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第64話「白と黒の採寸」

【Side: Mia】

 クリストファー殿下たちの訪問から数日後。 季節はすっかり冬の気配を帯び、窓から見える木々は葉を落とし始めていた。


 今日は、来月に迫った『聖女選定の儀』で着る、特別な法衣ドレスの採寸日だ。 王宮から派遣された仕立て屋が、私とエリザベート様のサイズを測るために、学園の応接室を訪れていた。


「ミア様は、こちらの純白のシルクに、金の刺繍を施したデザインになります。聖女候補にふさわしい、穢れのない白です」


「ありがとうございます。とても綺麗ですね」


 仕立て屋の女性が、私に白い布地を当てながら微笑む。 そして、彼女は少し緊張した面持ちで、腕を組んで不機嫌そうに座っているエリザベート様の方を向いた。


「ええと、エリザベート様は……規定通り、深い藍色ネイビーの布地でよろしいでしょうか?」


 儀式に参加する一般生徒の法衣は、厳粛さを表す濃紺と決まっている。 しかし、エリザベート様は扇子をピシャリと閉じて、冷たく言い放った。


「いいえ。私は『漆黒』で仕立てなさい。装飾も一切不要よ。ただの、闇のような黒でいいわ」


 仕立て屋が困惑したように息を呑む。


「し、漆黒、ですか? それは喪服や、罪人が着る色とされておりまして……神聖な儀式の場にはふさわしくないと……」


「だからどうしたの? 私はローゼン公爵令嬢よ。私が黒を着ると言ったら、黒にしなさい。私の心の中のドス黒さを、色で表現してあげるというのよ」


 彼女はフンと鼻を鳴らした。


「どうせ私は、不浄な存在として弾かれる運命なのだから。最初から黒く染まっていた方が、お似合いでしょう?」


 その言葉は、仕立て屋やアンナさんの耳には「傲慢なワガママ」や「不遜な態度」に聞こえたかもしれない。 でも、私の耳には違った。


(『どうせ弾かれる運命』……)


 私の胸が、ギュッと締め付けられる。 彼女は、あの儀式で自分が「魔王の瘴気」を宿していることがバレて、全校生徒の前で断罪される(不浄と判定される)ことを、すでに覚悟しているのだ。 だから、あえて罪人の色である「黒」を選び、周囲から石を投げられやすくしようとしている。 自らを犠牲にして世界を救うための、彼女なりの悲壮な準備ドレスコード


「……かしこまりました。では、黒のシルクでご用意いたします。採寸をお願いします」


 仕立て屋がメジャーを取り出し、エリザベート様の体に当てていく。 私は少し離れた場所から、その様子を見つめていた。


「……お嬢様。少し、お痩せになられましたか?」


 メジャーの目盛りを見た仕立て屋が、ぽつりと漏らす。


(えっ?)


 私はハッとして、彼女の体を見た。 制服やドレスのボリュームで誤魔化されていたけれど、メジャーで測られる彼女のウエストや肩幅は、以前よりも明らかに細くなっている。 私の『特製青汁』や食事管理で、肌ツヤや顔色は良くなった。 でも、それは表面的な「対症療法」に過ぎなかったのだ。 彼女の体の奥底では、魔王の瘴気システムが、確実に彼女の生命力カロリーを削り取り、蝕み続けている。 『聖女選定の儀』が近づくにつれ、システムの負荷が強まっている証拠だ。


「……うるさいわね。少しダイエットをしただけよ」


 エリザベート様は顔を背け、誤魔化すように言った。


 その横顔の、あまりの儚さ。 漆黒のドレスを着て、一人で破滅の壇上に上がろうとしている彼女。


(……絶対に、死なせない)


 私は、自分の純白の布地を強く握りしめた。 彼女が黒に染まろうとするなら、私がその黒を全て光で覆い尽くしてやる。 儀式の日、彼女がクリスタルの光に弾かれ、魔女の呪いが暴走したその瞬間。 私は誰よりも早く彼女の手を掴み、彼女が一人で背負ってきた「真実」を、私という聖女の権威をもって「これは病気だ! 私が治す!」と世界に宣言するのだ。


「エリザベート様」


 私は、採寸を終えた彼女に歩み寄り、満面の笑みを向けた。


「黒のドレス、きっとお似合いになりますよ。でも、儀式までの残り二週間。少しでも体力をつけていただくために、今夜から青汁に『魔力高麗人参(特濃)』を追加しますね」


「は……? ちょ、やめなさい! あれ以上不味くしてどうする気!? 私を殺す気!?」


「いえ、生かすためです。一滴残さず飲んでいただきますからね」


 彼女が悲鳴を上げ、アンナさんが(胃薬を噛み砕きながら)素早く退路を塞ぐ。 日常のドタバタ劇。 でも、私の心の中は、かつてないほど冷徹に、そして熱く燃え上がっていた。


 決戦の日は近い。 彼女の孤独な自己犠牲シナリオを打ち砕き、強引にハッピーエンドのレールに乗せるための、最後の手術オペの準備が、いよいよ整おうとしていた。


【確定診断イベント「聖女選定の儀」まで──残り、14日】


いよいよ来月に迫った『聖女選定の儀』。

自らが不浄(魔女)として弾かれることを覚悟しているエリザベートは、あえて罪人の色である「漆黒のドレス」をオーダーします。

彼女の少し痩せた肩越しに、その悲壮な覚悟を読み取ったミア。

「黒に染まろうとするなら、私がその黒を全て光で覆い尽くしてやる」

決戦の日に向けて、ミアの「主治医」としての覚悟も限界突破! まずは手始めに、青汁に魔力高麗人参(特濃)を追加して物理的な体力をカンストさせる作戦です。逃げて、エリザベート様!


※「黒ドレスの理由が切ない……」「からの特濃青汁(笑)」と感情のジェットコースターを楽しんでいただけた方は、ぜひ下部の星(☆☆☆)から評価をお願いいたします!

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