44.透明ローブ
城に帰ったレゼフィーヌは、魔女の店で買った――というより無理矢理買わされた玉虫色のローブをさっそく試着してみることにした。
「思ったよりもよさそうだわ」
鏡の前に立ち、ローブを体に当ててみるレゼフィーヌは、上機嫌にくるりと一回転をした。
「なんか……思っていたより派手だね?」
シルムはというと、レゼフィーヌが手に持っている玉虫色に輝く緑のローブを見て目を丸くした。
魔女のローブは黒か紫というのが昔からのイメージであるし、確かに普通に着るには派手すぎる色とデザインだ。
「うふふ、そうでしょ。でも見ていて」
レゼフィーヌはローブを羽織り、くるりと一回転した。
すると瞬く間にレゼフィーヌの姿が消え、透明になる。
「えっ」
シルムが驚いていると、レゼフィーヌがフードを取った。たちどころに彼女の顔が現れる。
「これは『カメレオンのローブ』って言うらしいわ」
誇らしげに言うレゼフィーヌであったが、首から下は透明なままなので、まるで生首が宙に浮いて喋っているようだった。
「す、すごいね」
シルムがあっけにとられていると、レゼフィーヌはクスリと笑った。
「これ、ポーラの部屋にこっそりと行くのに使えそうじゃない?」
「まあ、確かに他の人に見つからずに部屋の出入りはできそうだけど……でも突然訪ねていってポーラがびっくりしないかい?」
シルムの問いに、レゼフィーヌは透明マントをたたみながら答えた。
「それなら大丈夫よ。実はハンナに頼んでポーラにこっそり手紙を送っていたの。直接会って話がしたいって」
初めは返事が来なかったからダメかと思っていたレゼフィーヌであったが、それがつい先ほど返事が来たのだという。
レゼフィーヌがシルムに白い便箋に入った手紙を見せる。
そこには『レゼフィーヌお姉様にぜひお会いしたいです』という返事が書かれていた。
「それで、これからポーラに会いに行くことにしたの」
レゼフィーヌは再びローブを身に着けた。その姿が一瞬だけ消えては現れる。
「これからかい?」
「ええ。今の時間ならだれも面会に来ないそうよ」
だが前みたいに侯爵夫人やリリアの邪魔が入っては面倒なので、いざという時のためにこのローブで身を隠そうというわけだ。
レゼフィーヌは眉を寄せると心配そうにつぶやいた。
「こんなに長く部屋から出られないだなんて、ポーラが心配だわ。早くポーラの『呪い』をなんとかしないと」
レゼフィーヌはフードをすっぽりと被った。
レゼフィーヌの顔が、きれいさっぱり消えて無くなる。
「それじゃ、行ってくるわね」
レゼフィーヌの声とともに、キィと小さい音がしてドアが開く。
知らない人から見たら、まるで風が吹いて自然とドアが開いたかのように見えただろう。
「行ってらっしゃい」
シルムはレゼフィーヌのいるであろう方向に声をかけた。
だが、その声が本当にレゼフィーヌに聞こえていたかどうかはまるで分らなかった。
***
レゼフィーヌは、カメレオンローブを身にまとったまま、音を出さないように慎重に廊下を歩いた。
お目当てのポーラの部屋の前には誰もいない。
レゼフィーヌは少し緊張で手がすくんだものの、意を決してドアをノックし、部屋に入った。
部屋の中にいたのは、ベッドに横たわり本を読む金髪の少女だった。
細い髪を三つ編みにし、頬にはそばかすが浮いている。
一見、おとなしく気弱そうではあるが、その青い瞳には、強い意志が宿っているように思えた。
「こんにちは」
レゼフィーヌが部屋のドアを開けローブを取ると、ポーラはびっくりしたように目を見開き、身をよじらせた。
「……も、もしかしてレゼフィーヌお姉様?」
あまりにもびっくりして声も出なかったのだろう。
ようやく吐き出した言葉は小さくかすれていた。
レゼフィーヌはポーラを安心させるよう、ゆっくりと穏やかな口調で話しかけた。
「ええ。私の手紙に返事をしてくれてありがとう。お継母様やリリアに見つからないように、この魔法のローブで身を隠して来たの。びっくりさせてごめんなさいね」
「いえ……ちょっとびっくりしちゃって。こちらこそごめんなさい」
レゼフィーヌは七年ぶりに会う妹をじっと見つめた。
七歳になったのポーラは金髪に青い瞳のせいか、侯爵夫人やリリアよりもかえって異母姉妹であるレゼフィーヌに似ているような気がした。
アリシア侯爵も侯爵夫人も金髪なのでポーラが金髪碧眼でもおかしくはないが……。
見た目だけじゃない。心の奥底の魂の部分が似ている部分があるのかもしれない。
レゼフィーヌは直感でそう思った。




