第11話 役立たずの勇者1
貴族目線です
「おっ?これが聖剣か?普通に抜けるじゃねえか!」
「うぉぉおお!」
何の気負いもなしに岩に突き刺さったその剣を引き抜いたその青年のその姿に広場中の人間が歓声を上げた。
やはりあの先程聖剣を抜けなかった男はただの役立たずであったのだろう。
本当に一時とはいえ、こちらを脅かしてくれるとは本当に無能としか言いようがない。
まぁ、あの時の縋るような表現には思わず声を上げて笑ってしまいそうになったが。
しかし今はあの無能よりも目の前の勇者様のことの方が大切だと、私は頭から無能の存在を締め出した。
「さすが勇者様!先ほどの無能などとは違いますなぁ!」
そして私、シラストス・スタッカートも過剰とも言える歓声を上げてみせる。
「あっ?いや、そんなことねえだろ。こんな剣誰だって抜けるんだろ。簡単に引き抜けたぜ!」
その私の言葉に、勇者様は照れるような表情を作りながらも否定してみせるが、だがその顔を見れば満更ではないことは明らかだった。
「いえいえ!この聖剣は誰にも抜けなかった伝説の存在です。そんなものを軽々と抜き放たれた勇者様の才能に私どもはただただひれ伏すことしか出来ません!」
「そ、そうか?」
そしてさらに言葉を重ねるごとに、どんどん勇者様の顔に喜色が溢れて行く。
その光景に私は思わずにやけそうになるのを必死に堪える。
勇者、それはこの王国において権力と切り離せない関係にある。
そう、つまりこの勇者と親しくしておけば私の出世も夢ではないのだ。
「あからさまに……」
「下賎な……」
あの無能の衝撃から立ち直ることができなかったのか、出遅れた貴族達がこちらを憎々しげに見ていることがわかる。
だが、それは負け犬の遠吠えでしかなかった。
勇者に取り入れるかどうか、その勝負に乗り遅れた負け犬どもだ。
そして私は栄光の未来を想像して、思わず口元を歪めながら、勇者に取り入る為にさらなる言葉を紡いだ。
「勇者様、次はあの光の剣の能力を見せて頂けないでしょうか!」
「光の剣?」
その私の言葉に勇者様の顔にあからさまな困惑が浮かび、私は勇者様に能力の説明をしていなかったことを思い出し、慌てて口を開く。
「聖剣に力を注ぎ込むイメージをしてみて下さい!そうすれば自然とその力が使えますので!」
「あぁ、そうか!」
そう、勇者様は笑い何か聖剣を握る腕に力を込めるようなそんな動作を取って……
「あれ?」
……だが、その結果何も起こることはなかった。
困惑したような勇者様の顔、それに私は最悪の可能性を覚えて思わず言葉を失う。
いや、そんなことはありえない。
そして無能は先ほどの男だけで、と内心で必死に自分に言い聞かせている私にとどめをさすかのように、勇者様の声が響いた。
「出来ないんだけど?」
◇◆◇
それから勇者が何度試しても光の剣は使うことはできなかった。
他の奥義やレベルアップに関しては問題なく使えるのにもだ。
そしてその事実に今まで騒がしかった広場はしん、とおかしな程静まっていた。
何せ光の剣と呼ばれるその能力、それは勇者の必要不可欠と言われる能力であるのだから。
光の剣、それは単体で使えば優秀な身体強化程度の威力しかない。
けれどもその能力は聖剣と合わせた時、真価を発する。
それに、その光の剣がなければ勇者の技がどれだけ優秀でも、その能力を十全に発揮することなんて出来ないのだ。
そう、魔族と戦う切り札になどならない程に勇者は弱体化するのだ。
だが、もう魔族へと我々人族は宣戦布告してしまっている。
もう引き返すことはできない。
あぁ、あの男の忠告を聞いておくべきだったと私の頭に1人の男の顔が浮かぶ。
しかしそれはもう後の祭りでしかなかった。
「あぁ?何だよ!一つ能力が使えないくらいべつにきにすることなんて無いだろうが!」
勇者が何事かを喚いているのがわかる。
けれどももうその勇者のおべっかを使おうとするものはいなかった。
何せもう、勇者は役立たずだとそう認定されてしまっているのだから……




