ファーストダンス
次のお茶会は、クロードから断りの手紙がきた。
こんな時だけ手紙を書くなんてと思いつつも、少しほっとする。
あれ以来、アデイラはどうにも不安定だ。
喚きたいとか、叫びたいとかじゃない。ただ落ち着かなくて、足元が揺らいで仕方ない。
食が細くなったことを侍女から報告されたのか、なぜか結構な頻度で食堂に兄がいるようになった。
食べろと急かされ、飲み込むまでを監視されているようで、味がしない。ひたすら苦痛だ。
部屋に戻ると、人払いをして吐くようになった。自室に浴室があって助かった。
何度か医師を呼ばれたが、そもそも兄もかなり多忙。二日に一度くらいなので大丈夫だろう。
「アデイラ嬢……なんだか、痩せたかい?」
久しぶりの夜会に出席し、いつも通り入場直後にどこかへ行ったクロードを追いかけることもせず、社交に精を出す。
思わずといった風に指摘したのは、第二王子だった。アデイラは扇子で目から下を隠す。
「まあ。殿下ともあろう方が、淑女の努力を言葉にするものではございませんわよ」
ねえ、と周りの女性陣に微笑むが、みな一様に心配そうな表情をしている。
苛烈で激情型だが、婚約者が関わらなければ厚情なアデイラは、意外と友人が多い。彼女らは、昔からの幼馴染だ。
「確かに、紳士の発言ではございませんが……アデイラ様、お身体は大丈夫ですか?」
「不躾で申し訳ありません。でも、お顔の色も優れないようですし、心配ですわ」
にこにこと笑っているのに、なぜか心配された。クロードを追い回していないからだろうか。
「問題ありませんわ。そうだわ、みなさま。今度我が家の……」
クロードを追いかける気にはなれないアデイラは、その後も広く社交に励んだ。
普段はひと言ふた言くらいしか話さない相手とゆっくり向かい合うと、なかなか得られるものが大きい。
大変満足しながら人混みを泳いでいると、ふと視界に王女と笑い合うクロードを見つけた。
好みそのものの外見の婚約者は、どこにいても見つけてしまえるのが難点だ。
アデイラには向けたことのない、柔らかで慕わしい色を称えた淡灰色。
向かい合う王女も頬が染まり、どこからどう見ても相思相愛といった様子だ。
今までなら、すかさず近寄ってワインでもかけて、せせら笑いながら嫌味を浴びせた。
あるいは、衆目の前で派手に転ばせたかもしれない。
でも。……なんて、いうか。
「アデイラ嬢、ダンスはどう?」
ぼうっと婚約者と王女の様子を眺めていたアデイラは、ふとかけられた声に我に返った。
見れば、第二王子が手を差し出して笑っている。
「ありがとうございます。ですが、パートナーとのダンスを終えていませんので」
夜会では、初めに踊るのはパートナーと決まっている。そうでなければ、他の人とは踊れない。
アデイラは、夜会でダンスをしたことがなかった。
それを知っているはずなのにと首を傾げると、第二王子は肩を竦めた。
「義務を果たさない相手に、義理立てしなくてもいいんじゃない?」
「まあ」
ふふ、と思わず笑みがこぼれた。今まで、アデイラの苛烈さのせいで、クロードの無作法が咎められたことはない。
たった少しの言動で、ころっと手のひらを返すのか。なんてくだらない。
「婚約者のいる身ですので、どうか」
軽くカーテシーをして、明るめに微笑む。第二王子も本気ではなかったようで、笑みを返した。
「なら、目的地までエスコートするよ」
「では、有難く」
手を預けてから、あ、と気づく。
この方は、アデイラの視界から二人を外そうとしたのか。
王女の婚姻相手の第一候補は、この第二王子なのに。こちらが気を遣わせてしまった。
少々気まずくなりながら、話題豊富な彼との会話に意識を移した。




