第二十章 捕虜
第二十章 捕虜
戦闘の数時間後、イサラ基地の近くに撃墜した爆撃機が墜落していると、無線で連絡があった。
爆撃機は機体がバラバラで、生存者はほとんど絶望的らしい。
基地から十人の一個小隊が出動して現場に向かう。
爆撃機の残骸が雪原の中に飛び込んで埋まっていた。
歩兵銃を構えながら、慎重に残骸を調べるインデアル軍の兵たち。
あちこちに敵の搭乗員たちは散らばって、倒れていた。搭乗員たちは皆、墜落の衝撃で体中の骨が砕けていて、もう死んでいた。
死体を全部、確認する。死体の数を数えると六人だった。
爆撃機の奥の方まで念入りに確認する。奥に、まだ誰かいた。
「おい、まだいるぞ!」
「何人だ?」
「一人だけだ。」
「生死は?」
「確認する。」
二人の兵士が敵の搭乗員の体を引き出すと、息があるか確認した。
静かにだが、息がある。
「生きているぞ。どうする、殺すか?」
「待て!」
兵の一人がノードランド人の様子を見た。よく見ると、この兵士は女だった。
まだ若くて、二十歳くらいに見えた。
名前が軍服に刺繍で書いてある。ノードランド語だ。
「おい、この文字は読めるか?」
「テ・・ル、ナ?ファーバ・・・バンス・・キ?かな。ああ、たぶんテルナ・ファーバンスキーだ。発音は違うだろうがな。階級はわからない。」
「テルナか。まあいい。意識があるかもチェックしろ。」
頭を平手でたたいて調べる。少しは意識もあるようだ。しかし、女でも敵だ。慎重に確認をしなければならない。
「装備を調べろ。手榴弾でも持っていたら自爆するかもしれない。全部取り上げろ。」
この女のボディ・チェックをする。
拳銃が一丁見つかった。あと、その拳銃のマガジンも。あとはもう、何も持ってはいないようだった。
さて、どうする?
「この女、連れて帰るか?」
「そうだな。助けてやれ。ケガの様子は大丈夫か?」
「見た感じ、大きなケガは負ってはいないようだ。墜落のショックで体が揺らされただけのような感じだ。殺さずに連れて帰ろう。運んでやれ。」
インデアルの兵士二人が足と体を持って、運んでいった。
ノードランド人の爆撃機の搭乗員であるテルナは、近くの軍病院ではなく、イサラ基地の医務室に運ばれた。病院まで行く必要はない程度だったからだ。ただし、ベッドに寝かされて、手と足に手錠をかけられていた。
イサラ基地の攻撃された模様が窓から見える。軍港は爆弾の雨によってあちこちから火が出ていて燃えていた。これでも少しは片づけたほうである。
うっすらと意識がはっきりしてきたところで、医務室のドアにノックが鳴る。
ドアを開けて入ってきたのはファレアだった。手には調書の作成の紙とペンを持っていた。
静かにテルナのところへ歩み寄る。
「わたしは空母の乗組員、ファレア・K・ブラッカイマー曹長です。わたしの乗る空母は、かろうじて大破は免れたわ。あなたはテルナさんね?」
ノードランド語を話す彼女のほうを見るテルナ。
自分が生存して、捕虜になっていることをうっすらとだが、理解した。
「わたしは、テルナ・ファーバッスキー兵長。ノードランド軍第三○一航空部隊、重爆撃機ハルジオン機の搭乗員。」
二人はノードランド語で話した。
「取り調べをします。基地はあなたたちのおかげで、こんなになっちゃったけど。残務処理と艦隊の建て直しが大変だわ。だからすみやかに、聞かれたことをすべて吐いてね。」
「はい。」
テルナはおとなしく従った。
「では、今回の奇襲攻撃は、いつ頃計画されていたの?」
少し間が空いて、テルナは口を開く。
「冬ごろです。」
「今も冬よ。具体的に、正確に、詳しく話してね。」
「冬の、攻撃前夜に初めて作戦を知らされました。それ前の計画には、わたしは関わっていません。」
「そう。つまり爆撃が始まったのが朝の七時半頃だったから、その何時間前?」
「十時間前です。空母エースターランからハルジオン爆撃機で発進しました。それは朝の七時きっかりです。」
ファレアはうなづきながら、メモをした。
「なるほど。次の攻撃の時期や場所はあります?」
「わかりません。」
「知ってることは全部言うのよ。同じ質問をします。攻撃の目標や日時は?」
「・・・・・・・。」
「教えて。」
ファレアはテルナに深く聞いた。
「わたしにはわかりません。攻撃の直前にしか知らされないんです。」
「そう?よく思い出して。何かあるでしょ?知らないことではなくて、風評でも聞いた話だけでも、何でもいいから。」
「わからないんです。本当です。」
ファレアは突然、テルナをひっぱたいた。ためらいのないその一撃が、テルナの頬を打った。テルナの血が飛ぶ。そして彼女の歯が一本欠けた。
唇を歯で切って、口から血を流すテルナ。歯のかけらを吐き出して、ファレアのほうを見た。ファレアの形相は怒りに満ちていた。
「い~え、まだ何かあるはずよ。言って、さあ!」
ファレアはテルナの所持していた拳銃を出して手に持つと、テルナの頭に銃を突きつけた。その銃口は今にも火を吹き出しそうな、れっきとした殺意が込められていた。それはとても恐ろしい銃口だった。
「あなたたちのおかげで、わたしはとても大切な人を危険に晒し、信頼していた部下を殺されたのよ。これ以上の血は流させたくはない。でも、吐かなければ、わたしはこの引き金をためらいなく引くわ。あなたを殺すためにね。」
テルナはガタガタと震える。
「やめて・・・。本当に知らないんです。」
バン!
銃声がした。医務室の壁に穴が開いた。三十口径の弾丸がめり込んでいる。
そしてテルナの頭にもう一度、銃が突きつけられる。
「次はないわよ。」
「本当です。信じて・・・。知らないんです・・・。」
「じゃあ思い出して考えて。何かを言い忘れているだけだと思うわよ。どんなことでもいいから言いなさい。どんな小さなことでもかまわないから。思い出してちょうだい、さあ。逃げ場はないわよ。このままここで死にたい?わたしは本気だから、あなたの命はあなたのひとかけらの些細な情報にかかっている。せめて噂でも何でもいいから言いなさい。さもないと本当にこのまま引き金を引いて殺すわよ。」
「お願い・・・。」
ファレアが引き金を引こうとした瞬間だった。まさに殺す寸前だった。
「病院です!野戦病院!」
テルナの悲痛の一言で、ファレアの指が止まる。
「病院?」
「はい、南の前線の最寄りの野戦病院を爆撃機で襲って、無抵抗な負傷兵や衛生兵、軍医などを皆殺しにしたいと言うことを上官が話しているところを偶然、聞いてしまいました。本当です。それだけは真実です。知っているのはそれだけです。もうやめて・・・。いつとかそんな細かいことまでは知りません。お願いします、殺さないで・・・。」
銃を下ろすファレア。
「わかったわ。信じてあげる。あなたの命は保証します。だから、安心して。」
「ありがとう・・・・・。」
まだ、ガクガクと死の恐怖に震えているテルナにファレアは言った。
「感謝してね。軍の本当の取り調べは、電気ショックの拷問付きだから、簡単には死ねないし、大変な苦痛をずっと味わうものよ。だからこんなもんじゃないわ。それをまぬがれて良かったわね。」
そういうと、ファレアは出ていく。
残ったのは、ベッドで怯えるノードランドの女だけであった。




