第十九章 奇襲攻撃
第十九章 奇襲攻撃
エイジスが着任した日の夜、彼はファレアと再会できたためによく眠れなかった。朝の四時まで眠りにつけなかったことは、ファレアも同じだったのだが。
エイジスは起床時間になると、眠気を我慢しながら起きた。
いつもと違う朝を迎えたエイジスは、朝の食事の時間までは、まだ時間があったので、洗面所へ行って、顔を洗った。
寝不足で頭がフラフラしながらも、顔を乾いたタオルで拭く。
そして、基地の兵舎の中ですれ違う水兵たちに挨拶をしながら、食堂までの廊下を歩いた。
食堂では大勢の兵たちが並んで、鉄の容器の中に味気のないシチューを入れてもらっている。そして空いているテーブルの席についていく兵たち。
エイジスも鉄の容器を手に取り、列に並んだ。
ファレアの姿がテーブルにあった。
目を合わせたエイジスとファレアは、アイ・コンタクトで挨拶をして、二人とも笑い顔をする。
ようやくエイジスの順番が来たという時、突然大きな爆発音が鳴り響き、足元が地震のように揺れた。もう一回爆発音が聞こえる。
何の音だ?
食堂の全員がざわめいた。
エイジスはファレアのほうを見る。
彼女もエイジスを見た。
「爆撃だ!基地が爆撃されているぞ!」
誰かが食堂へ入ってくるなり大声で叫んだが、なぜかみんな、それにピンとこずにポカンとしている。
「全員外へ出ろ!戦闘配置につけ。これは演習ではな・・・。」
次の瞬間、機銃の音が聞こえるとともに、入ってきた者は体から血しぶきを上げて倒れた。
兵たちは、それを見て立ち上がり、すぐに動いた。
また機銃掃射が起こり、食堂に無数の弾丸が飛び込んでくる。
ものすごい弾幕の嵐を受けて食堂の中は騒然となる。まるでたくさんの花火を投げ込まれたような火薬の臭いが立ちこめた。
数人が弾を食らって倒れる。大量の血が食堂内を赤く染めた。
二十二ミリ口径の機銃の弾を食らった人間がどうなるかなど、これ以上語ることはできなかった。
ほかの全員が外に出たあと、兵舎は爆撃を受けて爆発する。五人が炎の塊に巻き込まれて死んだ。
エイジスはファレアのところへ走った。
「おい、大丈夫か?」
ファレアは身をかがめて様子を見ている。
「ええ、わたしは大丈夫よ。それより見て!」
スドーンという音が鳴り響き、古い空母が爆発を起こしているのが見えた。
軍港では大量の爆弾が落とされているのがわかった。
エイジスは空を見る。
「ファレア、上空を見ろ。すごい数だ。」
まだ、霞ががった朝靄の空を見ると、百機ぐらいの爆撃機が爆弾を空から地上の基地に向かってバラまいていた。
あちこちで爆発が起こり始め、対空砲や軍事施設は次々と破壊されていく。
「これは一体・・・。」
「ノードランド軍の攻撃だわ!すぐに対空攻撃を行わないと。」
ファレアは逃げ回っている兵たちに大声で命令をした。
「みんな、応戦処置をとって!すぐに戦闘配置につけ!」
彼女はこんな場合でも、冷静にパニックの中で命令を出して、指揮をとろうとしていた。
停泊中の戦艦や駆逐艦から激しい対空砲が火を吹いていた。
なんとか敵の攻撃部隊を蹴散らそうと戦っている。
戦闘機もしばらくすると離陸して、爆撃隊を攻撃していた。
「エイジス、あなたも飛行場へ行って!」
「ああ!」
エイジスはファレアのもとを離れた。
すぐに戦わなければならない。
そうこうしているうちに、敵の爆撃部隊は帰投を始める。
攻撃はやんだのか?
エイジスは飛行場へ着くと同時に去っていく敵の編隊を見て思った。
しかし、そう甘くはなかった。
次の編隊が、今度は六十機ほどやって来るのが海のほうから見える。
エイジスは、最新のレシプロ戦闘機、チェリー・ブロッサムに乗った。
ここの飛行場ではそれがスタンダードだったのだ。
エイジスはこの飛行機に乗ったことは一度もなかったので、初めての操縦だった。しかし、計器類はクレマチスとそう変わらなかった。
エイジスはすぐにエンジンをかける。機首のプロペラが回り始めると、ゆっくりと滑走路へ機を持っていって、スピードを上げて離陸した。
急上昇させると、戦闘機は軽く空を昇っていく。
これは大した性能だ。
機体は敵の爆撃隊の上まであがっていった。
上から敵を狙える。
エイジスは死んだレイブズの言葉を思い出していた。
勝利の確信。それがエースパイロットへの第一歩だ。
すぐに急降下すると、チェリー・ブロッサム機は機銃から弾を放つ。
一瞬で、一機の爆撃機を火だるまにした。
なんという攻撃力!
エイジスは心の中で思った。
この戦闘機の性能はクレマチス以上のものだった。旋回力も負荷が少ない。そしてこの上昇力。エイジスの戦闘機はその一機ですでに、敵の編隊を端から崩していった。
とても速い機銃の弾幕が、敵機をはじいていく。
エイジスは特に、敵の爆撃機の翼の付け根や、操縦席のある機首を攻撃していった。確実に撃ち落とすにはそれが一番早かった。
この戦闘は三十分も続いた。
ようやく敵の編隊も、爆撃を終わらせたのか、引き上げていく。
エイジスはそれでも、弾を撃ち尽くすまで敵の爆撃機を追いかけて撃墜していった。
突然、後ろから敵のヒメジョオン機がエイジスの機に襲いかかってくる。
エイジスはすぐに反応し、急旋回をした。
超低空でチェリー・ブロッサムを飛ばすエイジス。
基地すれすれのドッグ・ファイトとなった。
エイジスは黒煙にまぎれて機を隠す。
飛び回っているうちにヒメジョオン機のうしろを取った。
今だ!
エイジスの機が機銃を撃つ。
ドオンという音を立てて、ヒメジョオンは片方の翼を失い、基地の建物に激突して爆発を起こした。
ようやくこれで、戦闘は終わった。
エイジスはすぐに滑走路へと着陸する。
基地はあちこちが砕けていた。
誰が見ても、かなりの被害を被ったことは確かである。
戦果は敵にしてみれば大だろう。
だが、インデアル軍は艦隊の半分を失った。
イサラ基地は、今までにない大打撃を食らったのだ。
ファレアは必死で消火活動と人命救助に追われていた。
がれきをどけて、下敷きになった兵たちを救出するよう部下に命じた。
火を吹いて燃え上がっている施設には消防車の助けが必要だった。
撃沈された軍艦は、完全に沈むまでに早く乗組員たちを脱出させるよう呼びかけた。
もう、敵の爆撃機は来なかった。第二次編隊の爆撃で終わったらしかった。しかし、これはかなりの大胆な奇襲攻撃であった。
一番敵に攻撃されやすい基地であることはわかっていたはずなのに、それでも攻撃されたのは、この朝靄のせいだった。視界が薄い中を狙って爆撃部隊はやって来たのである。これは敵の作戦勝ちだった。
油断していたわけでもないのにやられたのは、仕方がないことであるが、それでもここを仕切っているブレッド大佐と、彼の上司の司令官は軍法会議ものになって責任を問われるのは明白である。
ファレアは仲間とともに死傷者を運んでいた。
施設のそばで死んでいる男を見つけて呼びかけるが、もう死んでいるらしく、
返事はなかった。その兵士の顔をよく見る。
なんてこと・・・。
その死に顔はまるで眠っているようである。
彼はファレアの部下であるファルゾン・ガードマン二等兵だった。
ファレアはその遺体を抱きしめて、少し泣いた。
戦争が奪っていく。なにもかも・・・。これも狂気のせいなのか?
その答えは考えても見つかることはなかった。
すぐそばに、ブレッド大佐が歩み寄ってくる。
「曹長、泣くな。ここでは涙は禁物だ。いいな?」
その残酷な命令に従って、ファレアは目からこぼれ落ちる涙を止めた。
「はい。でも、こんなの・・・現実とは思えません。」
「いや、これが現実だ。それが戦争なんだ。これで我々はまた、結束できるぞ。起きたことを悔やむ前に、先の戦闘を行うための作戦を考えろ。俺もそうする。奴らにこのまま好き勝手、やらせない。任務に戻れ。」
大佐は冷ややかにファレアに言うと、その場を立ち去った。




