24.料理
まさかこの短期間でここまでエマ婦人に気に入られるだなんて思ってもみなかった。いったいどんな手を使ったのだろう。
レゼフィーヌが疑問に思っていると、シルムがニコニコしながらやって来た。
「あ、そうだ。レゼにご飯を作ったんだった。食べるかい?」
レゼフィーヌびっくりしてエマ婦人の顔を見た。
「おばさま、シルムにお料理までさせたの!?」
エマ婦人は肩をすくめた。
「だってシルムくんがどうしてもやりたいって言うから」
「でもシルムは王子様――王太子殿下なのよ」
レゼフィーヌが戸惑っている間にも、シルムはてきぱきとリゾットを温め、お椀によそった。
「僕がやりたいって言ったんだよ。何かあった時のためにも一人で色々できるようになりたいしね」
「そ、そう」
まあ自分でやっただなんて言っても、実際にはエマおばさまもアレクもいるし、ほとんど二人にやらせたに違いない。
レゼフィーヌはそんな風に考え、目の前のお皿を見た。
見た目は普通の卵リゾットに見える……というか、料理初心者の人が作ったとは思えないほど美味しそう。
「食べてもいいかしら」
レゼフィーヌが恐る恐る尋ねると、シルムが笑顔でうなずく。
「どうぞ」
レゼフィーヌが一口食べてみると、優しい味がしてとても美味しい。
「わあ、すごく美味しい」
「だろう?」
ニコニコと嬉しそうな顔をするシルム。
ふとレゼフィーヌがシルムの指を見ると、何ヶ所か包帯を巻いているのが見えた。
朝見た時はあんな怪我無かったはずだ。聖水を汲みに行った時に怪我したのだろうか。それとも……。
「もしかしてそれ、包丁で怪我したの」
レゼフィーヌがシルムに尋ねると、シルムは照れたように指先を隠した。
「うん。恥ずかしいけどね」
「どうして。部下がいるんだからやらせれば良いじゃない」
「僕はレゼのために自分で作りたかったんだよ」
二人のやり取りを聞いて、アレクが肩をすくめる。
「私も止めたのですが、殿下は自分でやると言って聞きませんでしたから」
「そうなの?」
まさかシルムが自ら包丁を握るだなんて思ってもみなかった。
(全く、馬鹿なんだから)
結局、レゼフィーヌはシルムの作ったリゾットを全部平らげた。
暖かい食事が胃に収まると、レゼフィーヌの気持ちもだんだん落ち着いてきた。
「ごちそうさま」
「おかわりはいい?」
「うん、大丈夫」
レゼフィーヌが答えると、シルムの腕がすっと伸びてきて、レゼフィーヌは目をつぶった。
シルムの大きな手のひらがレゼフィーヌの額の上に置かれる。
「うん、まだ熱があるみたいだね。寝ていたほうがいいよ」
熱を測られるのは二度目なのに、どうにもシルムに触れられるのは慣れない。
「え……ええ。そうするわ」
レゼフィーヌはしどろもどろになりながら答えた。
「午後からは畑に野菜の様子を見に行くからあんたは寝てな」
エマ婦人がレゼフィーヌに薬を手渡す。
「分かったわ」
レゼフィーヌは大人しく薬を飲むと、部屋に戻ることにした。
風邪のせいか、体が妙に火照る。
レゼフィーヌはみんなのいる部屋から離れ、一人ひんやりとした廊下に出た。
「はあ……」
大きく息を吸い込み呼吸を整える。
今は自分が倒れてエマ婦人が大変だから少しの間彼らにはいてもらおう。
(だけれど、調子がよくなったら絶対に王宮に帰ってもらわなくちゃ)
レゼフィーヌは、これまで森で悠々自適な毎日を送ってきたつもりだった。
だけど、シルムたちが来てからどうも自分のペースが乱されているように感じる。
(これ以上自分たちの静かな生活をかき乱されたらたまらないわ。絶対に長居なんてさせないんだから!)
レゼフィーヌがそんなことを考えていると、不意に居間のドアが開いた。
出てきたのは、眉間にしわを寄せたアレクだった。
「――アレク……さん」
レゼフィーヌは顔を上げた。




