表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/95

第40話「密着監視体制」

【Side: Mia】

 翌日の午後。 エリザベート様の退院手続きを済ませた私は、保健室の前で彼女が出てくるのを待ち構えていた。 手には、王家の紋章が入った一枚の書類(許可証)を握りしめている。


 ガチャリ。 ドアが開き、制服に着替えたエリザベート様が出てきた。 まだ顔色は優れないが、その足取りはしっかりしている。 私を見つけると、彼女は露骨に顔をしかめた。


「……ミアさん。お見舞いは結構ですわよ」


「お見舞いではありません。お迎えです」


 私は一歩前に出て、彼女の進路を塞いだ。


「エリザベート様。今後のことについて、重要なお話があります」


「今後のこと? 私は寮に戻って寝るだけよ。貴女の顔を見ていると、胸焼けがしますの」


 彼女は冷たく言い放ち、私を避けようとする。 その「胸焼け」という言葉すら、私には「魔女の人格が聖女を拒絶している反応」に聞こえてしまう。 やはり、放置はできない。


「単刀直入に申し上げます。本日より、貴女の生活環境を一新させていただきます」


 私は持っていた書類を彼女の目の前に突き出した。


「な、何よこれ……『特別警戒対象者の保護および管理に関する王命』?」


 彼女が目を丸くして読み上げる。


「クリストファー殿下と学園長、そして王宮医師団の承認印付きです。これにより、エリザベート・フォン・ローゼン公爵令嬢は、心身の健康が回復するまでの間、聖女ミア・ゼン・シャーカンの『管理下』に置かれることが決定しました」


「はぁぁぁぁぁ!?」


 エリザベート様が、令嬢らしからぬ絶叫を上げた。 廊下を歩いていた生徒たちが驚いて振り返るが、私は構わずに続けた。


「具体的には、以下の措置が取られます」


 私は指を折りながら、淡々と告げた。


1.居住区の変更: 貴女の個室の隣室を私が使用します。間の壁にあるコネクティングドアは、常に私の側から解錠できるようにしました。

2.食事の管理: 全食事が私のチェック済みメニューになります。偏食や絶食は許しません。毒見も私がします。

3.スケジュール管理: 授業、放課後、休日。全ての行動予定を共有していただきます。単独行動は原則禁止です。

4.定期検診: 毎朝晩、私がバイタルチェックと魔力測定を行います。拒否した場合は、拘束魔法の使用も許可されています。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! 犯罪よ! これはストーカー規制法違反よ! 人権侵害よ! アンナ! 貴女も何か言いなさい!」


エリザベート様は、荷物持ちとして後ろに付き添っていた専属メイドのアンナさんに助けを求めた。 しかし、アンナさんは一切の表情を変えずに深く一礼した。


「……お嬢様の健康状態が改善されるのであれば、メイドとしてこれ以上の喜びはございません。ミア様、お部屋の改装と荷物の移動はすでに完了しております」


「裏切り者ォォッ!!」


「患者の命を守るための、正当な医療行為トリアージです」


 私は一歩も引かなかった。 彼女の抗議は、もっともだ。普通の人間なら発狂するレベルの束縛だ。 でも、彼女は普通じゃない。 目を離せば魔物を呼び、血を吐き、世界を滅ぼす「魔女」になってしまうかもしれない、爆弾を抱えた患者なのだ。


「貴女が、何かの『呪い』に縛られて苦しんでいるなら、私が支えます。もし、貴女の中に『悪い魔女』がいて何かを企んでいるなら、私が未然に防ぎます」


 私は彼女の手を取り、ギュッと握りしめた。 その手は冷たく、小刻みに震えていた。 恐怖か、怒りか。それとも安堵か。


「どちらにしても、貴女を一人にはしません。……もう二度と、あんな寂しい背中で泣かせたりしませんから」


「……っ」


 エリザベート様が息を呑み、そして顔を真っ赤にして俯いた。 その耳まで赤くなっているのが見える。


「……勝手にしなさいよ! この、お節介! 偽善者! ストーカー!」


 彼女は私の手を振り払い、足早に歩き出した。 でも、その行き先は「自分の部屋」ではなく、私が指定した「新しい部屋(私の隣)」の方角だった。 拒絶の言葉とは裏腹に、彼女は私の管理を受け入れざるを得ないことを理解しているのだ。


(捕まえた)


 私は彼女の背中を見送りながら、小さく微笑んだ。 これは、ゲームの攻略ではない。 私の人生をかけた、一人の少女の救済プロジェクトだ。


 ゲームシナリオとしての『第1章』は、ここで完結。 私たちの奇妙で、噛み合わない、けれど切実な共同生活が、ここから始まる。


【ミアによる監視レベル:カテゴリーI(常時密着)へ移行】


ついに退院の日。待っていたのは、王命という名の「絶対的なストーカー許可証」を持った笑顔のヒロインでした。

隣室への強制お引っ越し、食事管理、24時間バイタルチェック。悪役令嬢としての尊厳は、元ナースの「患者を生かすためのトリアージ」の前にあっけなく崩れ去ります。

頼みの綱のメイド・アンナも、健康第一主義の前にあっさりと陥落!

「このお節介! 偽善者! ストーカー!」と叫びながらも、大人しく隣の部屋に向かうエリザベートが不憫で可愛すぎますね。これにて、怒涛の第1章完結です!


※「第1章お疲れ様でした!」「監視体制がガチすぎる(笑)」と楽しんでいただけましたら、ぜひページ下部からブックマーク・評価での応援をお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ