74 炎の階層2
色々とありましたが、75階層の辺りから、魔物の出現率が普通より増えて来ました。
それ程強敵という訳ではないのですが、いつも通りに普通は誰も通らない中央のルートを選んだからなのです。大抵の人達は遭遇を避ける為に迂回ルートを選ぶのが常識です。
このダンジョンの次の階層までの作りは迷路状の時以外は、中央を直進するか遠回りをして左右から行くかの単純なエリアになっています。
腕に余程の自信がない限りは安全面を優先しますので、遭遇率の高い中央を進むのは自殺行為と言われているぐらいですが、私達は普通ではないですからね。
マナさえ有れば不眠不休で行動できる私とセリスとカミラ。
私から、マナを吸いまくれば、ほぼ同じ条件のステラさん。
疲れを知らない最強のコスプレ娘が痛い必殺技を言っているので、この階層の敵は余裕みたいです。
エルナもレベルが3桁になっていますので、特に苦戦している様子がありません……たまに、以前は苦戦していたフロスト・サラマンダー並みの魔物が現れるのですが、力で押し切っています。
ステラさんが完全防御しているので、キャロも確実に相手を倒しています。
唯一苦労しているのが、レベルもそこそこ上がって来たクロード先輩だけです。
まあ……普通はクロード先輩ぐらいの人達が3パーティーぐらいで、協力し合って戦うのが普通なのですからね。
ただ、ちょっと問題があるとすれば、無駄に防御しまくるステラさんが私に抱き着いてマナを吸いまくっているぐらいです。
私は動くだけでも常にマナを消費しているのですが、それは自然回復力の範囲なので、魔法を使いまくらない限りは問題有りません。
以前に魔力封じの枷を嵌めて検証しましたが、あの時は、シズクに協力してもらっていたので、動けなくなった私を、チャンスとばかりに散々着せ替え人形にしてくれましたが……。
昔は気が付いたらマナ切れで倒れるとかありましたが、魔力管理なる技能のお蔭で、今では私の保有マナが意識できるようになっているので、なんとかなりますが……的確にみんなの防御をしてくれるのは良いのですが、流石に減りが激しいのですよね。
これだったら、サテラの方が断然燃費が良いと思うのです。確か同じ便利な槍を持っていると聞いたのですが、無いのかな?
「ステラさんに聞きたいのですが、サテラが持っていた周囲のマナを吸収する槍は持っていないのですか? 魔法で防御してくれるのは助かるのですが、ちょっと消費が激しいので……」
「サテラちゃんの槍って、魔槍ミスティルテインの事ですか?」
「そうそう! ステラさんも同じような槍を持っていると聞いた気がするのですが?」
「うちも、ありますよ? 聖槍ミスティルテインの事ですね。属性が違うだけで、能力はまったく同じです!」
そう言いながら、収納から出しましたよ!
サテラの方はやばそうな感じがしましたが、こちらは神聖な雰囲気のする槍です。
てか、あるなら初めから出してよ!
「どうして初めから出さなかったのですか? それ出したら、吸われる感覚が緩やかになりましたよ!」
「だって……言われなかったから……」
……こんな便利な物を言われるまで使わないとか、馬鹿ですか?
何となくサテラが駄目出ししまくる気持ちが分る気がして来ましたよ。
「とにかくそれは常に持っていて下さい。確か槍術のレベルも高いみたいですから、許可しますので、戦っても良いですよ?」
「えっ……うち、あんまり槍で戦うの得意じゃないよ?」
「いやいや、技能は上級槍術になっているではないですか?」
「うちは、サテラちゃんの練習に無理矢理つき合わされただけですから、実戦経験は余り無いです……本当はサテラちゃんと同じぐらいに達していれば、この槍の真の力が引き出せるのですが……うちには無理でした!」
「そんなすごい武器なのに、ただのマナ回復アイテムとは……作った人はきっと泣いていますよ」
「はぅぅぅ……サテラちゃんにも同じ事を昔に言われました……でも、作った人はもう亡くなっているので……」
「作った人を知っているのですか? 私も同じような物を作ろうとして頑張っているのですが、出来ないのですよね」
「うちとサテラちゃんは、エレーンさんに貰っただけなのです。エレーンさんが使っている双剣と同じ方と聞いています」
「あの恐ろしい剣と同じ製作者ですか……それなら納得出来ました。いつになったら、私も作れるようになるのでしょうね」
「うちは思うのですが……エルナちゃん達の武器を見ていると大戦時に使徒が使っていた武器と遜色無いと思います。特にカミラちゃんの弓なんて、性能がおかしいと思います」
「そうなのですか?」
適当に強力な魔物の素材とか補修に鉱石を足してるだけなんですけど?
気が付くと本人の特性に合わせたような仕上がりになっていくので、便利と思いつつ気にしていません。
カミラの弓だけは、本人の要望通りに何度も作り直して、やっと納得がいく物が出来たのですよ。
私の収納に仕舞ってあったネタで作った予備武器とか純度の高い鉱石や宝石がいっぱい減りましたが……。
「それにシノアちゃんが使っている大鎌だって、マナさえ籠めれば威力が増すとか、シノアちゃんのレベルが4桁になったら、大抵の相手はきっと一撃で死んでしまうと思います」
「この禍々しい形状になってしまった大鎌ですか……そうなると私の行き付く先は魔王とかが似合いそうですね」
「昔に戦った何とか魔王ゾアルが大鎌を使っていました。うちらの主戦力で挑んで、最後はサテラちゃんが倒しましたが、味方の被害も多かった強敵でした」
ほー、サテラは魔王を倒した事があるのですか。
その時の魔王のレベルとか知りたいですねー。
確か出会った時のサテラのレベルは1000以上ありましたが、最低でもそのぐらいのレベルに達していないと勝負にならないのかも知れませんね。
ノアにはいずれ挑むように言われていますが、あの離れ小島に眠っているか封印されているのか分かりませんが、どちらかの魔王か神に挑むのは当分先ですね。
それにしても昨日言われた事が余程ショックだったのか、カミラはまだ落ち込んでいますよ。
戦闘能力は私達の中で実質最強になったのに、精神面だけは意外と打たれ弱いのですよね。
痛みを克服する為にあんな馬鹿な事までしたのに、鍛えられた精神面はそこだけみたいです。
今でも、溜息をつきながら適当に魔物を攻撃しています。威力だけは魔弾の力をちゃんと乗せているので倒していますが、ここがお屋敷だったら、今のうちに更に追い込んで弱みでも増やしたい所です。
おや、カミラが何かしまったとかいう顔をしていますが、どうしてのかな?
「カミラお姉ちゃん! あの魔物は消滅させてはいけないとみんなで決めたのに何で撃つのですか!」
珍しくシズクが物言いを言ってます。いま攻撃したのはあの牛もどきですか?
「ごめんなさい……ちょっと考え事をしていたので……」
「取り敢えず私達のみで対応出来ていますので、今日はカミラお姉ちゃんも大人しくしていて下さい。中々現れない霜降り肉が……沢山狩る為に中央ルートで手当たり次第に攻撃しているのに意味が無いです……」
あの牛もどきというか、ファイヤー・バッファローとかいう魔物なのですが、解体して調理してみたらとても美味しいお肉にだったのです。シズクが肉質を見てステーキにして欲しいと言ったので、調理してみたら、「これ、極上の霜降り肉と同じ味がします!」とか言い出したのです。
確かに程よく油が乗っていて、ただ脂肪分が多い訳でもないので、他の食用にしている肉より美味しいと思います。
ただ……魔物の戦闘力は強く、こちらを見つけると恐ろしい勢いで猪突猛進してくるので、エルナはなんとか踏み止まれるのですが、クロード先輩だと跳ね飛ばされて重傷になっていましたね。
そのエルナも、腕が痛いので出来れば受け止めたくないとか言っているぐらいです。
皮膚も硬いので、半端な攻撃は弾いてしまいますから、普通に遭遇したら、魔術で遠距離で倒すのが最善と言われているそうです。
まあ……うちにはシズクがいますので、突進してくる相手をすれ擦れ違いざまに斬り倒してしまいます。
なぜ、こんなに魔物が襲ってくるかというのは、シズクが進行方向に手当たり次第に『エアリアル・ニードル』の魔法を撃ちまくっているからです。当然こちらに魔物の意識が向くので、敵がどんどん寄って来るのです。
あれだけ魔法を使いまくっているのに疲弊しないとか、羨ましい限りです。
私が同じ事をしたら、定期的にマナポーションを飲まないとやってられません!
条件が同じになるのは疲れない事だけですからね……私にもあの卑怯な固有能力が欲しいです。
怒られて更に落ち込んだカミラが私の隣に来ました。すごくいじめたいのですが、ここは我慢して、話でもして慰めてあげますか。
「どうしたのですか? 今日は朝から元気が無いみたいですが?」
「シズクさんに念を押されていたのについ魔物の反応のある方向に撃ってしまったのです……いつもなら確認をするのですが……」
余程エルナに言われた事が気になっているのでしょうね。
ここは、敢えて本人の口から白状させましょう!
分っているのに聞くのって楽しいですね!
「一体、何を気にしているのですか?」
「昨日、エルナ様に言われたのですが……私の味覚はどうもおかしいらしいのです」
うん、勿論知っています!
眷属になる前は散々私の味覚がおかしいとか言ってましたが、カミラも味音痴と思っていたのですよね。
「具体的には?」
「詳しくは言いたくないのですが、普通に食するには適さないそうです……海から戻ってからは、更に酷くなったと言われてしまいました……眷属になってから味覚が変わったと思っていたのですが、それ以前からとは思ってはいなかったので……」
以前にセリスに色々と調べてもらっていたのですが、カミラは幼少の頃から、妾の子と言うだけで粗末な食事しか与えられていないのに加えて、嫌がらせでおかしな物を食べさせられていたので、ちょっと普通とは違う感覚になっているみたいなのです。
母親が生きていればそんな事にはならなかったと思いますが、幼い時に病死してしまったので、子爵家の血を引くだけの存在としか思われていなかったようです。
きっと味覚が狂ってしまうような事をさせられたのかと思うのですが、眷属になってからは濃度の高い物を摂取するとマナの変換率が高いので、余計に食感がおかしくなってしまったのかと思います。
魂の記憶が固定されているので、ノアが何かしないと普通の味覚には戻れないでしょうねー。
「シズクも同じような事を言ってましたが、セリスも同意していたので、仕方ありませんね」
「セリスさんまで言っていたのですか!? 同じ眷属なのに……もしかして……シノアも知っていたのですか?」
ようやく気付いたのですが、どう答えようかなー。
まあ、ここは真実を教えてあげましょう!
「まあ、知っていました。私は元々碌な物を食べていなかったので、カミラの見た目だけの料理でも食べれましたし、どうせすぐにマナに変換されてしまうので、問題はありませんからね。セリスは私と同じなので食べる時の食感だけで済みますが、他の人はどうなるのか知りませんよ?」
「貴女はそうでしたよね……エルナ様とシズクさんには大変な迷惑を掛けた事になりますね」
「そんなに味覚を治したいのでしたら、ノアにお願いすれば何とかなるかも知れませんよ?」
「可能とは思いますが、魂の情報の書き換えをお願いするのには大変な対価を払わないといけないので……」
「いつものゲームに勝てば良いだけでは?」
「……知っているのに聞くのですね……私の勝率は1割も無いのです。しかもお願いの大きさによって難易度も高くなるし、負けた時の罰ゲームもとんでもない事になります」
「別に罰ゲームというかノアのお遊びのお仕置きなのですから、もう慣れたでしょ?」
「……慣れたというか……途中から、ポイント制になったので、貯めたポイントに応じて便宜を図ってくれるのです。現在はマイナスなので、借金状態なのです……夜は必ず会いに行かないと利息まで増やされてしまいます……」
まさかの借金状態でしたか!
あれだけ戦闘能力が一気に向上したのはすごいと思っていましたが、ノアが善意でそんな事をするなんて不思議に思っていたのです。楽しい縛りをしていますね!
確かにゲームに勝てば無償だけど、負けた時はお仕置き程度で力や知識が手に入るとか、ちょっと破格過ぎますからね。
利息とか面白い事を考えました。あれだけの力の代償なのですから、かなりの借金があると予想しますが、どんな仕組みなのでしょう?
ちょっと私も夢の中で何をしているのか、一緒に見学させて欲しいですよ!
普段は真面目ぶっているカミラの情けない姿とかすごく知りたいです!
「あれ? そう言えば昨日は私と接触していませんでしたね? 大丈夫なのですか?」
私は、お屋敷以外では、一緒に寝てるフリをしているので、実際は眠ってはいません。
カミラは、ノアに用があるので、必ず私の手を掴んでから眠っています。
私も、夢の中で会う事が出来るのでしたら、意識を落とすのですが……どうもノアと私が会うには対価が必要らしいのです。ノアがその気にならないと会えないので、ダンジョンの中では警戒していた方が良いのですよね。
セリスにも眠っても良いと指示してあるのですが、いつも寝たフリをしてずっと起きています。
確かに睡眠が不要になったけど、ずっと起きているとか暇でしかたないと思うのですが、本人は眠っていると言い張るので、好きにさせています。私と感覚が繋がっているのですから、そんな事はばればれなんですよ。
私は、片手さえ空いていれば、やりたい事があるので、横になりながら地味に仕事をしています。言い換えれば、1人で集中して何かが出来る時間なのですよね。
「昨日はあまりのショックで、貴女に触れるのを忘れてしまいました……今晩は確実に拷問が確定しています……あの空間では、普通の人間の感覚になってしまうので、考えただけでも寝るのが怖いです……」
「では、今晩もボイコットすれば良いのでは?」
「そんな事は絶対に出来ません! たった1日なのですが……罰ゲームとは別にマイナスポイントも増えるのです。初めてなので、どのくらい増やされたか知るのが怖いです……」
そう言えば、夢でノアに紅茶を出された時は、私の味覚も普通になっていましたね。
あんなちょっとの砂糖を入れただけの物がすごく美味しく感じるとか、感動したぐらいです。
しかし、カミラが今晩の事を話したら、ちょっと震えてますね……私と同じ考えをしているとしたら、特に説明してなかったとしても、罰としてマイナスポイントを2倍にすると思います。
主導権が完全に自分にあるのですから、反論などしたら、3倍とかも面白いと思いますね。
それにしても一体どんな拷問をするのか知りませんが、ノアって容赦がないから恐ろしいですよ。
「ちなみに聞きたいのですが、どんな拷問をされる予定なのですか?」
「そんな事は言えません! 絶対に見に来ないで下さいよ!」
「気になるから見に行きたいのですが、滅多に会いに行けませんからね。私の意思ではどうにもならないので、ノアの気が向かないと無理ですよ」
「あんな姿を貴女に見られたら、私は立ち直れません……」
「そんな事を言われたら増々気になります。ちょっとこの世界の拷問ってどんな事があるのか、戻ったら調べてみようかな?」
「そんな事を調べるなんて絶対に許しません! それにそんな知識を知ってしまったら、ノアさんと変わらなくなってしまいます! あっ!」
何かまずい事でも言ったみたいに口を押えてます。ちょっと顔が青くなって来ましたが、大丈夫なのかな?
「ふーん。拷問の知識を得ると何かいけないのですか?」
「……お願いですから、いまの事は忘れて下さい……1つだけどんな事でも聞きますので……」
「ほうほう、今の会話を忘れるだけで、カミラにどんな理不尽なお願いでも出来るのですかー。では、忘れますが、後で拷問の知識だけは手に入れますからね?」
「お願いですからそれもしないで欲しいのですが……」
「では、私がどんな理不尽なお願いをしても3回は素直に従うと約束して下さい。言っておきますが普段の簡単なお願いは無効ですからね?」
「仕方ありません……約束しますので、絶対に守って下さいよ」
「勿論ですよ! 私は約束は守りますからね!」
「恐ろしく不安なのですが……まるで悪魔と不利な契約をした気分です……」
悪魔とは失礼な!
アルカードみたいに誠実な悪魔もいるのですから、例えが酷いですね。
まったく……最初のお願いは、服を着ないで学園に登校しなさいと言ったら、本当に実行できるのかな?
私だったら、この世界で最強の力をくれるとか言われたら、実行しても構わないけどね!
でも、カミラは気が付いていませんが、私は既に色々な拷問に対する知識は持っているのですよねー。
学園の図書館にもそれらしい書物もあったし、シズクの拷問漫画の知識が既に汚染レベルまで浸透していますから、結構物知りですよ?
むしろ向こうの世界の拷問の方が過酷と思うぐらいですから、きっとノアがおこなっている事は、この辺りなのかも知れませんね。
そうなるとカミラが受けている拷問って……気の毒ですが、私は知らなかった事にしておきます。
それに以前にカミラのお願いを3回だけ必ず従うと約束をしていましたから、これで差し引きゼロに出来る事に気付いていませんね。
まあ、短期間で私より強くなった対価なので、仕方ないですよね……可愛そうだけど……。
そんなこんなで、シズクが牛もどきを乱獲しつつ80階層まで来ました。ここに来たらやたらと竜種が多くなってきました。
竜のお肉は美味しいので、シズクは喜んで狩っています。なんかエレーンさんみたいな考え方をしています。
シズクって意外と味に拘るので、私はいつも文句を言われ放題です。
大体、向こうの世界にしか無い物をこちらで再現するなんて、普通なら不可能ですよ?
シズクから得た知識からでは限界があるので、殆ど感覚で味を似せているだけなのです。
一応、向こうの世界では、由緒正しい家柄のお嬢様だったみたいなので、高級料理などの味も全て知っているので余計に始末に負えません。
私が精製する宝石やアクサセリーなども、シズクの見た事のある記憶があるから、純度の高い物や加工のデザインが出来るのです。どうしてこんな事まで知っているのか聞いたら、「本物を見る目を養うために色々と詰まらない物を見に行かされた」とか言ってました。お蔭でこちらでは助かっていますけどね。
しかし、いくら誓約魔術で支配をしているとはいえ、ここまで相手の全てを把握できるとは恐ろしい魔術です。
ステラさんは誓約魔術を昇華させた者は存在しないと言っていましたが、サテラとアルカード以外には、私が見る限りは、未だに初級誓約魔術が使える人しか見た事がありません。
街で見かける奴隷を扱っている人達でも初級誓約魔術しかないのです。
英霊になってしまったサテラが使う事が出来るのかは分かりませんが、長い時を経ているアルカードでも上級なのです。なぜ私は最上級まであるのでしょう?
恐らくですが、ノアがシズクやカチュアさんに行使した誓約魔術は昇華魔法なのだと思います。
このレベルで掛けてしまえば、最早、解除する事が出来ないので、半永久的に主に対して全てを晒している完全な奴隷と言っても間違ってはいません。
シズクのような、何の躊躇いも無く私にさらけ出しているのは例外として、カチュアさんは表面上は平静を保っていますが、私と居る時はどこまで自分の事を知られているのかいつも不安に思っています。
一応、意識しないと分からないと言ってありますが、実は、側にいると思っている事が私にダダ漏れなのですよねー。
シズクは、気にしないかも知れませんが、カチュアさんが知ったら、心が壊れてしまうかも知れませんね。
カチュアさんって、いつも少女趣味の服とか可愛い下着の事しか考えてないのです。シズクが作る可愛い系の服を見ている時は、欲しいとか着てみたいとか、平静を保ちながらも考えている事はそればっかしです。
以前にカチュアさんの目を通して着替えている光景を見た時は、大人の女性とは思えない事を鏡の前でしていたのです。誰かに教えたりしたら、立ち直れなくなって、引き籠るかも知れません。
しかし、今までは、そこそこは苦労していたのに、レベルが一気に上がったお蔭で、余裕で攻略が出来てしまっています。ギムさん達のレベルを考えると階層=レベルというのが基準なのかも知れませんね。
そう考えると私達のレベルなら、100階層のボスにも苦労はしないと予想しますが、扉を開けた者に比例して相手が変わるのですから、このダンジョンで最強の相手が待っている事になるかも。
いや、ちょっと待って……確かそれ以降に潜る事も出来るとギムさんは言ってましたよね?
大抵の者は、ここで使徒になる選択をして、王宮に仕えてしまうのですが、使徒にならずにその先に挑戦した者はいないのでしょうか?
私の考えでは、使徒になる必要の無いエレーンさんなら、最後まで潜ったに違いありません。
何が待っているのかは教えてはくれないと思いますが、行く事が可能かぐらいは教えてくれる筈なので、戻ったら聞いてみる事にしましょう。
そして、この都合の良いダンジョンを作った女神にも疑問を感じます……一体どうやって魔物の補充とかしているのか疑問なのですよね?
ボスの間は、ドラゴンのおっちゃんの話によると、あの部屋自体が時戻しの間とからしいのです。時間を戻せるとか破格の能力と思うのですよね。
100階層を突破した時に会う事の出来る女神様には一度会って聞いてみたいのですが、私の正体なんて、絶対に看破されてしまうので、会うのは危険過ぎるし、特殊な魔眼などを持っているとしたら、鑑定偽装を無効にしてセリスやカミラを見られてしまうので、まずい気がします。
非常に残念ですが、私達は会う事は辞退するしかありません。
エルナとシズクとキャロは人間なので問題無いのですから、その時に好きにさせますが、私が辞退するから、多分辞退すると思います。
せっせと食材……じゃなくて、魔物を収納に回収していたら、扉の前に着きました。私がしていた事っていったら、ステラさんのマナの供給とみんなのご飯を作っていただけですよ……どうやら私は家政婦にでも転職してしまったようです。
流石に最後くらいは何かしたいので、一言ぐらいは言っておかないといけません!
「シノア、今回はどんな相手になるのでしょうね?」
エルナは、それ程苦労せずに魔物を倒していましたから、ボス戦にも自信がありそうですね。
「60階層の氷の階層の時は氷龍でしたから、この階層の特徴から予想するときっと火龍と思いますよ」
「ほぉ、この剣の元になったドラゴンは60階層のボスなのか?」
「クロード先輩達が行ったら、きっとフロスト・サラマンダーがボスになりますね」
「それはどういう事なんだ?」
「60階層からは、扉を開けた者の実力に応じて、相手が変化するのですよ。ドラゴンのおっちゃんの話だと久しぶりだったとの事ですので、普段来る冒険者のレベルだと、フロスト・サラマンダーになるのですよ。クロード先輩の御先祖様もそんな事を言っていましたよ?」
「なるほど、そう言えばそんな事を言っていたな。俺は散々叩きのめされて、未熟者扱いされただけだったからな」
「でも、今回私達と一緒にここを突破すれば、クロード先輩達も81階層から挑戦できますよ?」
「無理だろ? 俺はお前らのサポートがあって辛うじて生きているぐらいなんだからな。シズク嬢ちゃんが乱獲していたファイヤー・バッファローに遭遇したら、まず全滅するぞ。俺の剣がまったく通らないのに嬢ちゃんは一撃で斬り殺すとか、戻ったら弟子にして欲しいぐらいだ」
「そう言えば。撥ねられて重症になっていましたね?」
「俺は絶対に死んだと思ったよ……あれを受け止めるエルナはすご過ぎるわ……あの細腕にどんな腕力があるか知らないが、本気で殴られたら、吹き飛ばされそうだな……」
「殿下、失礼ですが、私はか弱い女性なのでそんな事は出来ませんよ? あれはシノアの愛が籠った、くーちゃんがあるから出来るだけなので、誤解しないで下さいね?」
「はいはい、お前の感じている愛が偉大なのはよくわかっているよ……俺もこの剣に名前を付ければ強くなれるのか?」
そんな下らない事は絶対に止めて下さい!
そんな事で強くなれたら、苦労はしませんよ。
大体、愛とか重たい事をする人が増えるのは勘弁して下さい。
私はエルナとオリビアの不毛な愛だけで、もうお腹いっぱいです。
「いつも通り扉を開ける前に拠点を作って、休憩をしますか?」
「体調に問題が無ければ進んだ方が良いと思います。すっかり忘れているようですが……確か学園の卒業式がそろそろあったと思うのです。食材の確保とか言って乱獲していましたから、結構な日数が過ぎているのですが……」
「やべぇ……卒業式の後に伯爵と大事な話をすると約束していたんだが……75階層ぐらいの時が卒業式だったような……」
「そんな行事があったのですか? まあ、教師から理事長まで、根回しをしている私には関係ありませんね」
「貴女は、まだそんな事をしていたのですか……どうしてそんな悪知恵ばかり働くのですか……」
カミラは、何を言っているのでしょうか?
世の中は賄賂こそ最強のアイテムですよ?
真面目に頑張るなんて、苦労の割りに合いませんよ。
相手も喜ぶし、私も楽が出来るので、お互いにプラスしかないのですから、素晴らしい関係だと思うのですが?
「良かったら、俺にも便宜を図ってもらえないだろうか?」
「王子なのに何を言っているのですか? こういう時こそ権力を使えば良いではないでしょうか?」
「前にも言ったがこの国の王族に権力なんかねーよ。ただの象徴と女神様に謁見する権利しかないお飾りだからな」
「そうすると……クロード先輩って、脳筋で、ちょっと顔が良いだけの女たらしではないですかー」
「お前が俺をどう思っているかはよーく分かった。ナンパする時は、誠意を持って全力でしているからな? それに今はセリスさんに本気だからな」
「クロ、貴方は馬鹿なのですか? 私が貴方に振り向く事は決してないので、他を当たって下さい」
「俺は諦めが悪いから、無理だな」
「勝手に頑張って下さい。私は知りません」
クロード先輩もこれだけセリスに拒否されているのに、めげない人ですね。
おや?
ちょっとエルナの顔色が悪いような気がするのですが、どうしたのでしょう?
「エルナも何か悩み事ですか?」
「お母様と学園の行事には必ず参加すると約束していたのですが……帰ったら、何か言われるかも知れません……普段はそれなりの成績さえ取っていればサボったりズル休みをしても決して怒られないのですが、とてもまずい予感がします……」
「サラさんって、本人の自由を尊重してくれるけど、約束を守らなかったり怒らせると過激な手段に出ますからね。気付いたカミラは良いのですか?」
「私は、特に何も言われてはいないので問題はありません。いまはサラ様が身元引受人になっていますので、もしかしたらですがエルナ様と同じお叱りを受けるかも知れませんね」
「人事みたいに言っていますが、シノアだって、きっとお母様に何か言われますよ?」
「えっ? 私はとっくに根回しがしてあるので、何も言われませんよ?」
「シノア! 自分だけ根回しがしてあるとか、どういう事なのですか!」
「別に、かなり前からサラさんに頼まれたアクセサリーの製作を定期的にやる代わりに、私の行動の自由は何も言わないし束縛しない約束をしてます。私が宝石を加工していた時に純度と大きさを調整した物を見て、すごく気に入ったみたいなので、進呈した時かな?」
「もしかして、いつもお母様が身に付けている、とても透き通っている大きなルビーですか? あれはシノアが作ったのですね……私は余り興味はないのですが、すごく自慢されたのでよく覚えていますよ。お母様が自慢するだけあって、あれほど高品質で大きい物は初めて見ました」
「まあ、あれより少々劣る物をちょこちょこと作って渡しているのです。知り合いの方に高値で取引しているみたいですからね。お蔭で私にも臨時収入が結構入って来ますので、いい商売ですよ? 元はここで手に入れた宝石を私が錬成し直しているだけなので、ただ同然ですからね」
「王宮にも錬金術師はいるが、そんな自在に錬成が出来る奴はいない。いまの話を聞いたら、あくどい商売をしてるな……」
ちょっと、ただ作り直しているだけなのに、クロード先輩から悪徳商人呼ばわりですよ!
頼まれて、ちょっと綺麗な石ころを作っているだけなのに。欲しがる人が勝手に高値を付けているだけですよ?
私としては、強力な付与が籠めれる質の良い宝玉が作りたいだけなので、す。正直に言うと、サラさんにあげたルビーだって、大きい割には大して力が籠められないから、失敗品なんですよね。
「えー……別に鉱石から不純物を取り除いて、錬成し直しているだけなのですから、錬金魔術が使える人なら出来るはずなのです。出来ないのはその人の腕が未熟なだけですから、もっと修行すれば良いのですよ」
「王宮に召し抱えられている錬金術師は修行が足りんのか……学生にそんな事を言われたら、爺共は自殺するんじやないかな……増々哀れに見えて来たわ」
「私も色々な宝石は見せられましたので、ある程度は見る目があると思いますが、シノアが作った物を超える物は滅多に見ませんよ?」
「そんなに難しいのかな? 液体状にして不純物を分離して、好きな形に構成し直すだけなんだけど?」
「宝石って、液体状に出来るのかよ? 簡単に言っているが普通は無理なんじゃないのか?」
「その剣だって同じ要領で作ったのですけど?」
「剣って、鍛冶師が炉とかに入れて、叩いたりして作るんじゃなかったのか……」
「ギムさんは、そんな感じで作っていますね。まあ、ここまで話してしまったので教えますが、私は錬金魔術とは別に、武器に関しては錬成して作る事が可能なのですよ。中々イメージ通りに出来ないので、半分博打のようなものなのですが、特定の能力が付属した物はかなりの確率で次の物に組み合わせればその能力が付属される事があるので、暇な時はいつも色々と作っているのですよ。ちなみにクロード先輩の剣はエルナの剣に組み合わせた物の試作品です」
「するとお前は、材料さえ有れば簡単に魔剣とか作れるんだな。ユリウスやオリビアの持っている剣が納得出来たわ」
「この事は、誰にも言わないで下さいよ? 私の作った試作品も一部の騎士の人達に配布していますが、半分はギムさんが作った物にシズクが付与しているので、ヴァレンタイン家の騎士団の人達が持っている剣は全てギムさんが作った事になっています。なので、私の能力を知る者は限られています」
「今回だけでもかなり世話になっているし、絶対に言わないが、そうなるとこの剣をもっと強化出来るのか? 今でも刃こぼれもしないので、すげーと思っているんだが」
「代金さえくれれば、強化しますよ?」
「また金を取るのかよ……」
「みんなの武器の強化だって、ちゃんとダンジョンの取り分から、しっかりと引いてます。こういう事はちゃんとしておかないとねー」
嘘だけど!
「それなら、ちゃんと貯めておかないといかんな……この剣が更に強化されると知ったら、強くしたいな」
「エルナは、私に全額預けているので問題ありませんが、カミラはマイナスですから、借金状態ですね」
「どうして私が借金状態なのですか!」
「その弓を作るのにどれだけ投入したと思っているのですか? 私が貯め込んでいた材料が殆ど消えましたよ。それに現在、小型の短剣も頼まれているし当然ですよ?」
「確かに要望は言いましたが……そんな話は……」
「もしかして、踏み倒すつもりですか?」
「……わかりました。後でいくら借金があるのか詳しく教えて下さい……」
「シノアに借金とか恐ろしくてしたくないな……きっとあり得ない利息とか追加されて、一生借金を背負う羽目になりそうだわ」
カミラは不満そうですが、クロード先輩の手前だから、ちょっと生贄になってもらいました。
借金とか申し込んで来たら、絶対に返せないようにどんどん増やして、歯向かえないようにするに決まっていますよ?
ちなみに、アイリ先生は既に返済不可能状態に追い込んでありますから、私の言う事は誓約魔術で命令しなくても泣きながら実行しますので、暇な時はからかって遊んでいます。
それにしてもこんな事を話しているぐらいなら、拠点を作って休憩した方が良かったような?




