第54話「生存への誓い」
【Side: Mia】
星空の下、テラスで隣り合って座るエリザベート様の横顔は、透き通るように美しく、そして──どこまでも悲痛だった。
『……誰かが犠牲にならなければ、守れない法(秩序)もあるのよ』
『私はね、その「犠牲」の必要性を理解しているの。だから、誰に憎まれても、自分の役割を果たすだけよ』
その言葉を聞いた瞬間、私の心臓は鷲掴みにされたように痛んだ。 膝の上で組んだ手が、ギリギリと音を立てるほど強く握りしめられる。
(ああ、やっぱり……! エリザベート様は、すべてを知っているんだ!)
彼女の言葉は、私の『真実版』の解釈を決定的なものにした。 彼女が言う「法(秩序)」とは、この世界を縛るシナリオ(魔王の封印)のこと。 「犠牲」とは、自らが人柱となって魔女の魂を封じ込め、命を落とすこと。 そして「自分の役割」とは──周囲から悪女として憎まれ、孤立したまま、誰にも知られずに世界のために死んでいくことだ。
彼女は、自分が『真実版』の生贄になる運命を受け入れようとしているのだ。 だから、領民を豊かにしても自分を「悪徳領主」と名乗り、私を「特製青汁」で救済させておきながら「ふしだらな水着」で軽蔑させようとした。 自分が死んだ後、誰も悲しまないように。 自分が憎まれたまま消え去ることが、この世界にとっての「正しい秩序」だと、彼女は本気で信じ込んでいる。
(そんなの……悲しすぎます!!)
私は唇を噛み締めた。血の味がした。 そんな理不尽な自己犠牲の上に成り立つ平和なんて、絶対に間違っている。 システムが彼女に「死ね」と命じるなら、私はそのシステムごと叩き壊してやる。
「……エリザベート様」
私は、震える声を必死に抑え込み、静かに、けれど強い決意を込めて口を開いた。
「誰かが犠牲にならなければ守れない平和なんて、私は認めません」
エリザベート様が、驚いたようにこちらを見た。 その赤い瞳に、私の顔が映る。 私は彼女の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「貴女は『自分の役割』だと仰いましたね。でも、そんな悲しい役割は、私が終わらせます」
「……ミアさん? 何を言っているの。貴女には関係のない……」
「関係大ありです! 私は貴女の主治医ですから!」
私は立ち上がり、彼女の目の前に立った。
「貴女がどれだけ自分を『悪』だと主張しても、どれだけ孤独になろうとしても、無駄です。私が絶対に、貴女を一人にはしません」
「っ……! だから、私は悪役で……!」
「私が必ず、全員で笑って帰るハッピーエンドを見つけてみせます! 誰一人、欠けさせたりはしません。特に……貴女のことは、絶対に!!」
私の叫びは、夜の湖畔に響き渡った。 それは、ゲームのヒロインとしてのセリフではない。 前世から彼女の隠された優しさを知り、そして今生でその不器用で高潔な魂に触れた、一人の人間としての「生存への誓い」だった。
エリザベート様は、目を見開き、言葉を失っていた。 その顔には、困惑と、ほんの少しの……「救われた」ような光が差しているように見えたのは、私の願望だろうか。
「……お茶、冷めてしまいますよ。風邪を引く前に、中に入りましょう」
私は無理やり笑顔を作り、彼女の手からティーカップを受け取った。
『真実版』のバッドエンド(人柱の死)は、私が絶対に回避する。 世界の理がどうあろうと、私が聖女の全魔力と、現代医学(物理)の知識を総動員して、彼女の命を繋ぎ止めてみせる。
夏の終わりの夜。 星空の下で交わされた彼女の悲壮な覚悟と、私の生存への誓い。 ゲームの知識が示す残酷な運命から、私が絶対に彼女を救い出してみせる。 私たちの奇妙で一方的な絆が、この夜を境に決して切れない強固なものへと変わったことを、私は確かに感じていた。
エリザベートの悲壮な覚悟を聞いたミアの魂の叫びです。
「誰かが犠牲にならなければ守れない平和なんて、私は認めません!」
ゲームのシナリオや世界の理がどうであろうと、現代医学と聖女の全魔力を総動員して絶対に生き残らせてみせるという、強烈な生存への誓い。
「私が絶対に、全員で笑って帰るハッピーエンドを見つけてみせます」
すれ違ったまま交わされた星空の約束。二人の絆が、決して切れない強固なもの(執着)へと変わった美しい夜でした。
※「すれ違ってるのに泣ける」「ミアがイケメンすぎる!」と胸が熱くなった方は、ぜひ下部の星(☆☆☆)から評価をお願いいたします!




