
[ロングソード…… 一般的な両刃の両手剣、刃渡り九十センチメートル]
あれから探索を切り上げて、坑道の休憩所に戻ってきた。
魔導ハウスを展開して一泊する。
翌日も特にトラブルもなく、昼過ぎにはトンネルの入口を見ること出来た。
長いトンネルの先にぽっかりと光の点が見え、次第に大きくなってくる。
入り口がはっきりと見えて、リップマンさん達が何やら叫んで、手を振っていた。
「ただいま戻りました」
リップマンさんを筆頭に冒険者の人たち、トマスさんもびっくりして目を見開いている。
「トーヤさん生きていたんですか!」
トマスさんが人聞きの悪いことを言っている。
「トーヤ、お前よくその軽装備で三日も潜っていられたな」
リップマンさんが呆れ顔で俺の背中を軽く叩いた。
「皆さん幽霊でも見たような顔して、どうしたんですか?」
状況がいまいち飲み込めない俺は、みんなの顔を見渡した。
「なかなか戻ってこないんで、てっきりやられちまったと思ったんだよ、でも戻ってきて嬉しいぜ」
リップマンさんは俺の肩に手を置いて嬉しそうに笑っている。
「そうだったんですか、お騒がせして申し訳ないです」
「いいてことよ、帰ってくれば笑い話だぜ」
ガハハと笑って肩をたたいてきた。
ほかの冒険者たちも、みんな笑顔で口々に良かったと言ってくれた。
「トーヤさん、戻ってきてすぐで申し訳ありませんが、報告を兼ねてグスタフ主任のところまで同行してもらえませんか?」
トマスさんが、申し訳なさそうに行ってくる。
[わかりました、行きましょう」
いつまでもこうしていても仕方がないので、トマスさんに後について事務所の方へ向った。
「でも、よく三日も中で生存していられましたね」
歩きながらトマスさんが、話しかけてくる。
「それほど大変ではなかったですよ?」
なんでみんな大げさに驚いているんだろう、意味がわからず普通に答えた。
「坑道の中はボールラビットやスライムの巣窟になっていたでしょ? 普通だったらすぐ食べられて骨も残りませんよ」
半ば呆れながら説明してくれた。
たいして強くなかったけどな、一般の認識と俺の感覚がずれているのかな。
「トマスです、トーヤさんを連れてきました」
事務所の扉を開け中に入っていく。
俺も後からついて行った。
「トーヤかよく戻ってきたな、まあ座れ」
中に居たグスタフさんがソファーを指して着席を促す。
「失礼します」
リュックを降ろし剣を外して横に置く、ソファーに座って一息ついた。
グスタフさんとトマスさんが、テーブルを挟んだ向かいのソファーに腰を落ち着けた。
「まず今までの経緯を話してくれ」
グスタフさんが話を切り出した。
「そうですね、初日は鉱山の上層を探索しながら下層まで行きました。入り口を確認して、休憩所で一泊しました」
なるべく短く説明をしていく。
二人は黙って聞いている。
「二日目に下層を探索して、討伐対象を倒して戻ってきました」
「ちょっと待て、あんちゃん一人で下層に降りたと今言わなかったか?」
グスタフさんが呆れ顔で質問してくる。
「ええそうですよ、下層は全て探索し終わりました」
「またえらく大きく出たな、あんちゃん嘘言っちゃぁいけねえよ。ベテラン冒険者がフルパーティーで探索して、やっと上層を探索したんだぜ。それをソロでしかも三日で探索するなんて。おまけに討伐対象を倒したなんて、誰も信用するやつなんていないぜ」
グスタフさんは怒っては居ないが、呆れた感じで言い放った。
「トーヤさんには悪いですが、僕も主任の言っていることが正しいと思うよ。坑道は入り組んでいて初めて入る人が一日で最深部まで行けるとは思えないよ」
技師の立場からトマスさんが意見を言う。
「どうすれば俺の話を信じてもらえますか?」
「そうだな、討伐対象がいて倒したなら討伐部位を持っているだろ。それを見せてみろ」
「いいですよ、今出します」
リュックから[ドッペルゲンガーの核]と[ドッペルゲンガーの魔石]を出して、テーブルの上においた。
[ドッペルゲンガーの核]は明るい光をあびて光沢を放っている。
もう一つの[ドッペルゲンガーの魔石]も青く透きとおっていて神秘的だ。
グスタフさんは[ドッペルゲンガーの核]を手にとって興味深そうに調べている。
トマスさんは[ドッペルゲンガーの魔石]を持ち上げ興奮気味だ。
「こんな純粋な魔石はなかなかありませんよ!」
トマスさんが魔石を光にかざして声を上げた。
「それと魔物の発生源らしき現象を確認しました。瘴気の渦があって、討伐対象を倒したら、消えて無くなりました」
「どうやら本当に倒してきたようだな。まあ二、三日魔物の発生がないか確認して、討伐の成否を決めようと思うが、トーヤも了承してくれ」
「こちらはそれで構いませんよ」
そして、探索の続きを二人に聞かせた。
「ボス的な魔物も討伐して、下層もだいたい探索し終えました。予定していた時間が来たので、撤退してきたんです」
「しかし、よく一人で探索できるよな、あんちゃんすげぇやつだったんだな」
手のひら返しが鮮やかなグスタフさん。
「そういえば、下層で冒険者がゾンビになっていましたよ」
倒した三人の身分証明書をテーブルの上に置く。
「多分行方不明の冒険者たちでしょう」
トマスさんが身分証明書を読みながら、冷静に分析した。
「それから魔物の餌にされた人のものと、操られて襲ってきた冒険者の身分証明書も回収してきました」
さらに二枚の身分証明書をテーブルの上に置いた。
「うちの方でも報告はしておくが、冒険者ギルドにトーヤの方からも報告しておいてくれないか?」
グスタフさんが名前をノートに書き留め、身分証明書を俺に手渡してきた。
「わかりました、ギルドには報告する予定でしたので、問題ないです」
リュックに身分証明書と討伐部位、魔石を入れて、うなずいた。
「そろそろ帰りますよ」
挨拶をして事務所を出た。
鉱山を出て南に下っていく、ガルドの街に久しぶりに帰ってきた気がした。
北の門で身分証明書を見せて中へ入れてもらう。
まずはイリーナさんの店に行ってみようかな。
メインストリートを南に移動して、魔法屋の扉を開いた。
「こんにちは、迷宮行ってきましたよ」
暗い店内を奥へ進んでいく。
「おやトーヤかい、おかえり」
イリーナさんもなれたもので、席に付けとばかりに手振りをする。
「収穫はどうだい? なにか良いものは見つかったかい」
嬉しそうな顔をして、早く出せと催促された。
「今出しますよ、ちょっと待ってください」
リックを降ろし中身を取り出す。
「収穫はそれほどではなかったですが、質が良さそうな魔石と宝箱を見つけましたよ」
そう言って[ドッペルゲンガーの魔石]と蜘蛛がいた部屋にあった宝箱をテーブルの上に置いた。
「なるほどね、魔石から鑑定しようかね」
鑑定板を取り出すと魔石を置いた。
「なかなかの魔石じゃないか、これなら金貨一枚出すよ」
手にとって光にかざしながら魔石を見ている。
「それでお願いします、結構倒すのに苦労したので金貨一枚は嬉しいですね」
「次はこの宝箱か、どこで見つけたんだい?」
飾り金具を調べながら、箱を色々な角度から見ている。
「それは迷宮の蜘蛛の魔物が居た所にあったんです。結構豪華な装飾でしょ?」
「たしかにこの箱も値打ちものだよ、中身もそうだが箱も買い取らせてほしいね」
イリーナさんは箱が気に入ったようで、しきりに方向を変えて調べている。
「さっそく鑑定しようかね」
手を箱の上に置き、小声でじゅもんを唱える。
手のひらから光の粒子が降り注ぎ、箱からカッチっと音がした。
「さて、もう安全だから開いてごらん」
こちらに宝箱を向けニヤッと笑う。
箱を受け取り、フタを開ける。
中には白っぽい金属が一塊あるだけだった。
持ち上げてよく観察する。
[ミスリル鉱の塊… 希少金属 武具の材料になる]
ファンタジー素材きた! イリーナさんに箱ごと渡す。
「ミスリルの塊だね、武器や防具、魔道具にも使える万能金属だよ。これは大当たりだね」
「いいですね、苦労した甲斐がありました」
「ものは相談なんだけど、このミスリル少し分けてくれないかい? 魔道具の材料に使いたいんだよ」
イリーナさんが物欲しそうにミスリルを見ている。
「いいですよ、鑑定料の二割をミスリルで払いますよ」
「本当かい! ありがとうよ、これでいい魔道具ができるよ」
イリーナさんは嬉しそうにミスリルを撫でてた。
全ての鑑定を終えて、料金の精算をする。
ドッペルゲンガーの魔石が金貨一枚、宝箱の中身のミスリルを二割分切り取ってイリーナさんの取り分とした。
ミスリル塊が入っていた宝箱を銀貨二十枚でイリーナさんが買ってくれた。
魔法屋を出て今度は冒険者ギルドへ向かう。
夕方のギルドは混み合っていて、なかなか順番が回ってこなかった。
ようやく俺の番が回ってきて、リュックから討伐部位を出しながら話しかけた。
「タルトちゃんこんにちは、討伐のクエスト達成してきたよ」
討伐部位をカウンターに乗せながらネコ娘を見る。
「こんにちわぁ、トーヤさんもう終わったんですか?」
目を丸くしてこちらを見つめてくる。
「鉱山組合の人とも話したけれど、一定のめどが立ったので報告に来たんだよ」
「そうなんですかぁ、ではさっそく換金してきますね」
そう言うとトレーいっぱいに討伐部位を乗せたタルトちゃんは、足取り軽く三番窓口の方へ歩いて行った。
三番窓口のベルターさんと、何かを話していたタルトちゃんが、こちらに手ぶらで帰ってくる。
「トーヤさん、ギルド長が話があるからって、二階に行ってくれますか?」
首をかしげて聞いてくる。
「わかったよ、俺の方も報告することがあったからちょうど良かったよ」
「後で報酬を取りに来てくださいね」
タルトちゃんにうなずき返して二階に向かう、三番窓口の前を通るときに、ベルターさんが合流して一緒に二階へ上がった。
「けっこう大変だったみたいだな?」
階段を登りながらベルターさんが聞いてくる。
「まあ色々ありましたよ、報告で全てお話しますよ」
その後は無言でギルド長室へ向った。
「ベルターです、トーヤを連れてきました」
ノックをして中に入る。
ランドルフさんが机の上の書類にサインをしていた。
「呼び出して悪かったね、ソファーに座って待っていてくれないか」
こちらを見ずにペンを走らせてる。
いわれた通りに座って待つ、ベルターさんも向かい側に座った。
「待たせて申し訳ない、さっそく報告を聞かせてくれないか?」
仕事を切り上げてランドルフさんが、ソファーに腰掛けてきた。
「鉱山の討伐依頼のクエストを受けて、鉱山に潜り討伐対象を倒して戻ってきました」
リュックから死神の影の身分証明書を出してテーブルに置く。
「鉱山の下層で冒険者のゾンビと戦闘になりました、その冒険者の身分証明書がこの三枚です」
五枚ある身分証明書から、ゾンビになった冒険者の分を右横にどける。
「それからこの人は蜘蛛の魔物に餌にされていたようです」
僧侶の身分証明書を掴んで左横に置く。
「確かにこれは死神の影の身分証明書だな、鉱山組合から行方不明の報告は受けていたが、本当に彼らは死んでしまったのか」
ベルターさんが驚きの声を上げ、ギルド長は無表情で経緯を聞いている。
「最後の身分証明書は、メイガスさんです、討伐対象の戦闘で敵に操られて攻撃してきたので、やむを得ず撃退しました」
テーブルの中央に置いてある身分証明書を指さしながら説明をした。
「なるほど、冒険者の件は残念だが仕方のないことだ、冒険者との戦闘は君に何も責任は無い」
ギルド長が身分証明書をまとめてテーブルのすみに置く。
「今回の討伐クエストの成否は、鉱山組合の報告を待って決めるから了承してほしい」
ギルド長が話をまとめた。




