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ドッペルゲンガー

 魔導ハウスで目を覚ます。

 感覚的にはいつもと同じ時間に起きたのだが、辺りは真っ暗で手の先も見えない。

 ここが坑道の中だと思い出し、魔導ランプに点灯と念じ明かりをともした。


 身支度と朝食を済ませ、魔導ハウスのドアにあるボタンを押す。

 十秒後に小さな箱に戻った。

 時刻は六時、準備万端整ったので鉱山下層の探索を本格的に開始した。




 坑道のはしごを降りて周りを見渡す、昨日と変わらない鉱山下層。

 魔導地図を出して周りの地形を確認した。

 地図によると右の道を進むと行き止まりになっていて、開けた空間があるようだ。

 左の道も同じような構造になっている。


 右の道でも行ってみようか。

 鉱山下層の道幅は、手を広げてもつかない程度に広く天井も高い。

 暫く道を歩いていくと、左に道が折れていた。

 壁に身体を隠し覗き込むと、少し先の方に壁にもたれて座っている人の姿が見えた。

 目視で三人確認できる。

 冒険者風の三人は話をしている感じではなく、下を向いてじっとしている。

 更に注意して観察すると、防具をつけて武器を持っているようだ。


(休憩にしては中途半端な場所だな、あんなところでは落ち着かないだろう)


 ここに隠れていても仕方がないので、近くへ行ってみることにした。


「こちらはガルド組合の冒険者です、敵意はありませんよ」


 近づきながら声を掛ける。

 下手に無言で近づくと、敵と間違われて攻撃されかねないので、自分の存在をアピールした。


 声を掛けたにも関わらず、三人ともこちらを無視して、顔を上げようともしない。

 十メートルぐらいまで近づくと、辺りは乾いた血がこびり付いていて、人の手が無造作に転がっているのが見えた。


 一番手前にいた戦士風の女が、おもむろにこちらを見た。

 白濁して焦点のあっていない目が、俺の存在をとらえて、緩慢な動きで立ち上がる。

 胸には明らかに致命傷だと思われる穴が開いており、顔には生気のかけらも感じ取れない。

 

[ゾンビ…… 死亡した人間などの身体に、悪霊が憑依ひょういした魔物。生前の記憶をわずかに持ち、生者に異常な執着を持つ。毒の液体を吐くことがある]


 何時か来ると思っていたが、とうとうゾンビを相手に戦う時が来てしまった。

 戦士風の女につられて、残りの二体も立ち上がる。

 一人は薄汚い黒いローブを着ていて片手がない、もう一人は手に短剣を持っていて軽装備だった。

 二人共目に生気がなくローブの女に至っては、片目がドロリと飛び出してぶら下がっている。


 戦士風の女がロングソードを振りかぶり、距離を詰めて来た。

 意外に動きは機敏で、俺は数歩下がり距離を取った。


 女が俺の頭を狙い、剣を垂直に振り下ろしてくる。

 ロングソードの間合いは結構長く、伸びのある剣先に頭を切られそうになった。

 慌てて盾を構え剣を弾くと、シールドバッシュが決まり、女が大きくのけぞった。

 視界の端に動くものをとらえ、体を強引にひねる。

 いつの間にか懐に侵入していた短剣の男が、俺の左腕の脇の下めがけて短剣を突き入れたところだった。

 辛くも回避できた俺はひねりの力を利用し、剣の柄で男の頭を殴りつける。

 首が変な方向に曲がり一瞬動きが止まる。

 足を持ち上げ思い切り前蹴りをみぞおちに入れてやった。

 短剣の男が壁にぶつかり崩れ落ちる。


 ゴウと音がして前を見ると、火の玉がこちらに向ってくるところだった。 油断をしていたわけではないが、気がついた時にはもう目の前に迫ってきていた。

 こぶし大で赤く燃え上がっている火球、ファイアーボールが黒いローブの女の手から発射され、俺の胸に直撃した。


 俺の身体が強く発光して、ファイアーボールを弾き飛ばす。

 火球は天井にぶち当たり爆発を起こした。

 火の粉が雨のように降ってくる。


 三人相手に白兵戦はくへいせんはきつすぎる。

 俺もお返しとばかりに、ローブの女に向ってウインドカッターを飛ばした。


 ウィンドカッターがローブの女に直撃する。

 胴体を腹の辺りで上下に分断された女は、上半身を高々と空中に飛ばされ、クルクルと回りながら後ろの方に転がった。

 遅れて下半身が崩れ落ちる。

 まずは一体仕留めたな。


 呪文を放った一瞬の間に、短剣の男が俺にしがみついてきた。

 とっさの出来事にかわす事が出来ず、抱きしめられてしまう。

 生臭い息が顔にかかり、思わず横を向いてしまった。


 次の瞬間、男が口から緑色の吐瀉物としゃぶつを俺に吐きかけた。


「うおおお、きたねぇ」


 思わず叫び、男を力任せに剥がそうとする。

 しかし万力のように締め上げる男の腕から、逃げることが出来ずに棒立ちになる。

 戦士の女が雄叫びを上げ、渾身の一撃を放ってきた。

 男と抱き合っている俺は、上段から振り下ろされた剣をかわす事が出来ない。


 男ごと頭から、真っ二つに切られてしまう。

 またも身体が発光し、俺に抱きついていた男だけが、左右に切り分けられ、崩れ落ちていった。


 ロングソードを地面にめり込ませて、動きが止まっている女戦士に、ショートソードの横一線をお見舞いする。


 首がきれいに切り取られ、飛んでいって壁にぶつかり床に転がった。

 戦士風の女は、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。


 少し離れている地面に、黒いローブの女の上半身が仰向けに転がっていた。

 ローブの女はまだもがいていたが、剣を眼孔から差し入れ、完全に動きを止めた。



 俺を襲ってきた冒険者達の死体が、ゆっくりと光の粒子になっていく。

 ゾンビは悪霊が憑依した魔物なので、討伐すると死体が粒子化する。


[スピリチュアルマテリアル…… 討伐部位 魔道具の材料になる]


 死体があった場所に、悪霊の討伐部位が落ちていた。

 透明なガラス質でサイコロ状の小さな物体を三個回収した。


 当然武器や防具は消えないので、ロングソードと短剣を回収した。

 その他に、冒険者の身分証明書と所持金を回収し、その場を後にした。



 ある程度離れたところで身分証明書を調べる。


[辺境都市ガルド冒険者組合所属 ライザ ランクC]


[辺境都市ガルド冒険者組合所属 マリー ランクC]


[辺境都市ガルド冒険者組合所属 モコ ランクC]


 戦闘中に薄々気が付いてはいたが、ゾンビ達の正体は数日前にギルドで絡んで来た、死神の影のメンバーだった。

 なぜこんなところで、しかもゾンビになっていたのだろう。

 疑問は残るが今となっては分からない。

 今回の戦闘では何度も絶対防御が発動した、それはすなわち相手の攻撃がある程度の強さで身体に当たったという事だ。

 絶対防御がなければ何度死んでいたか分からない。

 もっと気を引き締めていかなくてはならないだろう。

 気が滅入る戦闘結果だったが、気を取り直して探索を続けるのだった。




 ゾンビ達の居た所から更に奥へ足を伸ばすと、行き止まりになっていて、開けた空間になっていた。

 空間にはは白い糸状の束が天井や壁から縦横に走っていて、所々に奇妙な塊が置いたあった。

 何かに似ているなと思いながら、慎重に近づいていく。

 塊に近づいて詳しく観察すると、白い糸状の物でぐるぐる巻きにされていて分かりづらいが、塊は人間だった。

 生死は不明だが、まだ人間の原型は保っているようだ。

 

 空間の大きさは、白い糸の膜で仕切られていてまったくわからない。

 見通しを良くしようと剣で切りつけた瞬間、奥の方から勢いよく大きな物が襲ってきた。

 足が何本も生えていて、目も複数ある。

 長い牙が生えていて、お腹がまるまるとしていた。


[メイズスパイダー(成体)…… 暗く狭い所によく生息している蜘蛛の魔物、獲物を生きたまま捕縛して、糸で身動きを取れなくした後、ゆっくりと食べる。火が弱点]


 あっという間に床に押さえつけられ、糸でグルグル巻きにされる。

 人間の力では到底引きちぎることは出来ず、頭からあしの先まで白い糸で覆われてしまった。

 食べられるのをおとなしく待つ訳にはいかない、おれはファイアーボールをゼロ距離発射した。


 大音響とともに身体の糸が燃え上がる、絶対防御が発動し淡く身体が白光する。

 瞬時に身体の自由を取り戻し、反撃の一手を繰り出した。


「ファイアーウォール!」


 瞬間的に周りの温度が急上昇する、大爆音とともに炎の壁が出現し天井まで一気に燃え上がった。

 爆炎はまたたく間に、辺りの蜘蛛の糸を燃やしていく。

 地面には炎に巻かれてのたうち回る巨大な蜘蛛と、それを見る俺の他には、何も残らなかった。


[蜘蛛の糸…… 討伐部位 武具の材料になる]


 討伐部位を拾いあたりを見渡したら、冒険者の身分証明書と宝箱を発見した。

 糸が絡んでいて見逃していた箱は、飾り金具が箱全体にあしらわれていて、結構豪華に見えた。

 開けてみたい衝動に駆られたが、イリーナさんにむやみに開けるな、と言われていたので渋々リュックに収納した。

 身分証明書を調べてみる。


[辺境都市ガルド冒険者組合所属 クリスティー ランクC]


 繭にされていた人間の正体は死神の影のメンバーだった。

 これでリーダーのメイガス以外が全滅したということか。

 背筋がゾクッとして、その場を足早に後にした。




 階段から右側はだいたい探索し尽くした。

 今度は左の道に行ってみよう、そんな事を考えながらもと来た道を戻る。


 それにしてもこの下層は敵が強すぎないか?

 大蜘蛛なんて強すぎて、手も足も出なかったぞ。

 魔物の強さにを疑問に思いながら、はしごの下に戻ってきた。



 お昼にはまだまだ時間があるので、引き続き左の道を探索する。

 やはり左の道も構造は一緒で、難なく移動できた。

 時々スライムが壁に張り付いて居る以外は、何も起こらず探索は順調に進んだ。

 お昼に近くなって下層の最深部らしき空間の前に来ることが出来た。

 なぜ最深部だと分かったといえば、その空間だけが異常に開けてて、

自然にできたものではない感じだったからだ。

 地面は平らになっていて壁も切り立ったように真っ直ぐだ。



 この空間に今回の討伐対象が居るかも知れないので、気合を入れて進んでいった。

 空間の真ん中に巨大な人影が見えた。

 背の高さは二メートル半位あるだろうか、全身が筋肉の鎧をまとっている。

 フルプレートの防具と、両手持ちのロングソードを装備していて、ひと目で歴戦の戦士ということが分かる。


[メイガス…… 平民 冒険者 レベル12(ハーフオーガ・男・32歳)・スキル…… 上級剣術 中級槍術 中級格闘術 中級火魔法]


 正体は死神の影のリーダーだった。

 しかしメイガスは目がうつろで意思があるようには見えなかった。

 暫くお互いに何もせず対峙していると、メイガスの後ろの空間にモヤが発生して、何かの影が薄っすらと現れ始めた。

 モヤが晴れてきて影が正体を表す。

 どこかで見た顔をした男が、こちらを見つめていた。

 注意してみるとその顔は俺自身の顔で、服装も会社に行くときのスーツ姿だった。


[ドッペルゲンガー…… 相手にそっくりに擬態し、攻撃を躊躇させて油断を誘うスライムの魔物。幻覚 反射攻撃]


 俺の姿をしたドッペルゲンガーは空間の後ろにさがり、こちらを見てニヤリとわらった。

 ドッペルゲンガーの後ろには、瘴気の渦があって禍々(まがまが)しい気配を放っている。

 あの瘴気の渦が魔物の発生と何らかの関係がありそうだな。


 瘴気の渦に気を取られた一瞬をついて、メイガスが勢いをつけて間合いを詰めに来た。

 上段から振り下ろされた大剣を、ショートソードで受け止める。

 しかしショートソードで受け止めることなど出来ず、ショートソードごと身体を切られ、絶対防御が発生し事なきを得る。


「正気をとりもどせ! 俺は味方だぞ!」


 メイガスに向って話しかけるが反応は皆無で、完全に魔物の操り人形になっていた。

 メイガスの剣技は本物で俺は手も足も出ず、大剣をかわすことしか出来なかった。


 攻めあぐねている間に、メイガスが渾身こんしんの上段切りを放ってきた。

 とっさに盾で防ぐ、身体が強く光りシールドバッシュが発動した。

 吹き飛ばされ後ろに転がるメイガス、ドッペルゲンガーの足元まで転がっていった。


「ファイアーボール!」


 右手を前に出し、こぶし大の火球をドッペルゲンガーに放つ。

 大爆発が起き、ドッペルゲンガーの上半身が吹き飛んだ。


(よし、ドッペルゲンガーを倒したぞ)


 下半身だけになったドッペルゲンガー、床に倒れているメイガス、俺は慎重に近づいていく。

 近づいている最中に下半身がドロリと溶けてメイガスに覆いかぶさった。


 またたく間にメイガスを溶かし吸収する。

 次の瞬間、身体を修復したドッペルゲンガーが手をダランとさげ、その場に立ち尽くした。

 

 ドキンと心臓が鳴る、この光景は宿屋で見た夢と一緒だ。

 あの夢の中では俺は死んでしまうはずだ。




(馬鹿げている!)


 夢が現実になるなんて、いつからそんな臆病者になったんだ。

 今の状況を冷静に分析すれば勝利も見えてくるはずだ。


 下手に動かずその場にとどまって弱点を考える。

 こいつはスライムの一種だと鑑定に書いてあった。

 だとすれば核がどこかにあるはずだ。

 どこにあるんだ、目だけ動かして核を探す。


 考えられる一番の場所はやはり心臓部分だろう。

 剣を構え心臓を狙う、夢の通りなら剣で刺した瞬間、俺が死ぬことになる。

 一瞬ためらった後で一気に剣を突き立てた。

 ドッペルゲンガーに剣は突き刺さらず、反対に俺の心臓に自ら刃を突き立てていた。

 反射攻撃、ドッペルゲンガーのスキルによって、無意識に攻撃を自分に向けてしまっていた。

 絶対防御が発動し事なきを得る。

 とっさにパネルランスをドッペルゲンガーの足元に発動した。

 金属的な音がして一斉に槍が突き上がる。

 形をなくしたドッペルゲンガーが核を槍に貫かれ、静かに粒子化していった。


 ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン


 どこからか鐘の音が聞こえ、瘴気の渦が消えて行った。

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