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第12話 鍛錬Ⅰ

「まだだ……」


それは酷く勝ち目の薄い戦いだった。

もう身体はぼろぼろで能力を発揮する体力さえなく、唯一相手に優っていた身体能力さえ落ちている。

さらにそれに対して相手は未だピンピンしているのだ。

勝ち目が薄いなんてどころではない。

絶望的としか言うことができない状況。


「諦め、られるか!」


だけど僕には膝をつくことはできなかった。

挫けかけそうな気持ちを奮い立たせ、震える膝に必死に力を込めて立ち上がる。


「はぁ、はぁ、」


ただそれだけの行為。

それだけでぼくの身体からはどんどんと力が無くなっていて……


けれども、未だ僕の目からは力が失われていなかった。


「まだ立つのか」


そしてその僕の様子に相手、シュライトさんはそう笑って告げた。

その言葉はまるでなぜ立てるのか、その理由を問うているような意味を持ちながら、だがその言葉に込められていたのは隠しきれない愉悦だった。


「当たり前でしょうが!」


そしてその相手の様子に僕の胸に不安が生まれる。

未だ相手はかなりの余裕を残している。

それは決して無視することのできないことで……


「今の僕がこの程度で諦められる訳がない!」


でも、それは僕が足を止める理由にはなり得なかった。

たしかに相手は未だ余裕を見せている。

それは決して無視することのできないことだろう。

何せ僕はもうぼろぼろだ。


けれどもそれは無視できない理由になりはしても、僕が諦める理由にはならない。

そのことを理由に諦める、そんなことはもう今の僕はもうしない。


「今は貴方など怖くない」


いや、もう出来ないと言った方がいいだろうか?

そして僕は溢れんばかりの感情を込めて、叫ぶ。


「後ろにあるものに比べたら!」


ーーー そう叫ぶ僕の後ろには、等身大のナメクジ、ヒル、ミミズと言う怖気を覚えさせる魔獣達がうようよいる湿地が存在した。


「もう、あぞごに入れられるのばいやだぁ!」


……そして次の瞬間、僕は耐えきれなくなって溢れ出した涙と鼻水に顔を汚しながらシュライトさんへと突っ込んでいった。








◇◆◇









シュライトさんに弟子入りした僕、その当初はやる気と使命感に燃えていた。

仮にも勇者の力を手にした自分は強くならなければならないという、そんな使命感に。


……けれどもその覚悟は数日で消え去った。


シュライトさんの鍛錬、それはあまりにもきついものだった。

身体が壊れるのは当たり前。

それを回復魔法や、ポーションと呼ばれる超常の存在で治すことで強制的に身体を治していくというもの。

そしてその時僕は初めて魔法とかの存在を知ったのに、なんの反応もすることは出来なかった……


それらの日々は本当に辛いものだった。

身体は治るものの、痛みだけは取れなくて日々眠れない日を過ごし、そしてなのに鍛錬の内容は変わらない。

一度精神的に病みかけたものの、マナポーションと呼ばれる薬で強制的に直された。

魔法なんて嫌いだ……

そんな日々を過ごしていた僕はある日、とうとう耐えきれなくなって決めた。

そう、ここから逃げ出すことを……

そして罪悪感と自分への不甲斐なさで涙ながら逃げ出した僕は……


「おぅ、動けないようになるかと思っていたのに元気あるな、翔!」


……扉から出た瞬間シュライトさんに見つかった。

そして転移者は勇者でなくともレベルを上げることができ、今からはレベル上げだから鍛錬も楽になると騙され……


「ぁぁぁぁああああっ!?」


……巨大なヒル、ミミズ、ナメクジが存在する湿地に落とされた。

その時ほどシュライトさんに僕は自分の嫌いなものが虫だと告げたことを後悔したことはない……

そしてその時から、その魔獣達を倒す……触れられないようにする為の僕の決死の鍛錬が始まった。

シュライトさんに教えられたことを思い出し、貰ったポーションで肉体改造を続けなんとかシュライトさんの小屋へと這いずり戻った。

そしてその時のシュライトさんは凄く丁寧に新しい技を教えてくれて……


「頑張ったな!んじゃ、もう一回だ!」


「ぁぁぁぁああああっ!?」


ーーー そして夜僕が寝た時に今度は重りを付けた状態で元の場所に戻された。


そんなことを続けること二週間。

召喚時からははあり得ないほどの実力を持った僕は今度こそシュライトさんに合格をもらう為に全力で剣を握りしめて踏み出し……


「あぁ、惜しい!もう少し力みが取れたら及第点だったのにな!」


「ぁぁぁぁああっ!?もうぬるぬるいやぁ!」


……あっさりとシュライトさんに吹き飛ばされた。




それからなんとか僕が及第点を貰ったのは数日後、心が折れかける寸前だったという……

……ぬるぬるだめ、絶対。

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