第45話「誘惑のマーメイド」
【Side: Elizabeth】
バカンス中盤。連日の「健康ブートキャンプ」に疲弊しきっていた私は、ついに反撃の狼煙を上げる決意をした。 舞台は、別荘の目の前に広がる美しいプライベート・ビーチ。 照りつける太陽、白い砂浜。絶好の水遊び日和である。
(ここ数日、完全にミアのペースに巻き込まれていたわ。でも、今日こそは私の「悪女」としての格の違いを見せつけてやる!)
私は更衣室の鏡の前で、不敵な笑みを浮かべた。 私が身に纏っているのは、この日のために王都のデザイナーに特注で作らせた、漆黒の水着だ。 布面積は極端に少なく、背中や腰のラインが大胆に露出する刺激的なデザイン。上品なフリルやリボンなど皆無。 清純さを重んじるこの国の貴族社会において、これほど破廉恥で扇情的な水着は「毒婦」の象徴だ。
「完璧よ。この毒々しい色気で、風紀を乱し、ミアの清純なヒロイン力に精神的ダメージを与えてやるわ!」
私は自信満々で更衣室を飛び出し、砂浜へと向かった。 砂浜では、ミアが可愛らしい白いワンピース型の水着を着て、準備体操をしていた。
「お待たせしましたわ、ミアさん」
私が声をかけると、彼女は振り返り──そして、息を呑んで固まった。
「エ、エリザベート様……その水着は……」
「ふふっ。どうかしら? 貴女のようなお子様には、刺激が強すぎたかしら?」
私は腰に手を当て、最も体のラインが強調されるポーズをとった。 狙い通りだ。彼女の顔は真っ赤になり、目をパチクリとさせている。 「なんて破廉恥な!」「公爵令嬢の自覚はないのですか!」と罵倒してきなさい。それが私への最高の賛辞になるのだから!
しかし、ミアの口から出た言葉は、私の予想を斜め上に裏切るものだった。
「……ダメです!!」
「えっ?」
ミアは猛ダッシュで私に駆け寄ると、手に持っていた巨大なバスタオルをバサァッ!と広げた。
「そんな布面積の少ない水着、お腹が冷えます! 関節も冷えます! 水分が蒸発する際に体温が奪われる『気化熱』を甘く見ないでください!」
「は? ちょ、ちょっと何をするの──」
有無を言わさぬ早業だった。 ミアはバスタオルで私の体をぐるぐる巻きにし、あっという間に「ミノムシ(あるいは簀巻き)」状態にしてしまったのだ。
「冷えは万病の元です! 特にエリザベート様は基礎体温が不安定なんですから、もっとお腹を温めるデザインにしてください! 破廉恥とかそういう問題以前に、免疫力が低下します!」
「苦しい! 離しなさい! これは悪女のアイデンティティなのよ!」
私がバスタオルの拘束の中でジタバタと暴れていると、背後から微かな気配を感じた。
私の後ろで、露出狂の主人を止められず胃薬を握りしめていたアンナが、「ミア様、グッジョブです」と無言の感謝を捧げている気がしたが、見なかったことにした。
「さあ、このまま砂浜で日光浴(温熱療法)です! 水に入るのは禁止!」
「水着の意味がないじゃないのォォォッ!!」
私の渾身の「誘惑のマーメイド作戦」は、ただの「天日干しにされたミノムシ」として、無残に失敗に終わったのだった。
ブートキャンプに反発すべく、エリザベートが用意した最終兵器「露出度MAXのセクシー水着」!
毒婦としての色気で風紀を乱し、ミアに精神的ダメージを……とドヤ顔でポーズを決めますが、相手が悪すぎました。
「お腹が冷えます! 気化熱を甘く見ないで!」
ナース・ミアの容赦ないバスタオル簀巻き(ミノムシ化)により、誘惑のマーメイドはただの「天日干し」へと無残にクラスチェンジ。アンナさんの無言のガッツポーズが目に浮かびます(笑)。
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