81 あるメイドさんの事情1
閑話とした方が正解かと思いますが以前に書き掛けだった部分なのですが書きたくなったので、何となく書いた物なのです。
もう少し前に投稿するのが正解かと思いますが先月の内に7日まで、予約投稿をしていましたので~。
現時点でもおかしくない様に書き足していますので、せっかく書いたので、ちょっと投稿する事にしました。
私の名前はカチュア・ミレディア。
シュタイナー家に仕える密偵の仕事をしていましたが……。
ある日、地方から戻った時にオリビアお嬢様にヴァレンタイン家の内情を探って欲しいと頼まれました。
私は普段は王都に居ないので、それほど顔は知られていないので問題有りませんが、同種の者とは面識はあるので、そこだけは注意しないといけません。
内容は、シノア・ヴァレンタインの調査と派遣して戻っていない者達の行方も探って欲しいとの依頼です。いつもなら私が戻ると必ず会いに来るアンナが居ないのですが、彼女も戻らないとの事です。
彼女は、実力に関しては、私の次に優秀だったはずですが……あの穏健派のヴァレンタイン家は財力と家臣団は多く有してはいるが、強硬手段に出ないのでも有名なはずです。
怪しい者は、素性が分るまでは泳がせておいて、確実な証拠を集めてから派遣した家を脅迫……脅して貸しを作るだけなので、殺したりはしないとのですが……私も今回は嫌な予感を感じていましたが、実質的な当主の依頼ですから断るわけにもいけません。
ヴァレンタイン家は偶然にもメイドの募集をしていたので、応募したら即採用されました。
私の面接の時に1人の少女に裁縫が得意かと聞かれたので、自信がありますと答えただけなのですが……特に私の素性も聞かずに採用するとは、この家は甘いですね。
どのくらいの腕前か知りたいと言われて、私に問題が無ければ今から一緒に来て欲しいと少女に言われて付いて行きました。
見た所は、12歳ぐらいの少女だと思うのですが、面接をしていたもう1人の隙の無いメイドと同じぐらいの権限がありそうです。本家の者と思ったのですが、少女を鑑定をしてみると名前が読めませんから、ヴァレンタイン家の身内では無い事は間違いありませんが……いつから、この家はこんな少女が実権を持つようになったのでしょうか?
案内されると、地下に向かっているのですが、まさか私の正体でも分かったのでしょうか?
大抵の貴族のお屋敷の地下室は、牢屋と尋問部屋が相場なので、少し不安になって来たのです。いざとなったら、この少女を口止めするかして逃げれば良いと思っていたのですが……この少女に何故か隙のようなものが全く無いのです?
私の鑑定が間違っていなければ、この少女よりもレベルは私の方が上ですが、技能の方が全く見えないのです。何となくですが、私の本能が危険を鳴らしています。
目的の部屋に入ると、尋問部屋では無く至る所に衣装が並んでいるのです。大半が見た事の無い物でしたが、ある一点にある華やかな衣装には私も目が離せませんでした。
簡単な説明を受けてから、いきなり衣装の仮縫いをさせられました。私は普段から自分で色々と裁縫はしていたので、合格点は貰えたようです。
この少女の名前はシズクと教えてもらいました。ここにある衣装は全てこの少女が作り出した物らしいので、この少女がヴァレンタイン家が抱えている新しいデザイナーで間違いはなさそうです。
私が先ほど目に入った衣装の事を聞くと、とても目を輝かせて質問をしてきました。
「お姉さんは、あの衣装が気になるのですか!」
「ええ、とても良い感じの衣装と思ったので、聞いてみたのですが、新作の衣装なのですか?」
「あれは、私の世界のアイドルが着る衣装なのです。ちょっと派手なので、せっかくお姉様に着てもらおうと作ったのに、この世界では着る人はいないと言われてボツになっているのですよ! エルナお姉ちゃんは着て喜んでくれたのに!」
私の世界?
もしかして、この少女は異世界人でしたか……稀に迷い込んで来る者がいます。言葉が通じない者が多いので、理解するのは大変ですが、こちらにない技術を持っている者は重宝されます。
ですがこの少女は言語を理解して、これだけの衣装を作れるのですから、ヴァレンタイン家も良い人材を拾いましたね。
「良かったら、お姉さんも着て見ますか? セリスお姉ちゃんの為に作ったサイズの物でしたら、お姉さんに合うと思いますので!」
私があの衣装をですか?
正直、とても魅力的です。
私は職業柄潜入する場所次第ではそれなりの服装が出来ますが、あのような衣装はいつも憧れていたのですよね……任務中ですが、これは仕事の内なので問題はありませんよね?
「シズク様が宜しければ、是非とも着せさていただきたいです」
「言質取りましたよ! では、早速着てもらいたいので、いま着ている物を全部脱いで下さい!」
「えっ!? 全部ですか?」
「はい、全部です! 下着も見えても良い可愛いのを用意してあるので、それを穿いてもらいたいのです! アイドルにパンチラは必須なのです!」
まさか今ここで全裸になれと言われるとは思っても見ませんでした。パンチラが必須とか意味が分らないのですが……今日は特に武器なども携帯していないので問題は有りませんが、今後は気を付けないといけませんね。
その後……体を散々いじられた後に着せてもらいました。鏡に映る姿を見て私は感動をしています!
この衣装は正に私の理想的な衣装です!
私は子爵家の出なのに、幼い頃からお嬢様らしい事はさせてもらっていないのです。
私の能力を鑑定した者が私には素質があると言った時から、私の生活はお嬢様から密偵として活動が出来るように仕込まれる事になったのです。
家の下らないしきたりで、長男以外の兄達と同じ待遇になるとは思ってもいませんでした……。
指導は武術から教養まで厳しい物でした。私が女性として成長すると夜の仕事を仕込まれた時は、こんな家は滅びれば良いとも思いました。
当然ですが、私が仕事がこなせるようになった時に、私の心を傷付けた者はわからないように消しておいたので、気持ちは乙女のままのつもりです。
それにしても鏡の前に立つ自分を見て思ったのですが……私って、意外と可愛いと思ってしまいました。
普段は綺麗とか、いい女などと言われた事はありますが、一度で良いので、理想の殿方に可愛いと言って貰うのが、私のささやかな夢なのです。
私はもう25歳なので、そんな事は言われないのは分っているのですが、この少女は……。
「ふむふむ、これは中々可愛い姿になりましたね! 軽く回ったり、何か可愛さをアピールするポーズをして下さい!」
私が可愛い?
理想の殿方ではありませんが、この少女は私の事を可愛いと言ってくれます!
私は嬉しくて、普段なら絶対にしない小娘のようなポーズをつい披露してしまいました。この少女は真剣に私を見ていますが、もしかして引かれてしまったのではないのでしょうか?
「あの……つい色々としましたが私には似合いませんよね?」
「何を言っているのですか? お姉さんは完璧でしたよ! 先程、お姉さんのサイズは完璧に把握しましたので、次はもっと似合う可愛い物を作りたいと思います!」
「宜しいのですか? この衣装だけでも私はとても素晴らしいと思ったのですが?」
「私のアイドルコスを素晴らしいと評価してくれたのは、この世界ではお姉さんが初めてです! 良かったら、その衣装は差し上げますので、次も着て下さいね! それでは、私は今のうちにイメージをスケッチします。先程のメイドさんの服に着替えたら、案内をする者が来ますので、指示に従って下さい!」
私にそれだけ言うと、机で何かを書き始めました。もう私が呼びかけても反応がありません。
先程のメイド服に着替えながら思ったのですが、あの衣装を着た感触は今までにない肌触りでした。
下着にしても、私が今まで身に付けていた物よりもとても良いので、このまま身に付けていたいと思ったぐらいです。
私が着替え終ると同時に扉がノックされたのですが、この声は……。
「シズク様、そろそろ指定された時間ですから参りましたが、どのようなご用件でしょうか?」
「アンナですか、入って下さい」
私の聞き違いでなければ、いまアンナと!?
「失礼致します」
「私は今から新しい衣装の製作をしますので、このお姉ちゃんにお姉様のメイドさんの仕事を教えてあげて下さい」
「承りました。それではお名前を伺い……ますね」
私と目が合うと一瞬驚いたが、間違いなく彼女は私の知るアンナで間違いないようです。戻らないと聞いていたので、もう始末されていたと思っていましたが、生きていたようです。
「ん? 2人はお知り合いなのですか?」
「いえ、私の知り合いに似ていたので、少し驚いただけです」
咄嗟にアンナが知らないふりをしてくれたので、このまま合わせて彼女から事情を聴いた方が得策ですね。
「初めまして、カチュアと申します。この度、メイドとして採用されたので、色々と御指導をお願いします」
「それでは、案内致しますので、私に付いて来て下さい。それとシズク様、ギース様が時間がありましたら、手合わせをして欲しいと伝言を頼まれていますが、今日はお止めになりますか?」
「もしかして、あれかな? 今日はイメージを纏めたいので、明日のこの時間に予定をしておくと伝えて下さい」
「畏まりました。それでは、そのようにお伝えいたします。では、失礼を致します」
部屋を出て、そのまま付いて行くのですが、まずは確認をしなければいけません。
「貴女は、私の知っているアンナで間違いはないですね?」
「……」
「どうして答えてくれないのですか? それとも私の勘違いだったのでしょうか?」
「カチュア様……今は何も聞かずに私に付いて来て下さい」
本人で間違いはないようです。私に対してはもっと楽しく話しかける姿しか浮かばないのですが、今の彼女は何となく遠く感じます。
そのまま、仕事の内容や食事をする所などを教えてもらって、最後に私の部屋に案内してくれたのです。そこで、別のメイド服に着替えるように指示されたので、着替えたのですが……何故かスカートの丈が短くなっています?
そして、私の仕えるお姉様と呼ばれる方にお目通りをしたのですが、当初の目的のシノア・ヴァレンタイン本人でしたので、早くも接近出来るとは僥倖と思いました。
私の最初の印象は、聞かされた内容と違って、単純そうな娘と思ったのです。軽く挨拶をした後に「お姉さんは何を考えているのですか?」と聞かれた時は、意味が分りませんでした。友達感覚でフレンドリーに話していますが、目がまるで私の全てを見透かしているようでした。
しかも、今度はあの少女と違って、全く鑑定が出来ません?
ただ、私の本能が危険だと……見た目に騙されてはいけないと言っている気がします。
そのまま、本日は部屋で荷物の整理をして、明日から働くように言われたので、部屋に戻りました。ここで、ようやくアンナから話を聞けることになりました。
「カチュア様、最初に言っておきますが、もう私は貴女の知っているアンナではありません。明日からは、お互いに知らない間柄で通して下さい」
「!? 何を言っているのですか? 貴女は間違いなく私の知っているアンナですよね?」
「カチュア様の目的はわかっております。私は知らないふりをしますが、もし気が変わられたら、調べる前に早々にこのお屋敷を出る事をお勧め致します」
「それはどうしてなのですか?」
「私には、これ以上は申し上げられません。貴女の知っていたアンナと申す者が生きていたら、必ずこう進言すると思われます」
「貴女は私の前で生きているのに、意味が分らないのですが……」
「本日、私が案内をした場所以外には近づくのは構いませんが、調べてはいけません。これは私に出来る最大の警告なのです」
そこが怪しいから調べろと言われていると思うのですが、アンナは警告と言っています。
彼女の実力なら、それなりに立ち回れるはずですが……それにしてもこの変わり様は一体どうしたのでしょうか?
「貴女の警告は、受け取りましたが、もう以前のように私に話しかけてくれないのですか?」
「……今のカチュア様とは無理ですが……いえ、忘れて下さい。それでは、私はまだ仕事が残っていますので失礼致します」
「待って! 今のとは、どう言う意味なのですか?」
そのまま、部屋を出て行ってしまったのですが、彼女に一体何があったのでしょうか?
調べるなと言われましたが、それでは私の本来の目的が果たせないので、調べさせてもらうことにしました。これが引き返せない道の入り口と気付いた時には手遅れだったのです。
後日、言われた通りの普通の仕事をこなしつつ屋敷の調査をしていたのですが、一部のエリアと最初に案内された地下へ通じる道だけにはかなりの手練れの気配がします。
アンナとは、たまに顔を合わせるのですが、完全に他人のふりをしているのです。昔に目で合図をしていた仕草で私にこれ以上は深入りしないように合図を送ってくれています。
それでも入り込めないエリアの方に、偶然にも私の知っている人物が居ます!
私が驚いた事で相手にも気付かれてしまい、こちらに来るのですが、私の知っている人物とは思えない雰囲気で近づいてきます。
「よう! 久しぶりだが王都に戻っていたのか」
「私は貴方など知りません」
この男は、マクガイア家の子飼いの者ですが、遊び半分で平気で人を殺す最低の屑です。
ただ剣の実力と情報収集にかけては群を抜いているので、人格の方は目を瞑っているとの噂です。
悔しい事に私はこの男に負けて、殺されない代わりに相手をした事があるので、出来れば永遠に会いたくはありませんでした。
「全くつれないな。まあ、お前の目的はわかるが、止めて置け。お前の妹分も警告してたはずだろ?」
「……何を言っているの分りませんが、貴方も同じなのではないのですか?」
「あ、ああ……そんな事もあったな」
この男がこんな風に話すなんて、一体どうしたのでしょうか?
それに過去形で話しています。今は違うのでしょうか?
いつも高圧的に女性を見下していたのに……。
「今更こんな事を聞くのは何ですが……貴方はコクマーですよね?」
「おう! そうだぜ?」
「今の貴方の口調を聞いていると調子が狂うのですが……」
「まあ、いいじゃねぇか! それよりもこの先に行くのは止めて、俺と食堂の隣のバーで飲まないか? あそこは今の時間しかやってくれないが、良いのが置いてあるから、結構人気なんだぜ? 値段は張るが、どこかの貴族様御用達のもあるぜ」
「遠慮致します。貴方は酔った女性に何をしていたのか忘れたのですか?」
「過去の事は忘れちまったな! でも、今の俺はそんな事は絶対にしないぜ? 棟梁に誓ってもいいぜ?」
「その棟梁とは何ですか?」
「やべぇ! 今のは忘れてくれ。まあ、お前が警戒するのも分るから、仕方ないから1人で行くか。俺も今日の事は忘れてやるが、あの通路の先に行くなら、覚悟だけはしておいた方がいいぞ? じゃあな」
本当にそのまま行ってしまいました。以前でしたら、場所など選ばずに襲って来たのに、まるで知り合いに会っただけのような事になるとは思いませんでした。
しかし、まるで別人なのですが。私が王都から離れている間に人格でも矯正されたのでしょうか?
意外な人物に会ってしまった為か、また日を改めた方が良いようですね。
「カチュア様……諦めないのですね……」
私はいまのやり取りが見られていたのも、この時は全く気付いていませんでした。
勿論、通路に溶け込んでいたアンナの気配にも気付いてはいなかったのです。
それから、何も進展しないまま数日が経ちました。見ていて思ったのですが、ここの屋敷のメイドや下働きの者に対する待遇は他の家に比べてとても良いです。
普通でしたら、大した食事は出ないか残り物と相場は決まっているのに、大きく拡張された食堂には屋敷の殆どの者が来て各自が好きな物を選んで食べれるのです。
最初にメダルを購入すれば、その色に応じて、その日のメニューの物を作ってくれるのです。金のメダルを購入すれば、平民では食べれないような料理も出してくれるので、たまに貯め込んで食べている人もいるそうです。
入浴に関しても、男女別に大浴槽が作ってあるので、夜間の時間内でしたら、適温のお湯に浸かる事が出来ます。
そして、他の家に比べてお給金が高いのです。
申請すれば休日も取らしてくれるのですが、その場合はその日の分の日当が減るだけらしいのです。
正直、こんな事はあり得ないと思ったのですが、シノア・ヴァレンタインとシズク様がこの屋敷に来てから変わったと、他の同僚に聞きました。
シズク様には、たまに呼ばれて新作の衣装を着せて頂いているので、私はこの短期間で尊敬をするようになってしまいました。
初めは、年下の少女と思っていましたが、私には最高の理解者と思いました。
シズク様の工房に呼ばれている時だけは、地下の監視の気配が無いのですが、他の部屋には行く事が出来ません。
私は、いつの間にか、このままここに居たいと思っていましたが、いつまでも結果を出せないのでは密偵としては失格です。
あのエリアの警備の薄い日は分っていますので、その時に調べる事にします。
そして、この日にアンナの言っていた言葉を理解する事になったのです。
忍び込む為の装備を整えて向かうと、いつもならあるはずの警戒されている気配がありません?
何の障害も無く進むと其処は大きな扉があるのです。僅かに開いているので入る事が出来ました。広い広場のようですが、ここに何があるのでしょうか?
私が不思議に思っていると背後で、通路の扉が閉まります!
「カチュア様、残念です」
アンナの声が聞こえたと思ったら、私の周りを10人ほどが取り囲んでいます。いつの間に!?
ここに入った時は、全く気配を感じられなかったのですが!?
「あーあー、せっかく警告してやったのに何で来たのかな? 普通に屋敷の生活をしていれば良い待遇だったのに、どうなる事やら」
「コクマー……貴様は、マクガイア家の密偵ではなかったのか?」
「あ、その時の俺はもう死んだからいないぞ? ここにいるのは棟梁に従う忍者コクマーさんだぜ」
「忍者? なんですかそれは?」
「カチュア様、忍者とは影に生きる闇の隠密です」
「アンナ、その隠密とは何なのですか? それにその姿は……」
「カチュアお姉さん、忍者の忍び装束ですよ! お姉さんは私のアイドルコスの共感者だったのに非常に残念です。せっかくアンナがこそこそと警告をしていたのに、無駄に終わってしまいましたね? アンナには、後でお約束の罰を受けて貰います。わかりましたね?」
「し、シズク様! お気づきでしたのですか!?」
「だって、最初にカチュアお姉さんの体を調べた時に、普通の人とは思えない体の作りをしていたし、アンナが目で何かサインを送っていたのはばればれです。そして、お姉様に会った時に他事を考えていたのは失敗でしたね。鑑定はしなかったみたいですが、カチュアお姉さんの事を不審な感情を持っていると教えてくれたのです。後は様子を見ていて、それでも怪しい行動をしょうとしたら、選ばせるしかないと思っていたのです」
「シノア・ヴァレンタインは、鑑定が出来たのですか!? それに不審な感情とは?」
「お姉様と友達でもないのに私のお姉様を呼び捨てですか……これは許せませんね? アンナ、ちょっと相手をしてあげて下さい。もし負けたら、明日はスペシャルメニューをしますからね?」
「スペシャルメニューですか!? ですが私はカチュア様には勝った事が無いのですが……」
「ちゃんと私のメニューをこなしていれば、いまのアンナなら、楽勝です。忍術の使用も認めますから、無力化させて下さい」
「わかりました……カチュア様、申し訳ありませんが、本気で行かせてもらいます」
スペシャルメニューとは、何なのでしょうか?
その言葉を聞いた時のアンナの表情からは、とても恐ろしい事であるような感じでしたが……。
私のレベルは60ですが、技能的にもそれなりにありますので、アンナには負ける事は無いと思っていました。アンナを鑑定するとレベル51になっています!?
私と最後に別れた時はレベル39だった筈ですが、こうして向かい合っていると、私と互角の感じがします。
よく見れば周りの者達も私と遜色のないレベルの者達です!
この中でシズク様のレベル49が一番低いぐらいです。
「そうだ、セリスお姉ちゃんを呼んで来て欲しいので、ギースに頼めますか?」
「わかりました。直ぐにお願いをして来てもらいます」
「では、お願いします。出来ればカチュアお姉さんを……もうカチュアで良いですね。裁縫技術は目に留まるものがあったので、殺したくないのですが、最初の躾は大事ですからね!」
明らかに躾の言葉に他の者が反応しました。アンナの瞳が一瞬かなり怯えていましたが……何をするつもりか知りませんし、肝心な情報は得られませんでしたが、振り切って逃げて見せます!
「では、カチュア様……参ります! 忍法! ヘイスト! 俊足の舞!」
アンナが魔法らしき事を言ったと同時に斬り込んできました。かなり速いです!
私の知っているアンナとは思えない素早い動きで私に攻撃をして来ます。私は防戦一方です!
辛うじてこの娘の太刀筋を知っているので受けていますが、知らなかったら、確実に怪我を負っている筈です。
アンナの剣を受け続けている内に私の剣に亀裂が入ったと思ったら、大きな攻撃を受け止めた時に折れてしまいました!
この剣には細身ですが、耐久強化の付与があるので、簡単には折れない筈なのですが!
「驚きました……いつの間にそれ程の速さを身に付けたのですか? 私は受けるので精一杯でしたが……」
「シズク様、この通りカチュア様の剣を折って無力化しましたので、これ以上はカチュア様を許してあげて下さい!」
「私は無力化させて下さいと言ったのに、カチュアはまだ五体満足ですよ? その為にセリスお姉ちゃんを呼んで来てもらっているのに意味がありません。仕方ありませんので、私が相手をします。特別に助太刀するのを許可しますので、2人掛りで来て下さい。もし私の手足でも落とせれたら、アンナの意見を尊重します。誰かその辺にある刀をカチュアに渡してあげて下さい」
「仕方ないな。おいカチュア、これを使いな。道場にある練習用の刀だがお前の折れた剣より優秀だぜ?」
そう言ってコクマーが投げてくれた刀と呼ばれる剣を受け取ったのです。これは刃が片方にしかないようですが、変わった剣ですね……しかし、私は元々細身の剣を使っていたので、何となく悪い気はしません。
「カチュア様、シズク様を殺す気で戦わないと後悔しますので、最初から全力で戦って下さい。もし私が斬られても無視して刀を届かせる事に集中して下さい」
「分りました。私を圧倒した貴女が負けるとは思わないのですが……それにシズク様は私達の中で一番レベルが低いので、2人掛りなら勝負にならないと思います。このまま相手を無力化したら、私とこのまま逃げませんか?」
「それは、出来ない相談ですので、そのような考えは捨てて下さい。私達は誰もシズク様に勝てないのです……」
「相談は終わりましたか? では、カチュアの人生の選択勝負とアンナの補習を始めますよ!」
掛け声と共にアンナが先ほどの魔法を唱えたと思ったら、まだ剣を抜いていないシズク様が何か言ったと同時にアンナの剣を持つ手が飛んだ!?
「あっ! ああああ!」
「無力化とはこうするのですよ? そして、奥義! 裂空斬!」
剣を水平に振ったと思ったら、アンナの両足が切断されて倒れて意識を失ってしまったようです……まだ始まったばかりなのに、早くも先ほど私を圧倒したアンナが一瞬で倒されてしまいました!?
「棟梁、アンナはそのぐらいで勘弁してやってくれませんか? 元はカチュアとは姉妹のような間柄だったのですから、同じような目に遭わせたくないと思っただけなのですから、もう十分かと思います」
「姉妹愛ですか……私にもお姉ちゃんがいますので、その気持ちは理解出来ますから、今回はこれで終わりにします。もうすぐセリスお姉ちゃんが来ますので、コクマーはアンナを回収して、治療して下さい」
私が呆然と立ち竦んでいる側にコクマーがやって来て、アンナの手足を回収して、抱き抱えると私に去り際に「頑張って、耐えろよ」とだけ言って去って行きました。
私は震えていますが初めて恐怖を感じているのかも知れません……まさか年端もいかない少女がこれ程の強さとは誰も想像しません!
ましてや私は鑑定が出来るので、この少女がこの中で一番レベルが低いと分かっているのに。見えない技能に何か秘密があるに違いありませんが、私はこの後にどうなってしまうのでしょうか?
逃げ出そうとしても私を囲む者達は私と同じかそれ以上の実力の持ち主ですので、この状態で逃げる事など不可能と思います。
1つだけ言えるのは、先程のアンナ以上の仕打ちが待っているという事だけです。
2時間後……私は、みっとも無く許しを請いています。
私の足元は自分の血で真っ赤に染まっています。
いまの私には立ち上がる気力も有りません。
最初の内は、私の実力を見る為なのか剣を打ち合っていたのですが「もう貴女の実力は分かりました。鍛えれば強くなれそうなのですが、まずは上には上がいる事をしっかりとその体に叩きこんであげます!」と言われてからは、防戦一方どころか手も足も出ない状態です!
アンナと同じように突然に腕を落とされた時は、逃げようとして片足を斬られて倒れてしまいました。倒れていた所に同じメイドのセリスさんが来て、アンナを癒した後に私の斬られた部分も繋げて治してくれたのですが、治療が終わり立ち上がるとまた斬られての繰り返しです。
高速の連続の突きを受けた時は頭と心臓以外は滅多刺しにされましたが、セリスさんが直ぐに治療してくれるので死ぬ事はありませんでした。
1時間程この悪夢が続いた時に私の心は折れてしまいました……。
自害をしょうとしてもセリスさんが直ぐに癒してしまうので、口内に含んでいた毒を飲んでも同じです。
自らの心臓を貫こうとすれば、直ぐに手首を切り落とされる始末ですので、自分で死ぬ事も出来ません。
私がもう殺して欲しいと懇願した時に、セリスさんがこの辺で良いのではと提案してくれたのです。先程の呼び捨ての件を聞いたとたんに「この者は反省が足りないみたいなので、もっと切り刻みなさい」と言い出したのです!
それからは、シズク様の何らかの風の魔術で無理矢理立たせては斬られるの繰り返しで今に至ります。
私を可愛いと言ってくれた時は初めて素晴らしい子を巡り会えたと思いましたが、今のシズク様は私を永遠に拷問する悪魔以外何でもありません。
「お願いします……もう私を殺して下さい……私に出来る事でしたら、どんな事でも致します……もう耐えれないのです……うっうう……」
「どんな事でもするのですね? セリスお姉ちゃん、取り敢えずカチュアを治療して下さい。このままでは心どころか精神が壊れてしまいますので」
「仕方ありませんね。ここまですれば二度どシノア様を呼び捨てなどは出来ない筈です」
癒して貰って、自分の手で体を起こすと、シズク様が私を見つめています。
「これでお終いにします。カチュアは何でもしますと言いましたが、私のコスプレの専属のお手伝いになる事を誓いますか? 本来でしたら、切腹するか、騎士団に引き渡して処刑するか、私の配下になるかなどを選ばせるのですが、カチュアは私も気に入っているのでこれしか選ばせまん!」
「ち、誓います! 私で宜しければどうぞお使いなさってください!」
「言質取りましたよ! では、カチュアは私の弟子に決定です! ついでに御庭番にも入れます。この道場でバッチリ鍛えますからね!」
「あ、あの……私の素性などは聞かないのですか?」
「アンナと同じで、お姉様の目障りな女の手の者ですよね? それでしたら、アンナとメアリから以前に聞いてますから、同じですよね?」
「メアリも居たのですか!?」
「アンナの前に来ました。私とお姉様の秘密を調べていましたので、見つけた時に1時間ほどカチュアと同じ様な事をしたら、心が折れました。後は勝手に喋ってくれました」
私は2時間も続いたのに……。
「今日はもう疲れたと思いますので、後ほどアンナかメアリにでも御庭番のルールを聞いておいて下さい。ちなみに抜け忍には今より過酷な罰を与えてから今度は確実に殺しますので、裏切るのでしたら覚悟しておいて下さいね?」
ようやく解放された私が呆然としていると、聞き覚えのある元気な声が聞こえてきました。
「遅くなりましたが、メアリちゃんの参上です!」
「丁度良いタイミングで来ましたね! 早速ですがメアリの忍術で道場の掃除をお願いします」
「これはまた……大量殺人現場みたいな惨状ですね。その中心にいるのはカチュア様ではないですか! やっぱり我慢出来なくて罠に引っかかってしまったのですね……あからさまにここに秘密があるように感じるから、調べてみたくなりますからね」
「メアリも生きていたのですね……」
メアリが知らない魔法を唱えると、私の血で染まった床が綺麗になりました。忍法と言ってますが魔術ですよね?
「棟梁! 私も久しぶりにお話がしたいので、カチュア様を道場の浴槽に連れて行っても良いですか?」
「許可しますので、湯船に浸かってリラックスさせてあげて下さい。ついでに着替えもしないと男性陣が困っていますからね!」
言われて気づいたのですが、私の服装は切り刻まれて最早機能していないので、裸に近い状態です。今の私には何もする気が起きません……コクマーを始め、男性陣はみんな後ろを向いているのです。意外と紳士なのですね……。
「今なら、カチュア様のスタイルの良い体が見放題なのに、みんな意気地なしですね!」
「馬鹿を言うなメアリ。仲間となった以上は振り向いたら、ベルダと同じ事になっちまうだろうが!」
「ベルちゃんは元が良かったから、今では立派な男の娘になったので、可愛いですよ!」
「俺はまだ男で居たいから遠慮する。早く浴槽に連れて行ってやれよ。アンナも気が付いたら向かわせるから、昔話でもしてろよ」
「詰まらないですね。無くなったら、コクちゃんと呼んで上げれたのに残念です」
「シズク、制裁が終わったのでしたら、私はシノア様の所に行きたいのでもういいのですか?」
「セリスお姉ちゃん、ありがとうございました! お姉様の所に行ったら、また刀を適当に作って欲しいと伝えて下さい!」
「分りましたが、程々にしておくのですよ。シノア様を陰から守る配下を作ると言うので協力していますが……」
この者達はシノア・ヴァレンタインを守る為の者達でしたか……私も今日からその一人になった訳ですが……誓約魔術で縛りもしないので、いずれ抜け出せば良いと思うのですが。もしも逃げたのが見つかって捕らえられた時にはこれ以上の拷問が待っているのかと思うと、勇気がありません……。
セリスさんが出て行った後に、メアリに肩を借りて隣にある浴槽に連れて行ってもらいました。これからの私はどうなってしまうのでしょうか……死なずに済みましたが、今後の事を思うと不安しかありません。




