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ハナノナ  作者: あばたもえくぼ
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第十二章  空中戦

  第十二章  空中戦



 海路をつないでいる小型の往復船が、桟橋の向こうの海沿いを歩いていたら見つけた。そこではエイジスのような軍人たちが船に乗るために並んでいる。この海路を行けば、歩くよりも早くタユタポール海軍基地へとたどり着けられるからだ。しかし、乗船の料金は少し値が張るのだがそれは仕方ない。

エイジスは、自分の順番が来て乗船すると、すぐに船に乗った。元々遊覧船に使われていた船らしく、航海の写真や数の多い救命胴衣が揃っているなど、その痕跡が残っている。船を扱う船長は優しそうな人で、彼は軍人ではなかった。軍によって彼は、その船を有事においては軍が使用権を得るような、そんな状況下で自慢の船を動かしている、そんな気がしていた。

エイジスは空いている座席を探したが、席はもう満杯だったのでそのまま立って外の海原を眺めていることにする。

船はすぐに出航した。煙突から煙が出ているのを見ながら、エイジスはエンジンの稼働を感じ、船がゆっくり桟橋から離れていくのを目で追っていく。

この船でも十分早く基地へ向かってたどり着けそうであった。

乗っている軍人たちは多いけれど、それを敵が把握してこの船に攻撃をしてくることはないだろう。というより、攻撃などされたら困るだけだが。

敵の潜水艦も最近はよく確かめもせずに、簡単に魚雷を撃ち込んでくるらしいから、たまったものではない。実際、軍への物資を運ぶ貨物船や輸送船と軍艦の見分けもつかないであろうということが、軍にとっては厄介な話であった。敵の潜水艦は特に、そういった船も魚雷攻撃で船を撃沈することが稀な話ではないことは常識である。だから、あまり沖合には出ずに陸に沿って走るのが一番というのが、この手の船の定説となっていた。

海路でもかなりスムーズに基地への近道となっている。速さは飛行船と対して変わりはないだろう。この船を見つけたのはエイジスにとっては幸運だった。

歩いて基地に行くには遠すぎたからだ。船なら一直線で基地へ向かってくれる。足がくたばる前に船に乗れてよかった。

船は一時間半でタユタポール基地の手前にある桟橋へとたどり着く。

軍人たちはそこで船を降り、その全員がタユタポール基地へと入っていった。

エイジスはすぐ隣を歩く軍人に話しかける。自分よりも若い男だ。

「よう、調子はどうだ、少尉?」

相手の軍服のワッペンから階級がわかる。

「あなたは?」

「俺はエイジス・セナ。中尉だ。戦闘機パイロットさ。」

相手は敬礼する。

「自分は同じパイロットです。」

「そうか。名前は?」

「はい、インデアル帝国海軍戦闘機パイロットのレイブズ・クレスターです、中尉。」

「レイブズ・クレスター?あの有名な十七歳の新鋭のか。敵戦闘機を五十機も撃墜したという、インデアル軍の若きエース?」

「いえ、そんな。恐縮です。たまたま相手の戦闘機が弱かっただけですよ。敵の戦闘機もなかなか侮れないですし、勝てないと思ったら、隅に引っ込んで隠れているだけです。そして、時期を見計らって自分に有利な展開になってきたら、こちらからすぐに打って出るという自分の戦略を通しているだけです。」

「いや、それでも、その空中戦での自分の作戦を見いだすとは見事ではないか?」

「自分はただ要領がいいだけです。じきに見破られて、その時は次の作戦を考えるまでですよ。でないと、この戦争では生き残れないですからね。中尉はどんな戦術をお持ちですか?」

エイジスは返す言葉に困った。しかし本音を話す。

「俺は念願の戦闘機パイロットになったが、君のような武勲はないよ。正攻法でしか戦ったことはないからな。今はつまらんよ。夜間の爆撃部隊の護衛で乗っているだけだからな。まあ、それでも大きなリスクの上で乗っていることには変わりないか。当然敵も戦闘機を出してくる。その時はやり合うさ。でも、やっぱりやることは同じかな。必ずその場合は確実に一機は落とすよう心がけている。一機にのみ集中して絶対に離さない。」

「つまり、敵機に対して真っ向勝負を仕掛けるだけってことですか?」

「端的に言えばそういうことになるな。そのやり方が正しいのか、もっと狡猾に攻めた方がいいのかは分からないが。本当は今はノールールの世界だからな。まあ、当然か。俺たちは空中ショーをやっているのではないからな。しかし、それでもやっぱり俺は一対一の戦いを戦場に求めてしまう。パイロットとしては甘いんだ、考えが。」

「そんなことはないですよ、中尉。あなたの戦い方もそれはそれで大事かもしれません。」

「結果が出せなくても?」

「そうです。敵はだまし討ちが好きな連中ばかりです。奇襲や一機に対して複数で狙ってくる、とてもずる賢く油断のならない連中です。自分はそんな敵に対して同じような作戦で戦います。でも中尉は違う。そこに自分たちがもう忘れてしまった騎士道の精神を持って戦っていらっしゃる。それは凄いと思いますよ。」

「それは褒め言葉と思っていいのかな?」

「はい!」

いろいろと話しているうちに、基地へとたどり着いてしまっていた。

何だか様子がおかしいと気づいた到着軍人たち。

タユタポール基地ではなにやら、あわただしい雰囲気で兵たちが動き回っていた。

「どうしたんだ?おかしいぞ!」

エイジスはレイブズに言った。

「聞いてみましょう。」

しかし、誰をつかまえて聞けばいいのかわからない。

戦闘機が三十機ほど、飛行場の滑走路に集まっているのが見える。

出発前のエンジン音とプロペラの回転音が、滑走路の方から聞こえてきた。

非常警報が鳴り響くと同時に、どこかのスピーカーから、音声が基地全体に向かって生々しく放送される。

「全パイロットに告ぐ。敵のノードランド軍の戦闘機部隊がインデアル帝国領に侵入している模様。戦闘機部隊をこちらからも送る。これは実戦である。ただちに戦闘機パイロットは飛行場の滑走路へ行くこと。整備兵が戦闘機クレマチスを用意している。すぐに全機、緊急発進すること。繰り返す、ノードランドの戦闘機部隊が領空侵犯をしている模様。ただちに迎撃体制をとる。戦闘機パイロットは速やかに発進すること。なお、基地はこれから厳戒態勢に入る。」

その放送を聞くと、エイジスとレイブズは荷物を投げて滑走路へと急いだ。

 滑走路からどんどん飛び立つクレマチス機。

エイジスはまだ誰も乗っていないが、飛行可能なクレマチス機に駆け上った。

整備士が計器類を確かめている。

「どいてくれ!パイロットだ。出撃する!」

エイジスは整備士を押しのけるようにして戦闘機に乗り込んだ。堅苦しい軍服の背広を脱いで、シャツだけになると、機銃の様子を確かめる。

「弾薬の準備は?」

整備士に聞く。

「終わっています。両翼に七十発づつセットしてあります。これが限界の量です。長期の戦闘はムリでしょうが、旋回能力は以前のより性能がよいです。敵をかき回すにはちょうどいいでしょう。エンジンの調子もこの調子だと悪くありません。」

「よし、もう降りてくれ。このまま出発する!」

「はい、ご健闘を!」

キャノピーを閉めると、そのまま機を滑走路に走らせる。

ほかの機が飛び立つのに混じって、自分の戦闘機を滑走路から離した。離陸すると同時に、空中に舞い上がる独特の体が浮くような感覚が走る。

しかし、すぐに戦闘機は姿勢安定をし、エンジン音をたてるとともに敵機の領土侵入場所へと飛んでいった。エイジスの機を含む、クレマチス機の編隊が、十数キロ先の戦場へと向かっていく。



 打ち上げられた閃光弾の光で、夜でも空は明るくなって、視界も良好だった。戦いがもうすでに始まっていて、敵と交戦している味方の機が見える。戦闘機同士が国境上空で入り乱れていた。その数は互いを合わせると八十機を越えていた。地上からも対空砲が撃たれていて、敵機にも味方の機にも関係なく当たるかもしれないというのに関係なしに音を立てて砲撃している。

エイジスの機は一度、低空で地上すれすれに飛んだ。

そして交戦中の入り乱れた航空機の間をすり抜けていく。

すぐに敵機のヒメジョオン二機が背後からくっついてきた。

タタタタという音がして敵機の放った機銃の弾が一発、クレマチス機の機体に当たる。

「来たな!」

エイジスは戦闘機を大きく旋回させた。軽い感じがした。

以前よりも改良されたのか、機体がスピードを保ったまま、思うがままに動けることに、まず感心した。しかし、敵機もスピードだけは速かったので、二機ともピッタリくっついてはいたのだが、攻撃をそらせるだけの能力はバッチリであった。

エイジスは逃げるように機体を振り回す。敵機にムダ弾を撃たせるのには最善の策であった。

エイジスの機は空中で円を描くように旋回する。回り込む時もとても機体は身軽だった。さらにスピードをあげて上昇し、敵機をひっぺがえす。

金属製のモノコックがまるで悲鳴を上げるかのようなきしむ音が聞こえた。

ようやく機体の軽さに慣れてきたエイジスは、次は逆に攻撃してやろうと思い、クレマチス戦闘機の高度を下げて、敵に向かっていく。さあ、反撃だ。





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