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生まれ変わったのですよね?  作者: セリカ
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80 秘密の部屋


 今日は、学園にでも行こうかと思ったのですが、すっぽかした卒業式から20日ほど休みらしいので、引き続き内職をしています。

 エルナが制服には着替えずにゆっくりとしているので、私はてっきりサボりかと思っていたのですけどね!

 なにせ、私が学園に行こうとしないと「シノアが行かないのでしたら、私も行きません」とか必ず言い出す始末なのです。

 私が久しぶりに制服に着替えたら、学園は今はお休みなのに自主的に通うのかと聞いて来るのです。一緒に起きているのですから、着替え終ってから言わずに、最初に言って下さいよ……。

 理由を聞いたら、何となく私の制服姿が見たかったらしいのです。仕方ないので、今日はこのままの服装でいます。

 まあ、せっかくその気になったので、エルナには黙って、後で卒業資格だけは貰って来る予定です。

 適当に工房で仕事でもしていれば、相手をしてくれないから詰まらないとか言って、剣の練習に行くか、ベットで寝転んでお菓子でも食べて何か読んでます。公爵家の御令嬢がこれで良いのでしょうか?

 初めて会った頃は、色々とお嬢様をしていたのに、段々と駄目な人に……怠け者に近い気がします……。

 カミラの幻想が打ち砕かれるのも仕方ありません。今のエルナに淑女の何たるかをたまに説教される時があるのですが、何か間違っている気がします。

 しばらく作業をしてから、アルカードに話しかけているアイリ先生をお供にして学園に行く事にしました。かなり不満そうです。


「シノアさんは、私の恋の応援をしてくれるのでは無かったのですか? 頑張って、話題を振っていたのに……地味な服装に着替えて、学園のお供をしてなどと言うなんて。酷いです!」


「そんなに嫌でしたら、断れば良かったではないのですか? 別に命令で強制はしていないので、反論できたはずですが?」


「アルカード様は、シノアさんを最優先に考えているのに、それを私が断ったりしたら、私の評価が下がってしまいます!」


「評価ねー。アルカードは、きっとアイリ先生が断ったら、自分が付いて行くとか言い出していたと思うけどね?」


「それでは、どちらも同じで、会話が中断されるだけですよ! 今夜こそ、一緒に美味しいワインでも飲みたかったのに……」


「分っているとは思いますが、アルカードは悪魔なのですからね? それにワインなんて飲んでいる所を見た事がないけど、飲むのですか?」


 むしろ、食事をしている所すら見た事がないですよ?

 お屋敷でキャロが私から離れている時は、気が付くと必ずどちらかの姿で私の近くにいますからね。

 もう慣れたけど、ストーカーに近いと思うぐらい、私のプライベートが監視されているような?


「たまに食堂のカウンターで、飲んでいる姿を見ますが、とても絵になっています……私以外のメイドの子達もこっそりと見ているのですが、その雰囲気に入れなくて……ただ見ているだけで終わってしまいます……」


「良く分かりませんが普通に隣に座れば良いだけと思いますが?」


「あの物思いに耽っている様で、遠くを見つめる仕草をしているのに、もし邪魔をして嫌われてしまったらと思うと声が掛けにくいのです」


 それは、物思いに耽っているのでは無く、お屋敷の監視でもしているのですよ。

 以前に聞いたのですが、このぐらいの範囲だったら、どこにいても賊の侵入がわかるぐらいの見通す目があるそうです。

 私がシズクやカチュアの見ている様子がわかる感じで、屋敷全体を見ているそうです。これって、お屋敷にいる人達の全てを同時に把握している事になるんだけど、いいのかな……すごい事なのですが……。

 私の工房の中も監視しているらしいのです。普段は入れないけど、私がいる時に転移してきて、ついでに掃除とか整理整頓をしてくれるので助かっています。

 中に入る為のキーを渡そうとしたけど、私の居る所になら転移出来るので、不要との事です。

 私が何かしている時の方が側にいられるので満足らしいのですが、あんなの見てて何が楽しいのか理解出来ません?

 取り敢えず便利な存在なので、好きにさせています。


「私だったら、同じ物を飲みたいから、頂戴とか言って、ガンガン飲みまくるかな?」


「……シノアさんは、もう少し乙女心を理解して、身に付けた方が良いかと思います……仮にもエルナさんと同じ公爵令嬢の身分なのですから……」


「では、エルナのようにリンさんに隠れて、ベットやソファーの上でお菓子を食べながら読書とかお喋りをすれば理解出来るのですか?」


「……エルナさんは、ちょっと特殊なので、参考にはなりませんが……カミラさんを見習った方が良いかと思います」


 エルナはダメ令嬢様と言ってますね。

 普段は、大人しい素振りをしていますが、なんだかんだで、好き勝手してますからねー。

 特に、腹の中では何を考えているか分からないから、下手に失態を見せてしまうと、後で脅迫のネタに使われるので、あの笑顔に騙されてはいけません。


「カミラを見習うと規則正しすぎて詰まらないと思います。しかも、最近は小言も増えたので、こないだ歩く小言とか言ったら、お尻をしこたま叩かれてしまいましたよ」


「規則正しい生活が詰まらないとか、シノアさんの考えは間違っていると思います……シノアさんの為に色々と注意をしてくれるのに、それを歩く小言なんて言ったら、怒るのは当然です」


「私は、好きな事を楽しくやりたいだけなんですが?」


「好き放題過ぎると思うのですが……それとシノアさんのお世話をしてて気づいたのですが、服装もそうですが、もう少し羞恥心も持った方が良いかと思います。エルナさんが居る時はちゃんとしているのに、居ないとだらしなさすぎます……こないだもお風呂の後に服も着ないで工房に行くのはちょっと関心しませんよ? いくら同じ地下の工房の隣に作ったシノアさんの趣味風呂とはいえ、もし誰か通ったら、どうするのですか?」


「よく私の趣味風呂の存在を知っていますね? 大浴槽はともかく、地下の工房と同じ通路の奥にあるのですから、来るとしたら、キャロか酒蔵に来るアイリ先生かエルナ達だけですし、一応はパンツぐらいは穿いてますから問題無いかと? エルナに見つかったら、めっちゃ説教されてしまいますが。作業をしていると座ってばかりなので、好きな時にお風呂で寛ぐのが私は好きなんですよねー」


「奥の部屋から、まるで風呂上がりと思える雰囲気で出てくれば誰でも気付きます。お風呂好きなのは良い事だと思いますが、シノアさんは女の子なのですから、みだりに素肌を晒すのは良くないというより、かなり問題があると思います……それにギムさんも同じ地下の自分の工房に籠っていますが……他の男性に見られたらどうするんですか?」


「ギムさんは、酒と武器しか興味を示しませんよ? 海で、ユリウスに全部見られた事もあるし、別に減るもんじゃないから、私は気にしませんよ? それに……このお子様の体では、興味の対象にもならないと思いますが?」


「ユリウス殿下に見られてしまったのですか?」


「えーっと、明け方に水着を着ないで泳いでいて、浜に上がったら、ユリウスが正面に立っていたのですよ。すぐに後ろを向いたので、急いで水着を着ましたがあちらも気にしていなかったみたいですよ?」


「どうして裸で泳いでいたのか知りませんが……仮にも公爵令嬢の裸を見てしまったのですから、責任を取ってもらって婚約者にでもすれば、お妃さまになれたかも知れませんね……ヴァレンタイン家が後ろ盾に付けば、第一皇子殿下より有利でしたのに……」


 さっきまで、私の羞恥心がどうのこうの言っていたのに、今度は玉の輿狙いですか?

 お妃とか、下らないので絶対になりたくないし、ユリウスにはミヨナさんがいるので、邪魔したくありません。

 それに宮廷作法とか、私には無理なので嫌ですよ。


「ユリウスは、友達なのですから、そんな事はしたくありませんよ? それにしてもアイリ先生がそんな考えをするとは、結構あくどいですね……」


「だって……シノアさんがお妃様になったら、私もシノアさんの下でメイド長とかになれて、大出世が出来るじゃないですか……私のお給金も上がるので、今よりもっと贅沢が出来るかも知れないと……」


「はぁ? 今だって、学園の給料とは別に私とサラさんからも貰っているので、実質3倍近い収入になったはずですよね? まさかとは思いますが、また夜遊びで無駄に浪費して無いですよね?」


「夜遊びに浪費なんてしてません! バーにはもうたまにしか行かないし、一応は貯金だってしていますが……」


「だったら、どうして収入が増えたのにまだお金が欲しいのですか?」


「……」


「どうして黙るのですか? さては、また下らない事につぎ込んでますね?」


「下らない事ではありません! 私だって、婚期が厳しいのはわかっていますので……それなりに女性らしさを保つためにはお金が必要なのです。だから、その方面にちょっと投資しているのです!」


 アイリ先生は、確か27歳でしたよね。

 見た目だって、それなりにちゃんとすれば、可愛いお姉さんに見えるので、私は良いと思います。

 背もそんなに高くないし、顔も童顔に近いので、年齢だってさばを読めば誤魔化せるので、ヒラヒラのアイドルのコスプレが趣味のカチュアに比べれば絶対に通用します。

 カチュアなんか、背もそれなりにあるし、顔も大人の女性として美人の部類に入るので、夜な夜な鏡の前でヒラヒラのお嬢様の服装をしたり、コスプレを楽しんでいる姿をたまに見ていると、結構面白いのですよね。

 そう考えるとそれなら、別に問題は無いのでは……あっ!

 この世界では10代後半の頃に結婚して子供まで作っているのですから、アイリ先生はいわゆる行き遅れですね?

 私の思考は、シズクの常識にほぼ汚染されているので、結婚は30代でも良いと思っていましたよ。


「それで、行き遅れのアイリ先生はどんな努力をしているのですか?」


「シノアさん! そんなにはっきりと言われると私だって傷つきますよ! 冒険者とかを生業としていれば、婚期は問題無いのですが、私はただの平民ですから……ですから、肌が綺麗になる美容品とかスタイルが良くなる下着などに結構使っているのです……地味に高いので……」


「ふーん。それで効果はあるのですか? 私には、いまいち分らないのですが?」


「それが……お屋敷に来てからちょっと体重が増えた気がします……以前に持っていた服などがきつくなってしまったので……着る物も新調したりしてるので……」


 お屋敷で、働いていても食堂で好きな物を食べまくって、あれだけ飲んでいれば当たり前です!

 私じゃあるまいし、大して運動もしていないのに、食べた分だけお肉になるに決まっています。

 

「あれだけ食っちゃ寝していたら、当然ですよ。少しは運動でもすれば良いと思いますよ? 一応は剣が使えるんだから、シズクの道場にでも行って叩きのめされて来れば、元の体重に戻るかと思います。それと効果の無い美容品を買うのは止めた方がいいです」


「食生活が向上してしまったので、あの誘惑には勝てません……それに道場の方達に混ざるなんて私には無理です。シズクさんとセリスさんが居る時なんて、真剣勝負などしているのです。首と心臓を狙うのは禁止ですが、殺さなければ切り刻んでも良いとか、恐ろしすぎて付いて行けません!」


「それだけ緊張感があったら、直ぐに痩せれますよ?」


「死んでしまいます! 美容品については、他に何かあるのでしたら、良い方に切り替えますが、気持ちの問題なので止めたくないのです……」


 毎度の事ながら、我が儘ですね……ちょっと、ダンジョンにでも連れて行けば、死と隣り合わせなので楽しい運動が出来ると思います。次の81階層に連れて行ったら、即死してしまうかな?

 ちなみにアイリ先生の能力は……




 名称:アイリ・カラート


 種族:人間


 年齢:27


 職業:剣士


 レベル:30


 技能:初級剣術 初級体術 初級護身術 初級衝撃耐性 危険感知


 固有能力:




 やばい……雑魚過ぎますよ!

 これで、よく教師なんて勤まりますよね?

 魔術も使えないとか、遠距離魔法でちくちく攻撃して、レベル上げも出来ません。

 これは、この間狩りまくった牛肉に撥ねられたら、確実に即死するかと思います。

 性格的にもすぐに逃げそうなので、戦えるかも怪しいですね。


「ちょっと聞きたいのですが、アイリ先生はどうやって教師になったのですか?」


「いきなり何を言い出すのですか?」


「出来れば、教師になる前の情報も知りたいぐらいです?」


 もしかしたら、いまの私が全力でデコピンとかしたら、漫画のおじいさんみたいに首が落とせるのでは?


「それは、普通に募集に応募しただけですが……」


「いまさらなのですが、初めてアイリ先生の能力を見たのですが、他の教師に比べて低すぎるのですが……」


「!? シノアさんは、鑑定が出来たのですか!」


「どうやって、レベル30まで上げたのかも怪しいぐらいですね……」


「あっ……うぅ……」


 私ですら、最初の森で結構苦労してこのぐらいのレベルになったのですから、能力的に無理と判断します。

 キャロの時みたいな事でもしないと、アイリ先生の実力ではどうにもならないと思いますので、協力してくれた仲間か家族だと思います。

 そう言えば、よく見たら家名がありますよ?

 この世界では、貴族以外は名前しか持てないので、平民と貴族はしっかりと分けられているのです。

 家名を得るには、教会で貴族のゆかりの者と婚姻を結ぶか、その家に生まれるしかありません。

 もしくは、神や魔王が与える事が出来るらしいのですが、単純に名前でも書き換える権限でもあるのかも知れませんね。


「アイリ先生は、先ほど平民と言っていましたが、嘘ですよね? 家名持ちで1人暮らしとか、貴族ではないのですか? もしかして、実家から勘当でもされたとか?」


「私は、勘当などされてません!」


「本当に今さらなのですが、アイリ先生の事がすごく知りたくなって来ましたよ。出来れば命令で強制的に喋らせたりはしたくないのですが。どうしても言いたくないのでしたら、言わなくてもいいですが、私がほぼ強制的に連れて来たのですから、実家の人心配とかしていると思いますが?」


「……私には、もう家族はいません……一応、シノアさんは私を無理やり連れて行った自覚があったのですね……」


「それは、否定しませんが、家族がいないとは、どうしたのですか?」


「はぁ……別に知られても困りませんので話しますが、単に没落しただけです」


「没落したのですか? それで、御両親はどうしたのですか?」


「シノアさんは、いつも思いますが思った事は遠慮無く聞いて来ますね。普通の方でしたら、家族がいないと言った時点で察してくれて、それ以上は深く聞いてこないのに……」


「もう一度だけ言いますが、言いたく無ければ言わなくても構いませんよ? あと、私にはその辺の感覚が、自分で言うのも何ですが、おかしいので、純粋に知りたいと思った事は知りたいだけなのです」


 元々、私にはそんな常識が無いので、知りたい事を聞いているだけなんですよ。

 もしくは、ノアが私の感情をいくつか封印しているのか解放していないのか知りませんが、関心が持てないのもあるんですよね。

 まあ、ここでアイリ先生が言わなくても、秘密裏に調査して、調べてしまうのですけどね。

 私の可愛いペット……じゃなくて、大事な配下なのですから、事情は把握しておかないと、何かあったら困りますからね。


「もう、私には関係の無い事ですから話します。私は元々は男爵家の娘でしたが、父が事業に失敗した時にお家取り潰しになって、全ての財産を失ってしまったのです。父はそれで自殺してしまったし、母は元々病弱でしたので、心労で亡くなりました。残された私が僅かな私財を全てお金にして、屋敷に残っていた人達に全て渡したので、私には何も残りませんでした」


 事業の失敗ぐらいで御家が取り潰しとか、なんかおかしいと思うのですが?

 何となく、何か危ない橋でも渡って、財産を根こそぎ奪われたとか?

 アイリ先生を見ていると、馬鹿な事に手を出していても納得出来ますからね。


「その後は、故郷を出て、王都の知り合いを頼って学園に紹介してもらって、教師をする事になったのです。一応、学園に在籍して頃は、上位の成績も取っていたので、学力は問題無いと判断されたのです。レベルに関しては、若い頃にクラスの人達とダンジョンで少し行動していたからです。と言っても、私はおまけみたいなものでしたから、剣術の腕も基礎程度しかありません」 


「しかし、アイリ先生が貴族の令嬢とか。想像がつきませんね……」


「最初の頃は、少しは詰まらないプライドみたいな物もありましたが、生きていくのには不要だと気付けましたので、貴族であった過去は捨てて、平民として生きる決心をしました。調べればこんな過去があるから、私をもらってくれる人もいないのですけどね……」


「なるほど、理解出来ました。丁度良いので、学園は正式に辞めてしまいましょう」


「教師を辞めるのですか?」


「以前に退職して故郷に帰ろうとか言っていたので、別に問題は無いかと?」


「それはそうですが……私の収入が減ってしまいますので……」


「元は男爵令嬢なのにお金に執着しますね……没落するとこんなにダメ人間になるのですね」


「ダメ人間とか酷すぎます! 私に残された唯一の楽しみを可能な限り頑張っているだけです!」


「まあ、何でもいいです。ダメなアイリ先生は、学園を辞めて浮いた時間の分だけ、アルカードに冒険者としても生きて行けるように特訓でもしてもらいます」


「私がどうして特訓をするんですか! でも、アルカード様と一緒なのは、とても魅力的です……」


「他の国に行く時に、アイリ先生を連れて行こうと思っているのです。今のままでは、道中の弱い魔物にすら殺されそうですからね」


「私を連れて行くのですか? 私に冒険者とか無理だと思いますし、お屋敷の快適な生活が出来なってしまいます……」


 最初はあんなに嫌がっていたのに、ついに今の生活が快適とか言い出しましたよ。

 私の周りにいる貴族の人達は、カミラを除けば、ちょっと問題がある人ばかりのような気がしてきました。

 シズクがカシムさんに色々と新しい商売を提供しているので、商売上でカシムさんが断り切れない貴族の人達にもシズクの付き添いで会った事はありますが、私が公爵家ゆかりの者とは知らせずに相手をしていると、偉そうな人が結構いましたね。

 カシムさん曰く大体の貴族はあんなものらしいので、適当に相手をすればいいらしいのですが、サラさんのように何を考えているのか分からない人は、注意しないと恐ろしい事になるとの事です。

 サラさんは、エルナと同じで、腹黒いだけですから、弱みだけ見せないように注意すればいいのですよ。


「別に、残りたければその意思を尊重します。アルカードも一緒に同行してもらうつもりでしたが、せっかく2人で特訓出来る機会と一緒に旅が出来るようにと思ったのに嫌ですか……仕方ありませんね」


「特訓します! そして、シノアさんのお供も喜んで付いて行きます!」


「えー、さっき快適な生活が出来なくなるから嫌だと言ってましたが?」


「シノアさん! 私は、貴女に全てを捧げているのですから、シノアさんが黒と言えば赤も黒になります!」


 そこは、黒も白になるの方が理不尽さが増すと思うのですが、ちょっと色を足せば赤が黒になるとか、アイリ先生そのままの例えですね。


「では、学園に着いたらエレノアさんと話をするので、自分で退職のお話をして下さいね?」


「わかりました! 今日付で退職しますので、退職金も貰って、明日からは頑張って稽古をします!」


 流石は、もらい手の無い行き遅れとか言われてますから、素晴らしい喰い付きです。

 そして、退職金だけは、しっかりと貰おうとするところは流石です。

 こうして見ても、アイリ先生って、おめかししてそれなりの服装をすれば20歳ぐらいに見えると思うし、私にはシズクの常識がかなり浸透しているので、結婚なんて、まだ時間の余裕があると思うのですけどね。


「それから、怪しい美容品はもう買ってはいけませんよ? そんなに肌がどうのこうのと言うのでしたら、私の趣味風呂でも使って下さい。シズクも使ってますが、私の気分で入浴剤を変えまくっていますので、乳製品のお風呂とか、入ると肌にとてもいいらしいですよ?」


 私とシズクが2人で使う為に色々と改良しまくっているお風呂なので、魔術をフルに利用しましたから、あちらの世界のお風呂に近いはずです。

 浴槽の中に宝玉が埋め込んであるので、場所によっては宝玉が当たってしまいますが、それぞれにシズクが可能な限り最高の付与がしてあるのです。お湯を綺麗に保つために常に汚れを消去する付与と、任意の温度を保つ付与と、室内の空調を保つ付与など、色々と宝玉に籠めてあります。

 この宝玉の質を高める為にかなり苦労しましたが、半端な物だといまいち機能が発揮されないのです。質が悪いと、いつものダメ出しをされまくりましたよ。

 部屋の改造や水の引き込みなどは私がやりましたが、これだけ錬金魔術が使えるのに、私には付与だけは出来ないのですよね?

 武器にはそれなりの能力を付けられるようになったのに。不思議です?


「……済みません……実はたまにこっそりと使わせてもらってました。カチュアさんのお肌が艶々していたので、どうしてかを聞いたら、シノアさんの個室風呂をたまに使わせてもらっていると聞いたので……それにあそこに置いてある髪を洗う液体を使うと髪がサラサラになるので……」


「やけに減りが早いと思っていたら、カチュアも利用していたのですか、カシムさん達に卸している物より色々と凝って作ってありますから、香りの種類も結構あったでしょ?」


「はい……売っている物より種類が多いので少しづつこっそりと使ってました……ごめんなさい!」


「特に問題はありませんので、構いません。他に知っている人はいないでしょうね? あの部屋には、別のマスターキーが無いと入れないのですが。鍵を持っているのは私とシズクだけのはずでしたが?」


「あの開かずの扉の向こうにお風呂があると知っている人はいないと思います……実は、シズクさんにお願いして以前に作ってもらったネックレスに認証の鍵の付与をしてもらったのです。カチュアさんも、シズクさんがあの部屋から出て来た時に遭遇して、髪とか肌の感触の違いに気付いて、お願いして鍵を作ってもらったそうです」


 自分で2人だけの秘密とか言いながら、ばれて鍵を渡すとか、お仕置きが必要ですね……今さらエルナにばれたら、私はすごく怒られるか、めっちゃ拗ねられて何をされるか分からないので黙っていたのに……。


「まあ、これからは、感想を教えてくれると今後の改良の参考になるので、お願いします。シズクに意見を聞くと駄目出しばっかしなので、たまには違う意見が聞きたいですからね。あと、絶対にこれ以上は知られないようにして下さいよ?」


「それは、わかっていますので、これまで通りに夜中か昼間の目立たない時に使わせてもらいます」


「帰ったら、シズクとカチュアにはお仕置きしなければいけませんので、楽しみが出来ましたよ」


「あの……私が話した事は内緒にして欲しいのですが……カチュアさんとは仲良くしていますが、後輩の子がお茶目な事をして怒っているところを見たので知ったのですが、怒らせると怖いと思います。シズクさんに嫌われたら、服を作ってもらえなくなるので……」


「あー、大丈夫ですよ。あの2人は私の最高の誓約魔術で支配していますので、考えている事が私にダダ漏れなのです。私が突然指摘しても問題はありません」


「まさか……私の考えている事も筒抜けなのですか!?」


「アイリ先生は、その手前のレベルなので、思考までは読めません。だけど私が言葉に力を籠めるか命令すれば、素直に喋るし体の自由も奪えますね。アイリ先生も同じレベルまで掛け直してあげましょうか?」


「結構です! 今でもとんでもないと思っているのにそれ以上とか嫌です! 私の考えている事がシノアさんにダダ漏れとか最悪ですよ!」


「シズクは、まったく気にしていませんが、カチュアさんは、私と居る時だけ変な事を考えなければ良いと思っているみたいです。私が意識すれば深く読めてしまうので、無駄なのに気付いていません。教えていませんが、カチュアさんの秘密はもう全て知っているんだけどね」


「知っていて、知らないふりをして、楽しんでいるなんて、まるでエルナさんみたいですね……お屋敷で勉強を教えていて気付きましたが、笑顔の時ほど何を考えているのか分らないので、とても恐ろしいのです……」


 エルナは、嫌な事をしている時に笑顔なのは、どのタイミングで相手を嵌めようか企んでいるからなので、我が儘を言っている時の方が良いですよ。


「アイリ先生もエルナの事を理解出来るようになってきましたね」


「このネックレスを貰った時の事をあんな魔法で見せられるとは思いませんでした……あの記憶がある限り、私はエルナさんにもう逆らえません……他にもいつ見ていたのか知りませんが、シノアさんに色々とされている事まで知っているのですから、恐ろしいです……」


「あの記憶を投射する魔法は、まさにエルナの願望を再現するのにふさわしいですからね。私もなるべくエルナの前では、余計な事をしないようにしています。今の所、見せられているのは、謎の愛の映像ですが、あれが世間に知れ渡ったら、私はエルナの禁断の恋人と確定してしまいます。辛うじて公爵令嬢の身分が邪魔をしていますので、世間に公開されていませんが、記憶を奪う魔術とかあったら、欲しい所です」


 工房で物作りをしている時に、横で再現して観賞しているとか、何とかしてほしいです。

 カミラに見られた時は、毎度の事なので、溜息を付くだけなのですが、シズクが見ると、エルナを煽って恋の応援とかするので、勘弁してくれないかなー。

 それから、学園に着くと、エレノアさんとお話しして、私の卒業資格を認定してもらいましたが、全授業免除をするので、卒業までは在籍して欲しいと頼まれてしまいました。

 何でも、自分が居る間に、私のような人材が卒業するのは経歴に箔が付くらしいので、踏みとどまって欲しいそうです。

 それと、私が学園に来なくなったら、賄賂の上物のワインが貰えなくなるとか言い出しました。学園長でいる限りは、ずっと進呈する約束をしましたが、あれって……私が中毒性を持たせる調合をしてあるので、シラフの時に匂いを嗅がせると、そのワインの為なら私の頼みを何でも聞くようになる危険なワインなんですけどね。

 しかも、依存性があるのです。しばらく飲まなくても、匂いさえ嗅がせれば状態が継続されてしまうので、もう中毒患者と変わらないのですけどね。

 それ以外は無害なので、多分問題はありません……多分……。

 それに、いつかの美容関係の物も、当然ですが、市販の物に満足できなくなって、少しづつ散財しているらしいのです。私から貰えないと、経費が大変な事になるので、出来れば欲しいと言ってきました。もう少しでエレノアさんが私に土下座をする時が来そうです。

 アイリ先生も退職するとお話ししたら、理由を聞かれたので、私の従者として教育し直すと言ったら、何も言わずに受理されました。エレノアさんのアイリ先生の見る目には哀れみを感じましたね。

 退職金は計算してから、後日にお屋敷に届けてくれるそうです。別れ際にアイリ先生の肩を叩いて、「希望を捨てないで挫けないで頑張って生きて下さいね」と声を掛けてました。それは、アイリ先生の過去に対する事なのか、私に仕える事になるからかのどちらなんでしょうね?

 私に一生仕えたら、アイリ先生はきっと幸せになるので、心配はないと思います。

 この性格が変わらない限りは、手放すなんて勿体なくて出来ませんよ!

 



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