33.王都への道
ユジと別れたレゼフィーヌたちは王都へと向かう馬車を借りることにした。
乗合馬車もあるけれど、再び襲われる心配を考えたらやはり貸し切りのほうが都合が良い。
「でも、馬車の運転はどうするんだい?」
シルムが首をかしげると、レゼフィーヌは馬車の運転席に道端で摘んだ小さなすみれの花を置き、口の中で素早く呪文を唱え、指で円を描いた。
すると、馬車の運転席に髭の生えた紫の髪の男が現れた。
「これは――」
「精霊魔法よ。目的地さえ教えてあげれば、後はこのすみれの妖精が自動で運転してくれるわ」
「へえ、すごいね。魔法でそんなこともできるんだ」
二人は古びた馬車に乗りこんだ。
「それにしても、ユジを魔法で操った人物は誰なのかしら」
レゼフィーヌが額に手を当て考えこむ。
思い出されるのは、聖水を汲みに行った日、誰かに魔法で後ろから押されたような気配がしたことだ。
あの時はシルムに助けられたから助かったが、ひょっとしたら死んでいた可能性だってある。
ひょっとして自分は、命を狙われているのだろうか?
「心当たりはない?」
「私に恨みを持つ人物……とするとお継母様とリリイかしら。私が妹のポーラに魔法をかけて呪ったと思ってるから恨んでいるのかもしれないわ」
レゼフィーヌが言うと、シルムはうーんと上を向いて考えだした。
「そうかもしれないね」
少し煮え切らない返事をするシルム。
「どうしたの。何か気になることでもあるの?」
レゼフィーヌが尋ねると、シルムは口を引き結んでうなずいた。
「気になることと言うか、そもそもポーラ姫様に呪いをかけたのは誰なんだい?」
「それは分からないわ。産まれたばかりの赤ん坊に恨みを持つ人なんて思いつかないもの」
「侯爵が誰かに恨みを買っていたということはない?」
「さあ……国家の中枢にいるし、お父様には敵はたくさんいると思うけれど……。あとは、あの日祝福を授けた魔女の中にお父様の愛人がいたとか?」
「それはありそうかもね」
「それから気になるのはお抱え魔導士のゼンかしら」
「侯爵家のお抱え魔導士が怪しいのかい?」
シルムの問いに、レゼフィーヌは神妙な顔でうなずいた。
「ええ。思えばあの時、ポーラが呪われているのは明らかだったのにゼンはそれを認めず、結果的に私は追放されたわ」
「そうか。でもユジが出会ったのは女性だったんだよね?」
「そうなのよね。ゼンが魔女を雇ったりグルになっている可能性もあるけれど」
ポーラが産まれた時に祝福の魔女を手配したのは侯爵家お抱え魔導士のゼンのはず。
だとするとゼンと魔女のあいだにコネクションがあってもおかしくない。
「まずはその辺りを調べてみないとね」
***
レゼフィーヌたちがそんな話をしていると、しばらくして、馬車は無事に王宮に到着した。
「失礼いたします。婚約者のレゼフィーヌ嬢をお連れいたしました」
重厚な扉の前で、シルムは背筋を伸ばし、いつもより一段低く落ち着いた声でそう告げた。
扉には繊細な金細工が施され、王家の紋章が静かに光を受けている。その前に立つだけで、空気が一段と張り詰めるようだ。
「よろしい、入れ」
低く重厚な声が、分厚い扉越しにもはっきりと響いてきた。
レゼフィーヌはびくりと肩を震わせ、思わず指先に力を込めた。ドレスの裾を握る手がわずかに震える。
「大丈夫」
すぐ傍で、シルムがそっと囁く。彼はさりげなくレゼフィーヌの肩に手を添え、支えるように軽く引き寄せた。
見上げると、優しく細められた瞳と目が合った。その落ち着いたまなざしに、レゼフィーヌの緊張はほんの少しだけほどける。
二人は小さくうなずき合い、ゆっくりと扉を押し開けた。




