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妹を呪ったと森に追放されたいばら魔女は、なぜか王太子に執着されています  作者: 深水えいな
第三章 いばら森の来客

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17.山道

 夜が更け太陽が昇っても、レゼフィーヌの心には、魚の小骨のようにシルムのことが引っ掛かって離れなかった。


「ちょっと、レゼ、顔色が悪いけど大丈夫かい?」


 エマ婦人がレゼフィーヌを気遣うように声をかける。


「ええ、全然大丈夫よ」


 レゼフィーヌはエマ婦人に心配を書けまいと、わざと軽い口調で返事をした。


「そうかい? それならいいけれど……」


「心配しないでって言ってるでしょ。それじゃ、私、頼まれてた薬を作ってくるわね」


 朝ご飯を食べ終わると、レゼフィーヌ村人に頼まれていた回復薬作りに取りかかった。


 特に急ぎの仕事ではなかったのだが、今はとにかく手を動かしてシルムのことを忘れたい気分だった。


 庭で芽吹きたての薬草の新芽を摘み取ると、よく煎じ、煎じた薬草を聖水に溶かすと、網目の違うフィルターで何度もろ過をする。

 複雑な工程ではなく薬自体はすぐにできた。


「ふう……」


 レゼフィーヌは、汗をぬぐって薬瓶を見た。


 薬はできたけれど、これから冬になり寒くなることを考えると、もっとたくさん薬を用意しておいても良いかもしれない。


 レゼフィーヌは聖水を保存している水瓶の中を見た。


 薬を作るには聖水が必要だ。今のうちに大量に聖水を汲んでおかなくては。


 聖水とは、魔力を大量に含み不純物の少ない水のことだ。


 薬づくりには欠かせない最も基本的な材料なのだけれど、聖水が湧く場所は限られている。いばら森の奥にある神秘の泉もその一つだ。


「私、ちょっと泉に行ってきますね。すぐ戻るわ」


 レゼフィーヌはエマ婦人に声をかけると、水瓶を背負い家を出た。


 泉までの道のりは三十分ほど。そんなに遠いわけではないのだけど、水瓶を背負うとなると重みが加わるのでなかなか大変だ。


 レゼフィーヌは水瓶に重さ軽減の魔法をかけると、一人で山道へと急いだ。


 道の少し下には川が流れている。レゼフィーヌはそれを横眼で眺めた。


 いつもはせせらぎの美しい澄んだ清流なのだが、最近の雨の影響か、川はわずかに増水し、泥水が混じっている。


 レゼフィーヌはその脇を軽い足取りで上がっていった。


 木の根が張り出し岩の転がる斜面。


 ここに来たばかりの頃は辛い道のりだと思っていたけど、今ではレゼフィーヌにとってはこの道もすっかり慣れたものだ。


  だけどその時、急にレゼフィーヌの背中が誰かに推された。視界がぐらりと歪んむ。


 (――えっ)


 慌てて振り返るも、背後には誰もいない。いったいどういうことだろう。


 (どういうこと? 誰かの魔法? 誰かが私を狙って――)


「くっ」


 レゼフィーヌは慌てて足を踏ん張ろうとしたのだが、地面がずるりと滑り、足に力が入らない。


 そうしているうちに、レゼフィーヌの体はバランスを崩して横の川へと真っ逆さまに落ちていった。


 レゼフィーヌはよくこの沢で蟹や魚を捕ったりしていたが、普段ならば足を滑らせても浅いのですぐに岸に戻れた。


 だけれど雨で増水していた影響で、レゼフィーヌの体はどんどん流されていく。


 とりあえず水瓶を浮き輪代わりににつかまって沈まないようにするのが精いっぱいだ。


 (どうしよう……!)


 どんどん遠ざかっていく岸に、レゼフィーヌはどんどん不安になっていった。


「誰か――誰か助けて!」


 レゼフィーヌは思わず叫んだ。


 こんな山奥で誰もいるはずがないのに。


 ――その時だ。


「レゼ……っ!」


 どこからか男の人の声がした。


  (え……!?)


 まさかと思いレゼフィーヌが目を凝らすと、草木をかき分け、木の葉の間から顔を出したのは、渋茶色のローブに身を包んだシルムだった。



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