第362話 保護者に報告(コレデモマイルド)
お菓子パーティの後、シャルルがやってきた。
「挨拶も終わったし……何があったか、フリムからも教えてくれるか?」
チラチラと私の後ろにいるエルフを見ながら言うシャルル。同盟国の王族が奴隷みたいになってるもんな……。
私が手に取っている鎖、その先端には超美人のエルフがドレスのまま繋がれている。
お見合い大会には流石に彼女を連れてはいけなかった。同盟国の王族だし、連れて行くにはシャルルとの相談も必要だし……何より彼女はシャルルの婚約者候補としてはかなりありだ。
絨毯に手をつく彼女は本人に仕事がない場合、可能な限り鎖を持ってもらいたがる。だけどその姿を人に見せるのは慎重にするべきはず。
「えーと、ガリアス様や他国の姫君を迎えにリヴァイアスに行った結果――――ドワーフや他国の有力な勢力との衝突がありました。その後ハイエルフの襲撃にあいまして、ガリアス様の乗っていた船は撃沈。ハイエルフと戦ってハイエルフの上半身をふっとばしてなんとか交渉し、何故か渋々ハイエルフに協力することになり、エルフの国を襲撃していた天使と悪魔を撃滅。エルフの王族が奴隷になりました」
「――――お前は何を言っている?」
ちょっと大きな声を出したシャルル。
理解できなかったのだろう。両手で顔を覆って項垂れてしまった。
私も自分で何を言っているか……ガリアス君御一行を迎えに行っただけなのに、なんでこうなったのか。
よく考えればとんでもないように思うけどだいたいそんな感じである。あ、移動中グレジッグ子爵がやらかしたの忘れてた。他の出来事が大きすぎて……後で報告しよう。
それよりもシャルルには聞きたいことがあった。
「シャルル、聞きたいことがあります」
「…………………………………………………………………………なんだ?」
なんだか真っ白になってしまっているシャルル。たっぷり間があったな。
部下を簡単なおつかいに出したはずが二国とトラブル、三体の上位存在と戦闘行為が発生したのだ。責任者からすればこうなるのも無理はない。
「『天秤』って意味はわかりますか?」
「――――誰から……いや、一応報告はされたが、その、襲撃してきたハイエルフから出た言葉だな」
「はい」
「……俺もよくわかっていない。調べはしたのだがな」
この言葉の意味、スーリに問い詰めても教えてもらえなかった。
まるで話せないことかのように、そしてエルフ繋がりでルルニエに聞いても答えが出なかった。
彼女は彼女の国の上位存在であるスーリの命令でもあるが彼女自身の希望もあって奴隷となっている。彼女の身の上はあまりに可愛そうではあるけどスーリの脅威を知った事もあって隷属の魔法をかけた。
奴隷となれば命令には逆らえない。とはいえ隷属魔法をかける側の力量とかけられた対象の耐性である程度効果はバラける。彼女自身が受け入れていたし、命令して聞こうとした時、彼女は苦しげに、そしてとても言い難そうに「答えられない」と答えた。隷属の魔法の苦しさを超えて答えられないことなのだろう。
「シャルルが知らないってことはレージリア宰相は知っていますかね?」
「一度話したことがあるのだが……知ってはいるだろうが話せないようだ」
「そうですか」
シャルルから嘘は感じない。
とはいえ王の立場なら知っていてもおかしくないはず。
そう言えばエルストラさんは水の大家の関係でシャルルも知らないその言葉を聞いたことがあるそうで伯父上に手紙を送っていたはずだ。また聞きに行ってみよう。いや、何もしなくても会いに来るだろうな。
「本当に、わからないのでしょうか」
ルルニエがシャルルに声を上げた。
ルルニエを見るとシャルルを見る目が驚愕の表情だ。何に驚いているのかわからないけどやはり王族なら知っているべき情報なのだろうか。
「紹介が遅れましたね。こちらはハイエルフであるスーリから奴隷にしておくよう言われて傍においているルルニエです」
口を挟んだこともあるし一応紹介しておくことにした。
「あぁ、すまない。状況がわからなさすぎて挨拶が遅れたな。私はオベイロス王シャルトル・ヴァイノア・リアー・ルーナ・オベイロスだ。精霊はルーラリマ・キス。……その、木々茂り、日照らし、雨降る日々の安寧に喜びを」
横の椅子に座っていたシャルルだったが、片手を胃に当てて目を強く瞑った後……手を床につくルルニエに対して膝をついて可能な限り視線を合わせて王族モードで挨拶した。
ルルニエの報告はしていたけど私の連れているエルフが王族と確認出来ていなかったのかもしれない。もしかしたら普通のエルフだと願っていた可能性すらある。……あ、私からの紹介がなかったからこのエルフが確定で王族とわからなかったから挨拶ができなかったのかな。
なんでエルフの王族が奴隷になっていて、シャルルが床に膝をついたのか……なんか意味不明な状況過ぎて私も椅子から降りて床に正座で座った。シャルルがやっているのは臣下の礼ではなく、目線を合わせたようだ。フリムちゃんこんなマナー学んだこともないし、何が不敬かわからない。
「ルルニエです。王族ですが奴隷にされましたし家名を名乗って良いのかもわかりませんのでルルニエとお呼びくださいませ。我が国の枝様が大変なことを仕出かしてしまい……たまたまそこに居たこの身は奴隷として差し出された次第です。何の問題もありませんのでその点はお気になさらず、精霊遊びしこの国に来れて光栄です」
「……………………………………………………その、とても言いにくいのだが、待遇に不満などは?」
「ありません。日々、フレーミス様の温情に護られております。オベイロス王、王のお子フレーミス様の行いに感謝を」
「お子?いや、何に感謝をしているのだ?」
「――――我が国、我が樹、我が葉、我が民を天使と悪魔の攻撃からお助けいただきありがとうございます」
「………………………………………………………………事実と確定してしまったか。胃、胃が痛い」
あれ?このエルフ、勘違いしてる?
シャルルと私の関係は複雑だ。私からすれば名付け親で保護者。シャルルからすれば信頼していた騎士の子で名前と自身と精霊から闇の加護を授けたというもの。いや、お見合い大会とか意味不明なことをしているし、なにか勘違いしていてもおかしくはない。神聖国の聖女もそう言っていたし、外国において私のことは変に伝わっているのかもしれないな。
ふらついたシャルルにルルニエが手を貸して椅子に座らせた。超魔力水を出すとすぐに飲んだシャルル。飲み終わると完全に椅子の背にもたれかかり、視線は天井、両手はぶらりとして……動かなくなってしまった。
とりあえず話のためにもと遠慮するルルニエにも席についてもらってお菓子を食べてもらう。金平糖を思いの外気に入ったらしい。頬を紅潮させて長い耳がピコピコ動くのに目を取られていると燃え尽きたかのように動かなくなっていたシャルルが口を開いた。
「…………それはそれとしてだな。子供の姿には戻ることは出来ないのか?」
「リヴァイアス領を離れたので戻ってくれれば嬉しいんですが……今のところ戻る気配がありません」
「そ、そうか」
やり辛そうにしているシャルル。おこちゃまボデーからナイスバデーになったしね。
一度神殿でリヴァイアスに向かって止めてと語りかけたことがあったけど全くこちらのことを気にしていなかった。
精霊は、いや、精霊を含む上位の存在は自由すぎる。
リヴァイアス領に来ていた精霊鳥もかなり自由で領地の畑を荒らして何処かに消えていった。
畑のあった村では「酒になる特別な品種なのによくも」とキレて討伐の許可を求めてきたぐらいだ。あれは国が大切にしてる鳥だし、精霊鳥が選んだってことはそれだけ良いものが出来たってことで喜ぶと良いと褒めておいた。
「それと『コンペイトー』と『チョコレイトー』とは何だ?何度も欲しいと要望されて困っているのだが」
「あれはリヴァイアス領の新作です。もう一個おまけがあるんですが、そっちは令嬢に自慢するのに使います」
「自慢?まぁ良いが、俺も食べたい」
元々砂糖は作るように指示しておいたし、父さんから出た現代知識でいくつかの加工をしてもらっていた。
加熱して琥珀のように結晶化する方法もあるがそれはすでに行われていたのでなんといくつかの方法を試してもらった。それは「氷砂糖」に「金平糖」に「琥珀糖」だ。
「氷砂糖」は災害時に乾パンと同じく食べられる砂糖で、調べてもらった結果、純度の高さから保存の環境さえ整えれば半永久的に食べれるのだとか。
ただ砂糖の純度とか、そもそもの原料が果物由来がメインだし出来るかわからなかったので何となくこんな感じで作るという製法だけ試してもらった。
色もついていて上手くいってる感じがしなかったのでまだ実験中である。
次に「金平糖」。砂糖を火にかけた鍋に入れて混ぜ続ける。するとある程度集まった段階で鍋を動かせば球体につぶつぶがついたような形状になる。
これは1、2年ほど食べることが出来る。色もそれぞれの果物で変化があるのか色鮮やかでそれぞれ味が違っていて美味しい。ただし結構な大きさになるまで24時間交代で続けて5日から8日もかかる。
最後に「琥珀糖」。これは最も色鮮やかで、見た目は宝石のようなものが出来上がった。寒天と砂糖で作ることが出来る。3種の中では最も賞味期限が短く、1か月以内にはだめになってしまう。
海藻ならリヴァイアスにあるしと作ってもらったが……なんか微妙。味も舌触りもよくなく、砂糖の癖と寒天の癖が合ってない気がする。見た目は良いし頑張って改良してもらいたい。
寒天はデザート以外にも怪我や病人、高齢者向けのゼリーにも出来ると思うし品質向上すればなにかに使えるかもしれない。現時点でも人魚には人気である。宝石のような型をボルッソファミリーが作ってくれたし……改善するように指示を出したし、もうちょっと美味しいものができれば嬉しいのだが。
「また持ってきますね」
ちょっと後ろめたい。眼の前で全部食べてしまったからね。ルルニエも「あ、食べちゃった」って顔で青ざめている。
一旦荷物は王都の屋敷に運んじゃったし……すぐに取り寄せよう。琥珀糖ならこの部屋にまだストックがあるけど飛んできただけあって食べられるかわからない。シャルルは王様だし、流石に出せない。
金平糖はすごく当たりに思える。酸味の強かった果実は酸味が残っていて酸っぱ甘いし、ハッカとぶどうを混ぜたような味は凄くありだ。他の金平糖も癖が残るものの基本砂糖だからもの凄く甘いけどそれぞれとても個性が出ている。
色も使う果実の色が出ているのか、それぞれちょっと綺麗な気もする。天然の食紅のようなものを使っているから色鮮やかなものもあるけど……一部味は違うのに同じような色で区別できないものは要改良だな。
「あぁ、それとお茶会を開きたいのですが」
「好きにすると良い」
「ありがとうございます。シャルルも出席してください」
報告ではシャルルは可能な限りお見合い大会から逃げているとのこと。
そろそろ向き合ってもらわないとね。
「いや、俺は仕事が……」
「仕事は手伝うので出席してくださいね」
「………………わかった」
もうすぐ小説5巻の発売!
…………胃が!……胃が痛いよぉ。
元々僕も読み専で何年も読んでただけなんだよぉ……。







