↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生まれ変わったのですよね?  作者: セリカ
84/378

82 あるメイドさんの事情2

 連れて来られた場所は、大浴槽と違って、5人ぐらいが入れる浴槽でした。

 メアリと湯船に浸かると、ようやく私も気分が落ち着いて来ました……私はいま生きていると実感しています……。


「アンナさんから、来ている事は聞いていましたが、カチュア様も私達と同じになってしまいましたねー」


「貴女も少し変わりましたね……以前は命令に従うだけでしたのに。今の貴女が本当の姿なのですか?」


「そうです。ここでは、規則とかに縛られないので、最低限のルールさえ守っていれば自由なのですから、自分の素で行動出来ますよ!」


「そうなのですか……あそこに来たのですから、貴女も同じ事をされたのですか?」


「あの惨状から察すると、カチュア様はスペシャルメニューを受けたみたいですね……私も近い事をされて、自分の実力が無い事をしっかりと叩き込まれましたよ。私の場合は最初の面接の時点でばれていたようなのです」


「面接の時からですか?」


「棟梁は、仕草や足の運びなどで、私達のようなある程度訓練された者を見抜いてしまうので、普通のメイドとして募集に応じている時点で、ばれていたのです」


 そんな事で見破っていたのですから、私も面接の時から既に気付かれていたのですね。

 私の場合は体もいじって気づいたと言ってましたので、確実に分っていたのですね。


「棟梁と言うのは、シズク様の事ですか?」


「忍び装束の時は、みんな棟梁と呼んでいるのですが、別にシズク様と呼んでも構いません。私はメイドの時はシズクちゃんと呼んでいます」


「忍び装束と言うのは貴女達が着ていた服装ですよね?」


「そうです。色は好きな物を選べますが、あんまり目立つ色は意味が無いので却下されます。軽くて丈夫な素材だし、何よりも感触が良いのでとても良いですよ。それに1つだけ好きな付与も籠めてくれますからね」


「貴女が着ている物の色は目立つと思うのですが……」


「道場での練習着は、何でもいいので、私はピンクにしてます! だって、可愛いし!」


「可愛い……では、忍法と言ってましたが、あれは魔術ですよね? 2人とも私の知らない魔法を使っていましたが……」


「御屋形様が無償で魔法を配布してくれるので、私達の知らない失われた魔術も使えるのです。あっ、御屋形様と言うのは、シノア様の事です」


「高位魔術を、無償で教えてくれるのですか!? 初級ならともかく、中級以上になると大抵は大金を要求されるのですが。それにシノア・ヴァレンタインは、失われた魔術の使い手だったのですか!?」


「カチュア様! シノア様の事をそのように呼んでいる所を棟梁やセリスさんに聞かれたら、殺されてしまいますよ!」


「ごめんなさい……先ほどそれで、セリスさんに追加の拷問……責めを受けたのでした……私も御屋形様かシノア様と呼ぶ事にします」


「それが良いかと思います。普段のメイドの時はシノア様と呼んだ方が良いかと思います。シノア様に、つい御屋形様と言ってしまったら、直ぐにシズクちゃんがシノア様に呼ばれて、私の目の前でお仕置きされました。居なくなったら、私も同じお仕置きをされてしまったので、シノア様には禁句ですよ?」


「あのシズク様がお仕置きされるなんて想像がつかないのですが……どんな事をされたのですか?」


「うーん……どうせカチュア様もいつかは体験するので教えますが、お尻叩きですよ?」


「はぁ?」


「ですから、パンツを脱いで壁に手を付けて手加減無しで叩かれるのです」


「そんな事をされるのですか……私もいずれ体験するとは意味が分らないのですが?」


「カチュア様も忍法の試験を受ければわかりますが、習得に失敗するとシノア様が作ってくれたスクロールを無駄にした罰として、その時に道場に居た者から、全力で叩かれる事になるのです。ちなみに手加減をしたら、連帯責任になって同じ目に遭うので、みんな全力で叩いて来ます。ギースさんに叩かれると一番痛いから、いない時にしないと最悪です」


「そ、それは恥ずかしい罰ですね……しかも人数がいたら、それだけ叩かれるのですか……しかも全力で……」


「それと普段の姿の時は魔法として使うのは構いませんが、忍び装束の時は忍法と言わないと、シズクちゃんにばれたら、お仕置きされてしまいます。今カチュア様が使える魔法にも適用されますので、注意して下さい」


「……私もあのような台詞を言わないといけないのですか……かえって手間が増えてしまうので、魔法を使うのが遅れてしまうのでは……」


「忍者は、忍法を名乗るのが常識らしいので、最低でもシズクちゃんの前だけはそれらしく言う事をお勧めします。以前にそれがばれて苦無の的にされた者がいます。今では、普段でも絶対に忍法としか言わなくなってしまいました」


「大体わかりました。逃げようと思った事は無いのですか? 貴女の胸に令呪が無いので、特に誓約魔術を掛けられているとは思わないのですが……」


 いくらこの屋敷の待遇が良くても、色々と自由があるのに、あのような事をされて従っているのも疑問です。


「シズクちゃんは、敵対しない限りは、とても面倒見も良くて、すごく良い子なんですよ? それにこのお屋敷の暮らしの方が他の貴族の家より充実しているし、お給金だって多いんですよ? 仕事で貴族だけのエロオヤジ抱かれなくて済みます。私はヴァレンタイン家に所属している好みの騎士と自由に恋愛をしていますから、ここは最高です! 二度と密偵なんて地味な仕事はしません!」


「地味……確かにここの生活は他に比べて充実していましたね」


「御庭番に入ってますから、日々の鍛錬は必須ですが、お蔭で私も強くなれましたので、良い事尽くめです」


「もしかして、貴女も最初はアンナの相手をしたのですか?」


「はい、しましたよ? アンナさんが入って来た時に見かけたので、シズクちゃんにどのような人物か全て報告しました。カチュア様と同じ事をして、私が倒してしまいました! アンナさんには以前なら全く勝てなかったのに、余裕で倒せたのですから、シズクちゃんの剣は素晴らしいですよ!」


 ……アンナが捕まったのは、この娘が全て暴露したからですか……。


「カチュア様を見た時も報告をしょうとしたら、アンナさんが見逃して欲しいとお願いするから、知らないふりをしていたけど、どうせ同じ結果になると思っていましたからねー」


 ありがとう、アンナ……そして、貴女に迷惑を掛けてしまってごめんなさい。


「ところでカチュア様は、どうなさるつもりなのですか? シズクちゃんの弟子待遇みたいなので、コスプレの手伝いがメインになると思いますが? 別に逃げ出しても構いませんが、抜け忍になると悲惨な末路しか無いので、もうここに骨を埋めるつもりで居た方が良いですよ?」


「悲惨な末路も気になりますが、今の所は従うつもりです。それとこすぷれとは何でしょうか?」


「カチュア様が毎日夜に着ているシズクちゃんの作ったアイドルコスの事ですよ? 毎晩鏡の前で堪能しているのではないのですか?」


「どうして、その事を知っているのですか!」


 思わずメアリの肩を掴んで大きな声で聞いてしまいました。まさかあの姿をこの娘に見られるなんて!


「私は見ていませんが、アンナさんが部屋の様子を見ていたので、教えてもらったんですよ。気配と姿を完全に消す魔法が使えるから、シズクちゃんかギースさんクラスじゃないと気付かれないんですよね」


「まさか……アンナが私をそんな、覗き見のような事をするなんて……信じられません」


「アンナさんは、カチュア様が心配で様子を見に行っていたみたいです。まさか毎日あのヒラヒラの服とアイドルのコスプレをして嬉しそうだったなんて、予想外だったそうですよ? なので、シズクちゃんのコスプレに心酔しているのだったら、多分深入りはしないと思っていたみたいですけど?」


「こ、この事を知っているのは貴女とアンナだけですか?」


「確か……シズクちゃんは知っていると思います。カチュア様がとても気に入っているとアンナから聞いたので、沢山の衣装を貰ったはずですよね? 途中からはシズクちゃんも忍び込んで、様子を見ていたと言っていました。なので、必ず自分の配下にしたいから、早く罠に掛かって欲しいとも呟いていましたよ?」


「それでは……」


「掛かったら、必ず心を折って自分の共感者ににすると、いつも言ってましたので、カチュア様は最初から狙われていたんですよ? それに……いえ何でもありません」


「そうだったのですか……それで、あんなに容赦が無かったのですね……。それと言いかけた事は何ですか? そこまで聞いたら気になります!」


 自分の後輩だった2人に知られるなんて。最悪です!

 もうここまで来たら、私の恥ずかしい事は全て知りたいのです!

 肩を掴んだまま問いかけていますが、中々答えません!


「もう私が話すよりも当事者に聞いた方が早いかと。アンナさん、隠れていないで出てきて説明して上げて下さいよ? いくら姿を消していても、そこだけ不自然にお湯も無いし湯けむりが無いから、流石に私にだってわかりますよ?」


「姿しか消せない事を忘れていました……メアリが私の暴露話をしているので、出て行きにくかったのですが……」


 声がすると同時に近くのお湯に浸かっているアンナがいます!

 全く気配を感じなかったのですが、こんな完璧に気配が消せる魔法があったのですね。


「今までの話は、聞いていたのですね? いえ、それよりも私の毎晩の秘密を知っているそうですが、他に何をしたのですか?」


「それは……」


「決してアンナを責めないと約束するので、どうか教えて欲しいのです」


「……わかりました。決して怒らないで下さいね? 実は……カチュア様がアイドルの衣装に着替えている所から、鏡の前でポーズを決めている姿をある物に記録してしまったのです」


「はっ!? ……その様な道具は聞いた事が無いのですが……それに私の姿が記録されていると言いましたが、本当ですか?」


「シノア様に高品質の宝石を石板状に作り直した物に、シズク様が魔術スクロールの要領で映像のみを記録できる付与をした物があるのです。数は無いのですが、1枚に付き30分ぐらいは保存が出来るのです」


「では……その道具があれば、私の趣味を誰にでも知らせる事が出来るのですね?」


「もしも、カチュア様の心が折れなかったら、最後にあれを道場で皆に見せれば、絶対に軍門に下ると言ってました……」


 良かった……あそこで、従う選択をした事は正解でした。

 もしも、あれをコクマー達に見られたら、私の作り上げてきたイメージが一気に崩壊します。

 それよりも確認しないといけない事があります!


「話は分かりました。その映像はまだ残っているのですか?」


「シズク様の収納に保管されていると思います。カチュア様が抜け忍になったら、まずはその映像を公開してから探索すると言ってました。衣装もそうなのですが……裸の映像も記録されていますから、密偵としても女性としても致命的になるかと思います……」


 ……終わりました……私の残りの人生はシズク様に捧げないといけないようです。

 家の事も重要ですが、私の趣味が世間に知られるのだけは、何があっても防がなければいけません!

 オリビアお嬢様には申し訳ありませんが、貴女の密偵のカチュア・ミレディアはいま死んだ事になります……ここにいるのは、シズク様の衣装に恭順するただのカチュアです……。

 

「あの……この事は誰にも言いませんので、安心して下さい。むしろ完璧だと思っていたカチュア様にあのような一面があったと思うと、女性として共感が出来ますので……」


「カチュア様、私もたまに着てますので、今度一緒にコスプレをしましょう!」


「そうですね……私もこれからは、自由に生きる事にします。私は今日から、ミレディアの家名は捨てますので、2人も私の事は普通に呼んで下さい」


「いいのですか? それでは、私はカチュアさんと呼びますからね!」


「私は今まで通りで呼ばせてください。この様な形になってしまいましたが、私の憧れの方なのですから……」


 メアリは先ほどよりも気軽に話して来ます。もしかしたら、友達とはこんな感じなのでしょうね。

 私に勝ったアンナが、まだ私に憧れてくれるなんて……私に失望したと思っていたのにね。


「ミレディア家とは、いずれ縁を切るつもりでしたから問題有りません。私の若い時の時間を奪った碌でもない家でしたから。それよりも私はアンナに負けて、さらにあのような姿を晒しているのですから、失望してもおかしくはないと思っていましたよ?」


「速度強化の魔法を使ったので、勝てただけですから。普通に戦ったら、私は勝てないと思います」


「あの魔法は、速度強化の魔法でしたか……あんなにはっきりと動きが変わるなんて、私の知っている身体強化と違いますね」


「あの魔法は通常は速度が1.5倍に強化されるのですが、私は風魔術の支援系の適性が高いらしく1.8倍まで強化されるのです。シズク様は更に重ね掛けも出来るので、あり得ない速度になるので、ギース様くらいしかついていけません。私もレベルまでは鑑定が出来ますから、最初はシズク様の相手なら何とかなると思っていたのですが、実際に戦ったら、複数の残像に翻弄されて、あっさりと敗北しました」


「シズクちゃんの分身の術はいつ見てもすごいですからねー。私にはどれが本物かわかりませんよ?」


「シズク様は分身なんて技も使えるのですか?」


「それだけではありません。普段から、無詠唱で風の結界陣と呼ばれるものも纏っているらしいので、範囲内の動きには敏感なのです。なので、こちらの攻撃はほぼ予測されてしまいます」


「常に纏っているのは何かの風の魔術と推測しますが、よくマナが持ちますね?」


「シズク様の恐ろしい所は驚異的な回復力なのです。どんなに戦っていても全く疲労などしないので、ギース様などは最初は互角に戦えていたのですが、5時間も戦っていたら、最後には体力的に負けてしまったのです」


 そんな長時間も疲労しないで戦えるなんて、通常ならあり得ません。

 何らかの特殊技能でもあるのかも知れませんね。


「言われてみれば、シズク様は一向に疲れた様子がありませんでしたから、理解出来ました。貴女が言っているギースとは、もしかしてバートランド家のお抱えの者ですか?」


「王家の方から、ヴァレンタイン家とシノア様を調べる為に来たのですが……今では、シズク様の剣の相手とお庭の掃除を日課にしていますね……」


「剣術の腕はかなり高いと聞いていましたが。私よりも優れた密偵と思っていました」


「ギース様はシズク様の剣術に興味を持ってしまったので、その太刀筋はシズク様に似てきました。それとギース様は唯一スペシャルメニュー受けていないので、実質シズク様の次にトップです」


「そのスペシャルメニューとは、私が受けた拷問の事ですか?」


「はい……本来は自分の強さに行き詰っている者にだけ実行するので、最初からあんな目に遭っていたのはカチュア様が初めてかと思います……シズク様が仰るには死の寸前まで追い込めば、必ず強くなれるそうなのです。あれを受けるぐらいなら、死に物狂いで戦った方がましと思うので、精神的には強くなれるのかも知れません……後に引けない事が前提の気分で……先程の手首を落とされた時は、出会った頃の恐怖を思い出してしまいました……」


 そんな精神論だけで、強くなれるのでしょうか?

 しかし……あんな目に遭うぐらいなら、多少の無茶な要求でもこなした方がましですね……今はちゃんと付いていますが、手足を少しづつ斬り落とされる恐怖はしっかりと私の心に刻まれてしまいました。いくら魔法で治せるとはいえ、恐ろしい事を実行しますね。

 それを幼い少女がするのですから、見た目に騙されてはいけない見本なのかも知れませんね。


「アンナさんは、以前も手首と足首だけで済んでいますから、まだましですよー。私なんて内臓を出された時なんて、絶対に死んだと思いましたよ? 私のお腹にあんな長い物があったと初めて知りました。二度と体験したくありません」


「メアリ、貴女はそんな事をされたのですか!?」


「私が一番初めにシズクちゃんに見つかって、捕まったのですから。オリビア様にシノア様の身辺調査を依頼されたので、自分と年の近い子の調査なんて楽勝と思っていたら、地下でシズクちゃんと遭遇してめちゃくちゃにされましたよ! あの頃はまだ地下のシノア様やシズクちゃんの部屋にも普通には入れたのですよ」


「地下室にはいくつか扉がありましたが、開ける事が出来ませんよね? 鍵穴らしき物も無いので、断念していました」


「それは、私が潜入してから、魔法の鍵を掛けるようになったのです。そして、カチュア様も気付いていないと思いますが、扉を開ける為のマスターキーを持たない者があの地下通路に入ると、不審者が潜入しているのがシズクちゃんの部屋に表示されます。カチュアさんが用も無いのに地下に来ていたのはばればれなのです。この屋敷の者はその事を知っているので、シノア様とシズクちゃんとギムさんに用事が無い者は地下室には行かないようにしています。たまに知らない人が開けられない扉を調べようとしますと、シズク様が声を風に乗せて警告だけします。私達のような最初から目を付けられている者は警告などされません」


 そんな事とは知らずに何かあると思っていて調べていたのですが、この屋敷のセキュリティーは異常ですね。


「私は、カチュア様に謝らなければいけません……その……扉を調べている側で姿を消して、ずっと見ていたのです……姿と気配が消せる魔法は私かシズク様しか使えないので、私がたまに地下の通路を定期的に見回っているのです。不審者を見つける為に……」


「そうでしたか……」


 これは、完全に私の行動は最初から全て監視されていた事になります。

 しかも夜の部屋での行動まで見られていたとなると、寝ている時も監視されているのかも知れませんね。


「そろそろ、お風呂から上がって、お部屋に行きませんか? カチュアさんの荷物は全て私の相部屋に移動済みなので、案内しますよ。これが道場に遅れた理由なんですよねー」


「私の荷物ですか?」


「あの部屋は監視用なので、会話だって筒抜けの部屋なんですよ? 普通のメイドの部屋にしてはなんか広いと思いませんでしたか? 勿論、アイドルコスも全て運びましたから安心して下さい! それにしても、カチュアさんって、色っぽい下着を使っていると思ったのに、意外と可愛いヒラヒラのレース系が多いのですね。今まではクールな上司のイメージでしたが、私の方が下着に関しては大人ですね!」


「会話も筒抜けなのですか……私1人にしては大きな部屋とは思っていましたが……それにしても私の私物まで見たのですか!?」


「だって、ご丁寧に引き出しに沢山並べてしまってあるから、ついでに確認してしまいました。それよりもそろそろ行きましょうねー」


 私の長年築いて来たイメージが!この2人には全て知られてしまったようです。

 取り敢えずは、私はここでは新参者なのですから、黙って付いて行きますが、明日からの私の生活は何が待っているのでしょうか……。


 浴衣と言われる衣装に着替えて通路に出るとコクマーがいます。


「おっ、中々浴衣が似合っているな。風呂上がりの美人を見るのはいいねー」


 咄嗟に胸を隠しました。今の私は下着も無いので、これを一枚羽織っているだけなのです。


「なぜ貴方がここに居るのですか? まさか私に用でもあるのですか?」


 この男には殺されない代わりに一度だけ抱かれた事がありますが、女性を物としか思っていなかった筈です。


「いや、俺はアンナを待っていただけだぜ? 明日からは色々と生活が変わると思うが、まあ頑張れよな」


「お待たせして済みません。それでは、済みませんが、私はここでお先に失礼しますね」


 私が何か言う前に、ふたりで仲が良さそうに行ってしまいました。私の目の錯覚でしょうか?

 私の知っているあの男は、女性に優しくするなんて考えられません。

 アンナもまるで恋する乙女のような表情でしたが……まさか騙されているのではないでしょうね?

 私が声を掛けようとするとメアリが止めてきます。この子もあの男には無理矢理抱かれている筈なのですが……。


「カチュアさん、新婚さんの邪魔はしてはいけませんよ?」


「新婚さん!? あの男が結婚ですか!?」


「取り敢えず立ち話もなんですから、部屋で御話ししますね」


 付いて行くと最初の部屋と同じぐらいで、ベットが二つある部屋のようですね。

 それぞれのベットに腰を掛けるとメアリが話してくれました。


「アンナさんが瀕死のコクマーさんをずっと癒してくれたので、コクマーさんが交際を申し込んだら、自分以外に手を出さない条件にアンナさんが受け入れたのですよ。最初の頃は相手にされなかったから、私とも関係があったのですが、結婚してからは浮気もしてくれないので、惜しい事をしました」


「あの2人が結婚しているのも驚きましたが、私の記憶では貴女はあの男を嫌悪していましたよね?」


「昔は、嫌がる私に酷い事をしてくれましたが、ここの隠密になってからは、すごく女性には優しいんですよ? しかも、かなりのテクニシャンですから、競争率も高かったのに残念です。何人かそこそこ良い人はいるのですが、抱かれるならコクマーさんは最高でしたね」


 ……この娘は私よりもその手の事の経験値は高そうですね……私はなるべくその手の任務は受けないようにしていたのですが、どうしてもの時だけ嫌々していただけですからね。

 

「しかし、よくあの男が考えを改めましたね。私に警告をしてきた時も驚きましたが」


「コクマーさんは、忍び込んだ時点で捕まって、隔離部屋に監禁されていて、シズク様に死なない程度にズタボロに斬られて放置されたりしてましたからね。それから答えを聞きに来る時に、最初にアンナさんに治療をしてもらってから、シズク様にズタボロにされる毎日でした。アンナさんの使う回復魔法は、聖魔術の物と違って完全に治すのにかなりのマナが要りますので、一生懸命に自分を治してくれる姿に惚れてしまったのかも知れませんね。とにかく私達の仲間になってからは、人が変わってしまったように善人になってしまって、私も驚きました」


「アンナは風魔術の適性しか無いと思います。回復の魔法は聖魔術にしか存在しないと思いましたが?」


「私も初めて知りましたが、中級風魔術に『ヒーリング・ウィンド』と言うパーティー全体に掛かる魔法があって、人数に比例して回復力は変わるのです。1人だけを治療するのでしたら、上位版のヒールぐらいの効果があります。逆にパーティー全体に予めかけておくと治癒能力が上がるので、少しの怪我でしたら、知らない内に治っているのです。一応、私も触媒さえあれば回復系の魔法が使えます」


「そのような魔法があったのですか。貴女は私と同じ水魔術が使えたと思いますが、回復の魔法が使えるのですか?」


「私の場合は触媒に体力回復のポーションが必要なのですが、『アクア・メディシン』が使えます。切断された場所にポーションを掛けてから使うと、ちゃんと完璧に繋ぐ事が出来るのです。その場合には中級以上のポーションが必要なのですが、切傷とかでしたら、初級ポーションで十分に癒せます。3種類のポーションをいくつか携帯していますが、有ると無いとでは大違いです」


 そんな便利な魔法があったのですか!

 そうなると、聖魔術が使えなくても怪我を癒せるのは大きいです。

 私にも使えるようになるのでしょうか?


「私にも教えてもらう事は出来るのでしょうか? 宜しければ貴女から教えてもらいたいのです……もしも、失敗したらそんな恥ずかしい罰があると思うと勇気がいりますから……」


「私がスクロールを作っても良いのですが、ばれたりするとお仕置きと過酷な修行が待っているのです。残念ですが、シズクちゃんに申告してから習得して下さい。以前に、失敗した時の罰を逃れる為にずるした子がいたのですが、お互いに交代で鞭打ちをした後に一晩中走らされていたので、誰もしなくなりました。シズクちゃんって、意外と勘がいいので、隠してもばれてしまうんですよ」


「それは、貴女に迷惑が掛かってしまうので駄目ですね。するとその申請はシズク様に直接すれば良いのですか?」


「うーん。カチュアさんは取り敢えず基礎の修行をクリアーしないといけませんね」


「基礎の修行ですか?」


「そうです。カチュアさんの今の職業は確かソード・チェイサーでしたよね?」


「そうですがそれがどうかしましたか?」


「まずは忍者か侍に職業を変えないと試験自体が受けられないのです。最初はなれないのですが、その訓練をすると何故かその職業が追加されるのです? ちなみに私は忍者になっています」


「聞いた事の無い職業ですね」


「でも、この職業の恩恵は中々すごいんですよ? 私は元々気配なんて消せませんでしたが、今では普通の人やちょっと腕に自信がある人にも絶対に見つからない自信もあります。以前よりも素早い動きが出来るようになりました。ちなみに侍の方を選ぶと刀を持った時の剣の腕がかなり上がるそうです。ギースさんはシズクちゃんのあの見えない剣が使えるようになったので、抜いていないのに気付いたら斬られているとか恐ろしいですよ」


「そんなに分るように実感出来る職業はすごいですね……それでしたら、私の場合は忍者を選んだ方が良いですね」


「明日はその基礎の修行を教えますので、そろそろ休みましょうか? 今日はあんな事もあったし、精神的にも疲れていると思いますので」


「そうですね。明日は貴女を先輩と思って教えを乞う事にします」


「では、ぐっすりと休めるように、これを飲むと良いですー」


 そう言って差し出されたのは、小瓶に入った液体なのです。ピンク色なのですが、大丈夫なのでしょうか?


「見た事の無い飲み物ですが、どんな効果があるのですか?」


「見た目は怪しそうなのですが、気分が良くなる飲み物なのです! シノア様が作った物なので、安心して下さい!」


「わかりました。せっかくなので頂きます……とても飲み易くて何となく甘くて美味しいですね」


 見た目と違ってとても美味しかったのですが、何故か体が熱くなって来ました?

 しばらくするととても切ない気分になって来たのですが、メアリの前でそんな事をするわけにはいけません!

 もしかして、いま飲んだ物は……。


「カチュアさん、もう我慢できませんよね? 表情も蕩けてきましたしねー。流石に薄めないで飲むと速攻で効きますね」


「はぁはぁ……わ、私にな、何を飲ませたのですか!」


「今夜は、カチュアさんが来ると分かっていたから、誰とも約束していなかったので、代わりにカチュアさんの体でもほぐしてあげようと思いましてね! 私は、どっちもいけるので、任せて下さい! 昔から、カチュアさんの体を堪能してみたいと思っていたのです。隠密になって本当に良かったです!」


「ち、近寄らないで下さい! 私はこのまま寝ますので、た、耐えて見せます!」


 力が入らない私を押し倒して、キスをしてくるのですが、とても心地よいのです。

 抵抗をしょうとしても、触られただけで感じてしまうとは、恐ろしい効果のある薬です!


「まだ抵抗するなんて、意思が強いですねー。まあ、その方が楽しいので。気持ちよく朝を迎えましょうね!」


 その後は、どうなったのか覚えていませんが、元後輩の子にいいようにされたのだけは覚えています。

 シノア様が作った薬と聞きましたので、いつか話す事がありましたら、私も内緒で欲しいと思いました。



 そして、とても気持ちの良い朝です……目が覚めると、私の横に何も着ていないメアリがいます。

 当然ですが私も何も着ていません。

 体の方は驚くほど快適なのですが、精神的には死の恐怖の次に人生が詰んだ話を聞かされて、挙句の果てには後輩の子に体を弄ばれたので、私は朝からとても憂鬱です。

 昨日の事さえ無ければ、とても気分が良い目覚めですね。

 しばらくするとメアリが起きたようですが、私を見て最初の言葉が……。


「おはようございます! 昨日のカチュアさんはとても可愛かったですよ! これからは、たまに私と愛し合いましょうね!」


 私は愛し合ってなどはいません!

 一方的に蹂躙されただけです!


「おはよう、メアリ。最初に言っておきますが、二度どとあの薬は飲まないし……あのような事はしません」 


「えー、あんなに私に応えてくれたのに。どうしてですか? 私って、結構人気あるのになー」


 あれは薬の所為なので、私の意思ではありません!

 人気とか言ってますが、他にも誰かを毒牙に掛けているのでしょうか?

 この娘の本性がこんなのだったとは……これからは同じ部屋なのですから、常に警戒をする必要があります。

 後日談なのですが、この液体の原液をシノア様に飲まされて、とんでもない目に合わされて、お詫びに市販の物よりも濃い物を手に入れる事が出来ました。

 勿論ですが、メアリが休日を申請した前の日にベットに拘束して、飲ませて放置させてもらいました。

 何か喚いていましたが、私の心は気分がとても晴れて良かったです。


「とにかく次はありませんので、まずはこれからの事を教えて下さい。取り敢えず着替えるのはメイド服で良いのですか?」


「取り敢えずそれで良いです。まずはシズクちゃんの所に行きます。食堂で食事をしてから向かいましょう」


 着替えてから、以前と同じように食堂で食事をして、地下にあるシズク様の工房に向かいました。昨日までの何かを感じる雰囲気がありません。

 開けられない扉の前に来ると、メアリが扉をノックをして、話しかけると扉が開きました。最初の日に一度だけ来たのですが、更に衣装が増えていますね。


「おはよう、シズクちゃん! カチュアさんを連れて来たけど、まずは基礎の修行でいいのかな?」


「おはようございます、シズク様」


「おはよう! メアリ、カチュア! まずは作ったコスを着て貰おうと思っていたのですが、お姉様がダンジョンに行くと言ったので、しばらくは不在になりますから、それでお願いします。なので、私が戻って来るまでにどちらかの職業になれるように、厳しく指導してあげて下さい!」


「すると10日ぐらいだよね? ちょっと大丈夫かなー」


「カチュアは筋が良いからちょっと頑張れは問題無いはずです! もしも職業が変わってなかっても、帰って来たらスペシャルメニューでもすれば解決しますので、期待していますよ!」


「あの……スペシャルメニューと言うのは、昨日のあれなんですよね?」


「そうですが、今回は1時間ぐらいで済みますので、もっと楽ですよ? セリスお姉ちゃんは基本的には優しいのですが、お姉様を少しでも悪く言ったりすると、たちまち悪魔みたいな性格に変わりますから、気を付けて下さいよ?」


 早くも私はピンチのようです!

 10日以内に忍者か侍になれなかったら、またあの悪夢が再現されるのですか!?

 どんな修行か分かりませんが、全力で成し遂げないといけません。


「じゃ、時間が惜しいので早速連れて行きますねー。カチュアさん、行きましょうか!」


「私も行きますので、頑張って下さいね! それと新しい衣装も渡しておきますので、帰ったら感想を聞かせて下さい!」


「わかりました……いってらっしゃいませ……」


 渡された衣装は私の好きな衣装と水色の忍者服のようです。もう私の忍者としての衣装があるという事は、事前に作ってあったと思いますが、複雑な気分です。

 道場の更衣室で着替えた後に外に連れて来られたのですが、不自然に木が植えられていますね?


「まずはこれを飛んでもらいますがカチュアさんならこのぐらいからでもいけるかな?」


 高さ2メーター程の木ですね。


「これを飛べば良いのですね?」


「はい、飛んだら順番に並んでいる木を続けて飛んで下さい」


 ……次の木は3メーター程あるのですがその次の木は4メーターぐらいとどんどん高くなってきますが向こうの木はどう見ても10メーターはあると思うのですが……

 取り敢えず言われた通りに飛んでみます。当然ですが、半分も飛べません!

 こんな事が出来る訳がありません!


「カチュアさんでしたら、もっと行けると思っていましたが、これ以上は無理みたいですね」


「はぁはぁ……いくらなんでも身体強化の魔法も無しでそんなに高く飛べません!」


「私は飛べますが?」


 私の見ている前で、倍の高さまでの物を飛んでいます……跳躍力がおかしいです!


「まあ、最初ですから、こんな物ですよね? このぐらいは飛べないと高い所から潜入が出来ませんよ?」


「もしかして、アンナ達も飛べるのですか?」


「これが最低ラインなので出来ますよ? では、次はこの布を地面に付けずに走って下さい。1時間状態を保つ事が出来たら、合格にします」


 そう言って私の腰に長い布を巻くのですが……かなり長いのですが……。

 それに場所が問題なので、どこかで回らないといけないのでその時に減速したら、絶対に地面に付いてしまいます。


「一応、聞きますがメアリも出来るのですよね?」


「そう言うと思ったので、私も一緒に走りますね」


 そして、当然の様に私は何度も布が地面に付いて、いまは息が上がって倒れています……こんな長い布を地面に付けないで走るにはかなりの速度で走らないといけないのですから、それなりに鍛えていても無理です!

 ですが……隣で気持ち良く汗を流しているメアリは一度も布を地面に付けていません。


「はぁはぁ……どうして、そんなに上手く回れるのですか……」


「まあ、慣れましたからねー。私は特に最初にこのあり得ない修行をさせられましたし、とにかくノルマをこなさないとお仕置きが待っていたので、最初の頃は死んだ方がましかと思いましたよ? シズクちゃんって、プライベートの時と忍びの時で、天使と悪魔ぐらいに違うのです。気持ちの切り替えがはっきりとしている子なんですよねー」


「確かに私に衣装をくれる時はとても嬉しそうな笑顔を向けてくれるのに、斬られていた時は目付きも全然違うので、悪魔かと思いました」


「カチュアさん、私は聞かなかった事にします。不用意な発言をすると、突然斬られますから注意して下さいね? では、次の修行をしましょうか」


 それから更にいくつもの謎の修行をさせられましたが、当然全てクリアーなど出来ませんでした。

 ギリギリ10日目に少しは成果が上がって、何とか職業を忍者にする事が出来ましたが、最後の日はまたあの恐怖を体験するのではないかと気が気でありませんでした。


 それからは、シズク様に指導してもらいながらコスプレの手伝いをするのが私の日課になったのです。最近は着ぐるみと呼ばれる物に凝っていて、当然ですが、私も試着していますが……これだけは恥ずかしいので、人前では着たくないと思いました。

 魔術の方も無難そうなものから順番に習得させてもらいましたが、私は3回程失敗しました……。

 最初はメアリが使える回復魔法を習得しようと思ったのですが、私には適性が無く20人以上にお尻を叩かれる羽目になりました。本当に本気で叩いて来るので、痛みに耐えるのが大変でした。

 メアリかアンナに治してもらおうと思ったのですが、このお仕置きを魔法で癒す事は禁止されているそうなのです。この歳でこんな思いをするなんて……。

 駄目元で挑戦した強力な攻撃の魔法を習得出来たのは幸いでした。

 どうも、私は攻撃系の魔術の方に適性があるようです。

 結果としては、私は3回ほどですが、皆の前で罰を受けた事になります。この頃には私も、叩かれるだけで強力な魔法が手に入るのですから、お尻ぐらいなら見られても構わないと思い始めました。

 

 この後に事件が起きて、遂にはシノア様に全てを捧げる事になるのですが、受けた誓約魔術が強力過ぎて、体の自由どころか私の考えている事を読まれているらしいのです。

 シズク様は、平気どころか常に読んで貰っているらしいのですが……理解が出来ません。

 こうして、私は一生尽くす主と自分の趣味を最大限に生かす場を手に入れたのです。最後に、私の求める理想の旦那様が得られる事を祈っています。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。