第49話「悪徳領主の演説」
【Side: Elizabeth】
別荘での療養生活も中盤に差し掛かったある日。私は、別荘の近くにある領地(ローゼン公爵家が治める農村)の視察に訪れていた。
もちろん、ただの視察ではない。領民から搾取し、苦しめる「悪徳領主の娘」としての悪名ポイントを稼ぐための、重要な営業活動(ヘイト集め)だ。村の中心にある広場には、大勢の領民が集まっていた。
日焼けした農民たち。粗末な服を着た子供たち。私は広場を見下ろす高台に立ち、扇子を優雅に開いた。私の背後には、護衛の騎士たちと、なぜか「医療スタッフ」という謎の腕章をつけて同行してきたミア・ゼン・シャーカンが控えている。
(さあ、始めるわよ。私の極悪非道な演説を!)
私は大きく息を吸い込み、冷徹で高慢な声を広場に響かせた。
「平民ども、よく聞きなさい! ローゼン公爵家次期当主、エリザベート・フォン・ローゼンですわ!」
ざわめきが静まる。皆、公爵令嬢である私を恐れ、ひれ伏している。いい傾向だ。
「本日ここへ来たのは、貴方たちに重要な通達をするためです。今年の秋の収穫から、この村の税率を……現在の四割から、なんと八割に引き上げますわ!」
ドンッ! と地面をヒールで踏み鳴らす。税率八割。もはや暴政を通り越して、ただの略奪だ。農民たちは冬を越すことすらできず、餓死するか逃散するしかない。
さあ、怒れ! 絶望しろ! 「悪魔!」「血も涙もないのか!」と私に罵声を浴びせなさい!
「そして、税を払えぬ怠け者からは、容赦なく土地と家を取り上げます! 没収した小麦は全て私の工場で加工し、私が指定した商人にしか卸しません! 流通も販売も、全て私が完全に支配し、利益を独占してドレスの新作を買う資金にしますわ!」
どうだ、この身勝手な理由!私の脳内には、前世の歴史教科書で学んだ「暴君」たちの言葉がリストアップされている。そして、この演説の締めくくりとして、私が用意した最高にヘイトを買う「あの名台詞」を放つ時が来た。
「ひいぃっ……」
最前列にいた小さな女の子が、怯えたように声を漏らした。
「でも、お嬢様……税が八割になったら、私たち、食べるパンがなくなってしまいます……」
(ナイスアシストよ、少女!)
私は扇子をパチンと閉じ、薄情な笑みを浮かべて、少女を見下ろした。そして、歴史に名を残す悪女の言葉を、最高のドヤ顔で言い放った。
「あら、パンがない? だったら──お菓子を食べればいいじゃないの!」
決まった。これぞ、民衆の苦しみを全く理解していない、究極の無神経発言。マリー・○ントワネットもびっくりの、歴史的暴言だ。
(さあ、暴動よ起きなさい! 私に向かって石を! 泥を! トマトを投げつけなさい!)
私は両手を広げ、来るべき物理的な反発を受け止める覚悟を決めた。ドレスが汚れるのは嫌だが、悪役としての箔がつくなら安いものだ。
「公爵令嬢、民衆の怒りを買いトマトまみれに」という見出しが、社交界のゴシップ誌を飾る光景が目に浮かぶ。
私は目を閉じ、最初のトマトが飛んでくるのを、胸を張って待った。
療養生活の合間に、領地視察で悪名稼ぎの営業活動です。
「税率八割! 流通の独占! 利益は私のドレス代!」という極悪非道な演説に加え、ついにあの歴史的暴言「パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃないの!」を投下!
さあ、暴動よ起きなさい! 私にトマトを投げつけなさい!
目を閉じて物理的な反発を待つエリザベートですが、彼女のその完璧な「前世の知識(有能さ)」が、またしても致命的な(?)事態を引き起こします。




