表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/95

第74話「階段の攻防(知識の食い違い)」

 12月。吐く息も白くなる冬の王立学園。 エリザベートとミアによる「偽装悪役&過剰介護の茶番劇」は、順調かつ奇妙なバランスで継続していた。


 その日の昼休み。 エリザベートは本館の広い階段の踊り場で、手すりに寄りかかって下の階を見下ろしていた。 斜め後ろには、いつものように「監視役」という名目でミアが控えている。


「……来るわよ、ミア」


「はい、お姉様。ターゲット確認しました」


 二人は小声で状況報告を交わした。 視線の先、階段を上ってくるのは、少しドジで有名な子爵令嬢モブキャラクターだ。 彼女は両手に抱えきれないほどの資料の山を持ち、足元がおぼつかない様子でフラフラと階段を上っている。


(間違いない。ここは『無印版』の悪役イベント発生ポイントよ)


 エリザベートの脳内データベースが警告を発する。 あの令嬢は数段先でバランスを崩し、資料をぶちまけながら階段から転げ落ちそうになる。 そこに偶然居合わせた悪役令嬢エリザベートが、助けようと手を伸ばした結果、逆に「突き落とした」と勘違いされ、冤罪をかけられるという、理不尽極まりない断罪フラグだ。


「いいこと、ミア。これからあの令嬢が転ぶけど、私たちは絶対に、何があっても、指一本触れずに無視するわよ。ここで中途半端な冤罪で退学処分になんてなったら、卒業パーティーでの計画がすべて破綻してしまうわ」


「……え? 無視、ですか?」


「そうよ。アリバイを作るために、私たちはこのまま空でも眺めて『あら、何か落ちた音がしましたわね』で済ませるの」


 完璧な防衛策だ。触らぬ神に祟りなし。 しかし、ミアは眉をひそめてエリザベートの服の袖を引っ張った。


「待ってください、お姉様! それはダメです! 『真実版』のデータによれば、あそこで怪我人を放置すると、お姉様の『魔女の冷酷さ』のステータスが上がってしまい、瘴気が増幅する『ストレスフラグ』になります!」


「はぁ!? 何よその迷惑な仕様!」


「だから、彼女が転ぶ前に私が物理的に支えます! お姉様は安全圏にいてください!」


「ダメよ! 貴女が関わったら、私が『特待生に助けを強要した』って噂が立つかもしれないじゃない!」


 無印版の「冤罪回避」を優先したいエリザベートと、真実版の「瘴気増幅回避」を優先したいミア。 情報共有をしたからこそ起きる、最悪の解釈違い(パラドックス)。


「ああもう! 言ってる間に転びますよ!」


 ミアが叫んだ瞬間、子爵令嬢が「きゃあっ!」と声を上げ、見事に資料をばら撒きながら後ろへ倒れかかった。


「ストーップ!!」


「行かせないわよ!!」


 怪我人を助けに飛び出そうとする元・看護師のミア。 それを全力で羽交い締めにして引き留めようとするエリザベート。 「助けたい光」と「関わりたくない闇」が、階段の踊り場で激しく激突した。


「離してください! 患者が落ちます!」


「貴女が動いたらフラグが立つでしょうが! 大人しく私の腕の中にいなさい!」


「お姉様のハグは嬉しいですが、今はタイミングが悪すぎます!」


 二人は揉み合い(もはやプロレス)になりながら、ずるずると階段の方へとにじり寄ってしまった。 そして、倒れかかってきた子爵令嬢の背中が、二人の揉み合いの渦に巻き込まれた。


「ひゃあっ!?」


 ドタバタッ! グルンッ!


「「「きゃあああ!?」」」


 三人分の悲鳴が重なる。 結果として何が起きたかというと。 エリザベートがミアを羽交い締めにし、そのミアが子爵令嬢を抱きとめ、そのままの勢いで三人が団子状態になって階段の踊り場を半回転ローリングし、壁際でピタリと安全に着地したのだ。 誰一人、階段から落ちることもなく、怪我もなく。


「……あ、あれ? 痛くない……」


 子爵令嬢が、目を白黒させながら呟いた。


「「…………(ぜぇ、ぜぇ)」」


 エリザベートとミアは、変な体勢で絡み合ったまま、息を乱して固まっていた。 周囲の生徒たちが、目を丸くして彼女たちを見ている。


「お、おおお……!」


「なんて華麗な連携救出劇だ!」


「公爵令嬢と特待生が、一瞬のアイコンタクト(※ただの口論)で息を合わせ、見事なアクロバットで子爵令嬢を救ったぞ!」


 ワアアアアッ! と、階段に拍手が響き渡る。 冤罪フラグも、ストレスフラグも、どちらもへし折る「スーパー美談」が完成してしまった。


「……お姉様。私たちの連携、完璧でしたね」


「……ええ。もう二度とやりたくないわ」


 二人は引きつった笑顔のまま、散らばった資料を拾い集める羽目になった。 情報共有の代償は、思いのほか(体力的に)大きかった。


情報共有したからこそ起きる、最悪の解釈違い(プロレス)が発生!

階段から落ちそうな令嬢を前に、冤罪を回避したい「無印視点」のエリザベートと、放置ストレスフラグを回避したい「真実視点」のミアが激突します!

助けようとする光と、それを羽交い締めで止める闇。結果、三人が団子になって階段の踊り場をローリング着地するという謎の奇跡が起きました。

周囲の評価は「一瞬のアイコンタクトで見事な連携救出劇!」。……スーパー美談の完成です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ