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幕間6「芸術は爆発(物理)だ」

【Side: Christopher】

 学園祭の熱気も冷めやらぬ、大講堂の貴賓席。 私は、目頭に浮かんだ熱いものを、シルクのハンカチでそっと押さえた。 周囲の貴族たちも同様に、スタンディングオベーションの余韻の中で、感嘆のため息を漏らし、涙を拭っている。


「……素晴らしい。歴史に残る舞台だったな、アレクサンダー」


 傍らに控える側近のアレクサンダーに声をかけると、彼もまた、眼鏡の奥の瞳を潤ませながら深く頷いた。


「はい、殿下。まさに魂を揺さぶられるような、究極の芸術でした。特に、エリザベート様のアドリブ……あれには度肝を抜かれました」


「ああ。台本にある『愚かな聖女よ』という陳腐な悪役のセリフを捨て、彼女はあえて『社会の矛盾』や『自己の狂気』を全面に押し出した」


 私は舞台の上で、ミア嬢に抱きしめられてフリーズしていた(私には、感極まって立ち尽くしているように見えた)婚約者の姿を思い返した。


「自らを『弱者の泣き叫ぶ声が音楽だ』と嘯く絶対悪に貶めることで、貴族社会に潜む欺瞞を浮き彫りにしたのだ。観客を本気でドン引きさせ、憎悪を向けさせる……あの徹底した『ヒール(悪役)』の演技があってこそ、その後のミア嬢の『救済』がカタルシスを生んだ」


「おっしゃる通りです。そして何より、あの演出……!」


 アレクサンダーが興奮気味に言葉を継ぐ。


「まさか、学生の演劇で『本物の闇魔法(幻影の闇炎)』を使うとは! 一歩間違えれば大惨事になりかねない危険な魔法を、安全圏ギリギリでコントロールしてみせた。リアリティを極限まで追求する、エリザベート様の凄まじい役者魂を感じました!」


「彼女は天才だ。そして、どこまでも不器用で、自己犠牲の精神に満ちている」


 私は、再びハンカチで目を押さえた。 彼女は、自分が「危険な魔女」として全校生徒から恐れられるリスクを背負ってまで、この舞台の完成度を高め、ヒロインであるミア嬢の「聖女」としての輝きを引き立てたのだ。 なんという深い愛。なんという孤独な献身。 (※実際は本気で嫌われようとして闇魔法をぶっ放し、ミアの物理的なタックルと浄化で強制終了させられただけなのだが、彼らがその真実を知る術はない)


「殿下。この舞台の成功により、エリザベート様の学園内での評価は、もはや『孤高の芸術家』あるいは『前衛的な天才』として不動のものとなるでしょう」


「うむ。私も王家を代表して、彼女のあの前衛的で感動的な解釈を大いに称賛するとしよう。彼女の悪名を轟かせようとする不器用な照れ隠しは、我々が全力で肯定してやらねばならないからな」


 私は力強く頷いた。 もし彼女が「私は本気で悪役になりたかったのに!」と抗議してきたとしても、それは才能ある芸術家特有の「謙遜」として受け取るつもりだ。


「そして……あの圧倒的な闇を、恐れることなく抱きしめ、光で包み込んだミア嬢」


 私の視線は、すでに幕が下りた舞台の中央へと向けられた。


「彼女のあの光は、本物でしたね。演技を超えた、本物の『聖女』の慈愛を感じました」


「ああ。いよいよ来月は、本物の聖女を決定する『聖女選定の儀』が行われる」


 私は立ち上がり、貴賓席を後にすべくマントを翻した。


「この学園祭という大舞台を見事に成功させた二人だ。次の『儀式』でも、きっと我々の想像を超える素晴らしい結果を残してくれるだろう。……エリザベートの深い愛に報いるためにも、我々も全力でサポートしなければな」


「御意」


 秋の深まりと共に、王立学園は次なる大きなうねりへと向かっていく。 そのうねりの中で、エリザベートが一人で背負っている「何か」の正体を、私たちが共に分かち合える日が来ることを、私は静かに願い続けていた。


感動の余韻に浸る貴賓席。クリストファー殿下とアレクサンダーの「超解釈」は、演劇を見てさらに限界を突破していました。

アドリブの暴言を「社会の矛盾を突く芸術」、危険な闇魔法を「リアリティの追求」と大絶賛!

「彼女の悪名を轟かせようとする不器用な照れ隠しは、我々が全力で肯定してやらねばならない」

……殿下、完全にダメな方向に覚悟を決めてしまいました。ポンコツな婚約者を持つと、王子たちも大変(幸せそう)ですね。

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