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妹を呪ったと森に追放されたいばら魔女は、なぜか王太子に執着されています  作者: 深水えいな
第三章 いばら森の来客

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22.魔女の城

「ここよ」


 シルムとアレクがレゼフィーヌの張った黒いいばらの結界を見て目を丸くする。


「すごいな、どこから入るんだい?」


「こっちよ。今、結界を解除するから」


 レゼフィーヌが指を振ると、いばらは門が開くように左右に分かれ、城までの道ができた。


「これ、本物のいばらなの?」


「そう。魔法で操っているの。人間は滅多に来ないけど、野生動物や魔物が畑の野菜を狙って来たりするのよね」


「畑……野菜……そうなんだ」


 シルムがキョトンと目を丸くする。


 城で野菜を育てる侯爵令嬢なんてそうそういない。ひょっとして幻滅しただろうかとレゼフィーヌはシルムの顔を見た。


「がっかりした?」


「ううん。君らしいね。変わってなくてよかった」


 レゼフィーヌの予想に反し、シルムは心底おかしそうに笑った。


 レゼフィーヌはいばらに手をかざし、結界を解除する呪文を唱えた。


「――解」


 いばらが門のように左右に開く。


「さ、入って」


「わあ、すごいね。これ全部魔法で動かしてるんだ。どういう仕組みになっているのかな」


 物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回すシルム。


 レゼフィーヌは黙って城のドアを開けると、奥で薬草の調合をしていたエマ婦人に声をかけた。


「エマおばさま、帰ったわよ」


 エマ婦人が薬瓶を取る手を止め顔を上げる。


「お帰りなさい。……あら、お客様?」


「ええと、この方はシルムと言って私が川に落ちたところを助けてくださったの。こちらはその従者のアレクさん」


 レゼフィーヌが端的に説明すると、エマ婦人は笑顔で手招きした。


「そう、命の恩人ね。どうぞ、ゆっくりしていってね」


「はい、ありがとうございます」


「お気遣い感謝いたします」


 シルムとアレクが頭を下げる。


 レゼフィーヌたちは濡れた服を着替えると、改まって話をすることになった。


 四人で丸いテーブルを囲み、全員分のお茶とクッキーが配られる。


 レゼフィーヌが息を飲み、シルムの顔を見つめていると、シルムくるりとエマ婦人の方へ向き直った。


「エマ婦人、僕はセレスト国第一王子のシルムと申します。突然ですが……お嬢さんを僕に下さいっ!!」


 シルムはそう言うなり、勢いよくエマ婦人に頭を下げる。


 レゼフィーヌは思いもしなかった展開に、思わず椅子からずっこけそうになった。


「……はあ!? ちょっと待ちなさいよ。私はあなたと結婚なんてしないってば!」


 語気を強くするレゼフィーヌ。


「そうですよ」


 渋い顔をしたアレクも割って入る。


「我々の目的はあくまでも魔法学園の講師を探すことで、嫁探しではありません」


「似たようなものじゃないか」


「全然違います!」


 シルムとアレクが言い争いをしていると、エマ婦人は神妙な顔でうなずいた。


「ふうん、良いんじゃないの? レゼ、あなた、この人と結婚したらどうだい」


「えっ」


 あまりに軽い物言いに、レゼフィーヌはびっくりしてエマ婦人の顔を見た。


「エマおばさまったら、何を言っているの?」


 エマ婦人は少女のように顔を赤らめ、熱っぽく語る。


「だって、命の恩人の王子様に求婚されるだなんて、まるで少女向けの恋愛小説みたいじゃないか。ああ、なんて素敵なんだろう。こんな機会は滅多にないよ!」


 (……そういえば、エマおばさまって無類の恋愛小説好きだったわね)


 レゼフィーヌはリビングに並ぶピンクの背表紙の少女小説の数々を見つめ、大きなため息をついた。


 エマ婦人はゆっくりと紅茶を飲み干すと、こう付け足した。


「それにレゼは基本的な魔法もあらかた覚えたし、もう私が教えるようなことはほとんどないよ。それにあんたはまだ若いし、こんな森の奥にいてはもったいないだろう。一度王都に戻ってみるのも良いんじゃないかい」


 エマ婦人の言葉にレゼフィーヌは慌てて立ち上がった。


「そんな。そりゃあ私だってちょっとは魔法を使えるようになったけど、まだまだ学ぶこともたくさんあるわ。第一私はここの暮らしが好きなの。絶対に嫌!」


「でも相手は王子様だよ。シルム殿下がわざわざあなたをお嫁さんにと言っているのに」


「殿下には他にもっとふさわしい人がいますわ。大体シルム殿下はリリアと婚約していたはずなのに!」


 憤慨するレゼフィーヌに、エマ婦人は優しくレゼフィーヌの肩に手を置いた。


「まあ、今はとりあえず難しいことは後にしてご飯にしましょ。二人にも今夜は泊まっていってもらうといいわ」


「……はい」


 レゼフィーヌは到底納得できなかったが、とりあえずうなずいた。


 晩ご飯のシチューはちょうど四人食べても余るだけの量がある。


 四人で夕食を囲むと、レゼフィーヌとエマ婦人は、城の空き部屋を片付けてシルムとアレクの泊まる部屋を作ることにした。


 レゼフィーヌは胸の中にモヤモヤしたものを抱えながらもシルムのベッドを整えた。


「これでどうかしら。ベッドが少し硬いけど、シーツも布団も清潔だし寝られると思うわ」


 白いシーツと布団はお客様用にと用意してから一度も使われていない綺麗なものだが、王宮にあるベッドと比べたら質素すぎるだろうか。


 レゼフィーヌがチラリとシルムの顔を見ると、シルムは感激したように目を潤ませ深々と頭を下げた。


「レゼ、ありがとう」


 シルムの甘いグリーンの瞳がじっとレゼフィーヌの顔を見つめる。


「……何かしら」


 ひるむレゼフィーヌに、シルムがそっと手を伸ばす。


 レゼフィーヌの心臓が大きな音を立てた。


 シルムの手がレゼフィーヌの頬に少し触れる。


 ――えっ?


 レゼフィーヌが思わず目をつぶると、シルムの手はレゼフィーヌの前髪を少し撫で、額の辺りでぴたりと止まった。


「大丈夫? 顔が赤いよ。熱があるんじゃないの」


 シルムの言葉に、レゼフィーヌは慌てて自分の額に手を置いた。


「ね、熱っ?」


 言われてみると、確かに顔のあたりが少し熱いような気もした。


「ああ。川に落ちたからね、きっと。今夜は早めに寝るわ。おやすみなさい」


 レゼフィーヌは慌ててシルムから離れると、口元に笑み作り、急いで部屋から出た。


 ゆっくりと扉を閉め、レゼフィーヌは細く息を吐く。


 ――びっくりした。


 レゼフィーヌの胸が荒波のように激しい音を立てる。


 先ほどシルムが触れた額に手を当て、レゼフィーヌは自分の体温を感じた。


 全身が火照るように熱い。やはりシルムが言う通り、川に落ちたせいで熱があるのだろう。きっと心臓の鼓動が妙に早いのもそのせいだ。


 レゼフィーヌはそう自分を納得させた。



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