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妹を呪ったと森に追放されたいばら魔女は、なぜか王太子に執着されています  作者: 深水えいな
第四章 王都への旅立ち

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36.侯爵家からの招待状

「レゼフィーヌ、レゼフィーヌ、どこだい?」


 緑に囲まれた静かな庭園に、シルムの柔らかな声が響く。


 レゼフィーヌははっと顔を上げた。


「私はここよ」


 茂みの中からガサリと顔を出すレゼフィーヌに、シルムは驚いた顔をする。


「こんなところで何をしているんだい?」


「薔薇のお手入れよ。ここにあった薔薇が、少し元気がないみたいだったから肥料を上げて少し選定したの」


 レゼフィーヌは手についた土を軽く払いながら、足元の薔薇へと視線を落とす。剪定された枝はすっきりと整えられ、弱っていた葉もすでに生気を取り戻しつつあった。


 レゼフィーヌが城にやってきてから三日が経った。


 王宮の中は巨大で、高い天井の廊下、迷路のような回廊、豪奢な部屋や調度品、見事な絵画の数々――どれもレゼフィーヌにとっては新鮮で、歩いているだけで時間を忘れるほどだった。


 だけれど、最初のうちは、広大な城内を興味のままに歩き回り非日常を楽しんでいたレゼフィーヌだったが、やがてその非日常にも慣れてしまった。


 そんな時、窓の外に広がる庭園が目に入り、風に揺れる薔薇の様子が気になってここに来てみたというわけだった。


「相変わらずだなあ、君は」


 そう言ってシルムは笑う。その声音には呆れよりも、どこか愛おしさが滲んでいた。


 彼はゆっくりと歩み寄り、レゼフィーヌの手元の薔薇を覗き込む。整えられた枝先を見て、小さく感心したようにうなずいた。


「結婚したら、君専用の庭を用意するよ。そこで好きなだけ庭木の手入れをするといい」


「ありがとう、嬉しいわ。それより、何か用があったのではなくて?」


 レゼフィーヌがシルムの手元に視線をやる。そこには侯爵家の紋様の入った封筒があった。白地の封筒には赤い紋様が鮮やかに浮かび、嫌でも目を引く。


「ああ、侯爵からだ。婚約を祝して晩餐会を開くからぜひ来ないかってさ」


 シルムは封筒を軽く掲げて見せる。


 それを見て、レゼフィーヌの表情が少し曇った。


「いったいどういうつもりかしら」


「断るかい?」


「いえ、行くわ。断る理由もないもの。それに、お父様に一言も言わず嫁ぐのも何だかおかしいし」


「そうか。なら出席すると返事をしておくけれど――」


 シルムはちらりとレゼフィーヌの顔を見た。


「くれぐれも、無理はしないでくれよ」


「ええ、大丈夫よ」


 シルムが居なくなると、レゼフィーヌは少し雲のかかる空を見上げた。


 またあの継母やリリア、自分を森に追放した父親と顔を合わせるのかと思うだけでレゼフィーヌは気が重くなった。


 何か理由を付けて晩餐会を欠席しても良かったのかもしれないが――。


 けれどレゼフィーヌには一つだけ気がかりなことがあった。


 七年前のお披露目パーティーの日、赤ちゃんだったポーラにまとわりついていたあの黒い瘴気のことだ。


 あの瘴気からポーラを守るため、レゼフィーヌは薔薇の精霊を授けて加護を与えたのだけれど、あれはもう七年も前のことだ。


 (あの加護は……今でもちゃんと続いているかしら)


 ひょっとしたら薔薇の妖精の力が弱まってきているのかもしれないし、当時のレゼフィーヌは十歳だったから力が不十分だったのかもしれない。


 今のレゼフィーヌならばもっと強い防御魔法を張ったり、あるいはあの瘴気を追い払うことも可能かもしれない。


 (城に戻って、ポーラの様子を見たいわ)


 レゼフィーヌは、固く拳を握りしめた。





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