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妹を呪ったと森に追放されたいばら魔女は、なぜか王太子に執着されています  作者: 深水えいな
第三章 いばら森の来客

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19.薔薇の妖精

 レゼフィーヌは目の前に立っている子犬みたいに愛らしい男の子をじっと見つめた。


 (この子は誰だろう。見ない顔だわ。)


 レゼフィーヌは首を傾げた。


 自分に許嫁がいるらしいことは、レゼフィーヌもぼんやりとは聞いていた。


 だがシルムとは今まで一度も会ったことはなかったし、顔すら知らなかったレゼフィーヌにとって、シルムは「知らない子」だった。


 不思議に思いつつも、レゼフィーヌは足元の植木鉢を指さした。


「鉢を屋根の下に移動させてるの。雨に濡れると枯れちゃうかもしれないから」


 レゼフィーヌの答えに、シルムは美しい緑の瞳をキラキラと輝かせた。


「そっか、じゃあ僕も手伝うよ」


「えっ?」


 シルムはよいしょと腰を下ろすと、軽々と植木鉢を持ち上げる。




「ここでいい? 他のも急いで運んでしまおう」


 シルムはレゼフィーヌが植木鉢を置いた辺りを指さした。


「う、うん。でも悪いわ。せっかく綺麗なお洋服なのに、雨に濡れちゃうし泥もついてしまうわ」


 と、レゼフィーヌはここでシルムの身なりが今まで見たことがないほど綺麗なことに気付いた。


 (この子はきっと貴族だろうな)


 今日は大切なお客様が来ると父親が言っていたことをレゼフィーヌは思い出す。


 ひょっとしたらこの子はその大事なお客様の息子なのかもしれない。


 レゼフィーヌがそんなことを考えていると、シルムはニコリと笑って首を横に振った。


「大丈夫さ。服なんて着替えればいいから。それより女の子がずぶ濡れになるほうが大変だよ」


「で、でも」


「女の子は体を冷やしちゃいけないって婆やが言ってたんだ。それに二人で運んだほうが早く終わるよ」


 シルムは、そう言って強引に植木鉢を持った。


「ありがとう」


 レゼフィーヌはお言葉に甘え、シルムに手伝ってもらうことにした。


 二人で急いで鉢を軒下に移す。


 二人で頑張ったおかげで、嵐が来る前に鉢は全部屋根の下に移すことができた。


「ふう、良かった。間に合ったみたい」


 無事に植木鉢を移し終えたレゼフィーヌはほっと息を吐いた。


 空を見上げたレゼフィーヌの前髪を伝って目元に雨粒が落ちてくる。


「いやだわ、雨が降って来ちゃった」


 レゼフィーヌが手で前髪をぬぐっていると、シルムは純白のハンカチを差し出した。


「もしよかったらこれ使って」


 レゼフィーヌは少しぎょっとしてしまった。


 男の子にハンカチを差し出されたのは初めてだった。しかも見るからに高そうな代物だ。


「だ……大丈夫よ。そんな綺麗なの、汚れたら悪いわよ」


 レゼフィーヌが急いでポケットをまさぐると、くちゃくちゃに丸まったハンカチが出てきた。


「げっ」


 レゼフィーヌがいつ洗濯したかもわからない薄汚れたハンカチと睨めっこしていると、シルムが自分のハンカチを無理やり押し付けてくる。


「それで顔を拭くよりもこっちのほうがいいよ」


 なぜか人間として少し負けた気がして屈辱的だったが、レゼフィーヌは大人しくシルムのハンカチを受け取った。


 レゼフィーヌがシルムのハンカチで顔を拭いていると、シルムはキラキラした翡翠色の瞳で尋ねてきた。


「――ねえ、君は薔薇の妖精さん?」


「へ?」


 よ……妖精!?


 レゼフィーヌは少年の思わぬ言動に驚いてしまう。


「あのね、妖精がこんなところで土いじりしているわけないでしょ」


 レゼフィーヌが腰に手を当てて呆れ顔をすると、男の子はキョトンと首を傾げた。


「そうなの? だって君は金髪で青い目で、すごく綺麗だからてっきり薔薇の妖精さんかなあって」


 シルムは眉尻を下げてレゼフィーヌを見た。


 雨粒の滴る絹糸のような細い金髪。

 好奇心に輝く大きな蒼玉色の瞳はびっしりと長い睫毛が生えていて、頬はむきたての桃のようにみずみずしく白い。


 レゼフィーヌは実際、今まで彼が見たどの女の子よりも綺麗だった。


 レゼフィーヌはフンと胸を張った。


「馬鹿ね。妖精は羽が生えてるし、こんな風に雨に濡れたりなんかしないわよ」




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