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妹を呪ったと森に追放されたいばら魔女は、なぜか王太子に執着されています  作者: 深水えいな
第四章 王都への旅立ち

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40.嫉妬の瞳

 レゼフィーヌが手を洗い、城の中に戻ろうとすると、シルムが慌てた様子で城の中から駆けてきた。


「レゼ、こんなところでどうしたの」


「薔薇がしおれていたので助けてあげていたのよ」


 レゼフィーヌは先ほど植え替えた薔薇の鉢植えを見せた。


「そっか。君は王宮でも花の手入れをしていたしね」


「ええ。でもそれだけじゃないわ。この薔薇の花は妖精の――」


 レゼフィーヌが説明をしようとそっと薔薇に触れた瞬間、指先にちくりと鋭い痛みが走った。


「痛っ――」


 見ると、指にぷくりと小さな赤い血がじんわりと滲んでいる。


「大丈夫?」


 驚いて指を引いたレゼフィーヌの元に、すぐさまシルムが駆け寄ってきた。


「血が出ているね」


 シルムは心配そうにレゼフィーヌの指先をのぞきこむと、無言でその指を引き寄せ、血の滲む指先に唇を寄せた。


 (――えっ)


 温かい息が触れる感覚。


 シルムはレゼフィーヌの指に着いた血をぬぐうようにゆっくりと舌を這わせると、潤んだ瞳が上目遣いにレゼフィーヌを見た。


「――っ!」


 レゼフィーヌは、自分でも抑えられないほど顔が熱くなり、頬が紅くなっていくのが分かった。


 その場から動けず、言葉も発せないほど固まってしまったレゼフィーヌ。


 唇を離したシルムは、いつもと変わらない優しい瞳でレゼフィーヌを見つめた。


「もう大丈夫だよ」


 そう言って微笑み、優しくレゼフィーヌの指を掌で包むシルム。


「あ……ありが……と」


 レゼフィーヌはぷいと横を向いた。


 (もう……何なのよ。急にそんなことされたらびっくりするじゃない)


 レゼフィーヌがふわふわとした気持ちで辺りの庭に目をやっていると、不意に誰かの絡みつくような視線を感じた。


 (――誰!?)


 振り返ると、そこにいたのはリリアだった。


 二人を見つめるリリアの顔を見て、レゼフィーヌは思わずギョッとしてしまう。


 口元がきつく引き結ばれ、鋭くぎらついた視線はまるで悪魔の様だ。


 そしてその背後にはどす黒く歪んだ影が陽炎のようにゆらゆらと揺らめいている。


「リリ――」


 レゼフィーヌはリリアに声をかけようとしたのだけれど、リリアは視線が合った瞬間、すぐに建物に身を隠してしまった。


「どうしたの、レゼ」


 シルムに心配そうに声をかけられる。


「――いえ、なんでもないわ」


 レゼフィーヌは目の前の薔薇に視線を戻した。



 リリアは一体どうしてしまったのだろう。


 ***


 城に再び朝日が昇り、鳥のさえずりが新しい一日をつげる。


 レゼフィーヌは豪華なつくりの客室用ベッドから起き上がり、大きく伸びをした。


「さて……」


 レゼフィーヌは考えこむ。


 レゼフィーヌの帰還パーティーまではまだ日にちがある。


 ポーラには侯爵夫人が出かけたタイミングを見計らってまた会いに行くとして、それまでどのように過ごしたらよいだろう。


 少し考えた結果、レゼフィーヌは久しぶりに帰る我が家の庭をもっとじっくり見て回ろうと考えた。


 昨日は薔薇の様子だけを見たけれど、他にも侯爵家の敷地内に植えてある植物はたくさんあるはずだ。


 ハンナによると、侯爵家に長年勤めていた腕利きの庭職人もやめてしまったようだし、庭の状態が気になるところだ。


 (決めた。今日は庭を見て回って痛んでいる植物があったら手入れしよう)


 レゼフィーヌは朝ご飯を食べ終わると、さっそく庭へと向かった。


 低木や果樹、宿根草などが植えられている裏庭をしばらく散策する。


 ところどころ枯れている枝はあったけれど、思ったより荒れてはいない。


 レゼフィーヌは腕まくりをし、庭の手入れ用の手袋を身に着けた。


「よいしょと」


 レゼフィーヌは庭木の伸びすぎた枝を切り、枯れていた葉や花を取りのぞいた。


 すっかり綺麗になった庭を見て、レゼフィーヌは満足げにうなずいた。


 後は肥料もあげたいところだけれど、どこにあるのだろう。


 少し考え、庭の奥に土やスコップ、プランターなどをしまっておく物置小屋があることを思い出した。あそこなら肥料も置いてあるかもしれない。


 レゼフィーヌが肥料を探しに物置小屋へと向かうと、どこからか声が聞こえてきた。


「ねえ、考え直してくださらない?」


「考え直すって、何をだい?」


 よく見ると、そこにいたのはリリアとシルムだった。


 ドキリと大きく心臓が音を立てる。


 レゼフィーヌは慌てて庭木に身を隠した。


 (どうして二人がここに?)


 レゼフィーヌが陰から見守っていると、リリアは髪をかき上げ、媚びるような上目遣いでシルムを見た。


「シルム殿下はお姉様みたいな野山を駆け回る野蛮な人に会ったことがないから新鮮に思っているだけ。私のほうがずっと都会的で洗練されてるし、この国の王妃の相応しいわ」


 甘ったるい声でシルの腕にしなだれかかるリリア。


 レゼフィーヌが息を飲みながら見守っていると、シルムが小さく息を吐いた。


「悪いけど、レゼ以外とは結婚する気はないよ」


 シルムはそう言うとリリアの腕を払いのけ、襟を整えた。


「そんな! あの女のどこが良いの⁉」


 目を大きく見開き、野良猫のように叫ぶリリア。


 シルムは笑顔を作ってこう答えた。


「君がどう思おうと、彼女は僕にとって特別な女性なんだ」


「そんな……」


「話ってそれだけかい? それなら僕は行くから、それじゃ」


 リリアの話に全く取り合わず、去って行くシルム。リリアはぎりりと歯を食いしばった。


 レゼフィーヌはその場を静かに立ち去ると、庭木の手入れに戻った。


 胸がほわりと暖かくなり、とくんとくんと心地よい音を立てる。


 (シルム、ありがとう)


 レゼフィーヌは心の中で小さくシルムに感謝した。

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