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第67話「死装束と最後の一杯」

【Side: Elizabeth】

 11月末。王立学園は、張り詰めたような冷気と静寂に包まれていた。 空は重く垂れ込め、今にも雪が降り出しそうな鉛色をしている。 いよいよ、『聖女選定の儀』の当日だ。


 私の自室には、重苦しい沈黙が落ちていた。 専属メイドのアンナが、音もなく私の体に漆黒の法衣ドレスを着せ付けていく。 一般的な生徒が着る濃紺ではなく、装飾を一切排した、まるで夜の闇をそのまま切り取ったような黒。 鏡に映る私は、血の気を失った白い肌と、燃えるような赤い髪がその黒に引き立てられ、いかにも「破滅を呼ぶ魔女」らしい、禍々しくも冷たい美しさを完成させていた。


「……アンナ」


「はい、お嬢様」


「今日、あの地下神殿で、私がクリスタルに触れた時……何が起きても、貴女は決して私を庇ってはダメよ」


 私は鏡越しのアンナに向かって、静かに命じた。


「私がクリスタルの光に弾き飛ばされ、不浄な者として糾弾されても、貴女は『ローゼン公爵家のメイド』としての立場を保ち、私を切り捨てなさい。私の狂気に巻き込まれる必要はないわ」


 それは、私からの最後の命令(遺言)だった。 私が断罪された後、周囲の人間まで「魔女の仲間」として迫害されるのは避けなければならない。 アンナは一瞬だけ手を止め、そして、いつも通りの一切の感情を排した声で答えた。


「……承知いたしました。ですが、お嬢様。私は胃薬のストックをまだ三箱も残しております。それを使い切るまでは、お嬢様を見限るつもりはございません」


「ふふっ。可愛げのないメイドね」


 私が自嘲気味に笑った、その時だった。


「失礼します! エリザベート様!」


 バーン!と勢いよく扉が開かれ、純白の法衣に金の刺繍を輝かせたミアが飛び込んできた。 その手には、見慣れた、いや、いつも以上に凶悪な緑色をした特大のジョッキが握られている。


「おはようございます! さあ、本日の、そして儀式前最後の『特濃・限界突破青汁マキシマム・エディション』です! これを飲んで、魔力回路をフルチャージしましょう!」


「……貴女ねぇ。今日という日にまで、その草の搾りかすを飲ませる気?」


「もちろんです! 今日のために、一週間ファスティング(断食)して胃腸を浄化していただいたのですから! 吸収率はMAXです!」


 ミアの背後に、後光のような幻覚が見えた。 私は小さくため息をつき、彼女からジョッキを受け取った。 ずしりと重い。そして、匂いだけで意識が遠のきそうだ。


「……いいわ。これが、私の『最後の一杯』になるのだから」


 私が弾き飛ばされ、魔女として捕縛されれば、もう二度とこんな不味い液体を飲まされることもなくなる。 この騒がしくて、強引で、理解不能な聖女ヒロインとの奇妙な日々も、今日で終わりだ。


 そう思うと、少しだけ胸の奥がチクリと痛んだ。


「いただきますわ!」


 私は覚悟を決め、鼻をつまんで一気に青汁を喉に流し込んだ。 強烈な苦味と、濃縮された魔力が食道を焼け焦がすように下っていく。 「ングッ……! オェェッ!」 むせ返りながらも、一滴残さず飲み干す。 直後、空っぽだった胃腸に莫大なエネルギーが染み渡り、冷え切っていた指先まで一気に熱が巡るのが分かった。


「素晴らしい飲みっぷりです! これで基礎免疫力は完璧です!」


「……ええ。お腹がタプタプで、魔女の威厳も何もあったものじゃないわ」


 私は口元をハンカチで乱暴に拭い、立ち上がった。 体力はみなぎっている。これなら、どんな断罪の衝撃にも耐えられそうだ。 さあ、行こう。 私を終わらせるための、処刑台(神殿)へ。


儀式当日。漆黒の法衣に身を包み、アンナに「私を切り捨てなさい」と最後の命令を下すエリザベート。悲壮な死への覚悟……を、またしても緑色のアイツがぶち壊します!

ドアを蹴破って現れたミアの手には、「特濃・限界突破青汁マキシマム・エディション」!

最期の晩餐の夢を砕かれ、空っぽの胃腸に致死量の激マズ青汁を流し込まれる悪役令嬢。アンナの「胃薬が三箱残っているうちは見限りません」という忠誠心(?)も最高に光っていますね。


※「アンナさん最高(笑)」「青汁の圧が強すぎる」とクスッときた方は、ぜひページ下部からブックマーク・評価での応援をお願いいたします!

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