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第68話「絶対に離さない手」

【Side: Mia】

 漆黒の法衣に身を包んだエリザベート様は、あまりにも美しく、そして……悲しかった。


(まるで、死に装束みたいだわ)


 一週間のファスティングで研ぎ澄まされた彼女の体は、ただでさえ華奢だったのに、さらに折れそうに細くなっている。 黒い布地が、彼女の肌の白さを痛々しいほどに際立たせていた。 自分から「罪人」の色に染まり、自らを罰の対象として差し出そうとしている。 その悲壮なまでの自己犠牲の形に、私は胸を締め付けられた。


「さあ、行きましょうか」


 青汁を飲み干したエリザベート様が、堂々とした足取りで部屋を出る。 私はその斜め後ろ半歩──いつもの定位置につき、彼女に付き従った。


 王立学園の敷地内にある、地下へと続く長い螺旋階段。 その奥に、「始祖の神殿」は存在する。 周囲には、同じように厳粛な面持ちで階段を下りていく生徒たちの姿があった。 冷たい地下の空気が、足元から這い上がってくる。


「……エリザベート様」


 私は、前を歩く彼女の右手を、そっと、けれど力強く握りしめた。


「な、何よ。いきなり手を握ったりして」


「足元が暗いですから。迷子にならないようにです」


「学園内で迷子になるわけないでしょう! 離しなさい、皆が見ているわ!」


 彼女は小声で抗議し、手を振り払おうとした。 だが、私は絶対に離さなかった。 彼女の手は、青汁で少し温かくなっていたものの、芯の部分が氷のように冷え切っていた。 恐怖で震えているのだ。 これから自分の身に起きるであろう「拒絶反応」と、周囲からの「軽蔑の視線」を想像して。


「……私の側から、離れなさい」


 彼女が、誰にも聞こえないような囁き声で言った。


「私は今日、貴女の敵になるのよ。貴女の足を引っ張り、貴女の光を邪魔する『闇』になるの。だから……これ以上、私に優しくしないで」


 懇願するような、泣き出しそうな声。 それが、彼女が必死に隠し続けてきた本音だった。 自分が呪われているせいで、ヒロインの輝かしい未来に泥を塗ってしまうことを、彼女は誰よりも恐れているのだ。


(そんなこと、私が許すわけないじゃないですか)


 私は、繋いだ手にさらに力を込めた。 指と指を絡ませるようにして、彼女の体温を逃がさないようにする。


「嫌です。私は絶対に離れません」


 私も、小声で、けれどはっきりと返した。


「貴女がどんな『闇』になっても、私がその倍の『光』で照らします。貴女が弾き飛ばされそうになったら、私が力づくで受け止めます。だから、何も心配しないで、真っ直ぐにクリスタルに向かってください」


「……馬鹿。貴女、本当に……」


 エリザベート様は、それ以上何も言わなかった。 ただ、振り払おうとしていた彼女の手が、ほんの少しだけ、私の手を握り返してくれたような気がした。


 螺旋階段を下りきると、重厚な青銅の両開き扉がそびえ立っていた。 この奥が、「始祖の神殿」だ。 扉の向こうからは、すでにクリスタルの放つ微かな光が漏れ出ている。


「間もなく、儀式が始まります。新入生は整列を」


 神官の厳かな声が響く。 いよいよだ。 この扉の向こうで、彼女の体内に潜む「魔王の瘴気」が、聖なる光と激突する。 『真実版』のシナリオが正しければ、彼女は激痛と共に弾き飛ばされるはずだ。


 その時、私は世界中の誰よりも早く彼女を抱きしめ、彼女の呪いを「病」としてこの世界に証明してみせる。 そして、彼女を「悪役」という名の処刑台から、引きずり下ろすのだ。


 ギギギギギ……。


 重い音を立てて、神殿の扉が開かれた。 眩いばかりの純白の光が、私たちを包み込む。


「行きましょう、お姉様」


「……ええ」


 私たちは手を繋いだまま、運命の確定診断が待つ、光の奔流の中へと足を踏み入れた。


【確定診断イベント「聖女選定の儀」──開始】


地下神殿へと続く冷たい階段。

「私は貴女の敵になるの。だから離れて」と懇願するエリザベートの冷え切った手を、ミアは絶対に離しません。

自分の輝かしい未来に泥を塗るまいとする不器用な自己犠牲と、それを倍の光で照らして力ずくで受け止めようとする聖女の覚悟。

青汁でタプタプの胃袋を抱えながらも、二人の手はしっかりと繋がれたまま、いよいよ運命のクリスタルの前へと進み出ます!

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