第361話 王都に来た悪役令嬢(オカシパーティ)
列車は速いがガリアス君が私との婚姻目的でリヴァイアスに来た場合、単線のため片道数日ずっと一緒にいる事になってしまう。
そのためリヴァイアスの空軍総出で王都に飛んでいった。途中の領地や王都には手紙で連絡済みだし、形だけとは言え「王家相談役」の立場もある。
クーリディアスに居たワイバーンやドラゴンも一緒に爆速で飛んでいった。
前に王都に行ったときには王都の外壁で止められたけど、今回は連絡済みなこともあって何も言われなかったな。顔を見せることもなく通してもらえた。
すぐに王城に行き、身なりを整える。
大人モードの対令嬢用悪役令嬢ドレスで移動なんて出来ない。庶民精神の残る私にはいつもの服ですら高そうだなって値段を気にして躊躇うことがあるのに高価そうな宝石がジャラジャラついている服を着て移動なんて……どれか一つでも外れればと思えば、恐れ多くて移動中に着ることなんて出来なかった。
大人モードを公開することになるけど問題は私の態度だ。お見合い参加者の本性を見破るためにはこれまで通りの「子供のくせに上から押さえつける悪役令嬢」ではよくない。
そもそもオベイロスの貴族は外国の姫君相手にも高圧的で……そうするとこれまでの上から押さえつける悪役令嬢ではイマイチな気がした。
「これまでの私は上手くいってましたよね」
確認のためにもジュリオンとエール先生に相談すると――――
「え、えぇ……」
「そ、そうですね」
なんだか微妙な反応だった。
やはり私の態度がキツすぎたのかとも思ったが、他の貴族はもっとキツい対応をしていたこともあって私の対応が優しいと思われたことがあった。
だからちょっとキャラ変更だ。調子に乗って、舐めた態度で煽ってやって……シャルルのお嫁さんを見極めるのだ!!
「あ、ども。お久しぶりでーす。フレーミス・タナナ・レーム・ルカリム・リヴァイアスでーす。よろしくぅ……どうでしょう」
調子に乗った相手が正妃候補であれば本気で王妃を目指す方がいれば真っ向から蹴落とそうとしてくるはずだし、その過程で相手のやり方を見極めればいい。
他の令嬢も酷い態度なのに、同じようなタイプの悪役だと他国の姫君も対応に慣れて素を出さないかもしれない。そう思って予行演習してみた。
「それはやめましょう」
「ちょっとよろしくないかと。ほら、他国の姫君もいらっしゃいますし」
「にゃーにゃ」
ニャールルからも否定された。
良いと思ったのだけど……後々まずいからと淑女として見せつける事になった。エール先生の監修は厳しい……。
王宮についてまずはシャルルに近況報告して、その後にお見合い参加者に紹介してもらう必要がある。なぜなら今の私は大人モード、この姿を知らない人のほうが多い。
「おぉフリム。待っていたぞ」
「何処かの保護者が手紙で泣き言を吐いてきまして」
「すまんな。俺もだいぶん追い詰められている」
結婚適齢期の王様であるシャルル。彼は昔から女性に何度も襲われて女性不信である。
このお見合い大会はライアームが息子を私に、娘はシャルルとくっつけてオベイロスを安定させようと言う目論見をどうにかするためにシャルルは私と婚約していて、その婚姻を回避しようと……シャルルとレージリア宰相がお酒を飲んで考えた催しだ。
目眩ましとオベイロスの未来のためにも多くの独身の貴族や商人、特殊な力を持つ若者などをライアーム派閥を含む国中から集めて大々的にやっている。
この催しで成立しているカップルもいるし、何年か経過すれば少しはライアーム派閥との関係も良くなるだろう。
この国の価値観では「精霊の相性」によって婚姻が成立しなくても問題はない。ライアームの子供は時間をかけてかるーくあしらってしまえば良い。
時間をかけてライアーム派閥との軋轢を解消させたい。ついでに適齢期かつ後継者のいない独身のシャルルにはしっかりした相手を作らねばならない。
なのにシャルルは女性相手に恐怖心を持っていて政務に励んでいてお見合い大会への参加は最低限だ。どうにかこのフリムちゃんが良い相手を探してあげようではないか!
「それは良いんですけど、全然動じませんね」
「前にも見たしな」
ちんちくりんな子供モードの私と違って今の私は適齢期かつ私でも信じられないぐらいの美女だ。なのに全く動じないシャルル……やはり子供扱いか。まぁ良いけども。
「へぇ……そう、ですか」
「これで少しは落ち着いてくれれば良いのだが――――さぁ、準備はいいか?」
「はい」
顔見世のためにもお茶会をしている彼女らの前に行くことになった。
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挨拶すると予想通り、みんな固まってしまった。
「では失礼します。仕事もありますので……シャルル」
「わかった。良いのか?」
「顔は見せましたし、問題ないでしょう」
優雅に、それでいてさり気なくシャルルに腕を引かせる。
何人か口が空いたままになっている。
これまでのフリムちゃんであれば「子供だしどうせ選ばれない」とか「あんな礼儀もわきまえない非道な悪役令嬢が」なんて思っていたのかもしれないが……前提ごとちゃぶ台返しした気分だ。……とりあえず、水の宮に戻ろう。
きっと彼女らに大人モードを見せたことできっとドッカンドッカンになるはずだ。というかなった。これまで子どもの筆頭婚約者であった私が大人になったのだ。シャルルが幼女趣味と諦めていた連中もやる気をだしたのだろう。
後宮は広いし防音もしっかりしているはずだけど……土系統の争いは激しいな。ただ、前に威圧した時は殺気立っていたけど、今回はまだ緩いな。
こちらはこちらで忙しいし、静かにしてもらいたいのだが。
「フリム様フリム様!きれー!かっこいー!」
「ありがとうミリー」
抱きついてくるミリーを受け止める。
今なら私の方が背が高い。いつもなら見上げるのに不思議な気分だ。
「そんな恩寵もあるなら教えてくれても良かったのに」
「リーズ、安全のためにも隠してたんですよ。それに自分でやってるわけでもなくてですね」
友人の立場からすれば私が隠し事をしていたのを「信用してない」と見られてもおかしくはない。ただ、「安全」と聞いたからかリーズはすぐに納得してくれたようだ。
「じゃあなんでその姿で来たの?」
「テルギシア、なんか戻れなくて……多分リヴァイアスがなんかやってます。それもあって仕方ないなと領地から出てきました」
身内にもあまり見せてなかった大人モードだ。
うちの人間にもこの姿を見せて説明する必要がある。
王都に入ってすぐ王都にいる家臣に道中見せると泣いて喜ばれたからね。ルカリムの家名の時からついてきてくれてるキエットなんて「祝いじゃ祝いじゃ!」ってそれはもう喜んで……アホ毛を祝われるよりも良いけどね。
自分でもこの大人モードは全身痛かった頃に比べれば受け入れられる。それにもしもこの変化が「6歳の頭身そのままで身長10メートルぐらいのデカ幼女になる」「アホ毛以外の部分がハゲる」とかだったらと思えば――――まだマシだ。
お祝いはなんだか恥ずかしいけど……心から祝ってくれているから受け入れざるを得ない。それに、上位存在に襲われて苦労したということもあってか元気付けようと過剰気味だ。「加護や恩寵でお祝いをする」という文化があるからかもしれない。
「……心配したんだ。私は何も出来なかった」
ふと、笑顔の曇ったミリーが私の胸に頭をうずめてきた。
「そうかもしれませんね。でも私は生きています」
スーリの襲撃のことだろう。肯定しても否定してもよくない気がして、少し言葉を濁した。
背中をぽんぽんと軽く触れ、半歩引いて目を合わせた。
「次は頑張る」
「……うん。じゃあ私はミリーが頑張らなくてもいいように頑張るね」
孫子の教えだったかな。戦わぬが上の上……戦争が起きそうだとしてもそもそも戦争も起こさせずに最上の結果をもたらすようにする。事前の準備で大きな被害が出ないように、何も起こらないようにすれば良いのだ。平穏!平和!無事!その辺が一番!
…………悪役令嬢ムーブで恨まれてるしなにか起きるような気がしなくもないんだけどな。まぁあんな上位存在がひょいひょい出て来るとは思わないけど。
「なんで?フリム様が頑張ることなんて無いよ?」
「いやー頑張るものですよ」
こんな世界だし頑張らざるを得ないと言うか……ミリーの顔を見てなんだか元気が出た。よしっ、頑張ろう!
「…………ん?フリム様なにか隠してない?」
「いえ、何も隠してはないですよ」
大人モードも披露したし、ミリーに隠し事なんて……いや、見せていないだけでいっぱいあるな。一つ一つ説明すると長くなるしここは……。
「それはそれとしてミリーはリヴァイアスで食べられなかったと聞いたので持ってきました。一緒に食べましょう」
「宝石みたい!良いの?すっごく高いよね?ほんとに良いの??」
「はい。とても甘いですよ」
「わー!」
リヴァイアスで姫君をお出迎えするのに新作をたくさん出したが、身内にはあまり出せなかったチョコと金平糖。救助活動に便利そうだったし数は制限していた。
外国から来た姫君も従者も護衛も遠慮無く食べてくれたので足りなかったそうである。チョコは原料であるカーヌ・アーヴィを見つけてからそこまで時間が経ってなかったこともあって元々量がなかった。とはいえ砂糖を加工した金平糖は結構な量があったはずなのに……。
報告でもチョコも金平糖も人気だったと聞いていたし、まずはミリー達に食べてもらおう。
「これが噂の……食べたことない味ね。深みがあって、すぐにまた食べたくなるわね」
リーズはチョコ菓子を気に入ったようだ。
チョコ単体ではほんのり嫌な風味が出たため、誤魔化しにいくつか手を加えてみた。チョコナッツやチョコクッキー、ミルク多めにしたチョコなどなど。チョコだけでも美味しいけどこっちのほうが美味しい。
ミルクチョコやチョコナッツを中心にリーズは食べ続けていた。
「こっちも美味しい。食べて」
「まだくひに!?こあ!」
テルギシアは金平糖が気に入ったようで、持っていた金平糖をリーズの口に指ごと突っ込んだ。
まだ全てにおいて完璧ではないチョコに比べれば豊富な果物から厳選されて作られた金平糖は素晴らしく美味しい。しかしチョコにはチョコにしかない……この世界ではまだ味わった人は少ないであろう斬新かつ独特な風味がある。
どちらも良さがあって甲乙つけがたい。
「ん、こっちも美味しい」
「ば、馬鹿じゃないの?!コラァッ!!!反省しなさいよぉ!!?」
あ、テルギシアがリーズの口に突っ込んで……その指についたチョコを舐めた。
真っ赤になったリーズが首元を掴んで揺ぶっていた。
がくがく揺さぶられているテルギシアはどこか満足そうである。
ふと思った。
一応男性陣にもお菓子は配ってるし、今頃食べてるかもしれない。
他国の姫君が増えたことで後宮は男性がより入りにくくなった。うちの家臣は男性も多い。――――彼らも今頃、こんなふうに……具体的にはモーモスにパキスが食べさせてこんな感じになっていたりするのだろうか?いや、パキスなら金平糖を鷲掴みにしてモーモスの口にいれそうだ。
ローガンは優しいから誰かに分け与えてそうだな。オルミュロイには届いているだろうか?いや、オルミュロイならきっとタラリネと食べているだろう。
私も食べよう。リヴァイアス領で試作した時に食べたけど冷めてからの味も知りたい。早く食べないとミリーが食べきってしまいそうだしね。
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