第86話「神(システム)への反逆」
【Side: Elizabeth】
(……痛みが、消えていく)
私の体内で暴れ狂っていた呪いの根が、ミアの光のメスによって、驚くほど正確に、そして優しく切り離されていくのを感じた。 まるで、ずっと背負っていた重い鉛の鎧が、一枚ずつ脱がされていくような感覚。 息ができる。心臓が、自分の意志で動いている。
「……最後の一本です。少し、響きますよ」
ミアの声が耳元で聞こえた直後、魂の奥底でバツン!という切断音が響いた。
「摘出……完了です!!」
フワリ、と。 私の体から、すべての重圧が消え去った。 「魔女の瘴気」は私の魔力回路から完全に分離され、頭上で暴れ狂う巨大な泥の怪物(擬似魔王)として完全に独立した。
私は、自力で立ち上がった。 もう、システムに操られることはない。 私は「魔女」ではない。ただの「エリザベート・フォン・ローゼン」だ。
「……よくも今まで、私の体を好き勝手におもちゃにしてくれたわね」
私は、頭上の怪物を見上げた。 本来のシナリオであれば、私がアイツに肉体を乗っ取られ、理性を失った化け物として世界を滅ぼす運命だった。 私を散々苦しめ、孤独に追い込み、ミアにまで怪我を負わせた憎きシステム(病巣)。
「さあ、お姉様。仕上げです!」
ミアが私の横に立ち、杖を構えてウインクをした。
「ええ。ゴミの焼却(医療廃棄物の処理)は、徹底的にやらないとね」
私も自分の杖を構える。 体内の瘴気はなくなったが、私自身の持つ「公爵令嬢としての莫大な魔力」は健在だ。むしろ、呪いのリミッターが外れたことで、かつてないほどに魔力が満ち溢れている。
『ギルルルルルォォォッ!!』
怪物が、最後の足掻きとばかりに巨大な黒い塊を私たちに向けて放ってきた。
「『聖なる浄化』!」 「『終焉の黒炎』!」
ミアの純白の光と、私の漆黒の炎。 相反するはずの二つの魔法が、空中で完璧な螺旋を描きながら融合し、一つの巨大な奔流となって怪物の攻撃を粉砕した。
ズドドドオォォォォンッ!!
光と闇の合体魔法が、怪物の核を真っ直ぐに貫く。 『アァァァァァァ……ッ!!』 断末魔の叫びと共に、システムが生み出した擬似魔王は、ボロボロと崩れ落ち、やがて塵一つ残さず光の中へと消滅していった。
静寂が、講堂に舞い降りた。 隔離結界がキラキラと光の粒子となって溶けていく。 天井のステンドグラスから、春の暖かな日差しが差し込み、私たちを照らし出した。
「……終わった、の?」
私は自分の両手を見た。 震えていない。血も吐いていない。 私は生きている。世界も滅んでいない。 私たちは、神が定めた残酷なバッドエンドのシナリオを、完全に書き換えてみせたのだ。
「お姉様……!」
ミアが杖を放り出し、私に抱きついてきた。
「やりました! 大成功です! もう、どこも痛くありませんね!?」
「え、ええ。貴女の強引な手術のおかげでね。……本当に、無茶苦茶な主治医よ」
私は文句を言いながらも、彼女の背中に手を回し、強く抱きしめ返した。
ワアアアアアアアアッ!!
講堂を包み込むような、割れんばかりの歓声が響き渡った。
「やったぞ! 魔物は消え去った!」
「エリザベート様とミア様が世界を救ったんだ!」
洗脳から解かれた生徒たちや貴族たちが、私たちに向けて惜しみない拍手と称賛を送っている。
その中心で、クリストファー殿下が目を真っ赤にして歩み寄ってきた。
「エリザベート……いや、我らが英雄よ! 君たちは、身を挺してこの学園を、いや国を救ってくれたのだな!」
「殿下……」
私は苦笑した。 相変わらずの勘違いだが、もう訂正する気も起きない。 悪役として孤独に死ぬはずだった私が、今はこうして光の中で、たくさんの人に囲まれ、何より一番大切な人に抱きしめられている。 こんな甘ったるいハッピーエンド、悪役令嬢の美学には反するけれど。
「……たまには、こういう結末も悪くないわね」
私はミアの肩に顎を乗せ、春の陽光を眩しそうに見上げた。
誰も死なない、誰かが犠牲になる必要もない。 それが、私と彼女が命がけで掴み取った、私たちだけの「トゥルーエンド」だった。
ついに魔女の瘴気の完全摘出に成功!
呪いのリミッターが外れ、本来の莫大な魔力を取り戻したエリザベートと、聖女ミア。二人の「光と闇の合体魔法」が、世界を縛っていた理不尽なシナリオ(擬似魔王)を完全に粉砕します!
「たまには、こういう結末も悪くないわね」
悪役として孤独に散るはずだった令嬢が、一番大切な人に抱きしめられながら見上げる春の光。二人で命がけで掴み取った、誰も犠牲にならない最高のトゥルーエンドの瞬間です!
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