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第62話「依存と受容のケアプラン」

【Side: Mia】

(……なんてこと。エリザベート様が、完全に「幼児退行」を起こしかけているわ!)


 私はエリザベート様の肩を揉みほぐしながら、彼女の深刻な精神状態に戦慄していた。


 今日の彼女は、明らかにおかしい。 いつもなら「私は魔女よ!」とツンツンしているのに、今日は自分から「何もしたくない」「お茶を淹れて」「クッキーを食べさせて」と、私に甘えて(本人は命令しているつもりだろうが)きているのだ。


 医療現場では、極度のストレスやトラウマを抱えた患者が、一時的に子供のように依存的な態度をとることがある。 これを「退行レグレッシオン」という。


(学園祭での魔女の演技……。あれが、彼女の心に決定的なダメージを与えてしまったのね)


 あの大舞台で、彼女は自分の中の「魔女のシステム」が表出するのを抑え込みながら、必死に悪役を演じきった。 結果的に大成功(美談)にはなったものの、彼女が背負った精神的負荷は計り知れない。 常に魔女の呪い(システム)の監視に怯え、助けを求めることも許されず、一人で病魔と戦い続けてきたのだ。 「もう呪いと戦うのに疲れた」「誰かに寄りかかりたい」という魂の悲鳴が、今日のこの「怠惰な命令」という形で表出している。


(よく頑張りましたね、お姉様。もう無理しなくていいんですよ)


 私は目頭が熱くなるのを感じながら、さらに丁寧に、愛情を込めて彼女の肩を揉みほぐした。 彼女の華奢な体が、少しずつ緊張を解き、私の手に体重を預けてくるのが分かる。 コクリ、コクリと、気持ちよさそうに首が揺れている。 可愛い。普段の尖った態度からは想像もつかないほど、無防備で愛おしい。


「……ん、そこ、いいわ……」


「はい。ゆっくり休んでくださいね」


 私は彼女をベッドに誘導し、横にさせた。 紅茶を淹れる代わりに、自律神経を整える温かいハーブティーを口元に運んであげる。 彼女は抵抗することなく、小鳥のようにそれを受け入れた。


(よし。今こそ、私の「受容と共感」のケアプランを実行する時だわ)


 患者が退行を示している時、無理に現実を突きつけたり、突き放したりしてはいけない。 まずは彼女の依存を全面的に受け入れ、「ここは安全な場所だ」「貴女は守られている」という安心感ラポールを形成することが最優先だ。 彼女が「甘えたい」と願うなら、私が底なしの沼のように甘やかしてやる!


「エリザベート様。これからは、何でも私に言ってくださいね。服の着替えも、髪を梳かすのも、全部私がやってさしあげますから」


「……んぅ……そう? じゃあ、明日の朝も……」

「はい! もちろんです!」


 まどろみの中で頷く彼女の頭を、優しく撫でる。 彼女のサラサラの赤髪が、私の指の間を滑り落ちていく。


(来月の『聖女選定の儀』まで、あと少し)


 あの儀式で、彼女の中の魔王の瘴気がクリスタルの光と激突すれば、彼女はとてつもない苦痛を味わうことになるかもしれない。 だからこそ、今のうちに彼女の「心の防御力レジリエンス」を高め、私との信頼関係を極限まで深めておかなければならないのだ。 彼女が「魔女」として完全に絶望の淵に立たされた時、私が手を伸ばせば、絶対にその手を握り返してくれるように。


「……私の前でだけは、悪役なんて演じなくていいんですからね」


 すっかり寝息を立て始めた彼女の耳元で、私はそっと囁いた。 秋の冷たい風が窓を揺らす。 けれど、この部屋の中だけは、私が魔法と体温で絶対に温かく保ってみせる。 彼女が抱える「呪い」の正体を暴き、完全に治療するその日まで。


【確定診断イベント「聖女選定の儀」まで──残り、18日】


怠惰なワガママを爆発させるエリザベートを見たミアの「医療者フィルター」は、今日もフル稼働です。

「極度のストレスによる幼児退行レグレッシオンだわ! ここは全面的に受容して安心感ラポールを形成しなきゃ!」

悪役としてのストライキを「魂の悲鳴」と重症判定したミアは、底なしの沼のような過剰介護(甘やかし)モードに突入します。

「服の着替えも、髪を梳かすのも、全部私がやってさしあげますから」

……エリザベート様、完全にナース・ミアの術中(沼)にハマっていますね。


※「ミアの解釈が強すぎる(笑)」「エリザベート様チョロい」と楽しんでいただけましたら、ぜひページ下部からブックマーク・評価での応援をお願いいたします!

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