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第81話「尊き防衛隊の暗躍」

【Side: Elizabeth】

 2月下旬。身を切るような寒さの深夜。 私とミアは、春の『卒業パーティー』の会場となる学園の大講堂に忍び込んでいた。


「いいこと、ミアさん。私が床のタイルの隙間に『魔力定着液』で術式の基盤を描くから、貴女はそれに沿って魔力を流し込んでちょうだい。絶対に定着液をはみ出さないようにね。少しでもズレたら、結界が機能しないわ」


「はい、お姉様! 縫い針の特訓の成果、見せてさしあげます!」


 私たちは、ランタンの明かりを最小限に絞り、床に這いつくばって作業を開始した。 この広大な講堂全体を覆う「隔離結界」を構築するためには、途方もない作業量が必要だ。 見回りを行う警備員や教師の目を盗み、毎晩少しずつ術式を描き進めるしかない。


(よし、今日のノルマはこの区画ね。……さっさと終わらせて、温かいベッドに戻るわよ)


 筆先に定着液をつけ、冷たい床に集中しようとした、その時だった。


 ギィィ……と、講堂の入り口の重い扉が静かに開く音がした。 「ひっ!?」とミアが小さく悲鳴を上げる。 私は咄嗟にランタンの火を消し、ミアを庇うようにして暗がりに身を潜めた。


(警備員!? 見回りの時間じゃないはずよ……)


 暗順応した目で入り口の方を睨むと、そこにはカンテラを持った二人の人影があった。 金髪の青年と、眼鏡をかけた長身の青年。 私の婚約者である第二王子クリストファーと、その側近アレクサンダーだった。


「……殿下。いくらなんでも、深夜に講堂へ忍び込むなど……」


 アレクサンダーが呆れたように小声で尋ねている。 どうやら、彼らは誰もいないと思ってこっそり忍び込んできたらしい。


「ふっ……アレクサンダーよ。我々『見守る会』の会長として、彼女たちの聖域たたかいのばを事前に視察しておきたくてな」


 クリストファー殿下が、マントを翻しながらドヤ顔で言い放った。


「彼女たちは毎晩、我々の見えないところで、学園の平和を脅かす魔物たちと人知れず戦っている。最近、この講堂付近で彼女たちの目撃情報があった。つまり、ここで近々、大きな『儀式』あるいは『死闘』が行われるという予兆だ!」


「おお……! さすがは殿下、素晴らしい推察力です!」


 暗がりの中で、私とミアは顔を見合わせた。 ((見守る会……??)) 私たちの頭上に、巨大なクエスチョンマークが浮かぶ。 彼らは何を言っているのだ? 私たちが夜な夜な戦っている? 儀式? まあ、これからやろうとしていることは「瘴気抽出オペ」という名の死闘と儀式ではあるのだが、彼らの言っているベクトルは明らかにどこかおかしい。


「……まずいわ、見つかったら結界の作業ができない」


 私は舌打ちをした。 このまま彼らが講堂をうろつけば、床に描いた定着液を踏まれて術式が台無しになってしまう。 追い払わなければ。それも、悪役らしく!


 私はあえて足音を鳴らし、暗がりから堂々と歩み出た。


「……あら。こんな夜更けに、ネズミが二匹迷い込んだのかしら?」 「エリザベート! それに、ミア嬢も!」


 クリストファー殿下が目を輝かせた。 私は扇子をバサリと開き、最も高慢な態度で彼らを睨みつけた。


「殿下といえど、私の邪魔をすることは許しませんわ。今、私はここで『恐るべき魔術実験』の準備をしているのですから!」


「恐るべき……魔術実験?」


「ええ! この講堂を恐怖のどん底に陥れるための、極秘の仕掛けですわ! だから、今すぐここから立ち去りなさい! 誰も近づけないでちょうだい!」


 私は杖を突きつけ、精一杯の威嚇をした。 「出て行け」と命じれば、彼らはプライドを傷つけられ、不快感を露わにして立ち去るはずだ。


 しかし、クリストファー殿下とアレクサンダーは顔を見合わせ、そして──深く、それはもう深く頷き合った。


「……分かった、エリザベート。君たちの『孤独な戦い』の邪魔はしない」


「は?」


「君がそこまで言うのなら、この講堂は君たちにとって絶対に不可侵の聖域なのだろう。……アレクサンダー! 今すぐ警備隊を動かし、この講堂の全出入り口を封鎖しろ! 朝まで、ネズミ一匹、教師一人たりとも近づけるな!」


「はっ! 我ら『見守る会』の総力を結集し、お二人の『実験たたかい』を全力で警護いたします!」


「……え?」


 殿下たちは私に美しい敬礼を残し、颯爽と講堂を飛び出していった。 直後、外から「講堂周辺を封鎖しろ! 殿下の命である!」「誰も通すな!」という勇ましい騎士たちの声が聞こえ始めた。


 私とミアは、ぽつんと講堂に取り残された。


「……お姉様。なんか、講堂の警備が王室レベルで厳重になっちゃったんですけど」


「……ええ。誰にも邪魔されずに、朝までゆっくり作業ができるわね」


 私は扇子をそっと閉じ、遠い目をした。 彼らが何を勘違いしているのかは永遠の謎だが、結果的に私たちは「王族公認の最強の警備」という、これ以上ない安全な環境で結界構築に専念できることになったのだ。


「……まあ、使えるものは殿下でも使いましょう。さあ、作業を再開するわよ」


「はいっ!」


 私たちは再び床に這いつくばり、王太子の手厚い警護(物理)の下で、世界を救うための「反逆の術式」を着々と描き進めていった。


深夜の講堂に忍び込み、結界の術式を仕込むエリザベートとミア。

そこへ現れたのは、見回りの教師……ではなく、謎の組織『見守る会』の会長(クリストファー殿下)と側近でした!

「ここで近々、大きな『儀式』が行われるという予兆だ!」

……いや、間違ってはいないんですが、ベクトルが絶望的に違います。

威嚇して追い払おうとするエリザベートの言葉すらも「この講堂は不可侵の聖域なのだな」と超解釈し、王室レベルの厳重な警備(物理)を敷いてくれる殿下たち。結果的に最強の安全環境を手に入れた二人の、シュールすぎる深夜作業が続きます。


※「見守る会有能(笑)」「殿下ナイス勘違い!」と楽しんでいただけましたら、ぜひページ下部からブックマーク・評価での応援をお願いいたします!

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