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妹を呪ったと森に追放されたいばら魔女は、なぜか王太子に執着されています  作者: 深水えいな
第五章 魔女の決闘

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51.空っぽの器

 シルムは操り人形のような動きでレゼフィーヌとの距離を詰めていくと剣を再び振り上げた。


 剣に月光が反射しきらめく。容赦なく振り下ろされた一撃を、レゼフィーヌは寸前で体をひねり、ぎりぎりで避けた。


 地面に剣が突き刺さる鋭い音が森に響き渡る。


「アレク、私はリリアに何とかして魔法を解かせるわ。その間にシルムをお願い」


 レゼフィーヌがアレクに指示を出す。


「はい、承知いたしました」


 アレクがゆっくりと腰の剣を抜く。


 レゼフィーヌはリリアに向けて走り出した。


「無駄よ。私を殺したところでその魔法は解けないわ。あの村の男にかけた魔法とはわけが違う。今までで一番強い魔法をかけたんだもの」


 リリアが口元を歪ませて笑う。その顔は、すっかり闇の力に取り込まれてしまっているように見えた。


「愚かね。そんなことをしてもシルムはあなたのものにはならないのに」


 レゼフィーヌが呟くと、リリアはキッと眉を吊り上げた。


「ふん。お姉様に何が分かるって言うのよ、王子様もお妃様の座もすべて私から奪っておいて。お姉様一人だけ地位も名誉もお金得ようだなんて、ずるいわ!」


 リリアは叫ぶと、持っていた銀の杖を振り上げた。


 空中に石のつぶてが現れ、レゼフィーヌのほうへ勢いよく飛んでくる。


 (これは……岩石魔法かしら)


 レゼフィーヌはリリアの魔法を分析すると、無言で手を前にかざした。レゼフィーヌの目の前に緑色の魔法陣が現れ、石のつぶてを跳ね返す。


「ふんっ、まだよ!」


 次にリリアが取り出したのは赤い革表紙の魔法書だった。


「丸こげになるといいわ!」


 魔法書にリリアが手をかざすと、真っ赤な炎が噴き出し、レゼフィーヌを襲う。


「今度は炎ね」


 レゼフィーヌは冷静に目の前の炎を分析すると、手を前に出す。目の前に青い魔法陣が現れ、たちまち炎はかき消えた。


「な、なんで? 高い魔法書だったのに。さてはぼったくりね。クソッ、クソッ、くそーーっ!!」


 リリアは半狂乱になりながら次々と魔道具を出した。風を巻き起こす羽ペンに、植物を操る(はさみ)、水魔法の水瓶。


 だけどそれらはすべて、レゼフィーヌの魔法によってかき消されてしまった。


 レゼフィーヌはじっとリリアを見つめた。


「無駄よ。どうして分からないの? あなたと私では今まで積み上げてきたものが違うの」


 エマ婦人の城で基礎から魔法を学んだレゼフィーヌと、お金に物を言わせ高価な杖や魔法書を使うことで満足してきたリリア。二人の実力の違いは明らかだった。


 リリアは青筋を立てて目を見開く。


「そんなわけないわ! お姉様、何かずるをしているんでしょう!?」


 リリアの言葉に、レゼフィーヌはピクリと眉を上げた。


 どうして先ほどからリリアはわけの分からないことを言うのだろう。


 リリアはお金に物を言わせ、魔道具の力で実力の差を誤魔化している。ずるをしているのはリリアのほうだ。


 それにリリアはレゼフィーヌがすべてを奪ったというが、シルムは元々レゼフィーヌの婚約者だった。


 元々持っていたドレスや宝石、部屋を奪われ、城から追い出されたのはレゼフィーヌのほうだ。


 レゼフィーヌは元々持っていたものを取り返しただけでリリアからは何も奪っていないのに、なぜリリアはそんなことを言うのだろう。


 少しの間考え、レゼフィーヌは気づいた。


「……そう。あなた、空っぽなのね。だからドレスや宝石、結婚相手の身分にそんなにもしがみつくのね。それしか誇れるものがないから。自分自身には何もないから、外見を着飾り相手を馬鹿にして自分を保っているのね」


 呟いたレゼフィーヌに、リリアは眉を上げた。


「何ですって!?」


 レゼフィーヌはリリアの目の前に立つと、蒼く光る両の瞳でじっとリリアを見据えた。


 そして美しい金の髪をかき上げ、良く通る声でこう言った。


「分からない? 私とあなたじゃ魔女としての――いえ、人としての器が違うと言っているの」


「――なっ!」


 リリアが顔を真っ赤にする。


 レゼフィーヌは冷静な表情で続けた。


「可哀想なリリア。穴の開いた器にいくら水を注いでも水は抜けていくだけ。例えあなたがシルムを手に入れても、地位や名誉やお金を手に入れても、あなたの心に空いた穴は埋められないのに」


「黙れ、黙れ、黙れ!」


 リリアは声の限り叫ぶと、ローブの中から真っ黒な本を取り出した。


 本が放つ邪悪な気配にレゼフィーヌは身構える。


「それは……」


 顔色を変えるレゼフィーヌを見て、リリアが勝ち誇ったように笑う。


「ふふ、気づいた? この本の持つ強大な力を。これさえあれば私は無敵よ」


 それはリリアが今まで手に入れた魔道具の中で一番高価で、そして一番邪悪な魔導書だった。


 魔導書の放つ邪気を見て、レゼフィーヌは眉をひそめる。


「……そう。ユジやシルムを操ったのはその魔導書の力だったのね」


 レゼフィーヌの問いに、リリアは高笑いを浮かべる。


「オーホホホホ、そうよ。最強の暗黒魔法をくらいなさい。あなたもすぐに私の奴隷にしてあげるわ!」


 リリアは漆黒の魔法書に魔力をこめ始めた。

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