42.ふたりの買い物
レゼフィーヌの視線を受け、シルムも優雅なしぐさでコニーに挨拶をした。
「レゼフィーヌさんの婚約者のシルムと申します」
シルムの紹介を聞いて、コニーはよろめいて机に肘をついた。
「シ、シルムって……シルム殿下!? この国の王太子の⁉」
「ええ、そうなの」
レゼフィーヌが口を隠し微笑むと、コニーはずり落ちた眼鏡を直しながら叫んだ。
「おやまあ、そうでしたか。美男美女で、とってもお似合いですよ!」
コニーはぴょこんと飛び跳ねると、奥から抱えきれないほどの宝石を出して来た。
「お嬢様、この色にしたいというのはありますか?」
「いえ、特には。ただドレスがローズレッドだからそれに合うものが欲しいわ」
すると、シルムが窓際の商品をじっと見つめているのが目に入って来た。
「何か気になる商品でもあったの?」
レゼフィーヌがシルムの手元をのぞきこむと、そこには赤い薔薇の髪飾りがあった。
光沢のある記事を何枚も重ねて作られた薔薇の花びらは繊細で、そこから雨のしずくのように真珠やルビー、ダイヤモンドが垂れ下がっている。
「わあ、綺麗ね」
「うん。これ、レゼに似合うんじゃないかなって思って」
「どうぞ、つけてみてください」
コニーに薦められ、レゼフィーヌは薔薇の髪飾りに手を伸ばした。
「どうかしら」
レゼフィーヌが薔薇の髪飾りをつけると、シルムはじっとレゼフィーヌを見つめた。
「うーん、そこでも良いけど」
シルムはレゼフィーヌの髪に手を伸ばす。
レゼフィーヌの体がピクリとわずかに震えた。
シルムはレゼフィーヌの光沢ある柔らかい髪の感触を楽しむかのように二度、三度と撫でると、耳の横の髪の毛を少し掬い取り、そこに薔薇の髪飾りを刺した。
「……うん、可愛い」
レゼフィーヌの顔を真っすぐに見つめて言うシルム。
レゼフィーヌの耳がほんの少し紅く染まった。
コニーがニヤニヤとその様子を見ていると、レゼフィーヌはごほんと咳払いをして、慌てて財布を出した。
「じゃ、じゃあこちらをいただくわね」
「僕が買ってあげるよ」
レゼフィーヌが何か言う前に、シルムは財布を出してさっさと支払いを済ませてしまう。
「僕の可愛い妻のためだからね」
まだ妻にはなっていないのだけれど……。
そう思ったけれど、レゼフィーヌは黙って頭を下げた。
「……ありがとうございます」
レゼフィーヌはなんとなく胸がこそばゆいような、くすぐったいような、妙な気分を感じたのだった。
シルムが髪飾りの会計を終えると、レゼフィーヌは、コニーに向かって尋ねた。
「ところで、この辺で魔女のローブや杖を買えるお店はあるかしら?」
「魔女のローブですか? お嬢様、相変わらず魔女びいきなんですね」
クスクスと笑うコニー。レゼフィーヌもにっこりと笑い返した。
「ええ。部屋でこっそりと魔女の衣装を着るのが何よりの楽しみなの」
それを聞き、シルムは少し吹き出しそうになった。
魔女の衣装を着るどころか、レゼフィーヌは今となっては「いばらの森の魔女姫」の二つ名をもつ高名な魔女である。
もちろん市井の人は侯爵令嬢がずっと森で魔女をやっていただなんて知る由もないのだから、コニーが知らなくても無理はないのだけれど。
「えーっと、魔女の店、魔女の店……ありました!」
コニーがレジ横の紙束の中から古めかしい名刺を取り出す。
「それでしたら、この『ネ・レーブ』というお店はいかがでしょう。噂によると、ローブや杖がたくさんあって、市内だけではなく国中から魔女が訪れるらしいですよ」
「そう。ありがとう」
レゼフィーヌはコニーから名刺を受け取り、住所を確認すると、さっそく『ネ・レーブ』へと向かった。
「魔女の店に行きたいだなんて、さすがレゼだね」
「まあね」
本当は魔女の店に行きたいのはポーラの誕生パーティーの際にあの場にいた魔女を探してポーラに呪いをかけた人物の手がかりを得ることだったのだけれど、シルムへそれを説明するのは面倒だった。
(一刻も早く、ポーラの呪いを解く手がかりが欲しいわ)
レゼフィーヌはシルムへの説明を後回しにし、足早に路地裏へと向かった。




