第357話 合理的追い出し(ヒャッハー!)
仕事と言うものは「好き」か「嫌い」ばかりでやるものではない。
好きなことを仕事にすればおおよそ好きなことが仕事にはなる。それは確かだけど「仕事」となれば責任が生まれる。
研究が好きな人が研究ばかりすれば良いと良いというものではなく、報告書を書いたり、研究論文を書かなきゃいけなかったりする。絵を描く人なら趣味と違って納期が生まれ、演奏が好きな人なら移動や楽器磨きにスーツやドレスの新調なんてものも仕事になるのだとか。
職場の人間とコミュニケーションを取ったりするのもある意味仕事の内かもしれない。
好きなことを趣味でやるのと、仕事でやるのは全く違うことだ。
前世の私は、面接で取り繕いはしたけどこれまでの研究や好きなことを話すと何故かすんなり好きな経済研究を仕事に出来た。仕事の大半は好きな経済研究だった。
ただ、自宅で緩い私服で好きな分野を好きに勝手に調べるのとは違って、化粧もしなきゃだしスーツも着て出社する必要があった。報告書の書き方に苦労し、職場の人間関係にも苦労した。
上司から振り分けられる仕事は「この研究は好みじゃない」「この研究は前から調べてみたかった」……そんなことを内心で思いつつも選べなどせず、些細な部分でやる気が出たり、出せなかったりした。
『貴族の仕事』や『お見合い大会』はやりたいからやっているわけではなく、必要だからでやっている部分が大きく、特にお見合い大会でやっている悪役令嬢の仕事は気が乗らなかった。
誰かに意地悪するのは必要とわかっていても胃が重くなる気がする。他国の姫を丁重に迎い入れる?前世一般人精神が残った私には荷が重いってぇぇ!!しかも、倫理も法律も前世と比べると結構過酷な世界よ?何だよ獣刑って……何だよ私の仕事が「他国のお姫様をもてなす」とか「戦争回避」とか………………勘弁してください。
と、まぁ気が乗らない仕事ばかりしていたわけだが、ここに来て偶然――――大義名分を得た。
仕事はどうしてもやらなきゃいけないものも多くある。むしろその方が多いだろう。
しかしこうやって……自領で好き放題出来る休暇のような状態となった。
それは何故か?スーリのおかげと言って良い気がしなくもない。
スーリが島サイズの飛行船を襲撃し、沈没させた結果……乗っていた人は行方不明と言うか、脱走した人が結構いた。
空を移動していただけあって、空を移動できる魔導具を所持していたり騎獣を連れていたのだから敵襲があればそうなるのは当然だろう。
他国の姫君やガリアス君をおもてなしするのも私の仕事かもしれないけど、それ以上に『他国の遭難者を捜索する』もしくは『オベイロスの窓口としてリヴァイアス領に連絡が来るのを待つ』のも大切な仕事だろう。
結構な数の姫が参加したお見合い大会、諸外国の姫君らはシャルルの……一国の王に見合うだけの身分であり、そんな彼女らがいなくなったのだ。
ここで私が何もしなければ、姫君らを送り込んできた諸外国は「上位存在の襲撃後、受け入れ先の担当貴族は何もしなかった」とか「助けられていたかもしれないのに動こうとしなかった」と言われかねない。
そうなればオベイロスは他国から顰蹙を買いかねないし、普通に戦争案件である。だから「オベイロスの貴族は何かしらで対処しましたよ」というアピールをする必要がある。
だから、お見合い参加者は纏めて王都に送り込んで、私はリヴァイアスで休暇を取って……じゃない、仕事をしている。
まずはどれだけ乗っていたかわからないが、こちらにたどり着いた人のリストを作り、彼らの無事や何が起きたかの状況を受け入れ先の貴族として手紙を出した。
本来なら私がずらーっと手紙を書く必要があるけど今回に関しては「オベイロス貴族、リヴァイアス侯爵当主は魔法による捜索や受け入れに対応しているため、急ぎ代筆している」と家臣に書いてもらっている。
というわけで、私は船が落ちた周辺に生存者がいないか探して、疲れればリヴァイアスで休む。ついでに領地の仕事をしている。新しく作ったお菓子美味しい。
なぜかなりたくもない大人モードでの休暇兼仕事だ。
スーリとの戦いの後からリヴァイアスになにか思うことがあったのか子供に戻れる頻度が下がった。
たまに遭難者を見つけたり、ボロボロの状態でリヴァイアスに着く人もいるから結構やりがいがある。でも大人モードは秘匿されるべきだし、可能な限り隠して……こっそり好き勝手に仕事している。
納期もなければ、休みたいときに休んでも良い。疲れる手紙や貴族への対応は家臣任せに出来る。新しいお菓子や食べ物を好きに食べることが出来る。
仕事自体が無い方が良い気もするけど、私は私でこの立場でいることを決めたし、リヴァイアスは自分の居場所だ。自分の家が改善されるようで気分も良い。
しかしそろそろ他国への手紙を書いている何人かが消耗している気もする。特に筆頭家臣であるドゥッガはデスクワークに疲弊して魂が抜けそうになっているが許して欲しい。お水とお菓子を差し入れしておこう。
きっと家臣にとって「外国の王家への手紙」なんて仕事は荷が重いかもしれないけどその仕事を私がやると、私が明確に消耗してしまうので頑張ってくれ。私には私にしか出来ない……海を操作し、船を爆速で移動させて捜索するという大事な仕事がある。
まぁ元々船にどれだけ乗っていたかもわかっていないし、いつまでやるかも不明なのでたまに近隣の港に使者を出したりしつつ、基本姿を見せないように引きこもってリヴァイアス関連の仕事をしている。
まぁちょっとしたストレスも一つ増えたと言えば増えたのだが……。
「何でもお申し付けくださいませ。うちの枝様が本当に申し訳ありません」
「ルルニエさん、それは良いのですが鎖を私が持つのはちょっと」
「死にたくありませんので……どうか、どうか使ってくださいませ」
このエルフの王族、ドレスで首輪をつけていて、私が鎖を持つ事が多い。
彼女はスーリが働いた数々の犯罪現場を見て理解した。同盟国で侯爵との成り代わり、侯爵家重臣への暴行と洗脳、何十もの国の重要人物が乗っていた船を撃沈、侯爵家領城を奇怪なオブジェに変えた。最後は私側の行いか。
彼女はスーリに比べれば常識もある。今にも殺されそうな状況でその身を守るためにも首輪の鎖を私に持ってもらいたがる。
可憐で美人な見た目の女性を鎖を持って連れ回すとかやりたくないんだけど仕方ない気もする。
ハイエルフとは違って性別もあるし食べる必要もある。そして独自の価値観で人をいきなり殴ったり、コミュニケーションが取れないということもない。
同盟国の、それもエルフの国の方が関係性は上位であることから考えると……外国から来た筆頭婚約者の中で最もシャルルの嫁候補として上のはずなのに…………なんでこうなったのか。
美しいドレスに身を包み、隙あらば床に座る外国の姫君。うーむ、かなりしんどいな。
彼女には一つ仕事をしてもらうことが決まった。
スーリの身体から発生したスーリによく似た異形。あれは形こそスーリに近いけど意思などはなく、簡単な命令を実行した後はその場でフヨフヨして根が張る。復旧中のリヴァイアス城にはスーリの異形がたくさん残っている。人型ではあるけど、植物に近く、薬に出来るらしいのでやってもらおう。
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落ち着いてリヴァイアス領の問題を見ていくと急速な変革から様々な問題や意見が出ていた。
領都中が石畳になったことで水はけの悪い水たまりが出来やすい場所があったり、土と違って足が疲れるという意見もあった。更に轍で転けたりしなくても良くなったとか露店で土と半ば同化している腐りかけの絨毯が撤去されて臭わなくなったなどの意見もある。
うむ。たしかにそれまで当然だった環境が変われば全体的に良くなっても戸惑うこともあるよね。
ただ、道が良ければ経済的にプラスに働くことのほうが多いはずなので少しずつ慣れていってもらいたい。対処できる部分は対処し、根本的に環境と合わない部分は改良するように伝えておく。
一つずつ問題を見直していくとパルやヴァンディアズルが部族の子供を学校に通わせたいと願い出てきた理由もわかった。
学校では主に学術的なものよりも生活に直結する知識をメインで教えている。テコの原理や止血方法、火事の対処、貴族との接し方にオベイロスで使われている言葉、釘の打ち方、泳ぎ方に山の歩き方、皮の鞣し方、川の見つけ方、船の漕ぎ方に漬物の作り方などなど……。
生活に使えそうな知識から学んでもらっていたのだけど……言葉を覚えればそれだけでもう、人手不足のリヴァイアスでは書類整理をすることが出来る。単純に何処の誰にこの書類を渡してといった仕事だってあるからね。
知識を無料で学べて、それが大人にとっても有用なものだと分かれば需要はあり……学校に来たい生徒が増えすぎた。
学校の最終決定権を持つのが校長の私であり、私の指示無く大きく学校の増築や生徒数の大幅な受け入れは出来ない。
単純に私に書類が来ていなかったのが問題であった。学校の改善提案書とか生徒の受け入れとか、こっちに書類回してって言ってなかったしね。そもそも学校は大きめに作ったし、余っている教室のほうが多かったから通いたいって子供がそんなに増えているとも思ってもみなかった。
講師には王都の学園から来た生徒もバイトでやっているみたいだけど、大きくテコ入れがしたいな。かといって……私塾や神殿、家庭教師のような民間で何かを教えている機関から教師を招けば知識が偏りかねない。特にこの領地では宗教でコミュニティが形成されている部分もあるから偏った思想を植え付けられかねない。
教師……ラディアーノ元学園長を…………いや、彼はクーリディアスに常駐していて貴族の様子を見つつ意識改革をして、更にドゥッガを支えている。外すことは出来ない。
私の元担任であるアーダルム先生を校長にするかな。学校でたまに講師をすることもあるらしいけど、クーリディアスのフィールドワークばかりしているらしい。それなりの数の薬草や鉱物を見つけてくれている。それも仕事のうちかもしれないけど彼を役職につけて……大学の研究室のようなものを作って見込みのある学生を研究室に配置して、研究に使えば良い。先生が一人で研究するよりも亜人の多いこの領地なら鋭敏な感覚で研究物を探したり、何かを作ったり検証したりもできるはず。
「フリム様?い、いかがしましたか?」
「凄く良いことがあったんです」
報告書を読み進めていって、頬が緩んでしまった。
熱心な学生が多く、勉強の内容が貴族のマナーや外国語、歴史に魔法などなど「生活の知恵」ではない知識を吸収しようと「勉学」に意欲がある生徒も出てきているそうだ。勉強のために領城の書籍を希望している生徒もいるのだとか。
それはちょっとと言うか、かなり嬉しいな。
GWの間は毎日更新したいな。
ホントは正月や春休みにしたかったけど新刊作業があったから鬱パートをすっ飛ばせなかったんだ。ごめんやで!
評価やコメント(/>ω<)/ヨロシクオネガイシマース!!







