第十三章 エースへの道
第十三章 エースへの道
エイジスは敵戦闘機を離すと、今度は敵機の群れに向かっていった。後ろががら空きの敵機を見つけて、機銃を撃つ。
尾翼の付け根を狙った。機銃の弾がヒメジョオン機の背中に命中し、激しい金属の破裂音とともに敵戦闘機は機体のうしろを失い、落下していく。
敵のパイロットの姿が少しだけ見えた。女性パイロットのようだった。必死でキャノピーを叩いているらしかったが、それもまた、すぐに暗い地上へと消えていった。
そうこうしているうちに、突然目の前から別の戦闘機が、火だるまになって落ちていくのにぶつかりそうになる。
エイジスはそれをあわてて回避した。
今の旋回力がなければぶつかって、一緒に落ちていたかもしれない。
危ないところだった。
さらに銃弾が機に向かって放たれる音が聞こえる。
クレマチス機の向きを変えるエイジス。機体はまるでトンボが飛ぶような動きをした。
敵と味方の区別もできないほどにあちこちで戦闘機が飛び回るのが見える。みんな必死なのだろう。
一機の手練れが背後にあらわれた。エイジスの機を狙ってくる。大量の薬莢をばらまきながら、敵戦闘機は攻撃してきた。
エイジスはすぐに反応して機体を急降下させる。追ってくる敵機。
再び敵の機銃が火を吹き、エイジスの機に迫ってくる。かろうじて地上すれすれで機体を起こすことができたエイジスは、そのままの高度を保ったまま必死で逃げた。敵の旋回能力も凄かった。エイジスの機にピッタリとついてくる。
エイジスはこのままではまずいと思った。スピードを上げて逃げるが、敵も速い。よほどの腕なのだろう。それをあやつっているのは敵のエースパイロットに違いない。エイジスは撃墜されるのを覚悟でクレマチス機をタイミングを計らって上昇させる。それを追う敵のヒメジョオン機。再び機銃掃射が後ろから襲ってくる。エイジスは高度を十分に上げたところで旋回に旋回を加えたところで、やっと敵機と巴に回ることに成功した。
もう少しで相手の後ろを取ることができる。しかし、機体はかなりムリをしているようだった。空気抵抗によってギシギシと音をたてている。
クレマチス機を回転させ、普通ではやらないであろう宙返りを、曲芸さながらの動きでやるエイジス。
敵の後ろをとった。
エイジスはためらわずにすぐに機銃のボタンを親指で押す。
激しい弾丸が嵐のように敵のヒメジョオン機に浴びせられる。
ズドン
派手に爆発を起こす敵機。
プロペラだけがくるくると空中を回った。
ようやく撃墜に成功する。
エイジスは一瞬だけ高揚感を感じたが、すぐに機体を回して次の戦闘機めがけてクレマチス機を飛ばした。
あちこちで敵の戦闘機も味方の戦闘機も爆発を起こしているのが見える。
優勢なのはどちらかは判別できなかった。しかし、おそらく自分たちの方が勝っているだろうと思った。
空でドンパチやっているうちに、いつの間にか敵の戦闘機部隊は退却をし始めていた。もう、追いかけるような深追いはしない方がよかった。
敵は領空侵犯をあきらめたのだ。勝利はこちら側にあったのだ。
エイジスは飛行機の速度を抑えると、ほかの味方とともに基地へと帰投していった。
空中戦は終わった。戦果は敵機はおそらく二十機ほど撃墜しただろう。
インデアル軍の損害は具体的には、無事に基地まで帰投できたのは全部で二十三機。三十三機出撃させたのだから、差し引きで十機がやられたことになる。
しかし、結論はまだ早い。墜落した機にも生存者がいるかもしれない。
すでに救急車両が、護衛付きで出動している。
戦闘があった場所の地上にいる兵にも連絡して、生きているかもしれない者を探してくれている。もちろん敵軍の生存者もいれば見つけて捕虜にする。
あとの処理も大変だった。
エイジスは、自分の機から降りると、すぐにレイブズ少尉を探した。彼も当然さっきの戦いには参加したはずだ。誰もが憧れるエースパイロットとして。
しかし、その姿は見られなかった。
一体、あの戦闘で何があったんだろう?彼は功績をたくさんあげたパイロットのはずだ。ここに帰投してもいいはずだ。
その時、すぐそばの野外通信施設から通信が入っていた。
「あの、エイジス・セナ中尉はいらっしゃいますか?」
通信士が戻ってきた皆に、声をかけた。
一瞬、ドクッとエイジスの心臓がはねた。
「ああ、俺だ!」
手を挙げて名乗り出るエイジス。
「さっきの国境に近い通信基地からあなたに連絡が入りました。撃ち落とされた我が軍の戦闘機から救出されたレイブズ・クレスター少尉からです。消防車の通信機で話したいと言ってきているようなのですが、消防士の話では、彼は撃墜されて、ひどいケガを負っているようで、あまり長くは話せないと・・・。」
最後まで話を聞くまでもなかった。エイジスは通信施設に入ると、通信機械の通話機を手に持った。
「こちら、エイジス。エイジス・セナ中尉だ。聞こえるか?」
『こちらは消防士のケインです。レイブズ・クレスター少尉に代わります。』
どんな状態かも分からないまま、通信は少し途絶えて、すぐにレイブズの声が聞こえてくる。
「どうした?なんでやられたんだ?」
『ああ、中尉。僕は狙われていたみたいで、五機もの敵機に追われてやられてしまいました。すみません。』
「傷は?どうなんだ?」
『長くありません・・・。ただ、どうしても言っておきたいことが。』
「なんだ・・・?」
『エースは、なってしまったら、必ずこうなります。エースになんてなるもんじゃない。それでもなりたいのであれば、言います。いつも勝利を確信してから戦ってください。いずれこうなっても。その勝利の精神を持ち続けていれば、必ずなれます。エースに!それだけです。』
「分かった。お前も死ぬな。死んでは今のエースがいなくなる。絶対に・・・。」
『いえ、これからはあなたがエースに・・・。』
通話が切れた。
しばらくして再び通信が再開する。
「おい、どうした?レイブズ少尉は?」
声が聞こえたのは消防士のケインだった。
『こちら、ケインです。お亡くなりになられました、少尉は。』
エイジスの手から通話機が落ちる。
動揺が彼を襲った。
エースは死んだ。そして委ねられたのだ。次のエースに。
エイジスはよろよろと施設を出ていく。
「中尉、大丈夫ですか?」
「ああ。」
誰かが声をかけても、生返事しかできなかった。
これが現実なのだ。たとえエースでも、死ぬときはあっという間に死ぬ。
いつの間にか、自分の知らないところで。
軍隊というものはそうなのだ。
絶えず死がつきまとうものであり、エースが死んでも、次のエースが任命されるだけなのだ。
念願のエースパイロットの座は、エイジスに委ねられた。
俺に務まるのだろうか?
プレッシャーが体を震わせる。それはとても繊細で壊れそうだった。
しかし、レイブズに答えるためにも、彼は戦うしかなかった。
彼は自分の任務をまっとうするだけである。
「みんな、聞いてくれ。」
エイジスは、帰投したばかりのパイロットたちに向かって言った。
「若きエースパイロットのレイブズ・クレスターが、先ほど戦死したとの報告を聞いた。惜しい男を我が軍は失った。悲しいことだ。」
パイロットたちはざわめく。それを止めるようにエイジスは言った。
「しかし、我々は彼の亡きあとも戦う。いや、この戦争に勝つ!そのために我々で彼の分まで使命を全うしようではないか!これは祖国を、そして祖国を守ろうとして戦い死んだ命に報いるために、敵に勝つのだ。いいな?」
エイジスはそう言った。
その場はシーンとなる。静寂を許さず、エイジスは叫んだ。
「インデアルに祝福を!」
静寂は解き放たれた。一丸となってエイジスの叫びに続くパイロットたち。
「インデアルのために!」
戦闘後の疲れたような雰囲気は変わっていった。
彼らの戦いを称えるように。




