幕間7「孤独な戦士たち」
【Side: Christopher】
「……アレクサンダー。最近の彼女たちの行動を、どう分析する?」
王立学園、生徒会室。 私は窓辺に立ち、眼下の中庭を行き交う生徒たちを眺めながら、背後に控える側近に問いかけた。 私の視線の先には、今日も今日とて、周囲の目を気にするように(しかし誰の目にも明らかなほど至近距離で)言い争いをしている、エリザベートとミア嬢の姿があった。
「はい、殿下。……控えめに言って、『尊い』の一言に尽きます」
アレクサンダーは、眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら、感極まった声で答えた。 彼の手には、騎士団の学園警備隊から上がってきた数枚の報告書が握られている。
「先日の『階段での救出劇』……殿下もご覧になりましたね?」
「ああ。確かに見た」
私は、数日前の昼休みの光景を思い返した。 一人の子爵令嬢が、資料を抱えたまま階段から転げ落ちそうになったあの瞬間。 偶然居合わせたエリザベートとミア嬢は、一瞬のアイコンタクトを交わし、目にも止まらぬ速さで動いた。 エリザベートがミア嬢を力強く羽交い締めにし、その勢いを利用してミア嬢が子爵令嬢を抱きとめ、三人が団子状態になって壁際に安全に着地するという、まさに神業のようなアクロバット救出劇だった。
「表向きは『触るな!』『離してください!』と言い争っているように見せかけながら……いざという時は、言葉を交わすことなく阿吽の呼吸で命を救う。彼女たちは、周囲に自分たちの『優しさ』を悟られないよう、あえて揉み合いを演じていたのでしょう」
アレクサンダーの推論に、私は深く頷いた。 その通りだ。彼女たちは、偽りの敵対関係を装いながらも、その奥底では太い絆で結ばれている。
(実際は、「助けるな」「助けます」の意見の相違でガチのプロレスになっていただけであり、阿吽の呼吸など微塵も存在しなかったのだが、彼らの脳内フィルターはそれを許さない)
「さらに、こちらの夜間巡回記録をご覧ください」
アレクサンダーが、別の報告書を提示した。
「一昨日の深夜。学園の裏庭にて、変異種のスライムが溶けたような残骸が発見されました。そして、その現場で……エリザベート様とミア嬢が、激しく口論している姿が目撃されています」
「深夜に? 魔物と戦っていたのか?」
「ええ。目撃証言によれば、お二人は『なぜ貴女がこんなところにいるの! 寝ていなさい!』『お姉様こそ、魔力を温存してください!』と、互いを庇い合うように言い争っていたそうです」
私は息を呑んだ。 なんということだ。
「我々が温かいベッドで寝静まっている間にも、彼女たちは学園の平和を守るため、人知れず夜の闇で魔物と戦っていたというのか……!」
私が震える声で言うと、アレクサンダーもハンカチで目頭を押さえた。
「しかも、互いを心配するあまりに口論になっているのです。自分が泥を被り、相手を安全な場所に遠ざけようとする……美しき自己犠牲の連鎖! なんて気高く、そして悲しい主従なのでしょうか!」
(※実際は、お互いが「相手を休ませるために自分がこっそり倒そう」と抜け駆けした結果、現場で鉢合わせして「抜け駆けズルイ!」と身内同士でキレていただけである)
「……彼女たちは、一人で抱え込みすぎている」
私は窓枠を強く握りしめた。 エリザベートは、公爵令嬢としての重圧と、魔女としての孤独な宿命を。 ミア嬢は、そんな彼女を救おうとする、聖女としての過酷な使命を。
彼女たちは、魔女という恐ろしい宿命と身分の壁という見えない運命に抗うため、周囲の目を欺き、あえて「いがみ合う敵同士」という過酷な茶番劇を演じ続けているのだ(と、私は解釈した)。 そんな彼女たちの孤独な戦いを、王族である私がただ指をくわえて見ているわけにはいかない。
「アレクサンダー。我々も、行動を起こす時が来たようだ」
「はっ。いかようにも」
「彼女たちが、これ以上無用な詮索を受けず、その崇高な使命(茶番)を全うできるよう……我々が防波堤となるのだ。学園内の生徒たちに、彼女たちの関係を『見守る』よう通達を出せ。必要とあらば、私が直々に後援会を立ち上げてもいい」
「素晴らしいお考えです、殿下! すぐに手配いたします!」
クリストファー王子と、騎士団長の息子。 学園の頂点に立つ二人の青年は、夕日に染まる中庭を見下ろしながら、勝手な使命感に燃え上がっていた。
こうして、エリザベートとミアが「必死に周囲を騙している」と信じ込んでいる裏で、学園には王太子公認の『尊き二人の関係を陰から見守る会(防衛隊)』という、彼女たちにとって最も厄介で恥ずかしい組織が、密かに産声を上げようとしていたのである。
【ゲームシステムの強制力(認知の歪み)──絶賛稼働中】
安定のクリストファー殿下視点。今回も超解釈フィルターが絶好調に稼働中です!
階段でのプロレスを「阿吽の呼吸の救出劇」と捉え、スライム前の身内揉めを「夜の闇で魔物と戦う美しき自己犠牲のバディ」と大誤解。
そして、孤独な戦士たち(と勘違いしている二人)を守るため、ついに王太子直属の『陰から見守る会』の結成を宣言してしまいます!
エリザベートとミアにとって、システムよりも厄介かもしれない最大級の羞恥プレイ(防衛隊)が、ここに爆誕しました。
※「殿下、動かないで!(笑)」「アンナさんの胃がさらに死ぬ」と爆笑していただいた方は、ぜひページ下部からブックマーク・評価での応援をお願いいたします!




