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第65話「最期の晩餐(の予行演習)」

【Side: Elizabeth】

 11月も半ばを過ぎ、王立学園の木々は完全に葉を落とし、冬の冷たい風が窓を揺らしていた。 私の自室のカレンダーには、10日後の日付に赤い丸がつけられている。


『聖女選定の儀』


 それは、私がこの世界ゲームの表舞台から退場するための、最も重要なイベント。 あの巨大な「始祖のクリスタル」は、触れた者の魂の性質を如実に映し出す。 私の中に眠る「世界を滅ぼす悪意(魔女の瘴気)」がクリスタルに触れれば、間違いなくそれはドス黒く濁り、私を不浄な者として弾き飛ばすだろう。 全校生徒と王族の前で、「魔女の器」としての正体を暴かれるのだ。 最悪の場合、そのまま拘束され、地下牢に幽閉されるか、あるいは前倒しで断罪(処刑)される可能性すらある。


「……ついに、この時が来るのね」


 私は鏡の前に立ち、自分の顔を見つめた。 恐怖で足が震えそうになるのを、必死に奥歯を噛み締めて堪える。 私は世界を救うために死ぬのだ。泣いてはいけない。悪役らしく、最後まで傲慢に、美しく散らなければ。


「アンナ」


「はい、お嬢様」


 部屋の隅で静かに控えていたアンナを呼ぶ。


「今日の夕食は、特別なものを用意してちょうだい」


「特別、と申しますと?」


「血の滴るような、最高級のレア・ステーキよ。それに、キャビアと、最も熟成された年代物の……ええと、葡萄ジュースを」


 私は少し背伸びをしたメニューをオーダーした。 どうせこれが、私の人生における『最期の晩餐』になるかもしれないのだ。 せめて最後くらい、悪の女帝にふさわしい、豪勢で胃にもたれるようなディナーを腹いっぱい食べてから、破滅の壇上に上がりたい。 青汁なんていう草の汁は、もう真っ平御免だ。


「……お嬢様。そのメニューは少々、胃腸への負担が大きすぎるのでは」


「いいのよ。どうせもう、長くはないのだから」


 私が遠い目をしてフラグめいた言葉を呟いた、その時だった。


「ダメです!!」


 バーンッ!! と、扉が蝶番から悲鳴を上げるほどの勢いで開け放たれた。


「ミ、ミアさん!?」


「ノックもせず失礼します! 今『ステーキ』と聞こえましたが、空耳ですよね!?」


 ズンズンと足音を鳴らして入ってきたミアの両手には、見たこともないサイズの特大ピッチャーが握られていた。 その中には、見慣れた深緑色の液体──いや、普段よりもさらに色が濃く、ドロドロとしたヘドロのような『特製青汁(完全デトックス・エディション)』がたっぷりと波打っている。


「ぎゃっ!? な、何よその量は!」


「今日から儀式までの10日間は、神聖なる『ファスティング(断食)期間』です!」


「はぁぁぁ!?」


 ミアは特大ピッチャーを机にドンッと置き、有無を言わせぬ圧力で私に迫った。


「あの儀式は、体内の魔力を極限まで高めてクリスタルと共鳴させる重要なものです。胃腸に固形物(ステーキなど言語道断!)が残っていれば、消化にエネルギーを奪われ、魔力の純度が濁ってしまいます! だから今日から儀式までは、この『特製青汁』と水だけで過ごしていただきます!」


「ふざけないで! 私の最期の晩餐が、そんな草の搾りかすだなんて絶対に嫌よ! 私は肉を食べるの! 血の滴るようなお肉を!」


「煩悩と共に捨ててください! 胃腸を空っぽにして、体内の毒素(瘴気)を完全に抜き去るのです! さあ、鼻をつまんで!」


「アンナ! 助けて! 貴女の主が平民に虐待されているわよ!」


「……お嬢様。その華奢なお体でそんな重たいものを召し上がったら、儀式の前に胃が限界を迎えます。ここはミア様に抗わないのが賢明かと」


「裏切り者ォォッ!!」


 アンナに退路を塞がれ、私はミアに無理やり特大のジョッキを押し付けられた。


「さあ、一気飲みを! 終わるまで私はここから一歩も動きませんからね!」


 という悪魔のような笑顔。 結局、私は涙と鼻水を流しながら、致死量の不味さを誇るデトックス青汁を飲み干す羽目になった。


 私の悲壮な覚悟と「最期の晩餐」のロマンは、空腹と口いっぱいに広がる強烈な青臭さによって、跡形もなく粉砕されたのだった。


儀式を10日後に控え、「これが最期の晩餐になるかもしれないから」と、最高級のレアステーキと葡萄ジュースをオーダーするエリザベート。

悪の女帝らしい豪勢なディナーで破滅の壇上に上がる……という彼女のロマンは、ドアを蹴破って現れたミアの「特大ピッチャー入り特製青汁(ヘドロ状)」によって跡形もなく粉砕されます!

「今日から儀式まではファスティング(断食)期間です!」

アンナさんにも退路を塞がれ、涙目でデトックス青汁を一気飲みさせられる悪役令嬢。彼女の悲壮な覚悟は、いつも青臭い草の汁と共に胃袋へ流し込まれていくのでした。


※いよいよ次回から「聖女選定の儀」編に突入ですね!「青汁の圧がすごい(笑)」「アンナさんのナイスアシスト!」と続きが気になった方は、ぜひブックマークや下部の評価(☆☆☆)で応援をよろしくお願いいたします! 毎日の更新の大きな励みになります!

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