第69話「聖なる光と、深淵の闇」
【Side: Elizabeth】
「始祖の神殿」の内部は、外の冷気が嘘のように暖かく、そして圧倒的な光に満ちていた。 天井の高さを思わせる巨大な空洞。その中央に、氷山のように切り立った巨大なクリスタルが鎮座している。 それが、触れた者の魂の性質(適性)を測る『始祖のクリスタル』だ。
広間に集まった生徒たちや教師、そして見学席にいるクリストファー殿下たちの視線が、一斉に私に注がれている。 私が着ているのは、一人だけ浮いた漆黒の法衣。 その異様な姿に、すでにヒソヒソと困惑の声が上がり始めている。
(……ええ、そうよ。私が不浄な存在であることを、この黒が証明しているの)
「次は、エリザベート・フォン・ローゼン公爵令嬢。前へ」
神官の厳かな呼び出しに、私はミアに繋がれていた手を振りほどき、優雅に一歩を踏み出した。 逃げるつもりはない。 ここで私がクリスタルに触れれば、私の中に眠る「世界を滅ぼす悪意(魔女の瘴気)」が反応し、クリスタルはドス黒く濁る。 そして、聖なる力によってバチッ!と弾き飛ばされ、「不浄な者」として周囲から冷たい目を向けられるのだ。 それは、私を断罪へと導くための必要不可欠なプロセス(儀式)。
「……エリザベート様」
背後からミアが心配そうな声をかけるが、私は振り返らない。
私は神殿の中央へ進み、巨大なクリスタルを見上げた。 透き通るような美しい石だ。 私は躊躇うことなく、その表面に素手を押し当てた。
(さあ、黒く濁りなさい! そして私を弾き飛ばして!)
私は目を閉じ、衝撃に備えて歯を食いしばった。 ──しかし。
ゴォォォォォォ……ッ!!
「……え?」
弾き飛ばされる衝撃は来なかった。 代わりに私の全身を貫いたのは、想像を絶する熱と、内臓を素手で握り潰されるような凄まじい激痛だった。
「あ……がァッ!?」
喉から、自分でも聞いたことのないような悲鳴が漏れる。
目を開けると、私が触れているクリスタルは、黒く濁るどころか、太陽を至近距離で直視したかのような、目も眩むような純白の閃光を放っていた。 その光は、私を弾き飛ばすのではなく、まるで私の体に食い込み、焼却しようとするかのようにまとわりついてくる。
「おおおおおおっ!?」
「な、なんという光だ……!」
「神々しい……! まるで女神の降臨だ!」
周囲から、感嘆のどよめきが沸き起こった。 違う。そうじゃない。 彼らには、私が光に包まれて輝いているように見えているのかもしれない。 でも、現実の私は、この「聖なる光」によって、体内の瘴気ごと存在を消し炭にされようとしているのだ!
(痛い……痛い痛い痛い痛いッ!!)
体が燃える。魂が削られる。 手を離さなければならないのに、光の奔流に縫い留められて指一本動かせない。 これが、断罪の痛み。 私が魔女であるという証拠。
(でも……これでいい。私がここで光に焼かれて死ねば、世界は……)
薄れゆく意識の中で、私は自らの消滅を受け入れようとした。 私がここで死ねば、ミアの手を煩わせることもない。誰も私を恨まなくて済む。 それが、一番のハッピーエンドだ。
「ダメェェェェェェェェェッ!!」
──その時だった。
凄まじい絶叫と共に、純白の法衣を着たミアが、光の奔流の中に飛び込んできた。 彼女は、まるで炎の中に飛び込む消防士のように、迷いなく私に抱きついた。
「離しなさいッ!」
「離しません! 貴女の呪いは、私が治すと言ったでしょう!」
ミアの体から、クリスタルにも負けないほどの強烈な「浄化の光」が放たれる。 クリスタルの光と、ミアの光。 二つの規格外の聖属性の力が激突し、干渉し合い、神殿の空間そのものを歪ませた。
「な、何が起きている!?」
「結界が……!」
その悲鳴は、まるで水の中に潜ったかのように、くぐもって急速に遠ざかっていった。 目を開けると、私とミアの周囲だけを丸く切り取るように、半透明の光のドームが膜を張っているのが見えた。 音も、外の空気も、神殿の冷気すらも完全に遮断されている。 私とミアの周囲に、誰の干渉も許さない絶対的な「隔離空間」が形成されたのだ。
ついにクリスタルに触れたエリザベート!
黒く濁ると思いきや、まさかの目も眩むような純白の閃光が放たれました。周囲が「女神の降臨だ!」と感嘆する中、本人は「光で存在を消し炭にされる!(激痛)」と絶賛勘違い中です。
そして、死を覚悟した彼女の元へ、炎に飛び込むレスキュー隊員のごとくダイブするミア!
二人の規格外の光が激突し、周囲の音も空気も遮断する絶対的な「隔離空間(光の結界)」が完成。誰の干渉も許さない、二人きりの答え合わせの時間が始まります。
※「いよいよ核心へ!」「飛び込み方が完全にレスキュー隊」と胸が熱くなった方は、ぜひ下部の星(☆☆☆)から評価をお願いいたします!




