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妹を呪ったと森に追放されたいばら魔女は、なぜか王太子に執着されています  作者: 深水えいな
第五章 魔女の決闘

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47.パーティーのはじまり

 そして、待ちに待ったアリシア家でのパーティーの日がやってきた。


 車輪の音が次々に響き、各々の家の財と格式を示すように装飾の施された豪華な馬車が次々とアリシア侯爵の城の前に停まる。


 メイドや執事たちが一列に並び、深々と礼をしながら出迎えたのは、燕尾服やドレスを身にまとった来賓たちだ。


 贅を尽くした豪華なドレスを身にまとい、噂話に花を咲かせる貴婦人たち。


 一方紳士たちはにこやかに会釈を交わし、人脈を広げ商談や政局を有利に進めようと必死な様子だ。


 だがそんな客人たちのなかでも一層目を引いたのは、侯爵の横に立って来客を出迎えるレゼフィーヌとシルムであった。


 レゼフィーヌが身にまとった上品な光沢を放つ濃いローズレッドのドレスは、胸元には薔薇の花があしらわれ、華奢な腰元には金で細かくいばらの模様が入っている。


 ウエストからは金に縁どられたフリルが重なり、今まさに開こうとしている薔薇の花弁を思わせる。


 人々を驚かせたのはレゼフィーヌのドレスばかりではなかった。


 月の女王のように白く滑らかな肌。薔薇の花が飾られたまばゆいばかりの光を放つ美しい金髪。海の底を思わせる神秘的な瞳の濃いブルー。


「絶世の美女だ……」


「あんな美しい人、今までどこに隠していたんだ?」


「これはシルム殿下も夢中になるわけですなあ」


 客人たちが、次々にレゼフィーヌとシルムに声をかける。


 今日は「体を壊し田舎で静養していたレゼフィーヌの帰還パーティー」と言う名目で人々が集められたが、実質はレゼフィーヌとシルムの婚約お披露目パーティーだとここに来る皆が分かっているようだった。


 来客の言葉に、シルムとレゼフィーヌは上品に笑い、侯爵は誇らしげに胸をそらした。


 そうしてレゼフィーヌとシルムがしばらく客人の相手をしたところで、弦楽四重奏の奏でていた音楽がゆったりとした曲から軽やかなワルツへと変わった。


「少し踊ろうか」


 シルムがレゼフィーヌへ手を伸ばす。


「えっ? でも私、ダンスなんてしばらく踊ったこともないのよ」


 レゼフィーヌは戸惑い、視線をそらした。


 森に追放されてからというもの、レゼフィーヌは七年間ダンスを踊ったことはなかった。


 追放前はみっちり家庭教師が付いてダンスを教えられてはいたけれど、それは遠い過去の話だ。


 今は全くダンスの腕前には自信がなかった。


「でも基礎は分かるんだろう? なら大丈夫だよ」


 シルムの言葉に、しぶしぶレゼフィーヌはシルムの手を取った。


 相手は王太子殿下だし、自分たちは婚約者同士だ。ダンスの誘いを断るのもおかしい。


 緊張で背中が固くなるレゼフィーヌに、シルムは優しい声で言った。


「僕がリードするから任せて。レゼはただ流れに身を任せていればいい」


 レゼフィーヌは小さくうなずいた。


「ええ。任せるわ」


 華やかな音楽が広間に響き渡る中、シルムの手がレゼフィーヌの手をしっかりと包み、もう片方の手は彼女の背中に優しく添えられる。


 シルムの堂々としつつも気遣いに満ちた動きに、最初は緊張していたレゼフィーヌも自然と肩の力が抜け、彼のリードに身を任せて踊り出した。


 ――良かった。体が自然と覚えていたみたい。思っていたよりも踊れるわ。


 レゼフィーヌはほっと胸を撫でおろした。


 二人のステップは息がぴったりと合い、まるで何年も一緒に踊っているかのように見えた。


 ――シルムのリードが上手いおかげね、きっと。


 レゼフィーヌは昔習っていたダンスの先生の言葉を思い出した。


 ダンスの上手い人はたとえパートナーが下手でも上手くリードして踊りが上手いかのように見せてくれる。


 その人物の腕前は、黙ってみているだけよりも実際に踊ってみればすぐに分かると先生は言っていた。


 きっと、シルムも毎日血のにじむような努力をしてこのダンスの腕前を身に着けたのだろう。


 ――と、レゼフィーヌがすっかり感心していると、急に慣れないヒールに足がもつれた。


「きゃっ……」


 シルムは倒れそうになったレゼフィーヌの腰をぐっと引き寄せ、体勢を立て直す。


 互いの距離が、息遣いが聞こえるほどに縮まった。


「大丈夫かい?」


 シルムが小声で囁く。シルムのグリーンの瞳の中に、戸惑い恥じらうレゼフィーヌの姿が映った。


「あ……ありがと」


 レゼフィーヌの頬がかすかに紅潮する。


 レゼフィーヌは恥ずかしさを隠すようにそっぽを向くと、こうつぶやいた。


「やっぱりダンスは慣れないわね」


「いや、上手だよ」


 シルムは優しく微笑むと、曲に合わせてくるりとステップを踏む。


 それに合わせてレゼフィーヌの体も自然に回転した。


 レゼフィーヌのドレスがふわりと広がり、薔薇の花弁のように艶やかな曲線を描く。


 会場にいた人々はこの絵画のように美しい一瞬に、一気に惹きつけられた。


 宵闇に咲き誇る薔薇。その芳醇な香りが会場全体に広がるような錯覚すら受ける。


「まあ……」


「素敵、お似合いね」


 会場からため息が漏れる。


 来賓たちは、婚約したばかりの若い二人のダンスにすっかり魅せられていた。

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