第73話「噛み合わない設定(カルテ共有)」
「では、次はお互いが持っている『ゲームの知識』のすり合わせです」
ミアは持参した分厚いノートを開き、ベッドの上のエリザベートに見せた。 そこには、ミアが前世の記憶から引き出した「両方のバージョン」の知識が書き込まれている。
「まず、お姉様がプレイしていた『無印版』」
ミアはノートの左半分を指差した。
「エリザベートが瘴気の発生源であり、彼女が断罪(処刑)されることで世界が救われる。彼女が生き残れば、瘴気が世界を覆ってバッドエンド」
「そうよ。だから私は、自分から嫌われて、断罪ルートを確定させようとしていたの」
「次に、お姉様がご存じなかったファンディスクの『真実版』」
ミアは右半分を指す。
「エリザベートは魔王の瘴気を封じ込める『人柱』。彼女が死ぬと封印が解けて、魔王が復活し世界が滅ぶ。だから彼女を精神的にも肉体的にも支え、共闘しなければならない」
二つの設定を並べてみた瞬間、二人は同時に頭を抱えた。
「……これ、完全に矛盾してるじゃない」
エリザベートが、感情を排した冷徹な目で状況を分析し、絶望的な声を漏らした。
「『私が死ななければ滅ぶ世界』と『私が死ねば滅ぶ世界』。どっちのルールが適用されているのよ」
「分かりません。私たちのこれまでの行動で、両方のフラグが複雑に絡み合ってしまっている可能性があります」
ミアはペンを回しながら唸った。
「現状、この世界が『無印版』なのか『真実版』なのか、それともその二つが混ざり合った『バグだらけのハイブリッド仕様』なのか、まったく判断がつきません」
情報共有をした結果、謎が解けるどころか、事態の深刻さが浮き彫りになってしまったのだ。 これまでは「自分の信じるシナリオ」に向かって突き進めばよかったが、今は一歩間違えれば、システムを刺激してどちらかの世界の滅亡トリガーを引いてしまう綱渡り状態。
「……どうすればいいのよ。これじゃあ、うかつに動けないわ」
「はい。でも、一つだけ確かなことがあります」
ミアは、ペンを置いてエリザベートを真っ直ぐに見つめた。
「世界がどちらの仕様であっても、あるいはどんなバグが起きようとも……それに耐えうるだけの『強靭な肉体』があれば、生存確率は上がります!」
「……は?」
「だから、お姉様にはこれから、どんなバッドエンドの衝撃にも耐えられるような、物理的な防御力と免疫力をつけていただきます! 魔法よりも筋肉! 呪いよりも血流です!」
ミアはドンッ! と机を叩いて力説した。 これこそが、医療従事者としての究極の真理だ。体が資本。健康第一。
「……結局、結論はそれ(筋肉と青汁)に行き着くのね……」
エリザベートは深い溜息をつき、ベッドに倒れ込んだ。
「卒業パーティーまでに解決策を見つけるって言ったのは貴女よ……? それが筋トレになるなんて、詐欺じゃないの……」
「まあまあ! 健全な精神(解決策)は、健全な肉体に宿りますから! では、今夜はこれで失礼しますね。しっかり休んでください」
ミアは椅子から立ち上がり、空になった青汁のグラスを手に取った。 そして、コネクティングドアのノブに手をかけたところで、ふと振り返る。
「……そういえば、まだちゃんと自己紹介をしていませんでしたね」
「え?」
「私、前世では『星野美愛』って言いました。小児科の看護師だったんです」
少し照れくさそうに笑うミアに、エリザベートは少し驚いたように目を見張った。 強引で、底抜けに明るくて、絶対に患者を見捨てない。その前世の職業を聞いて、エリザベートは心底納得したように、口元に小さな笑みを浮かべた。
「……『冴島玲子』。これでも、元・検察官よ」
「検察官……! だからあんなに理屈っぽ……いえ、論理的なんですね!」
「何か言ったかしら?」
「いいえ! おやすみなさい、玲子さん!」
「……ええ。おやすみ、美愛」
パタン、とドアが静かに閉まる。 お互いのルーツを知り、目的を一つにした最強で不器用なバディ。 阿吽の呼吸などゼロに等しい二人の本当の戦いが、ここから始まる。
いよいよゲーム知識のすり合わせ。しかし、そこで判明したのは『私が生き残ると世界滅亡(無印)』VS『私が死ぬと世界滅亡(真実版)』という絶望的な矛盾でした!
設定がバグだらけのハイブリッド仕様かもしれない……そんな絶望的状況に、元・小児科ナースのミアが叩き出した究極の真理(結論)とは!
「どんなバッドエンドにも耐えられる物理的防御力と免疫力をつけます!!」
星野美愛と冴島玲子。前世のルーツを知り、最強で不器用なバディがここに誕生です!
※「やっぱり筋肉と青汁にたどり着く(笑)」「前世の名前エモい!」と胸が熱くなった方は、ぜひ下部の星(☆☆☆)から評価をお願いいたします!




