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妹を呪ったと森に追放されたいばら魔女は、なぜか王太子に執着されています  作者: 深水えいな
第三章 いばら森の来客

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20.はじめてのともだち

「そうなの?」


「ええ。妖精は普段は蛍みたいな小さい光にしか見えないんだけど、いざという時には半透明の人の姿にもなれるのよ。『魔女とドラゴン』に書いてあったわ」


 レゼフィーヌは愛読書である『魔女とドラゴン』に出てくる花の妖精の話を男の子に話して聞かせた。


「……というわけで、セラは妖精の勧めに従って庭に色とりどりの花を植え始めるの」



「そうなんだ。君は読書家だね」


 シルムに褒められ、レゼフィーヌは機嫌良く話し続ける。


「そうだ、後で『魔女とドラゴン』を貸してあげましょうか? あなたも本を読むともっと世界が広がると思うの。『嵐を呼ぶ魔女』もおすすめよ」


「えっ、いいの? じゃあ貸してもらおうかな」


 レゼフィーヌと謎の男の子がそんな話をしていると、急にどこからか声が聞こえてきた。


「シルム殿下ー! シルム殿下、どこですか」


「あ、爺やだ」


 シルムが顔を上げる。


 遠くでは白髪頭の老人が真っ青な顔でウロウロと走り回っている。


「あなたのこと探してるんじゃないの。早く行かないと」


 レゼフィーヌが背中を押すと、シルムは申し訳なさそうな顔でうなずいた。


「ごめんね。僕、もっと君とお話がしたかったんだけど、爺やが呼んでるから行かないと」


「ううん、気にしないで。また一緒に遊びましょう」


「うん……あっ」


 別れかけたところで、シルムが急に振り返る。


「僕の名前はシルム。君は?」


「私はレゼフィーヌ。レゼって呼んで」


 答えると、シルムはレゼフィーヌの名前を噛みしめるように口の中で何度も発音し、うなずいた。


「そう……レゼ。君、レゼって言うんだね。すごく綺麗な名前だ。君に似合ってる」


「そ、そうかしら。普通の名前よ」


 恥ずかしくて横を向くレゼフィーヌに、シルムはキラキラとした瞳のまま尋ねる。


「ねえレゼ、また遊びに来てもいい? 僕には友達がいないんだ。もしよかったら僕の友達になってよ」


「うん、もちろん。私たちはもう友達よ」


 レゼフィーヌは、そう言うと右手を伸ばし、その手をシルムも握り返した。


 きつく握った手。レゼフィーヌは気持ちが暖かくなるのを感じた。


 まるで胸に春の日差しが差し込んだみたいに。


 待ち望んでいた薄桃色の薔薇のつぼみが初めて花開くみたいにわくわくして、その場で踊り出したいほど嬉しかった。


 友達ができたのが初めてだったのは、レゼフィーヌも同じだった。



 ***



「……大丈夫?」


 次に目を覚ました時には、レゼフィーヌはシルムの腕に抱かれ川岸にいた。


「ここはどこ?」


 レゼフィーヌがぼんやりと辺りを見回すと、シルムは優しい口調でレゼフィーヌに呼びかけた。


「君、川で溺れていたんだけど覚えてる?」


 レゼフィーヌはうつろな瞳で首を縦に振った。


「ええ……なんとなく」


 しばらく意識がぼんやりしたままシルムの腕の中にいたレゼフィーヌだったが、はっと正気を取り戻し、自分がシルムの腕に抱かれているのだという状況を理解すると、かあっと頬が赤く染まった。


 急いでシルムから離れる。


「ありがとうございます。おかげで助かりました」


 レゼフィーヌは早口に言うと、頭を下げた。


 シルムは照れたようにはにかむ。


「いや、無事で何よりだよ」


 シルムは木に引っ掛けていたローブを取ってきてレゼフィーヌの体にかける。


「体が濡れているね。それを着たほうがいいよ」


「え、でも」


 シルムのローブは、一見地味なデザインだが、遠くからでもわかるほど上質な生地で作られていた。


 川に落ちてずぶぬれになった自分が着ても良いのだろうか。


 戸惑うレゼフィーヌに、シルムは無理矢理自分のローブを着せた。


「いいから。女性は冷えちゃいけないよ」


 その言葉に、レゼフィーヌはシルムと出会った日のことを思い出した。


(驚いた。全く変わっていないのね)


「ええ、ありがとう」


 大人しくシルムのローブを身にまとったものの、レゼフィーヌはなんだか落ち着かない気持ちになった。


 (凄く大きい……それに、こんな高価そうなもの、いいのかしら)


 あとで家で洗濯して返さないといけないかもしれない。


 レゼフィーヌはぎゅっとローブの端を握りしめた。



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