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妹を呪ったと森に追放されたいばら魔女は、なぜか王太子に執着されています  作者: 深水えいな
第四章 王都への旅立ち

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35.リリアの嫉妬

 王妃は嬉しそうに目を細めると、ぐいっとレゼフィーヌの腕を引いた。


「着て! あなたに着せたいドレスがたくさんあるの!」


 連れて行かれた衣裳部屋は、まるで宝石箱のようだった。


 壁一面に並ぶドレスは色とりどりで、シルクやレースが光を受けてきらめいている。


「これも素敵だし、こっちもいいわあ」


 王妃は次々にドレスを取り出し、レゼフィーヌに当てていく。そのたびに布の感触が変わり、ふわりと香る上質な香りが鼻をくすぐる。


 ぽかんと立ち尽くすレゼフィーヌの手に、やがて一着のドレスが渡された。


 薔薇をあしらった、深みのあるローズレッドのドレスだった。繊細な刺繍が施され、光の角度によって微かに表情を変える。


「決めた。今日のドレスはこれにしましょうよ、ねっ」


「は、はあ……」


「じゃあ、決まりね!えーっと、靴はこれがいいかしら? あらやだ、あのルビーのイヤリングとネックレスはどこに行ったかしら?」


 王妃が慌ただしく動き回ると、すぐに侍女たちが集まり、部屋は一気に賑やかになる。


 気がつけば、レゼフィーヌは鏡の前に立たされ、次々と手際よく支度を整えられていた。


 柔らかな布が肌を包み、髪は丁寧に整えられ、宝石がそっと添えられる。


「いやーん、凄く似合うわ! 私ね、息子しかいないじゃない? だからずーーっと女の子にドレスを着せるのが夢だったのよォ!」


 鏡越しに王妃が満足そうに微笑む。


「そ、そうだったのですね……」


 レゼフィーヌは苦笑しながらも、その言葉に少しだけ胸が温かくなる。


 こうして着替えを終えたレゼフィーヌは、晩餐会の会場へと向かった。


 広間には豪奢なシャンデリアがいくつも輝き、長いテーブルには色とりどりの料理が並んでいる。


 香ばしい香りや甘い香りが混ざり合い、思わず息を呑むほどだった。


 一口食べれば、素材の旨味が口いっぱいに広がり、思わず目を見開いてしまう。


 侯爵家で育ったレゼフィーヌですら、これほどの料理は初めてだった。


 (でも良かった。国王陛下と女王陛下がどういう反応をなさるかと思っていたけれど、お二人ともとっても優しいし、一応は歓迎されている……のかな?)


 グラスに映る自分の姿を見つめながら、レゼフィーヌはそっと微笑む。

 胸の奥にあった不安は、いつの間にか綺麗に消え去っていた。


 ***


 王太子シルムが侯爵令嬢のレゼフィーヌと正式に婚約したという噂は国中を駆け巡った。


 王都の大通りでは新聞売りの少年たちが声を張り上げ、貴族の社交場では扇子の陰でひそやかな囁きが交わされる。市場の片隅にさえその話題は届き、人々は口々に驚きと興味を露わにしたのであった。


 そしてその噂は、やがてアレスシア家の侯爵や侯爵夫人、妹のリリアにまで届くのであった。


「一体どうなってるのよ、お父様!」


 重厚なカーテンに閉ざされた侯爵家の執務室


 磨き上げられた机に整然と書類が並び、いつもならば静寂が支配しているはずの部屋に、甲高い叫び声絵が響いた。


「いったいどうしたんだい、リリア」


 おろおろと慌てる侯爵に、リリアはレゼフィーヌとシルムが正式に婚約したという新聞記事を執務室の机に叩きつけた。


「シルム殿下の婚約者は私に決まったのではなかったの!? 何で森にいるはずのお姉様がシルム殿下の婚約者なのよ!」


 金切声を上げるリリアに、侯爵は困惑した様子で答えた。


「私は婚約者はレゼフィーヌよりリリアがふさわしいと、ちゃんと殿下に申し入れたぞ。しかし、殿下がどうしてもというのだから、こちらが勝手に決めるわけには……」


「そんな! なんとかならないの!?」


 地団太を踏むリリア。すると執務室のドアが小さく音を立てて開き、侯爵夫人のアビゲイルが部屋に入って来た。


「話は聞きましたわ」


 アビゲイルは静かな声でそう告げると、ゆっくりと部屋の中へ進み、父娘の前に立った


「アビゲイル……」


「ねえ、あなた、シルム殿下とレゼフィーヌをうちの晩餐会に呼ぶのはどうかしら? シルム殿下に直接リリアとレゼフィーヌを見比べて、その上でもう一度判断してもらえばいいわ。レゼフィーヌだって、久しぶりに実家に戻って家族の顔を見たいはずだわ」


 その提案に、リリアはぱっと顔を輝かせる。


「そ、そうよ! 実際に見比べれば、どちらが将来の女王にふさわしいかはっきりするはずだわ!」


「ふむ、そうだな。さっそく王宮に文を送ろう」


 侯爵はゆっくりとうなずくと、席を立ち、重厚な戸棚へと向かう。扉を開けると、中から上質な便箋と万年筆を取り出した。


 机に戻り、椅子に腰を下ろすと、静かにペン先を走らせる。その音が、やけに大きく室内に響いた。


 リリアとアビゲイルは顔を見合わせると、そっと微笑み合った。


「そうよ……直接会えば、きっと私を花嫁にと言ってくださるはずだわ。直接会えば……ね」


 リリアの言葉に、アビゲイルは小さくうなずき、扇子で口元を隠した。


 その瞳の奥では、静かに策略の炎が揺れていたのであった。



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