41.外出
そうして庭木の手入れを終えたレゼフィーヌが、部屋で汚れた服を着替えていると、不意にドアがノックされた。
「はい?」
ドアを開けると、そこに立っていたのはシルムだった。
「どうしたの? シルム」
レゼフィーヌは咄嗟に動揺を隠し、何も見ていないような顔をして出迎えた。
「いや、君の顔が見たくなって」
頬を赤くし、照れたように笑うシルム。
それを見たレゼフィーヌの頬も少しだけ薔薇色に染まった。
「そう」
「どこかへ買い物にでも行くの?」
薄化粧をし、綺麗に髪を結いあげたレゼフィーヌの様子を見てシルムが尋ねる。
「ええ。城下町へ買い物に行こうと思って」
レゼフィーヌが答えた。
シルムには端的に説明をしたけれど、本当の目的は他にあった。
それは、ポーラの誕生パーティーに呼ばれていた祝福の魔女たちを探すことだ。
ひょっとしたら、魔女たちの中にポーラに呪いをかけた犯人がいるかもしれない。探っておくに越したことはないだろう。
「わあ、面白そう。僕も行くよ。レゼと一緒に買い物したいし」
子犬のように微笑むシルム。
(全くもう。遊びに行くんじゃないのに)
頭を抱えるレゼフィーヌ。
その脳裏に、先ほど見たリリアの顔がちらついた。
(でも確かに、今、シルムを一人にして置くのも危ないかもしれないわ)
「いいわ。着いてきて」
レゼフィーヌが言うと、シルムは少し口角を上げて右手を差し出した。
「エスコートしますよ、お姫様」
レゼフィーヌはシルムの手を迷いなく取った。
「ええ、お願いするわ」
二人の視線が交わり、軽い笑みが交わされる。
出会った頃は甘ったれのお坊ちゃまだと思っていたけれど、今ではシルムはレゼフィーヌの頼もしいパートナーだった。
***
レゼフィーヌとシルムは、二人でアリシア侯爵の城を出ると、並んでゆっくりと城下町を歩いた。
レゼフィーヌは懐かしい気持ちで街の空気を吸いこむ。
石畳の道沿いには、橙色の煉瓦できた大きな家々が並び、軒先には赤や紫の花が小さく揺れている。
家々の合間には、ドレス店や帽子店、靴のお店などがポツポツと建っており、裕福な商人が綺麗に着飾った貴婦人の接客をしている。
小さいころはごみごみした町だとレゼフィーヌは思っていたけれど、久しぶりに見た城下町は、どこも新鮮に輝いて見えた。
「何の店を見たいんだい? ドレス? それとも宝石?」
「ちょっと待って――あそこよ」
レゼフィーヌは、その中の一軒の小さな仕立て屋の前で立ち止まった。
よく見ないと見落としてしまいそうなほど小さな木の看板には『コニーズハウス』と薄く細い文字で書かれている。
ここはレゼフィーヌの母親の代から贔屓にしている、宝飾品店だ。
カラン、コロン。
ドアを開けると、入り口の鐘が軽快に鳴る。
「こんにちは。コニーはいるかしら」
レゼフィーヌが呼びかけると、奥にいた赤毛にそばかす、丸眼鏡をかけた女性が顔を上げた。店主のコニーだ。
「おやまあ! 誰かと思ったらもしやレゼフィーヌお嬢様では!?」
「ええ、そうよ。もう十年も会っていないのによく分かったわね」
「そりゃあ、亡き奥様にそっくりですもの。本当にまあ、しばらくみないうちに美しく成長されて……」
コニーがハンカチで目を抑える。
「私も懐かしいわ。しばらく体を壊して田舎の親戚の家で静養していたものだから、王都は久しぶりなの」
「なるほど、そうだったのですか。それはそれは大変でしたね。それで、今日はどういった品をご所望でしょうか?」
レゼフィーヌはゆったりと髪をかき上げると、後ろに立っていたシルムに目線を送った。
「この方とパーティーに参加するから、今日はそこで身に着けるアクセサリーを新調したいと思って」
侯爵家に来るにあたり、女王からドレスもアクセサリーも借りてはきたのだが、高価すぎてつけるのも恐れ多いし、持ち歩くと紛失したり盗難される恐れもあるのであまり数は持ってこなかった。
そこでいくつかこの店で新調しようと思ったのだ。




