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第39話「王子の誤解」

【Side: Elizabeth】

 翌日。保健室のベッドの上で、私──エリザベート・フォン・ローゼンは、人生最大の「敗訴」を噛み締めていた。


 窓の外からは、生徒たちの楽しげな声が聞こえる。 「公爵令嬢、すごかったらしいぞ」「ああ、魔物の群れを一撃で葬ったとか」「ミア様を守るために、自分の体を犠牲にしたって噂だ……」 聞こえてくる会話のすべてが、私の神経を逆撫でする。 違う。そうじゃない。 私は「守った」のではない。「獲物を横取りしてドヤ顔をキメた後に、演出用シロップを吐いて自爆した」だけなのだ。 なぜ、事実がこうも歪曲されて伝わるのか。


「……気分はどうだ、エリザベート」


 ノックもなしに現れたのは、婚約者のクリストファー殿下だった。 彼は花瓶に新しい花(白百合、見舞い品の定番だが『純潔』の花言葉が今の私には皮肉すぎる)を活けながら、心配そうに私を覗き込んだ。


「殿下……。昨日は、取り乱してしまい申し訳ありませんでした」


 私は努めて冷静に、しかし内心は必死の形相で切り出した。 まだ間に合うかもしれない。 私の口から「真実」を語り、私がどれほど危険で、邪悪な存在かをプレゼンし直せば、彼の評価を「聖女の守護者」から「狂気の魔女」へと修正できるはずだ。


「単刀直入に申し上げます。昨日のダンジョンでの一件、あれは全て私が仕組んだことです」


 私は告白した。 検察官時代、被告人に自白を促した時のような、逃げ場のない口調で。


「森の奥で魔物が大量発生しましたでしょう? あれは、私が『魔物寄せの香』を焚いたからです。私が、意図的に魔物を呼び寄せ、生徒たちを危険に晒したのです」


 さあ、どうだ。 これは決定的な証言だ。 魔物を呼び寄せるなど、退学どころか国家反逆罪に問われてもおかしくない重罪。 これで殿下も私を軽蔑し、即刻婚約破棄を……。


「ああ、そのことか」


 殿下は、さも「今日の天気」の話でもするかのように軽く頷いた。


「現場検証を行った騎士団から報告があった。割れた紫色の瓶の破片が見つかったとな。確かに、あれは『魔物寄せの香』だったそうだ」


「でしたら……!」


「だが、アレクサンダーが言っていたよ。『彼女は、分散していた魔物を一箇所に集め、一網打尽にするために、あえてデコイになったのではないか』と」


「……はい?」


 私の思考が停止した。


「考えてもみたまえ。あのまま魔物が森に散らばっていれば、他の班の生徒たちが各個撃破されていたかもしれない。君はそれを防ぐために、自分と、実力者であるミア嬢がいる場所へ魔物を誘導し、引き受けた。……そうなんだろう?」


 殿下の瞳が、尊敬の念で輝いている。


「ち、違います! 私はミアさんを陥れるために……!」


「そして、ミア嬢を傷つけないために、自分だけが前に出て、禁忌とされるほどの強力な闇魔法を行使した。その代償として、君は吐血するほどのダメージを負った」


 殿下は私の震える手を、両手で包み込んだ。


「エリザベート。君はなぜ、そこまでして悪役を演じたがるんだ?」


「え……」


「『私は悪だ』と言い張ることで、君は周囲の批判を一身に浴びようとしている。魔物討伐の功績さえも、恐怖で塗りつぶそうとしている。……それは、君なりの不器用な『謙遜』なのか? それとも、誰にも理解されない孤独な『美学』なのか?」


 ダメだ。話が通じない。 私の「悪意」という証拠品が、彼の脳内弁護士によってすべて「自己犠牲」という情状酌量の材料に書き換えられている。 何を言っても無駄だ。 私が「殺意」を口にすればするほど、彼はそれを「愛の裏返し」と解釈するだろう。


「……ミアからも聞いたよ。『エリザベート様は、身を削って私に戦いの厳しさを教えてくれました。彼女は私の目標です』と」


 トドメの一撃だった。 あの子、余計なことを……! 「戦いの厳しさ」? 違うわよ、あれは単なる八つ当たりよ!


「安心したまえ。今回の件は、公式には『魔物の自然発生による事故』として処理される。君が危険なアイテムを使ったことは、私と騎士団長の胸の内に留めておく」


 殿下は優しく微笑んだ。


「君を失うわけにはいかないからな。……これほどの器量と高潔な魂を持つ女性を、私は他に知らない」


 私は枕に沈み込んだ。 終わった。完全に終わった。 断罪ルートは消滅し、代わりに「王太子妃としての盤石な地位」と「殿下からの激重な信頼」が確立されてしまった。 私の手は、殿下に握られたまま、冷たい汗をかいていた。 これは「愛」ではない。私の自由な死を阻む、強固な「鎖」だ。


最後の悪あがき! エリザベートは自らの口で「私が魔物を集める香を使った」と自白し、国家反逆レベルの悪行をアピールします。

しかし、殿下とアレクサンダーの「超・好意的脳内変換」の前には全くの無力でした。

「散らばっていた魔物を一箇所に集め、全校生徒を守るための囮になったんだね(感動)」

……もはや何を言っても好感度と信頼が上がるだけの無敵モード。断罪を望む悪役令嬢を縛り付ける、激重な「愛(鎖)」の完成です!


※第1章完結です!「すれ違いが最高!」「この二人の続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや星での評価をお願いします! 第2章の執筆の大きな励みになります!

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